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第十章 二人のハーモニー
2. 求婚
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再会した翌日、チャコは朝一番に結婚しようと言われた。チャコはそれをいずれという意味で解釈して頷いたのだが、じゃあ早速ジャンの実家に報告に行こうと言われて、チャコは本当に慌てた。そんなすぐに結婚なんてして大丈夫なのかと問いかけたら、もう四年も想い続けたのだから遅いくらいだ、チャコは自分が好きではないのかと詰め寄られ、気づけば了承してしまっていた。
そして、本当にジャンの実家に連れていかれ、結婚相手だと紹介された。なぜかご両親はすでにチャコのことを知っていて、ようやく結婚するのかと盛りあがる始末。一人戸惑うチャコを置いて、二人の結婚が江川家で確定してしまった。
そして、さらに翌日。今度はチャコの家を二人で訪れた。アポなしで。
「初めまして。江川悠輝と申します。千夜子さんとお付き合いさせていただいております。本日は結婚のお許しをいただきに参りました」
家の中がしーんと静まり返った。両親は互いに顔を見合わせている。
「……え、あの、何かの冗談では?」
「いえ、冗談ではありません」
戸惑う父に対して、ジャンは瞬時に切り返す。
「……千夜子、本当にこの人とお付きあいしているのか?」
「うん」
「いつから?」
「一昨日」
チャコは正直に答えたが、相変わらず言葉が足りていない。両親は驚き目を見開いている。
「は?」
「あなた! これ結婚詐欺じゃないの?」
「確かに……君、帰ってくれるかな? 千夜子は話があるからこのままいなさい」
ジャンが詐欺師扱いされ、チャコはおろおろとしたが、ジャンはそれでも堂々としていた。
「帰りません」
「なっ!?」
「付き合いはじめたのは一昨日ですが、私たちはもう五年近く想いあっているんです。訳あって彼女のそばを離れていましたが、その間もずっと千夜子さんのことを想っていました。彼女も同じです」
自分たちのことを簡潔に話してくれるジャンを、チャコは尊敬のまなざしで見つめた。チャコ一人だったら、ここに到達するまでに随分と時間がかかっただろう。
「……本当なのか? 千夜子」
「うん。私から告白した。四年前に。私もずっと好きだった」
「千夜子、あんたそんなこと一言も言わなかったじゃない」
告白成功したわけでもないのに、親に言えるわけがない。ずっと片想いをしていますとも言えるわけなかった。
「恥ずかしくて言えるわけない……それにジャンとはずっと会えなかったから……」
「「ジャン?」」
「あ、彼のこと、ジャンって呼んでるの」
さすがは親だ。それだけ聞いたらジャン呼びについてはもう触れなかった。
「はあー。突拍子もなさすぎる……で? 離れていた理由とは?」
「声の病気を患っていて、その治療をしていました。ようやく克服できたので、彼女と再開できるように動きました」
「……そう。まあ、それは大変でしたね」
「いえ、彼女と一緒にいるためなら頑張れますから」
両親の前だというのに、チャコはジャンのその言葉でうっかり頬が緩みそうになった。
「そうですか……はあ、二人が想いあっていることはわかりました。でも、結婚は認められない。まずは普通の恋人として過ごしなさい。見たところ随分若いようだし、そんな急ぐ必要ないだろう。それに千夜子、お前の夢だって今が大事な時期だろう?」
父の心配も当然だ。今が大事な時期なのもわかっている。それでも、その上でチャコは彼の申し出を受けようと決めたのだ。父に何て伝えようかと頭をひねらせていたら、ジャンが間髪入れずに次の言葉を発した。
「そのことですが、千夜子さんと私はデュオを組むことになります」
「は?」
父はまた驚きの表情を浮かべている。
「今、プロデューサーからそういう声がかかっています。千夜子さんはすでに承諾していますし、私も断りません。二人で同じ道を歩むことになります」
「本当なのか?」
「うん。この間言われた。元々私はジャンと一緒に夢を叶えるつもりだったから断ってない。四年前に一緒にやろうって私からジャンにお願いしてた」
チャコはジャンの言葉を補うように、自分が望んだことなのだと話した。ちゃんとチャコの意志なのだと伝えておきたかったのだ。
「……お前はいつも唐突すぎて訳がわからない。だが、まあ、その話はいったんわかったことにしておく。でも、結婚はゆっくり考えなさい」
「できません。彼女を堂々と守れる立場になりたいんです。一分一秒だって待てません。これ四年前に書いたものです。ずっと想いは変わっていません」
「はあ?」
ジャンが両親に見せたのは婚姻届だった。夫側の欄だけ書き込まれている。
なんとジャンは再開の誓いを立てるためにこれを書いていたらしい。しかも、ご両親にもその話を伝えており、証人の欄の一つにはジャンの父親の名前が記載されている。チャコも昨日これを見せられたときには目を疑った。
けれど、そのあまりにも強い愛を見せつけられて、チャコはすっかりジャンにのぼせ上ってしまった。自分も同じ想いを返したくなったのだ。
「こっちは昨日書きました。証人をあと一人探せば提出できます」
昨日、江川家を訪れたときに新しい婚姻届を記入していた。チャコも妻の欄に自分の名前を記入している。そして、四年前のものと同じく証人の欄にはジャンの父親の名前が記されている。
昨日、目の当たりにしてわかったが、江川家というのはこういうことに対するハードルが随分と低いようだった。愛に生きているとでも言えばいいのだろうか。互いに好きなら結婚するのが当たり前だろと言わんばかりの様子だったのだ。
だが、安達家ではそうもいかない。母は千夜子と似ていて、とんでもないことでも割と受け入れられる度量があるが、父はとにかく普通の人間なのだ。常識的なことしか受け入れられない。だから、ジャンの猛攻に、父は顔を真っ赤にしている。
「なっ、それは脅しだろう! 冷静になりなさい。付きあうことは反対しないから。大体これからプロを目指そうって二人がどうやって生活するんだ。苦労するに決まってるだろう」
まだ顔を赤くしているが、それでも父は冷静に話をしようとしている。そんな父にジャンはさらなる追い打ちをかけた。
「それは心配いりません。今、これだけあります。私は作曲家としても活動しています。ありがたいことにヒット曲を生みだせたので、当面の生活には困らないだけの蓄えはあります。そう遠くない場所に家も持っていますので、すぐにでも一緒に生活できます」
ジャンがテーブルの上に出した通帳にはとんでもない額が記されている。
「!? はあー、まったく何なんだこれは……ああ、もう、わかった。じゃあ、まずは一緒に一年間生活してみなさい。それで二人がちゃんとやっていけるとわかったら認める」
条件付きとはいえ、父が認めてくれたと驚いていたら、真横からすぐさま反論の声が上がった。
「一年なんて待てません! せめて、一ヶ月! それならまだ耐えられます」
「そんな短い期間じゃ何もわからんだろう! ダメだ!」
「お願いします! 少なくともデビュー前には籍を入れたいんです!」
珍しく大きな声を出して父が言いあっている。二人のあまりの勢いにチャコはその様子を呆然と見ていた。
「なんでそんなに急ぎたがるんだ」
「芸能界なんてところに入ったら、悪い虫が寄ってこないとも限らないじゃないですか! だから、結婚しておきたいんです」
それはチャコも初耳だった。チャコのことを守ろとしてくれているのだとわかって、チャコは胸が高鳴った。
「……はあー。千夜子、お前はどうなんだ。お前も同じ気持ちなのか?」
ジャンと父の勢いに何も言えずにいたチャコだが、父に優しい声で聞かれて、チャコは自分の想いを真っ直ぐに伝えたくなった。チャコの純粋な想いだけ知ってほしかった。
「うん。ジャンと一緒がいい。結婚はびっくりしたけど、でもすごく嬉しかった。ジャンが大好きだから」
「はあー、お前本当にわかってるか? お前がそんなんだから心配なんだよ……はあー、じゃあ、半年」
「一ヶ月半」
ジャンは食い気味にそう答えた。一歩も引かない姿勢だ。
「……じゃあ、まずは三ヶ月様子を見よう。それでそのときにもう一度判断する。だめだと思ったら延長。これならいいだろう?」
「……わかりました」
ジャンは渋々と言った様子で承諾した。
「千夜子。お前もだぞ? 家のこと何にもできないだろ? ちゃんと二人で生活できることを見せなさい。結婚の話はそれからだ」
チャコは父のその言葉に大きく頷いた。
「それから、わかってると思うが順序だけは間違うなよ? それは二人の夢さえ遠のかせることだからな?」
「わかっています。子供のことはきちんと実績を作ってから考えます」
父の言葉の意味を理解していなかったチャコだが、ジャンの言葉ですべてを察して真っ赤になってしまった。父も顔を赤くしている。母だけが楽しそうだった。
それが約一週間前の出来事。恐ろしく密度の濃い時間だった。
チャコはそれを思いだして火照りそうになる顔を手で軽く扇いで冷まし、ジャンと透子の会話に意識を戻した。
「夫婦デュオとしてデビューさせてほしいと思っています」
入籍の話に驚く透子には構わず、ジャンはさらっと要望を言ってのけた。
「いや、夫婦って……」
「そういう需要もありますよね?」
「あなた、その需要に応えられるタイプに見えないんだけれど」
「大丈夫です。私はチャコのことなら、いつだって愛せますから。チャコ?」
優しく呼びかけられて、思わずジャンのほうに顔を向ければ、ジャンはさも当たり前であるかのようにキスをした。あれだけしげさんに叱られたというのに、やはり反省していないらしい。チャコはこの状況にもう完全に思考停止して、身体ごとフリーズしてしまった。
「ちょっ!? T・P・O! 盛ってんじゃないわよ、ったく……はあー、チャコ、あなたとんでもない人につかまったわね。これから大変よ?」
今のチャコには透子のその言葉も耳に入らなかった。
「まあ、夫婦デュオとしての売り込みは前向きに検討しておくわ」
そのあとはすぐにビジネスの話が始まったが、いつもとは違い、ジャンが隣にいてくれるからとても心強かった。
そして、本当にジャンの実家に連れていかれ、結婚相手だと紹介された。なぜかご両親はすでにチャコのことを知っていて、ようやく結婚するのかと盛りあがる始末。一人戸惑うチャコを置いて、二人の結婚が江川家で確定してしまった。
そして、さらに翌日。今度はチャコの家を二人で訪れた。アポなしで。
「初めまして。江川悠輝と申します。千夜子さんとお付き合いさせていただいております。本日は結婚のお許しをいただきに参りました」
家の中がしーんと静まり返った。両親は互いに顔を見合わせている。
「……え、あの、何かの冗談では?」
「いえ、冗談ではありません」
戸惑う父に対して、ジャンは瞬時に切り返す。
「……千夜子、本当にこの人とお付きあいしているのか?」
「うん」
「いつから?」
「一昨日」
チャコは正直に答えたが、相変わらず言葉が足りていない。両親は驚き目を見開いている。
「は?」
「あなた! これ結婚詐欺じゃないの?」
「確かに……君、帰ってくれるかな? 千夜子は話があるからこのままいなさい」
ジャンが詐欺師扱いされ、チャコはおろおろとしたが、ジャンはそれでも堂々としていた。
「帰りません」
「なっ!?」
「付き合いはじめたのは一昨日ですが、私たちはもう五年近く想いあっているんです。訳あって彼女のそばを離れていましたが、その間もずっと千夜子さんのことを想っていました。彼女も同じです」
自分たちのことを簡潔に話してくれるジャンを、チャコは尊敬のまなざしで見つめた。チャコ一人だったら、ここに到達するまでに随分と時間がかかっただろう。
「……本当なのか? 千夜子」
「うん。私から告白した。四年前に。私もずっと好きだった」
「千夜子、あんたそんなこと一言も言わなかったじゃない」
告白成功したわけでもないのに、親に言えるわけがない。ずっと片想いをしていますとも言えるわけなかった。
「恥ずかしくて言えるわけない……それにジャンとはずっと会えなかったから……」
「「ジャン?」」
「あ、彼のこと、ジャンって呼んでるの」
さすがは親だ。それだけ聞いたらジャン呼びについてはもう触れなかった。
「はあー。突拍子もなさすぎる……で? 離れていた理由とは?」
「声の病気を患っていて、その治療をしていました。ようやく克服できたので、彼女と再開できるように動きました」
「……そう。まあ、それは大変でしたね」
「いえ、彼女と一緒にいるためなら頑張れますから」
両親の前だというのに、チャコはジャンのその言葉でうっかり頬が緩みそうになった。
「そうですか……はあ、二人が想いあっていることはわかりました。でも、結婚は認められない。まずは普通の恋人として過ごしなさい。見たところ随分若いようだし、そんな急ぐ必要ないだろう。それに千夜子、お前の夢だって今が大事な時期だろう?」
父の心配も当然だ。今が大事な時期なのもわかっている。それでも、その上でチャコは彼の申し出を受けようと決めたのだ。父に何て伝えようかと頭をひねらせていたら、ジャンが間髪入れずに次の言葉を発した。
「そのことですが、千夜子さんと私はデュオを組むことになります」
「は?」
父はまた驚きの表情を浮かべている。
「今、プロデューサーからそういう声がかかっています。千夜子さんはすでに承諾していますし、私も断りません。二人で同じ道を歩むことになります」
「本当なのか?」
「うん。この間言われた。元々私はジャンと一緒に夢を叶えるつもりだったから断ってない。四年前に一緒にやろうって私からジャンにお願いしてた」
チャコはジャンの言葉を補うように、自分が望んだことなのだと話した。ちゃんとチャコの意志なのだと伝えておきたかったのだ。
「……お前はいつも唐突すぎて訳がわからない。だが、まあ、その話はいったんわかったことにしておく。でも、結婚はゆっくり考えなさい」
「できません。彼女を堂々と守れる立場になりたいんです。一分一秒だって待てません。これ四年前に書いたものです。ずっと想いは変わっていません」
「はあ?」
ジャンが両親に見せたのは婚姻届だった。夫側の欄だけ書き込まれている。
なんとジャンは再開の誓いを立てるためにこれを書いていたらしい。しかも、ご両親にもその話を伝えており、証人の欄の一つにはジャンの父親の名前が記載されている。チャコも昨日これを見せられたときには目を疑った。
けれど、そのあまりにも強い愛を見せつけられて、チャコはすっかりジャンにのぼせ上ってしまった。自分も同じ想いを返したくなったのだ。
「こっちは昨日書きました。証人をあと一人探せば提出できます」
昨日、江川家を訪れたときに新しい婚姻届を記入していた。チャコも妻の欄に自分の名前を記入している。そして、四年前のものと同じく証人の欄にはジャンの父親の名前が記されている。
昨日、目の当たりにしてわかったが、江川家というのはこういうことに対するハードルが随分と低いようだった。愛に生きているとでも言えばいいのだろうか。互いに好きなら結婚するのが当たり前だろと言わんばかりの様子だったのだ。
だが、安達家ではそうもいかない。母は千夜子と似ていて、とんでもないことでも割と受け入れられる度量があるが、父はとにかく普通の人間なのだ。常識的なことしか受け入れられない。だから、ジャンの猛攻に、父は顔を真っ赤にしている。
「なっ、それは脅しだろう! 冷静になりなさい。付きあうことは反対しないから。大体これからプロを目指そうって二人がどうやって生活するんだ。苦労するに決まってるだろう」
まだ顔を赤くしているが、それでも父は冷静に話をしようとしている。そんな父にジャンはさらなる追い打ちをかけた。
「それは心配いりません。今、これだけあります。私は作曲家としても活動しています。ありがたいことにヒット曲を生みだせたので、当面の生活には困らないだけの蓄えはあります。そう遠くない場所に家も持っていますので、すぐにでも一緒に生活できます」
ジャンがテーブルの上に出した通帳にはとんでもない額が記されている。
「!? はあー、まったく何なんだこれは……ああ、もう、わかった。じゃあ、まずは一緒に一年間生活してみなさい。それで二人がちゃんとやっていけるとわかったら認める」
条件付きとはいえ、父が認めてくれたと驚いていたら、真横からすぐさま反論の声が上がった。
「一年なんて待てません! せめて、一ヶ月! それならまだ耐えられます」
「そんな短い期間じゃ何もわからんだろう! ダメだ!」
「お願いします! 少なくともデビュー前には籍を入れたいんです!」
珍しく大きな声を出して父が言いあっている。二人のあまりの勢いにチャコはその様子を呆然と見ていた。
「なんでそんなに急ぎたがるんだ」
「芸能界なんてところに入ったら、悪い虫が寄ってこないとも限らないじゃないですか! だから、結婚しておきたいんです」
それはチャコも初耳だった。チャコのことを守ろとしてくれているのだとわかって、チャコは胸が高鳴った。
「……はあー。千夜子、お前はどうなんだ。お前も同じ気持ちなのか?」
ジャンと父の勢いに何も言えずにいたチャコだが、父に優しい声で聞かれて、チャコは自分の想いを真っ直ぐに伝えたくなった。チャコの純粋な想いだけ知ってほしかった。
「うん。ジャンと一緒がいい。結婚はびっくりしたけど、でもすごく嬉しかった。ジャンが大好きだから」
「はあー、お前本当にわかってるか? お前がそんなんだから心配なんだよ……はあー、じゃあ、半年」
「一ヶ月半」
ジャンは食い気味にそう答えた。一歩も引かない姿勢だ。
「……じゃあ、まずは三ヶ月様子を見よう。それでそのときにもう一度判断する。だめだと思ったら延長。これならいいだろう?」
「……わかりました」
ジャンは渋々と言った様子で承諾した。
「千夜子。お前もだぞ? 家のこと何にもできないだろ? ちゃんと二人で生活できることを見せなさい。結婚の話はそれからだ」
チャコは父のその言葉に大きく頷いた。
「それから、わかってると思うが順序だけは間違うなよ? それは二人の夢さえ遠のかせることだからな?」
「わかっています。子供のことはきちんと実績を作ってから考えます」
父の言葉の意味を理解していなかったチャコだが、ジャンの言葉ですべてを察して真っ赤になってしまった。父も顔を赤くしている。母だけが楽しそうだった。
それが約一週間前の出来事。恐ろしく密度の濃い時間だった。
チャコはそれを思いだして火照りそうになる顔を手で軽く扇いで冷まし、ジャンと透子の会話に意識を戻した。
「夫婦デュオとしてデビューさせてほしいと思っています」
入籍の話に驚く透子には構わず、ジャンはさらっと要望を言ってのけた。
「いや、夫婦って……」
「そういう需要もありますよね?」
「あなた、その需要に応えられるタイプに見えないんだけれど」
「大丈夫です。私はチャコのことなら、いつだって愛せますから。チャコ?」
優しく呼びかけられて、思わずジャンのほうに顔を向ければ、ジャンはさも当たり前であるかのようにキスをした。あれだけしげさんに叱られたというのに、やはり反省していないらしい。チャコはこの状況にもう完全に思考停止して、身体ごとフリーズしてしまった。
「ちょっ!? T・P・O! 盛ってんじゃないわよ、ったく……はあー、チャコ、あなたとんでもない人につかまったわね。これから大変よ?」
今のチャコには透子のその言葉も耳に入らなかった。
「まあ、夫婦デュオとしての売り込みは前向きに検討しておくわ」
そのあとはすぐにビジネスの話が始まったが、いつもとは違い、ジャンが隣にいてくれるからとても心強かった。
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