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第三章:地区予選へ

第43話:高みへと

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貴方あなたのお父さん………竜ヶ崎新一さん。麻雀の世界で、貴方のお父さんを知らない人なんていないでしょう」

 小百合は無理に言葉を紡ぐが、和弥とは目を合わせない。

「………オヤジが麻雀で有名だからって、息子の俺が麻雀好きとは限らないだろ」

(第一委員長、紅帝楼に入ってきたよな。俺があそこで打ってるのをかなり前から知ってるって事だよな)

 そう言いかけたが、和弥はそこでこの話は止める事にした。
 地区予選一回戦をいい形で突破したのに、いい空気を壊す事もない。和弥はそう判断したのだ。

◇◇◇◇◇

 地区予選準決勝。ここでトータル1位なら決勝進出。
 しかし立川南は先鋒・今日子、次鋒・紗枝・中堅・由香の頑張りで大量リードを築いており、副将の小百合がトップを取ればほぼ決勝進出が決まる。
 小百合は西家シャーチャでスタート。ドラ表示牌は三筒。つまりは四筒。
 自分の気持ちが、徐々に高揚していくのを小百合は感じていく。
 競り上がってきたトンから、小百合は4個づつ牌を取っていく。

(悪くはないわ。雀頭は最初からあるし、順子シュンツも2組ある。これは字牌整理をしてる内にテンパイになるパターンよ)

 しかし、しばらく「字牌や公九ヤオチュー牌を交換しているだけ」の状態が続く。ゲームでも配牌が良くても、ツモが全く効いてこない麻雀あるあるな展開。
 しかも対局者がツモをどんどん手の中に引き入れているのだから、焦らない訳はない。でも、和弥が紗枝にしていたアドバイスを思い出した。

「2,000でもサクサク流せば勝負が決まる東風戦とは違い、半荘ハンチャン戦は打点の高さも必要になる。
 場が平たい時は満貫を一つのラインと思え」

 初志貫徹。小百合は捨て牌が3列目に行くまでは、この手は面前メンゼンで仕上げる事に決めた。
 3人とも好牌ばかり来ているようだが、まだ手出しが続いている。逆にいえば、配牌がかなり悪かったという事。

「リーチ!」

 9巡目。親からリーチがかかり、『リーチデス』と女性の電子音声が鳴り響く。しかし同巡に小百合も聴牌テンパイ

(一手違いで345か456の三色になるけど、このまま勝負していいのかしら?)
 

「明らかに待ちが分かる時以外は、東1局での親のリーチに逆らうな」というセオリーを思い出した。
 しかし「赤入り麻雀は満貫以上なら一つの完成形」という赤入り麻雀のセオリーもまた同時に思い出し、捨て牌を確認する。
 幸い親の現物の九萬はある。

「リーチ」

 小百合の追っかけリーチでツモった瞬間、親の顔が引きつる。が、リーチをかけた以上和了アガり牌でないならツモ切りしなくてはいけないのが麻雀だ。
 親がそっとツモ切りしたのは三索。

「ロン」

 小百合は裏ドラをめくった。表示牌は一萬、つまりはニ萬。
 なので裏は乗らなかったが、どちらにせよ6翻。

「メンタンピン・一発・ドラドラ。12,000です」

 ハネ満直撃。幸先のいいスタートを切った。
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