つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲

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さぁ、はじめようか

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 庭に差し掛かった長い廊下を疲れた足取りで歩く。
 面倒な聖女の何か祈りみたいなのを長々として終わった所だ。

「あの意味なく長いの何とかなんないのかなぁ~?」
「国の安寧への祈りですから、仕方がないかと…」
「別に誰でもいいだろ、あんなの、姉さまがする必要ないよ」
「政治的な意味合いもありますから…」

 今までバラバラだった心を一つにするための催しでもあった。
 ジーク派だ、アナベル派だとかでなく、伝説の聖女なら皆心は一つになるだろうという狙いがあった。

「目的は心を一つに~もあるけど、伝説の聖女がいる国という世界へのアピールする事で、この国に色々仕掛けるのがやりずらくなるだろうしね」
「そんなの姉さまに関係ないだろ」
「…まぁこの選択しちゃったし、嫌だけど、他の知らない国や教会でやらされるよりはマシと今は考えるようにしているわ」

 雑談しながら歩く3人に駆け寄ってきた男がリディアに一礼をするとイザークに話掛けた。
 するとイザークが首を横に振るが、男が焦ったように何かを話していた。

「どうしたの?」
「はい、それが…、執事長がすぐに来いと」
「なら行ってくれば?」
「ですが、リディア様の護衛が優先です」

(でた、イザークの心配性…)

 イザークの心配性はこの城に戻ってから更に重症となっていた。

「大丈夫よ、部屋までそう距離ないし、リオもいるし」
「ですが‥‥」

 部屋までこの庭を越えればすぐだ。
 この渡り廊下の先の建物にリディアの部屋がある。
 しかも、これでもかというぐらいに厳重な警備になっている。
 ここまで敵が入る事はできはしないだろうぐらいに守りは固い。

「心配し過ぎよ、この辺りは守りも固いし、この距離ならリオだけでも大丈夫よ」
「少しの油断も危険です、もう二度とあのような事は―――」
「はいはい、とにかく行っておいで、リオがべったりくっついてるから大丈夫」

 リディアにべったり抱き着いているリオを見る。
 この廊下を渡ればまた護衛兵もいる。
 たった数メートル。リオがいれば大丈夫だろうが、でも心配に心が揺れる。
 フェリシーの事件以来、リディアがまた目の前でいなくなることが不安で仕方がなかった。
 たかが数メートルだが一人だとやはり不測の事態が起きかねない。
 今、近くに何も気配を感じないから心配し過ぎかもしれないが、でも、あのような思いは二度と起こしたくない。
 だが、伝説の聖女の執事が魔物の容姿をしている事が、執事長は気に食わない。
 あまり執事長の機嫌を損ねると、リディアから自分を切り離す工作に出かねない。
 どうしたものかと頭悩ませていると、ふと日が差し掛かり、空を見上げ太陽の位置を確認する。

(そろそろオズワルド様も来る頃…何かあっても対応できるか…)

 こちらに向かっている最中であるだろう時刻。
 だとすれば何かあればすぐに気づいてくれる距離にいるはず。

「‥‥そうですね、では少し席を外させていただきます」
「了解」
「リオ、頼みます」
「言われなくても!さっさといけよ、邪魔」

 イザークが頷くと伝言を頼まれた男と一緒に元来た道へと戻っていった。

「さて、行こうかっ――――」

 見送り歩こうとした背後から抱きしめられ焦る。

「やっと、二人きりになれた」

(まただ‥‥ 身動きできない‥‥)

 優しく抱きしめられているのに身動き一つできない。

「戻るわよ」
「嫌だ」
「いいから、離れな―――ひゃっ」

(な‥…)

 がぶっとうなじを噛まれ思わず声を上げてしまう。

「リ…リオ?っっ」

 動揺し軽いパニックになるリディア。
 歯形が付いたそのうなじを熱い舌がぺろぺろと獣のように舐める。

「姉さま、もう僕我慢できないよ」

(何が?!)

 執拗にぺろぺろとうなじを舐める舌が不意に止まったと思ったら耳に今度は噛みついた。

「ひゃっ」
「姉さま、僕考えたんだ」
「?」
「このままじゃ、姉さまとこうしてふたりきりでいられないから、いっぱい考えたんだ」
「…んっ、な、何を?」

(エロシチュなのは美味しいけど、そんなに舐められたら…ううっ、こんな場所でスイッチ入れられるのは困るっ)

 獣が愛情表現を示すようにぺろぺろと舐めるしぐさを見せるリオ。
 執拗にうなじや耳を舐められ、体の奥に甘い疼きを感じる。

「それにこのままじゃ姉さまの夢も敵わない」
「んっ…」
「隠れても無駄って解ったからさ、ね、姉さま」

 ちゅっと耳にキスをすると唇を寄せた。

「ぜ~んぶ殺しちゃお?」

 耳元で囁かれビクっと体を震わす。

「姉さまが殺せと命令してくれないから、今まで上手くいかなかったんだ」

( ! …そっちに思考がいっちゃったかっ)

「来る敵も、姉さま見た奴も、みんな殺せばいいんだ、僕隠れ場所見つけるの得意だし、一緒にここから出ようよ、そうしたら姉さまの夢も敵う、姉さまとふたりきりにもなれる、全て叶うよ」
「そんな、‥ぁっ、無理よ?」
「大丈夫、あのでかいのさえどうにかすれば、僕、姉さまのために全てを消せるよ」

(でかいの?…ああ、オズワルドか)

 前に殺気全開で飛び掛かったリオを簡単にあしらったオズワルドを思い出す。

「ここは確かに安全かもしれないけど、姉さま苦しそうだから嫌だ」
「リオ…」
「だから僕が自由にしてあげる、あいつじゃなく僕が姉さまを自由にしてあげる」

(もしかして嫉妬?)

 とくんと胸が跳ね上がる。

(やだっ、可愛いっ)

 キラリんとリディアの目が輝く。

「外は危険だけど、外に出たら僕の傍にずっと離れなければ安全だよ、全部殺してあげる、僕は姉さまとずっと一緒にいれるから幸せだし、ね、問題ないでしょ」
「ダメ――」
「ヤだよ」
「え?」
「姉さまが、殺すなというから我慢してたけど、でもそうしたら姉さまが穢された、失った」

(リオも…っ)

 リオがあまりにいつも通りなので気づいていなかった。
 イザークの心配性が増したように、リオの不信感も増していたのだ。

(そりゃそうよね…姉さま一筋のリオが何も持たないわけがない)

 リセーットの癖でついリオの問題から目を背ける癖がついていた。

(しまった…対処するの忘れてたわ)

 うっかりと解りやすい穴を忘れていたリディア。

「ひゃっ…ちょ、ま‥・っ」
「ヤだよ、だってあいつに穢されたままなんて嫌だ」
「っ…」
「あいつも、みんなも、姉さまもいけないんだ…」
「わ、私も?」
「煽ったって言ってた、姉さまのいつもの悪い癖でしょ?だけど、今回のはダメ、お仕置きしないと姉さま聞いてくれないでしょ?」

 獣のように舐めていた舌が耳から口元へと移って来る。

「姉さまは僕のだ、僕から奪う奴らなんかみんな殺しちゃえばいいんだ」
「っ‥‥」

 ぺろりと舌がリディアの唇を舐める。

「それに今のままじゃ姉さまと一緒に堂々と歩く事すらできないよ、だって僕の肌色だとこの世界じゃダメなんでしょ?」
「んっっ」
「姉さまも難しく考え過ぎ、単純だよ、みんないなくなれば簡単に解決できるよ」
「そ、そうじゃ―――っ」

 口を開けると舌が唇の隙間に入ってくるので急いで閉じる。

「単純だよ、何で殺しちゃいけないの?簡単にスッキリ解決するよ?ね、姉さま」
「っ、ま―――」

 甘えた声で囁きながら唇が塞がれる。

(リオが暴走?!…もしやヤンデレ発動?!)

 そのまま舌が唇を割って入ろうとした所で動きが止まる。

(?)

「まったく、うざい」

 リオの目がイラつくように揺れ動く。

「?」
「それで隠れて入ったつもり?せっかく姉さまとふたりきりになれたのに」
「リオ?」
「先に部屋に戻ってて、侵入者始末してくる」
「なっどこ?!」

 辺りを見渡すも何も変化はない。

「聖女像があるあたり」
「は?」

 像がある場所はここから遠い。

(そんな遠い場所の気配も感じているの?!マジか…)

「寄り道しちゃだめだよ、行ってくる」

 そう言うと目の前から姿が消えた。
 それを見てホッと胸を撫で下ろす。
 自由になった体を見る。

(ある意味、侵入者入ってくれて助かった…)

「もうルートに入る事はないと思うけど…」

 大団円は一応終わったはずだ。
 リオルートに入る事はもうない筈。
 とはいえ、ここから先、どうなるか解らない不安に楽しんでいいモノか悩む。
 それにヤンデレが進行するのはまずい。
 楽しもうとするところが流石下衆志向リディアである。

「とりあえず、帰ろう」

 解放された体を伸ばしながら歩き出そうとした時だった。

「!」

 不意に首元に衝撃を感じたと思ったら、目の前が真っ暗になった。

「よし、行くぞ」

 気を失ったリディアを抱き上げる黒い影。
 その黒い影が悲鳴を上げる。

「チッ、逃げるぞっ」

 でかい図体の男、オズワルドを見上げ舌打ちする。
 オズワルド相手では叶わないと判断したのだろう。
 床に転がったリディアを諦め黒い影が逃げる。

「待て」

 追いかけようとしてリディアに振り返り、膝を折り確認する。
 意識を失っているだけと解ると安心した表情を見せ、駆けてくる足音の方向を見た。
 そこにはサディアスの姿があった。
 それを見て、オズワルドは黒い影の後を追った。

「聖女リディア!大丈夫ですかっっしっかりしてください!」

 駆け付けたサディアスがリディアを抱き上げる。
 その目が転がった男を見る。

「自害を…」

 転がった男は口から血を流していた。
 これでは誰だか解らない。

(この国のものではありませんね…)

 改めてリディアを見る。

「大丈夫ですかっ!聖女リディア!」
「ん‥‥」

 揺すられゆっくりと意識を取り戻したリディアが目を開けた。

「あ…れ?サディアス?」
「大丈夫ですか?体に異常はないですか?」
「え‥?あ…」

 そこで、不意に殴られたことを思い出した。

「うん、首の所がまだ少し痛いけど大丈夫―――あ…」

 首元に手を当て頭を少し俯かせた目に、転がった男が映る。

「サディアスが助けてくれたの?ありがとう」
「‥‥ええ、あなたが無事で何よりです」

 サディアスがニッコリ笑う。

「まさか、こんな所までどうやって入ってきたんだろう?」
「ええ、気になります、‥‥」
「どうしたの?」
「あの時と同じように、何かアイテムを使ったのかと」

 その言葉にサディアスの実家で起こった事件の事を思い出す。
 あの時も気配なく入り込まれた。

「あり得るわね」
「とにかく、あなたが無事でよかった」
「サディアスのお陰よ、サディアスがいなかったら私今頃拉致されてたか、死んでいたわ、ありがとう」
「‥‥」

 礼を言うリディアにニッコリと笑みを返す。
 そこへリオも駆け付けてきた。

「姉さま!」
「あなたはどこへ行っていたのです!」
「誤解よ、リオも侵入者の対処に向かってくれてたのよ」
「くそっ、こっちは気配が解らなかった、僕が姉さまを危険な目に…ボクガネエサマヲキケンニ…ボクガ…」
「リオ?」

 リオが顔を俯けブツブツと呟く。

「リオ、大丈夫よ?サディアスが助けてくれたし」
「‥‥…クガネエ…ヲキケ…ニ」
「リオ?聞こえてる??」
「とにかく、早く部屋へ戻りなさい」

 サディアスが即す。
 リディアが頷きリオの背に手を置く。
 そこでリオが正気を取り戻した表情を見せた。

「この辺りの警備を増やしておきます、あなたはゆっくりとお休みください、今日は貴方にしてはよく耐えてくれました、疲れたでしょう」
「本当に、もう少し短くならないかと愚痴を零していた所よ」
「ふふ、今回は特別ですからね、次はもう少し短くなるでしょう」
「そうであって欲しいわね」
「善処します」
「それ、私が知っている国では否定の言葉よ」
「おや、そうでしたか」
「じゃ、いくわ」
「ええ、お疲れ様です」
「今日はありがとう、サディアス」
「いえ」
「じゃ」
「ああ、リオ、あなたは後で報告に来なさい、あなたも敵の正体が気になるでしょう?」

 リオが黙って頭を頷かせる。
 そしてリディアとリオが去り屋敷へと入っていく。
 その背を見送ると、転がった男の死体を見下ろした。

(リオでも気づかないとは…、やはり何かを使ったか…しかし一体何者…?)

 リオの気配を読む能力は超人的だ。
 近くにいた敵に気づかないのは考えにくい。
 しかも、この辺りの警護は幾重にも張り巡らされ、そうやすやすと入れる場所ではない。

「報告します」

 そこに臣下が駆けてくる。

「聖女像の前でリオが倒した敵の遺体を確認した所―――」

 臣下の目が倒れている男を見る。

「どうしました?」
「はっ、この男の手の甲にあるのと同じ紋様が…」
「! …なるほど、囮でしたか」

 リオの気配を読む能力に長けている事を知り、聖女像の辺りへと誘き寄せたのだろう。
 その間にリディアを攫う予定だったのだろうが、オズワルドが現れ失敗に終わった。

「他に何か痕跡が残っていないか徹底的に調べなさい」
「はっ」

(まぁ無理でしょうが…、ですが何としてでも手掛かりが欲しい、この敵は少々厄介)

 これだけの能力を持つ者が痕跡を残していくことはまずないだろう。
 そこで敵を追っていったオズワルドの方角を見上げる。

(オズワルドが上手く捕まえてくれるといいのですが…)

「‥‥」

 リディアを助けたのはオズワルドだ。
 だが、オズワルドがリディアと距離を詰めるのは問題がある。

(オズワルドには悪いけれど、仕方のない事です…)

 あの大量の魔物発生した地下で見たオズワルドの強力過ぎる力。
 更には光のシールドを打ち破った雷神の力。

「こちらも悩ましい問題ですね」

(危険でやっかいな男だ…、さて、どうしたものか…)

 転がった男の死体を足でぐりっと踏みつけた。






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