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出会い編
2.交流会は狩場ですか?
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「……帰りたい」
その言葉をウーロン茶とともに飲み込むのは、これで何度目だろうか。週末の金曜日。会社近くの居酒屋を貸し切って行われているのは、「若手社員交流会」という名の、ただのどんちゃん騒ぎだ。
僕、高村 樹(たかむらいつき)は前職で営業に向かないと悟り、今の会社の総務部IT課にSEとして転職して3ヶ月。試用期間が終わるタイミングで「顔を売っておけ」と上司に背中を蹴り出されての出席が今回。根っからの堅物である僕にとって、ここは敵地以外の何物でもなかった。
最初のうちは、同じテーブルの社員たちと当たり障りのない話をしていた。しかし、時間が経つにつれ、その人たちも他の人に誘われて席を立ち、テーブルには樹ひとりになってしまった。
入社して間もなく、仕事を覚えるので手いっぱいだったので、まだ社内に知人友人も少ない。仲の良さそうに盛り上がっている卓に混ぜてもらうのは、なんとなく気が引けた。
(無駄な時間……。せっかくの金曜日だから家でゆっくりしたかったな)
壁の花と化した僕は、会場の隅でアンダーリムの眼鏡の位置を直し、周囲を観察という名の「分析」で暇をやり過ごしていた。
右前方、営業部の集団。声がでかい。
左後方、経理部の女性陣。視線が怖い。
そして、会場の中央。そこだけ照明が明るいのではないかと錯覚するほど、異様な引力を放っている一団がいた。その中心にいる男。確か営業部の獅童……玲央、だったか。
180センチ台の長身に、仕立てのよいスーツ。癖のある濡れたような黒髪と、整った顔。海外帰りのエースコンサルタントだと噂では聞いている。彼がグラスを持って微笑むだけで、取り巻きたちが一斉に笑い、熱っぽい視線を送っているのがここからでも分かった。
(……住む世界が違うな)
派手で、自信満々で、人生イージーモードの捕食者。僕が最も苦手とし、お近づきになりたくない人種だ。
「……関わらんとこ」
僕は『住む世界が違う』そう結論づけ、視線を彼から逸らした。
これ以上ここにいても無駄だ。あと5分したら、トイレに行くふりをしてこっそり帰ろう。そう決めて、残りのウーロン茶をあおった――その時だった。背筋に、冷ややかな悪寒が走ったのは。
まるで、ジャングルの茂みで「何か」に見つかった小動物のような感覚。恐る恐る顔を上げると、会場の中央にいる「彼」が、取り巻き越しの遥か遠くから、真っ直ぐに僕を見ていた。
(……え?)
目が、合った。いや、違う。「捕捉」された。
彼は面白くもなさそうに笑っていた口元をスッと引き結び、獲物を射抜くような鋭い瞳をゆっくりと細めたのだ。そう、僕という獲物を値踏みするように。
逃げなきゃ。本能がそう告げた時には、もう遅かった。
その言葉をウーロン茶とともに飲み込むのは、これで何度目だろうか。週末の金曜日。会社近くの居酒屋を貸し切って行われているのは、「若手社員交流会」という名の、ただのどんちゃん騒ぎだ。
僕、高村 樹(たかむらいつき)は前職で営業に向かないと悟り、今の会社の総務部IT課にSEとして転職して3ヶ月。試用期間が終わるタイミングで「顔を売っておけ」と上司に背中を蹴り出されての出席が今回。根っからの堅物である僕にとって、ここは敵地以外の何物でもなかった。
最初のうちは、同じテーブルの社員たちと当たり障りのない話をしていた。しかし、時間が経つにつれ、その人たちも他の人に誘われて席を立ち、テーブルには樹ひとりになってしまった。
入社して間もなく、仕事を覚えるので手いっぱいだったので、まだ社内に知人友人も少ない。仲の良さそうに盛り上がっている卓に混ぜてもらうのは、なんとなく気が引けた。
(無駄な時間……。せっかくの金曜日だから家でゆっくりしたかったな)
壁の花と化した僕は、会場の隅でアンダーリムの眼鏡の位置を直し、周囲を観察という名の「分析」で暇をやり過ごしていた。
右前方、営業部の集団。声がでかい。
左後方、経理部の女性陣。視線が怖い。
そして、会場の中央。そこだけ照明が明るいのではないかと錯覚するほど、異様な引力を放っている一団がいた。その中心にいる男。確か営業部の獅童……玲央、だったか。
180センチ台の長身に、仕立てのよいスーツ。癖のある濡れたような黒髪と、整った顔。海外帰りのエースコンサルタントだと噂では聞いている。彼がグラスを持って微笑むだけで、取り巻きたちが一斉に笑い、熱っぽい視線を送っているのがここからでも分かった。
(……住む世界が違うな)
派手で、自信満々で、人生イージーモードの捕食者。僕が最も苦手とし、お近づきになりたくない人種だ。
「……関わらんとこ」
僕は『住む世界が違う』そう結論づけ、視線を彼から逸らした。
これ以上ここにいても無駄だ。あと5分したら、トイレに行くふりをしてこっそり帰ろう。そう決めて、残りのウーロン茶をあおった――その時だった。背筋に、冷ややかな悪寒が走ったのは。
まるで、ジャングルの茂みで「何か」に見つかった小動物のような感覚。恐る恐る顔を上げると、会場の中央にいる「彼」が、取り巻き越しの遥か遠くから、真っ直ぐに僕を見ていた。
(……え?)
目が、合った。いや、違う。「捕捉」された。
彼は面白くもなさそうに笑っていた口元をスッと引き結び、獲物を射抜くような鋭い瞳をゆっくりと細めたのだ。そう、僕という獲物を値踏みするように。
逃げなきゃ。本能がそう告げた時には、もう遅かった。
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