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第四章:全国との戦い

第73話:盲点

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 親の小百合がドラをめくる。

「ドラは九索ね」

 全員が山から牌を取り終え、ナン1局開始。しかし和弥の配牌は良くない。
 9巡目。小百合が一瞬だが、入り目を確認したのが分かった。

(委員長め、張ったな………。捨て牌はタンピン系)

 10巡目。小百合がツモった三萬をほんの少しだが、再び確認する。

(一瞬見たな…。一萬は捨ててある。筒子ピンズ索子ソーズの上は出来てるし、和了アガり牌は二・五萬一点だ)

「チー」

 小百合がツモ切りした三萬を鳴く和弥。そして打ったのはドラの九索だった。

「貴方って本当に、躊躇なくドラも切るわよね………」

「そりゃあな。ドラだろうがなんだろうが、要らねぇなら切るさ」

 一方の龍子も配牌もツモも良くなく、手が進まない状態である。

(くっ………。配牌もツモも腐っているな)

 龍子がチェックしているのは、当然ながら小百合でも昭三でもなく、和弥であった。

(赤入り麻雀と違い、鳴きを入れると満貫にするのは中々難しい………。見え見えな純チャンでドラを捨てたということは、雀頭で使っているのだろうな)

 たかが50万のサシウマ───それは龍子も同じである。しかし数年ぶりに、麻雀でここまで熱くなっているのもまた、紛れのない事実だった。
 結局南1局は誰もアガれず、流局となる。

「ノーテン」

「俺もノーテンだ」

 手牌を伏せる龍子と昭三。

聴牌テンパイです」
 

「俺も聴牌」
 

 瞬間、流石の小百合も驚愕する。

(う、嘘でしょう………。純チャン崩してまで五萬を止めているなんて………)

(これでいい………。局が進まず先生との差が3,000点縮んだ)

 和弥の形式聴牌を見て、龍子もニヤリと薄ら笑いを浮かべる。
   南1局一本場。ドラは二索。

「リーチ」

 和弥は一発でツモったが、勿論裏は無いし一発もつかない。

「ツモ。一本場で2,100・4,100」
 

 和弥はゆっくりと手牌を倒す。
 4巡目で満貫親っかぶりの小百合は、苦々しい表情で点棒を渡す。

「こ、これは痛い親っかぶりね……」

 小百合は不満そうにこぼしたが、シカト気味に点棒を受け取る和弥。

(悪いな委員長。こっちも全国大会なんかよりずっと真剣マジなんでな)

 その様子には龍子だけではなく、昭三も唖然としていた。

(………あの竜ヶ崎の息子ってだけはあるな、このガキ。あっという間に龍子ちゃんに11,000チョイまで迫りやがった)

 サイコロボックスのスイッチを押す和弥を見ながら、龍子もほくそ笑んだ。

「やれやれ。役満和了ってまくられたとあっちゃ、笑いモンだな」

「………イカサマでもやりたきゃやればどうです? もっとも、俺の動体視力から逃げられるかは保障しませんが」

 ドラは五萬。

「吠えるのはこの局が終わってからにしろ。第一、キミのような青二才相手にサマ使うほど落ちぶれちゃいないさ」

 実際プロ雀士・MJリーガーだった頃の龍子は。積み込みやすり替えは無理でも、全自動卓の回転数を利用した牌の寄せなどを駆使して勝ってきた。MJリーグで新台が導入されると聞くや、すぐに自宅に購入し特徴などを研究したものである。しかし、和弥が相手ではそう上手くはいかないは分かっていた。さらに言えば、龍子が実際に牌を触った麻雀を打つのは実は3年ぶりなのだ。
 親を流された小百合の捨て牌は、一打目から中張牌の連打だ。やはりU-16チャンピオンのプライドがあるのだろう。必死である。

(委員長は789の全帯公チャンタ三色と国士の両天秤か。オイシイとこばっか切りやがって)

「カン」

 9巡目の和弥の七筒暗カンに、小百合の顔は引きつった。

(嘘でしょうっ!?)

「リーチ」

 嶺上牌リンシャンハイをツモった和弥は、即リーチにいく。
 龍子のツモ番。牌を引いた龍子も、眉間にシワを寄せる。

「やれやれ。一発でキミの当たり牌を掴ませられたよ」

 手の内から一萬を切る龍子。

「ほー。嬉しいな。自力優勝させてくれるのか」

「慌てるな。まだ勝負はついちゃいない。ラス親は私な事を忘れるな」

 しかし小百合はそれどころではない。

(も、もう国士一本でいくしかないわ………)

 三色の目が完全に消えた小百合は、仕方なく八筒を切る。

「ロン」
 

「きっちり親満だ。委員長が飛んだのでほんの少しだが俺の勝ちで終了ラストだな」

 ワンチャンスどころか。ノーチャンスだった八筒でアガられた小百合は、一気に青ざめた。
 しかし、龍子だけは不敵に笑っている。

「さっき言ったろう? キミの、と……」
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