コーヒーとCEOの秘密🔥他

シナモン

文字の大きさ
22 / 58
コーヒーとCEOの秘密 (完)

22

しおりを挟む
 瞳が大きく滲んで泣き崩れてしまいそうで、つい言ってしまった。

「結婚してらっしゃるのですか? ご主人に迎えに来てもらった方が」
「え?」
 驚いてこちらを向いた。零れ落ちそうだった涙が一筋頬を伝って落ちた。
「……ああ、これ。ただのおまじないです。結婚は……していません」
 左手の薬指に視線を落とし言った。
「そうですか。大丈夫ですか?……車で戻られた方が。お送りしましょう」
「ふふ…。反対になってしまったわね。大丈夫よ、近いので」
 新宿に住んでいるの。東側?
「これ、金属じゃないのよ。私、金属アレルギーなの」
 そう言って左手を少し上げた。
「強化プラスチックというか、新素材で作ってあるの。ずっと研究していた人がいて。変わった素材なのよ。元々は防弾ガラス用に開発してたみたいなんだけど」
「そうですか」
「もうお亡くなりになられたわ。半年ほど前。それからはもうガタガタですわ。頑張っていた人、みんな逃げちゃった」
 キラキラ控えめに輝いて、一見したところプラチナに見える。普通のプラスチックとも違う質感だ。
「今はあなたの会社にいるでしょう」
 !?……それは…もしかして。あのラボの?
「そういうことはお話にならない方が…」
「そうよね。でも聞いていただきたいわ。お金がかかって困るから売却したんじゃないの。特殊技術で海外の大きな施設で試験中で、その技師長の人脈でつながっていたようなものだったの。本当にあと少しで世に出るところだったのに」
 あれのことを言ってるの? いつかT不動産の二人が目を輝かせて語っていた……。こんな加工もできるの。
 色素を練りこんであるのかわからないが。あの時の陽気な会話と目の前にいる女性の悲しそうな表情が対照的だ。
「うちの会社ではダメだった。……本当にあなたがうらやましいです」
「……それは関連会社の技術部の話ではありませんか」
「でもおたくが引き受けたということは将来有望ってことでしょう?」
 目が合って何も言えなかった。そもそもこんなところで口に出せるわけもない。ごく一部しか情報を共有してないはずだ。
「うちではもうそういうことができないのよ。利益は出ていても中は空洞なの。何もないのよ」
「……よくわかりませんが、今更どうにかなるものでしょうか。あまりお気にされても」
 だからそもそも商社ってそういうものじゃないの…?
 みんな競争なのよ。
「そうよね。ただ、誰かに聞いてもらいたかったのよ」
 姿勢を正し大事そうに指輪をつまんでまわした。一瞬チカッと街の人工的な照明を拾った。
「お元気かしら」
 え?
 再び遠い目になった。その目の先は…おそらく。時間がしばし止まり初夏の生ぬるい空気が滞留していた。

「……ここでよろしいかしら。お役に立てなくてごめんなさい」
「こちらこそ。どうもありがとうございました」
 三津子はタクシーを拾うため駅側に向かった。
 マヤは元来た道を引き返していった。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

妖狐の嫁入り

山田あとり
恋愛
「――おまえを祓うなどできない。あきらめて、俺と生きてくれ」 稲荷神社の娘・遥香(はるか)は、妖狐の血をひくために狐憑きとさげすまれ、ひっそり生きてきた。 ある日、村八分となっている遥香を探して来たのは怨霊や魔物を祓う軍人・彰良(あきら)。 彼は陰陽師の名門・芳川家の男だった。 帝国陸軍で共に任務にあたることになった二人だったが、実は彰良にもある秘密が――。 自己評価は低いが芯に強さを秘める女が、理解者を得て才能を開花させる!   & 苦しみを抱え屈折した男が、真っ直ぐな優しさに触れ愛を知る! 明治中期風の横浜と帝都を駆ける、あやかし異能ロマンス譚です。 可愛い妖怪・豆腐小僧も戦うよ! ※この作品は、カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

まだまだこれからだ!

九重
恋愛
温泉が大好きなOLの暖(うらら)。今日も今日とて山奥の秘湯にひとり浸かっていたのだが……突如お湯が流れ出し、一緒に流されてしまった。 気づけば異世界で、なんと彼女は温泉を召喚した魔女の魔法に巻き込まれてしまったらしい。しかもそこは、異世界でも役立たずとされた病人ばかりの村だった。――――老いた関節痛の魔女と、腰を痛めた女騎士。アレルギーで喘息持ちの王子と認知症の竜に、うつ病のエルフなどなど―――― 一癖も二癖もある異世界の住人の中で、暖が頑張る物語。 同時連載開始の「勇者一行から追放されたので異世界で温泉旅館をはじめました!」と同じプロローグではじまる物語です。 二本同時にお楽しみいただけましたら嬉しいです! (*こちらのお話は「小説家になろう」さまサイトでも公開、完結済みです)

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

有木珠乃
恋愛
両親を亡くし、二人だけの姉妹になった一ノ瀬栞と琴美。 ある日、栞は轢き逃げ事故に遭い、姉の琴美が務める病院に入院することになる。 そこで初めて知る、琴美の婚約者の存在。 彼らの逢引きを確保するために利用される栞と外科医の岡。 「二人で自由にならないか?」を囁かれて……。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

処理中です...