つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

文字の大きさ
45 / 128
さぁ、はじめようか

44

しおりを挟む
 リディアは頭を抱えていた。
 教室内が殺伐としている。

「認めませんわ!そんなに早く持って帰れるはずがありませんもの!ズルをしたに決まっていますわ!」
「ちゃんとリディアの場所から品がなくなっていたのよ!私はリディアを信じます!」
「ジーク派の言葉など当てになりませんわ、あの虚け者の味方ならば嘘やズルもお得意でしょう」
「ジークヴァルト様はそんな方じゃありません!あの方は立派なお方よ!」

 レティシアとフェリシーが教室のど真ん中でガチバトルを繰り広げられている。
 試験結果はダントツ1位がリディア、2位がレティシア、3位フェリシーという結果だった。
 1位を狙っていたレティシアがそれにキレたのだ。
 それを保護する形でフェリシーが応戦。
 教室に入るなりバトルはずっと繰り広げられた状態だ。

(これは…想定外だわ…)

 金太郎飴イベントだと解っていたリディアは、リオが橋を渡れず品を持って帰れないか、または最下位で戻ってくるだろうと思っていたのだ。

(まさか聖女が通る時のみに発動とか、ふざけんなっての)

 ぶちぶちと小声で愚痴る。
 橋の爆発が発動しなければ、リオのチート身体能力を考えれば1位になると容易に予想できる。

(知っていれば対処したのに…くぅっっ)

 聖女候補に落ちるように成績も最下位をキープしていたというのに、聖女試験の一つ、しかも重要な高得点試験でダントツ1位を取ってしまったのだ。
 これでは聖女試験に合格する可能性すら出てきてしまった。

「このクラスで成績が一番下だというのにあの難しい試験で1位なんておかしすぎますわ」
「リディアは頑張ったのよ!きっと必死に――――」
「お黙りなさい!私は枢機卿に異議を申し立てているの」

 睨み合っていた二人の目が今度はオーレリーに向かう。

「オーレリー様!リディアはそんなズルをする子じゃありません!」
「インチキに決まっているでしょう、どうせ精巧な偽物を用意していたか、事前に隠された場所を盗み聞きしていたかに決まっているわ、普通の人間であればこんなにも早く持って帰れるなど不可能よ、ああ、魔物も扱えるのよね、もしかして魔物でも使ったのかしら?」
「イザークは魔物じゃないわ!それにリディアはそんな卑怯な真似なんてしない!」
「では証拠を見せなさい、でなければ1位を返上しなさい」
「横暴よ!」
「田舎娘は黙っていなさい」

 レティシアがリディアの前にツカツカと歩み寄るとバンッと机を叩き手を置く。
 皆がリディアに注目する。

「早く認めて、返上しなさい」
「どう――――」
「やかましいなぁ、相変わらずギャンギャンと」
「ジークヴァルト!」
「殿下?!」

 返上は願ったり叶ったりな申し出にリディアが”どうぞ“という前に不意に現れたジークヴァルトで阻まれる。

(ジーク?!また邪魔をっっ)

「ジークヴァルト、あなたが共謀したのでしょう?白状なさい」
「おや、珍しいな、直球でくるとは」
「当然でしょ?誰がどう見てもこんな速さで取って帰ってくるなんて不可能ですもの」

 レティシア派がそうだそうだと喚き立てる。

「だが事実だ」
「証拠は?」
「その場に俺とサディアス、それに大勢の兵もいた」
「え?」
「自分の連れて来た候補生の応援と思ってな、その場に俺もいた」
「あ、あなたが首謀者かもしれないわ」
「オーレリー枢機卿」

 ジークヴァルトに呼ばれてやっと話せるという様に一つ小さな息を吐く。

「レティシア様、この試験の品物にはかなり高度な魔術を使った目に見えない印を施しています、偽物を用意したとしても印は真似できないでしょう、それに皆気づいていないようですが品物の場所はこちらで監視できるようになっております、確かにリディア嬢の弟君がそれを取り帰っていったのを確認しております」
「!」

 オーレリーの言葉に皆唖然とし黙り込む。

「ですので、不正は不可能なのです、国の最重要聖女試験ですからね、不正が無いようこちらも厳重に目を光らせております」
「ということで、こいつの1位は確定だ、文句あるやつはいるか?」

 ジークヴァルトの言葉に教室内がシーンと静まり返る。

「よかったわね!リディア!」

 フェリシーが嬉しそうにリディアに振り返る。

「ああ、よかったな、1位よくやった褒めてやろう」

 ニヤニヤして振り返るジークヴァルトを余計なことをしやがってと目で訴えながら睨み上げる。

「邪魔したなオーレリー、一位殿に祝辞を述べた事だし職務に戻る」
「ご足労感謝いたします」
「聖女候補諸君、此度で成績振るわなくともまだまだチャンスはある、これからも存分に励まれよ」

 ジークヴァルトの言葉にレティシア以外皆頭を下げる。
 そのまま颯爽と去っていった。

「それでは授業を始めます、皆、席におつき下さい」






「返上したかったのに、はぁ~~~」
「今日は夕食にリディア様の好きなデザートをご用意するので元気を出してください」
「夕食にお酒もよろしく」
「畏まりました」

 王宮図書室に行くまでの間、リディアの愚痴を聞いていたイザークの足が扉の前で止まる。

「では、後ほどまた迎えに参ります」
「今日は肉にして、がっつり食べて忘れたいの」
「ふふ、ではがっつりな食事をご用意しておきますね」
「楽しみにしているわ」
「はい、では…」

 リディアが室内に入っていくのを見届け、イザークは元来た道を引き返す。

「よぉ」
「!」

 角を曲がったところで見知った声を聴く。

「デルフィーノ…」

 レティシアの執事をしている従弟のデルフィーノが壁に凭れ立っていた。

「魔物めが、どんな手を使った?」

 すぐにそれが先日の試験の事だと把握する。
 黒魔法を使ったことはジークヴァルトの命令で内密にされた。
 だが尋常じゃない速さで品物を取ってきたのだ。
 リオの能力を知らない者からしたら、何かしていると勘繰るのは当然だ。

「いえ、私は何も…」
「ふん、どうやって殿下に取り入ったかは知らないが、魔物風情が調子に乗るなよ」
「‥‥」
「あの恥知らずな聖女候補がお前を使って1位を取ったのだろうが、目立つことをするな、ローズ家の恥さらしが」
「っ」

 ドガッと鳩尾を蹴られ蹲る。

「私がレティシア様の執事になったのだ、お前に勝手な事はさせない、今度何かしたら許さない、解っているだろう?」
「…」

 イザークが自分の胸元をギュッと掴む。

「いいか、レティシア様の邪魔をするな、これは忠告だ」
「…」
「解ったな?」

 こくりと頭を頷かせる。

「それでいい」

 服を軽く整えると、ツカツカと何事もなかったようにデルフィーノが去っていく。

(リディア様…、あなたに迷惑を掛けるわけにはいかない…だけど‥‥)

 思いつめるようにイザークは自分の胸元をもう一度ギューッと握りしめた。






 本に手を当て真剣な面持ちでその内容を改めて吟味する。

(やはり、これにも私の魔法は載っていないわね…)

 どうしても自分の属性以外の魔法が出せない。
 イザーク曰く、自分のその魔法はこの世界にはないものだという。

(ピカっと光るし、これはきっと光魔法よね…)

 王宮図書室で魔法の本を探しまくるも、どこにも自分の属性の魔法は載っていない。
 そして色々調べたが、ある程度の魔力を持っていれば生活魔法レベルの他属性の魔法が使えるとどの本にも書いている。
 だがリディアは未だに使えない。

(ここまでくると、本当に使えないと考えた方がいいかもしれないわ…)

 光魔法の事も載っていないという事は、自分は特殊で使えないという事も十分にあり得る。

(生活魔法が使えないのは痛いわね…となるとイザークはやはり必須だわ…)

 井戸が遠い場所や家事の火が使えないと生活は苦労する。
 自分が光魔法以外使えないなら使える者を連れていくしかない。

「ほぉ、魔法書か」
「!」

 不意に頭の横から声を聴き焦って振り返る。

「ジーク?!なんでこんな所に?」
「王宮図書室だ、俺が居てもおかしくないだろう?」
「それはそうだけど…」

 今まで人っ子一人いないこの王宮図書室に現れる事態が怪しい。

「勉強熱心だな…」

 リディアの前に積まれた魔法書の山を感心するように眺め見る。

「どうせ揶揄いに来たのかもしれないけれど、他の相手を当たって、こっちは今忙しいの」

 読み終わった本を重ねて両手で抱え持とうとして、それをスッと奪う様に持ち上げられる。

「俺も本を読みに来たのだ、ここはお前だけの場所ではないだろう?」
「‥‥ お好きにどうぞっわっ」

 ジークヴァルトの手から魔法書が飛んでいきあっという間に元の場所に収まる。

(くぅ…魔法が使えたら、楽なのに!)

 自慢気に見下ろされるその瞳を睨みつける。
 そしてズカズカとお目当ての本棚に行くと梯子を使って登り始める。

「おー、いい眺めだな」

 高い所の本を取ろうと階段を登ったその下でジークの声を聞き、ハッとしてスカートを抑える。

「変態」
「お前がいうか?魔物執事に靴を舐めさせたのだろう?」
「!…なるほど、監視はいるわよね」
「相変わらず飲み込みが早いな」

 あの場ではレティシア達と自分らだけだったはず。
 それなのに情報を知っているジークヴァルト。
 この喰えない男が監視も付けていないはずはないなと直ぐに思い至る。

「いい加減、そこから離れて下さらない?」
「いいだろう?どこにいても」
「セクハラで訴えますわ」
「セク?」
「変態容疑で訴えると言ったのです」
「お前が勝手に見せたのだろう」
「見せていません」
「白」
「え?」
「聖女だけに白か、つまらんな」
「!!」

 バシッと本を投げつけるも本が宙に浮く。

「見てしまった後だ、恥ずかしがらずさっさとしろ」

 流石にリディアも少し頬を染める。

「ほぉ、お前でも恥じらいはあるのだな」
「!」
「うわっっ」

 上からたくさんの本が降ってくる。
 その本達が宙に無数に浮かぶ。

「あら、手が滑ってしまいました」

 そう言い放ち階段から飛び降りると、ジークヴァルトの周りに飛ぶ本の中から幾つか手に取る。

「助かりましたわ、ありがとうございます」
「ほ、ほぉ、それはよかったな」

 ひくひくとジークヴァルトの唇の端が引くつく。

「‥‥いつまで居るつもりですか?」
「いいだろう?ここは王宮図書室だからな」
「‥‥」

 その後も帰るそぶりを見せないジークヴァルトにイラつきながら本をめくる。
 さり気に力を使って脳に入れるが、すぐに本を閉じるわけにもいかずページを一枚一枚めくる。

(これでは全然進まないじゃないっ、邪魔だわ…)

 はぁ~とため息を付きながら、本を捲るのだった。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...