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幕章
第47話:元裏プロ
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翌週、立川南高校には『祝・立川南高校麻雀部全国出場』という垂れ幕がかかっていた。進学校だけに運動部の目覚まし活躍のない立川南にとって、やはり全国大会出場というのは誇るべき活躍なのだろう。
しかし、他の5人の部員とは違い和弥には浮かれた気持ちはない。
「今日はジムに行きたいので休みます」
本当はキックボクシングジムにも行くつもりもなかったが、浮かれた気分になるつもりもない。そう思いながらサンドバックに蹴りを入れ続けた。
シャワーを浴び、着替えてジムの外に出たその時である。和弥のスマートフォンが鳴った。
(秀夫さんか………)
和弥は相手が秀夫なのを確かめてから、電話に出た。
「もしもし。どうしました秀夫さん?」
『こんばんは和弥くん。早速だけど、金曜の夜は空いてるかい?』
「問題ありませんよ。“高い卓”が立つんですか?」
『うん。レートは1,000点10,000円。ウマは1-3』
1-3とは2位は10万円、トップは30万円の御祝儀、という意味である。逆に2位に10万を支払うのは3位、トップに30万を支払うのは最下位という事になる。
「願ってもないですよ。んじゃ、金曜の8時ごろそっちにいきます」
そういうと和弥は電話を切る。
実は紅帝楼が入っているビルの4階の『株式会社HONMA総研』の奥には、秘密の麻雀ルームがある。そう。今の和弥は秀夫のとこで打ち手として生活費を稼いでいるのだ。
今住んでいるマンションがいくら購入式分譲とはいえ、月々の管理費、光熱費などは払わなくてはいけないし、来年には区民税などの請求も来る。
父・新一が残してくれた現金を種銭に、秀夫に「打たせてくれ」と頼んだのである。和弥は初めて打った日のことを思い出していた。
◇◇◇◇◇
その日は一名がドタン場でのキャンセルがあったが代わりが見つからず、秀夫が入る事になった。
「和弥くん。高レートデビュー早々に申し訳ないけど。今日は元・裏プロが入るよ」
「………全然構いません。相手が誰だろうと俺は勝つだけです。勿論秀夫さんからだって遠慮なく和了りますよ」
「ああ、ぜひそうしてくれ。というかそういうところも新一そっくりだね」
苦笑いする秀夫をよそに、椅子に座った和弥はノンシュガーのカフェ・オレを一口すする。
「で。その裏プロさんとやらは一体どんな男なんです? 強いんですか?」
「麻雀打ちとしては昔はかなり鳴らした人でね。貯めた金で今はスーツ関連の卸業をしてるんだ。
でも最近は赤字と借金が雪ダルマ式に増えてるみたいでね。ここで勝負させろと言って来た。ついたら200万貸す事になっている」
随分と奇妙な秀夫の発言だった。見せ金もない人間に200万を貸す、などと金銭にシビアな秀夫の発言とはとても思えない。
「秀夫さんにしちゃ随分お優しいじゃないですか。見せ金も持ってない奴に200万も貸すとか」
「仕方ないさ。昔はお世話になった“この道の先輩”だからね………。賭場を開いた際も、随分と上客を紹介してもらったんだ。
新一より強いと感じた事は、正直一度もなかったけどね!」
笑いながら秀夫も緑茶を飲み干す。
「とりあえず200万だけだよ。回収出来るかも分からないけど」
少ししてからその男は、秀夫の裏賭博場に現れた。
今はスーツの卸業という事だが、とても社長とは思えない随分とくたびれたスーツを着ている。
「始めまして。南野です。金扇町でスーツの卸業を営んでいます」
麻雀部のギャル・2-B組の南野と苗字が同じ。
(まさか………)
一瞬嫌な予感に襲われたが、和弥は黙って席についた。
デカピンの1-3ルールな事もあり、2連続最下位の南野は、半荘2回戦で早くも135万を失った。
しかし、他の5人の部員とは違い和弥には浮かれた気持ちはない。
「今日はジムに行きたいので休みます」
本当はキックボクシングジムにも行くつもりもなかったが、浮かれた気分になるつもりもない。そう思いながらサンドバックに蹴りを入れ続けた。
シャワーを浴び、着替えてジムの外に出たその時である。和弥のスマートフォンが鳴った。
(秀夫さんか………)
和弥は相手が秀夫なのを確かめてから、電話に出た。
「もしもし。どうしました秀夫さん?」
『こんばんは和弥くん。早速だけど、金曜の夜は空いてるかい?』
「問題ありませんよ。“高い卓”が立つんですか?」
『うん。レートは1,000点10,000円。ウマは1-3』
1-3とは2位は10万円、トップは30万円の御祝儀、という意味である。逆に2位に10万を支払うのは3位、トップに30万を支払うのは最下位という事になる。
「願ってもないですよ。んじゃ、金曜の8時ごろそっちにいきます」
そういうと和弥は電話を切る。
実は紅帝楼が入っているビルの4階の『株式会社HONMA総研』の奥には、秘密の麻雀ルームがある。そう。今の和弥は秀夫のとこで打ち手として生活費を稼いでいるのだ。
今住んでいるマンションがいくら購入式分譲とはいえ、月々の管理費、光熱費などは払わなくてはいけないし、来年には区民税などの請求も来る。
父・新一が残してくれた現金を種銭に、秀夫に「打たせてくれ」と頼んだのである。和弥は初めて打った日のことを思い出していた。
◇◇◇◇◇
その日は一名がドタン場でのキャンセルがあったが代わりが見つからず、秀夫が入る事になった。
「和弥くん。高レートデビュー早々に申し訳ないけど。今日は元・裏プロが入るよ」
「………全然構いません。相手が誰だろうと俺は勝つだけです。勿論秀夫さんからだって遠慮なく和了りますよ」
「ああ、ぜひそうしてくれ。というかそういうところも新一そっくりだね」
苦笑いする秀夫をよそに、椅子に座った和弥はノンシュガーのカフェ・オレを一口すする。
「で。その裏プロさんとやらは一体どんな男なんです? 強いんですか?」
「麻雀打ちとしては昔はかなり鳴らした人でね。貯めた金で今はスーツ関連の卸業をしてるんだ。
でも最近は赤字と借金が雪ダルマ式に増えてるみたいでね。ここで勝負させろと言って来た。ついたら200万貸す事になっている」
随分と奇妙な秀夫の発言だった。見せ金もない人間に200万を貸す、などと金銭にシビアな秀夫の発言とはとても思えない。
「秀夫さんにしちゃ随分お優しいじゃないですか。見せ金も持ってない奴に200万も貸すとか」
「仕方ないさ。昔はお世話になった“この道の先輩”だからね………。賭場を開いた際も、随分と上客を紹介してもらったんだ。
新一より強いと感じた事は、正直一度もなかったけどね!」
笑いながら秀夫も緑茶を飲み干す。
「とりあえず200万だけだよ。回収出来るかも分からないけど」
少ししてからその男は、秀夫の裏賭博場に現れた。
今はスーツの卸業という事だが、とても社長とは思えない随分とくたびれたスーツを着ている。
「始めまして。南野です。金扇町でスーツの卸業を営んでいます」
麻雀部のギャル・2-B組の南野と苗字が同じ。
(まさか………)
一瞬嫌な予感に襲われたが、和弥は黙って席についた。
デカピンの1-3ルールな事もあり、2連続最下位の南野は、半荘2回戦で早くも135万を失った。
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