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出会い編
8.にんまり
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Side:獅童 玲央
「あ、……ちょっと見てきます!」
真っ赤になった耳を隠すように、慌てて席を立った樹(いつき)の後ろ姿を見送る。 逃げる小動物そのものの動きに、俺は愛おしさを噛み締めながら、自分の手のひらをじっと見つめた。
指の間をすり抜けていった、あのサラサラとした髪の感触。 ワックスで固めたわけでも、高級なサロンのトリートメントをされたわけでもない。 ただ清潔で、柔らかくて、無防備な素の髪。 その余韻が、指先に熱を持ってこびりついている。
(……案外、ちょろいかもな)
俺は心の中で、そう独りごちた。
さっきの話に嘘は一つもない。 入社当時の俺が、プライドだけの扱いにくいガキだったのも事実。 たった一人で淡々と責任を全うする樹の姿を、心底かっこいいと思ったのも事実だ。
けれど。 その「真実」というカードを、どのタイミングで、どんな声色で切れば、相手の心のガードをすり抜けられるか。 それを計算して提示できるのが、今の大人になった「獅童玲央」だ。
警戒心の強い野良猫には、餌(ご褒美)よりも、安心(共感と承認)を与える方が効果的らしい。 俺の言葉一つで、あんなに動揺して、瞳を揺らして。 堅牢なセキュリティで守られている扉が、何気ない言葉で簡単に開きそうなのを見て、口元が緩むのを止められなかった。
(……攻略法、見つけた)
さて、システムのエラーチェックが終わったら、次はどうやって揺さぶってやろうか。 俺は獲物を追い詰める捕食者の愉悦に浸りながら、PCに向かう丸い背中をじっくりと舐めるように見つめ続けた。
「あ、……ちょっと見てきます!」
真っ赤になった耳を隠すように、慌てて席を立った樹(いつき)の後ろ姿を見送る。 逃げる小動物そのものの動きに、俺は愛おしさを噛み締めながら、自分の手のひらをじっと見つめた。
指の間をすり抜けていった、あのサラサラとした髪の感触。 ワックスで固めたわけでも、高級なサロンのトリートメントをされたわけでもない。 ただ清潔で、柔らかくて、無防備な素の髪。 その余韻が、指先に熱を持ってこびりついている。
(……案外、ちょろいかもな)
俺は心の中で、そう独りごちた。
さっきの話に嘘は一つもない。 入社当時の俺が、プライドだけの扱いにくいガキだったのも事実。 たった一人で淡々と責任を全うする樹の姿を、心底かっこいいと思ったのも事実だ。
けれど。 その「真実」というカードを、どのタイミングで、どんな声色で切れば、相手の心のガードをすり抜けられるか。 それを計算して提示できるのが、今の大人になった「獅童玲央」だ。
警戒心の強い野良猫には、餌(ご褒美)よりも、安心(共感と承認)を与える方が効果的らしい。 俺の言葉一つで、あんなに動揺して、瞳を揺らして。 堅牢なセキュリティで守られている扉が、何気ない言葉で簡単に開きそうなのを見て、口元が緩むのを止められなかった。
(……攻略法、見つけた)
さて、システムのエラーチェックが終わったら、次はどうやって揺さぶってやろうか。 俺は獲物を追い詰める捕食者の愉悦に浸りながら、PCに向かう丸い背中をじっくりと舐めるように見つめ続けた。
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