昔会った彼を忘れられないまま結婚します

はなみ

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出立

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 よく晴れて乾燥した冷たい風が吹く冬の日。あの星の名前を持つ彼と出会った日もこんな感じだったなと思い返しながら、いつもよりも一時間ほど早く起床した。

 今日は、マッチングした隣国のウィンター王国で第一騎士団長を務めているという男性と結婚するため、この国を出てウィンター王国へ引っ越す日。いつもよりはるかに多くの荷物を、容量が大きめの収納魔法のかかった鞄に詰め込み、ほとんど空っぽになった家を出た。


 しばらくこっちに帰ってこれないのはなんだか寂しいな、と結構好きになっていたこの街を目に焼き付けておく。
 仲良くなった八百屋のおばさんや薬屋のおじさんに「結婚するので引っ越すんです」と伝えると「寂しくなるね、でもおめでとう」と言ってたくさんおまけをしてくれたりした。

 ここ数年、この優しい雰囲気のある街で感じた人との関わりの暖かさがそのうちまた恋しくなるのだろうか。



 そんなことを考えながら、職場であった魔導騎士団の宿舎へ向かうとそこにはたくさんの人が集まっていた。

「おはよう、ルシア」

「おはようございます、陛下」

 最初に出迎えてくれたのは、このラトランドの国王であるレオナルド・ラトランドだった。
 陛下とは魔法学校からの知り合いで、魔導騎士団に所属している僕の直属の上司にあたる。いつもは学生のころの癖で愛称で呼んでいるが、さすがに周りに多くの人がいるのでかしこまった呼び方にしたのだが…

「いつも通り、レオと呼んでよ。しばらく会えなくなるというのにそんな言い方じゃ寂しいよ」

「そうだね、レオ。まだ朝早いのに見送りに来てくれてありがとう」

「みんなもありがとう」と伝えると「お元気で」と笑顔で返してくれた。その中にはお義父様、お義母様、オリバー義兄様、エルマー義兄様もいた。わざわざ来てくれたんだな。


「そういえばアルはどうしてる?」

「おなかが痛いんだってさ。最後くらい来たっていいのにね」

 レオはそう肩をすくめる。
 僕の狭い友人関係の中にもう一人、学生時代に仲良くしていたアルフレッドという近衛騎士団に所属しているのがいるのだが…最近は体調があまりよろしくなく、寝込みがちだ。
 近衛騎士なのに陛下のそばにいられないのはどうなのかとは思うけど、多分僕がいなくなれば戻ってくるだろう。僕が結婚すると聞いてから体調が悪くなったから。

「じゃあ、アルにこの手紙を渡しておいてくれる?いろいろ書いたからきっと元気になると思う」

「了解」

 僕の魔力感知だと実はアルは結構近くまで来てくれている。それはレオも気づいて…いないか。近くって言ってもあんなに離れてるもんね。
 またね、アル。寂しくなったら戻ってくるよ。



 隣国に行くには二通りの方法がある。
 一つ目は転移魔法を使うもの。他人ひとよりたくさんの魔力量を持つ僕は、多くの魔力を使う転移魔法を使えるが、今回の引っ越しは国境を超えるので転移だとちょっと外交的な問題が発生するらしい。というわけで、もう一つの方法である馬車を使うことにした。時間はかかるし安全でもないが、移動をするときの一般的な方法だ。今回は僕が魔法で多少の補助はするが、なんだかんだ12時間くらいはかかってしまうだろう。一日以内で着くならまだ早いほうかもしれないけれど。


 そろそろ出発するかなと魔導騎士団の宿舎の門の入口に目を向けると、すでに僕が乗る馬車が待っていた。が、そこにあったのはレオが手配したらしい最高級のふかふかシートとクッションの馬車。王家の紋章は取り外されているものの、さすがに外装でわかる。

 いやいや、ダメでしょ、これ僕が乗っていい奴じゃない。

「なんで王家の…?」

「一応お詫びかな。だって今回の結婚は政略結婚みたいなものだし」

「そんな風に思わないでよ。そろそろ初恋なんて忘れて現実見なきゃいけなかったわけだし、ちょうどよかったんだよ」

「そっか。でもせっかく用意したから乗って。乗り心地は私が保証するよ」


 レオに手を取ってもらいながら馬車に乗り込む。
 うわあ、中まですごい装飾で広くてふかふか。12時間乗っても大丈夫そう。

「ありがとう、レオ」

「どういたしまして。国王が親友を見送るんだからこれくらいしなくちゃね。それと…もし何かあったらすぐに帰っておいで」

「うん。そのときは転移で帰ってくるよ、いいよね?」

「もちろん。じゃあ気を付けて」



『レオナルド・ラトランドの名にかけて、ルシア・ウォレスに心からの祝福を』



 レオはそう祈って見送ってくれた。陛下が祝福を祈るなんてめったにないのに。
 他のみんなも祈ったり手を振ってくれたり。

「いってきます」

 すぐに帰ってきたくなっちゃいそうだなと思いながら、馬車の窓から身を乗り出して笑顔で大きく手を振り返した。







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