つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

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さぁ、はじめようか

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「粘りますね」

 サディアスがジークヴァルトに馬を近づけ敵軍を見ながら口にする。
 長時間の戦に兵達の顔に疲れの色が見える。

「こちらは波状攻撃を繰り返していますがここまで粘るとは…、ミクトランが加わったと言え数も体力もこちらが上だというのに」
「何か引っかかるな…」
「ジーク様?」
「ミクトランも加わり遅滞戦…、国土が死に聖女のシールドに守られ生きている土地欲しさにこの場所を狙ったと一見思えるが、それならなぜ先に協定や条約を結ぼうとしない?交渉すらなかったはず…」
「アナベルにいったのやもしれません、そうであれば揉み消された可能性も考えられます」
「‥‥」
「それより、ミクトランが邪魔ですね、ナハルの南方に揺動戦を仕掛けましょう」
「そうだな、これでは埒があかん」
「おい、伝令兵をこちらに」
「はっ」
「全くこの地形は厄介ですね、こちらから協定を用いてもいいのですが、準聖女(元聖女候補)が住まう地だけに外でなく内が煩い、本当に難儀な土地です」

 サディアスの近くに伝令兵が馬を寄せてくる。

「お呼びですか?」
「至急ナハルの南方で揺動戦を――――」
「ジークヴァルト殿下はどちらにいますか!!」

 そこで早馬で駆けてくる伝令兵に振り返る。

「ここだ!」

 伝令兵はジークヴァルトを見つけると急いで駆けつける。

「どうした?」
「殿下にキャサドラ隊長とリディア嬢から伝言です、ここは囮、狙いは『城』、敵はウラヌを横切り我が城に向かっていると」
「何ですって?!」
「?!‥‥そうか!それで遅滞戦かっ!!」

 ジークヴァルトとサディアスが目を見張る。

「ウラヌを横切るなど…だが、リディア嬢が言うならばもしや…」
「まずいな、援護をやりたい所だがそれでは間に合わん」
「横切っているとなると、既にももう城の近く…これはマズいですね」
「伝言はまだあります」
「言え」
「はっ、リディア嬢がオズワルドとイザークを連れてウラヌ横切る軍へと向かわれたと」
「リディアが?!」
「オズワルドをですって?!」
「はっ、片付ける間、持ち堪えて欲しいと」

 唖然として伝令兵を見る。

「本当にそう言っていたのですか?」
「はいっ!」
「信じられません…そんな、まさか…」
「確かにそうキャサドラ隊長より直接給わりました!!」
「…解った、下がれ」
「はっ」

 伝令兵が下がる。

「まさか…オズワルドを…、よくレティシアが許したものですね」
「は‥ははっ、やってくれる!」

 ジークヴァルトとサディアスの瞳に光が戻る。

「オズワルドにイザークですか…、確かにあの二人なら何とかしてくれそうです、…念のため城へどこかの部隊を向かわせたい所ですが…」
「西はこれ以上は手薄になる、南では来たとてもう終わった後だろう」
「はぁ~‥、早く派閥のねじれを何とかしたい所ですが今は嘆いている時ではない、リディア嬢の戦略に掛けるしかないでしょう」
「オズワルドもいるなら、十分に勝機はある」
「はい」








「一体何が起こっている?!」
「何も見えないっ」
「風魔法でも全く消えない」

 急に闇に包まれたと思ったら前方から何かが向かってくるのを感じる。
 兵が次々なぎ倒されていく音と悲鳴だけが暗闇に響く。
 あまりに不気味で恐怖を駆り立てられる。

「ひっひえぇぇ」
「ば、馬鹿!弓を引くな!!」

 弓を引く音に慌てて叫ぶ。

「イヴァン王子、ここは危険です、引き返しましょう」

 あっという間に殺気と共になぎ倒されていく音が近づいてくる。

「ああ、殺気でこのわしすら震えがきとる、わしが壁になるので引き返す命令を」
「いや、これはもう無理だな」
「!」

――――ガキィィ―――ンッッ

 間一髪で剣をかわす。

「王子!お逃げください!」
「ぐぁっっ」

 何かが岩壁に吹き飛ばされぶち当たる音を聞く。

「デイモンド?!」
「そこかっ」

――――ガキィィ―――ンッッ

「くっっ」

(この男、強過ぎる)

「イヴァン王子!このっっ」
「よせっバイロニー!」
「うぁっっ」
「バイロニー!!」

(おかしい、この動き…こちらの動きが全て丸見えの様だ‥‥)

「このぉおおっっ」

(そうか…これは魔法!しかしこの闇を消せないとなれば打つ手なし‥‥)

「デイモンドっ待て!」
「しかしっ」

(仕方ない…)




「参った!降参だ!!」





「イヴァン王子?!」

 イヴァンの言葉に皆が驚き動きを止める。
 また自分を狙っていた敵の動きも止まった。

(動きが止まった…交渉は可能か?これなら何とかなりそうだ)

 


「約束する!今すぐ撤退すると!だからこの闇を消してくれ!!」




 暫くの沈黙の後、スーッと闇が消えていく。

(素直だな、だが助かった)

 そして闇が完全に消えた所で前を見る。

「お、お前はオズワルド?!戦闘員から外され爵位剥奪されたのではないのか?!」

 目の前に立つ大男に驚く。
 そして見晴らしが良くなった視界で前を見、唖然とする。
 たくさんの兵が前にいた筈が皆倒れ地面に転がっていた。
 その先に美しい淡い金色の髪を靡かせた美女に目を細める。

「なるほど…あれが今回の聖女か‥‥美しいな」

 その隣の紅い眼に全てを把握する。

「参った、闇魔法とオズワルド相手に1対1とはこりゃ勝てねぇわ」

 額に手を当て、ははっと苦笑いを零す。

(闇を消しても勝算はなし…か、こりゃ惨敗だな…仕方ない)

「イヴァン王子‥‥」

 ヨタヨタと立ち上がる臣下のバイロニーを見、頷く。

「我はヨルムの王子、名はイヴァンと申す!聖女!あなたの名は?」

 イヴァンの声掛けに、リディアも応える。

「私の名はリディア、今すぐ撤退してください!でないと次は容赦しない」
「勇ましいな、大丈夫、安心しろ!我らの完敗だ!すぐに撤退する!」

 リディアがホッと胸を撫で下ろす。

「今回は負けたが、次はあなたを浚いに参ります!聖女リディア」
「え…?」
「では、さらば!」

 イヴァンの命令と共に皆が今来た道を引き返していく。





 ヨルム軍が去るのをじっと見届ける。

「もう大丈夫かな?」

 最後尾もほぼ姿が見えなくなった。

「ああ、心配ないだろう」
「よかった…」

 オズワルドの言葉にホッと息を吐く。

「おいっ」
「リディア様!」

 よろけたリディアをオズワルドが受け止める。

「!」

 リディアを受け止めた手がぬるっと濡れて思わず見るその手が血で濡れていた。

「…血?」
「傷口が開いていたのですか?!何故すぐに言って下さらないのです!」
「…いやぁ、闇魔法使ってる時に声掛けらんないでしょ」
「私にはリディア様の方が大事です!」
「だから言わなかったの」
「オズワルド様ならば一時なら十分に持ちます、ああ動かないでじっとして下さい、すぐに止血し直します」

(負傷していた?全く気取れなかった…大した女だ、しかし…)

 オズワルドの腕の中でじっとする中、イザークが手際よく開いた傷を止血しなおしていく。

「これは?」
「レティシアの所に向かう途中で刺客にやられたのです、レティシア様やあなたの士気が下がらないように戦前に気づかれないよう口止めされていました」

 あのアナベルやレティシアが相当の手練れを幾人も呼び寄せていた。
 そんな刺客、キャサドラとイザークだけでは到底庇い切れるはずがなかった。
 そのため敢え無く傷を負ってしまったのだ。

「回復は使えないのか?」
「それが自分には使えないみたいなの、ホント使えないわ~この魔法」
「さ、出来ました」
「それより、すぐにジークに連絡しないと!」

 そこに早馬がこちらに向かってくる。

「ここにいましたか!」
「丁度いい所に来たな」
「オズワルド団長!」

 伝令兵が驚いたようにオズワルドを見る。
 そして目を潤わせた。

「ハーゼルゼット様が見たらお喜びになられたでしょう…、ああ、ハーゼルゼット様も助けられれば…」

 ハーゼルゼットの息子であるオズワルドが復活している姿を見、伝達兵が皆が憧れた元団長ハーゼルゼットを思う言葉を口にする。

「すぐにジークヴァルト殿下に伝えろ、敵はヨルム、そして撤退したと」
「ヨルム?!…はっ!すぐに知らせて参ります!」

 今来た伝令兵がすぐに引き返していく。

「これで安心ね」
「ええ、では戻りましょう」
「その前に、オズワルド」
「何だ?」

 リディアがオズワルドを見上げる。

「前は少ししか伝えられなかったから、今のうちに言っとくわ」
「?」
「ジークの母の無罪の証拠は、あなたが教えてくれたアナベルの寝室の大きな絵画の裏に隠されているわ」
「!」
「あの部屋が空になるのはアナベル誕生祭だと思うの」
「‥‥その隙に侵入するのか」
「ええ、それで位置も把握しているオズワルド、あなたが侵入役に適していると思うの」
「! …なるほど」
「お願いできるかしら?」
「解った」

(よし、これでオズワルドの約束が果たせる…)

 ホッと息を吐くとふらっと頭がふらつく。

「リディア様!」
「…帰ったら肉が必要ね」
「幾らでもご用意致します、ではそろそろ帰りましょう」

(あとは、逃亡のみ‥‥もう一息ね)

 イザークがリディアを抱き上げる。

「オズ、ありがとう、あなたが協力してくれたおかげで助かったわ」
「利害が一致しただけだ」
「それでも助かったわ、イザークもね、ありがとう」
「当然です、それより早く戻って城の皆も安心させてあげましょう」
「そうね、帰ろう、もうへとへとよ」
「はい、マイレディ」

 そう言ってリディアを乗せた馬が走り出す。
 その背を見、オズワルドは自分の手を見下ろす。

「‥‥」
「オズ?」
「ああ、今行く」

 そうして戻るとキャサドラに抱きつかれ、また傷口を開くことになったリディアがいた。








――――あれ?ここはどこ?

 喉がガラガラなのに気づく。

――――水‥水・‥‥

「…ア様、リディア様、大丈夫ですか?」

――――誰? リディア? ここはどこ?

 微睡む目に映る男から視線を逸らす。

―――それより水‥‥

「水ですか?」

 コクリと微かに頭を動かす。
 すると男の手から水球が浮かび上がる。
 それを男が口にすると自分の唇が塞がれた。
 そこから水が線の様に流れ込んでくるのが解る。
 それを乾ききった口から一生懸命飲み込む。

「まだ欲しいですか?」

 首を微かに横に振る。

「汗を掻いていますね、すぐに体を拭きましょう」

 男にされるまま服を脱がされ背を預け抱きしめられる形で身体が冷たいタオルで優しく拭かれていく。

―――― 心地良い

 火照った体に冷たいタオルが気持ち良くて目を瞑る。
 その目がまた開く。

「‥‥れ?…のじゃな‥」
「リディア様?」
「私の…身体…どこ?」
「?」

 自分の目に映った自分の体が見たことのない白い美しい体になっている事に一気に恐怖が沸き起こる。

「や…、私の…身体…どこ?!」
「リディア様?」
「いっ」

 横腹に激痛が走る。
 そんなリディアを背から抱きしめる。

「大丈夫です…、あなたは傷を負い今高熱が出ているのです」
「傷?」
「はい」
「傷‥‥」

 そこでやっと記憶が戻ってくる。

「あ、ああ…、私、夢を見ていたのね」

(現世に戻っている夢を)

「夢ですか?」
「いつ倒れたの?」
「部屋に戻ってすぐに」
「そう‥力尽きたのね…」
「無理をし過ぎです」
「迷惑かけたわね」
「迷惑かけられるのが私の仕事です」
「ほんと、言うようになったわね」
「ふふ、さ、服を着ましょう、このままでは風邪を引いてしまいます、ああ、動かなくて大丈夫です」

 イザークが器用にネグリジェを着せると、もう一度リディアを背から抱きしめた。

「もう少し、こうしていた方がいいですか?」
「積極的ね」
「積極的にもなります、こんなに震えているのに…気づいていないのですか?」
「え‥‥?」

 驚き自分の手を見るとふるふると震えていた。

「あ…れ?止まらない‥‥」
「大丈夫です、このまま抱きしめていますから、もう一度ゆっくりお休みください」

 イザークの腕の中は心地よく瞼を閉じる。

「そうです、そのままゆっくり体の力を抜いて」

 イザークに言われるまま体の力を抜く。

「もうここは安全です、安心しておやすみ下さいませ、マイレディ」

 そのまままた深い眠りについた。




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