誤算だらけのスイートトラップ~地味な僕を落とすはずが自分が罠に落ちてどうするんですか~

ヒオ

文字の大きさ
2 / 15
出会い編

2.交流会は狩場ですか?

しおりを挟む
「……帰りたい」
 その言葉をウーロン茶とともに飲み込むのは、これで何度目だろうか。週末の金曜日。会社近くの居酒屋を貸し切って行われているのは、「若手社員交流会」という名の、ただのどんちゃん騒ぎだ。
 僕、高村 樹(たかむらいつき)は前職で営業に向かないと悟り、今の会社の総務部IT課にSEとして転職して3ヶ月。試用期間が終わるタイミングで「顔を売っておけ」と上司に背中を蹴り出されての出席が今回。根っからの堅物である僕にとって、ここは敵地以外の何物でもなかった。
 最初のうちは、同じテーブルの社員たちと当たり障りのない話をしていた。しかし、時間が経つにつれ、その人たちも他の人に誘われて席を立ち、テーブルには樹ひとりになってしまった。
 入社して間もなく、仕事を覚えるので手いっぱいだったので、まだ社内に知人友人も少ない。仲の良さそうに盛り上がっている卓に混ぜてもらうのは、なんとなく気が引けた。
(無駄な時間……。せっかくの金曜日だから家でゆっくりしたかったな)
 壁の花と化した僕は、会場の隅でアンダーリムの眼鏡の位置を直し、周囲を観察という名の「分析」で暇をやり過ごしていた。
 右前方、営業部の集団。声がでかい。
 左後方、経理部の女性陣。視線が怖い。
 そして、会場の中央。そこだけ照明が明るいのではないかと錯覚するほど、異様な引力を放っている一団がいた。その中心にいる男。確か営業部の獅童……玲央、だったか。
 180センチ台の長身に、仕立てのよいスーツ。癖のある濡れたような黒髪と、整った顔。海外帰りのエースコンサルタントだと噂では聞いている。彼がグラスを持って微笑むだけで、取り巻きたちが一斉に笑い、熱っぽい視線を送っているのがここからでも分かった。
(……住む世界が違うな)
 派手で、自信満々で、人生イージーモードの捕食者。僕が最も苦手とし、お近づきになりたくない人種だ。
「……関わらんとこ」
 僕は『住む世界が違う』そう結論づけ、視線を彼から逸らした。
  これ以上ここにいても無駄だ。あと5分したら、トイレに行くふりをしてこっそり帰ろう。そう決めて、残りのウーロン茶をあおった――その時だった。背筋に、冷ややかな悪寒が走ったのは。
 まるで、ジャングルの茂みで「何か」に見つかった小動物のような感覚。恐る恐る顔を上げると、会場の中央にいる「彼」が、取り巻き越しの遥か遠くから、真っ直ぐに僕を見ていた。
(……え?)
 目が、合った。いや、違う。「捕捉」された。
 彼は面白くもなさそうに笑っていた口元をスッと引き結び、獲物を射抜くような鋭い瞳をゆっくりと細めたのだ。そう、僕という獲物を値踏みするように。
 逃げなきゃ。本能がそう告げた時には、もう遅かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

藤崎さんに告白したら藤崎くんに告白してた件

三宅スズ
BL
大学3年生の鈴原純(すずはらじゅん)は、同じ学部内ではアイドル的存在でかつ憧れの藤崎葵(ふじさきあおい)に、酒に酔った勢いに任せてLINEで告白をするが、同じ名字の藤崎遥人(ふじさきはると)に告白のメッセージを誤爆してしまう。 誤爆から始まるBL物語。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!

BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!

大人になることが分かったから何でもできる!

かんだ
BL
病弱で十歳も生きられないと言われていた受けだったが、自分が大人になるまでの人生を夢で見た。それは精霊が見せてくれた『本当』のことで、受けは歓喜した。 心のままに生きる受けと、それに振り回される周りの話。

婚約破棄を提案したら優しかった婚約者に手篭めにされました

多崎リクト
BL
ケイは物心着く前からユキと婚約していたが、優しくて綺麗で人気者のユキと平凡な自分では釣り合わないのではないかとずっと考えていた。 ついに婚約破棄を申し出たところ、ユキに手篭めにされてしまう。 ケイはまだ、ユキがどれだけ自分に執着しているのか知らなかった。 攻め ユキ(23) 会社員。綺麗で性格も良くて完璧だと崇められていた人。ファンクラブも存在するらしい。 受け ケイ(18) 高校生。平凡でユキと自分は釣り合わないとずっと気にしていた。ユキのことが大好き。 pixiv、ムーンライトノベルズにも掲載中

処理中です...