会長にコーヒーを☕

シナモン

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1話 会長にコーヒーを

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 帰りに残高照会したら確かに振り込まれていた。
 ――マジ!? これだけでも派遣の時より多いじゃん?
 まず目を疑う貧乏性の私。が、結局下ろさないで家に帰る。て、まだ最初にもらったお金が残ってるし。明日の昼いらないんだったらまた浮いちゃうし?
 つくづくおいしい商売だ……。でも材料費はケチれない。それなりにお金かけないと会長に具合悪くなってもらっちゃ困るから。
「ん~。画像アップしようかな」
 寝る前にネットにつなぎ、ブログを見てみると、コメント1。開くと、新規の人からのだった。

『はじめまして。こんにちは。プシィといいます。お昼のメニューを探しててたどり着きました。画像とってもかわいいですね♪narsさんはどっかの社長さんなんでしょうか?専属ケータリングってなんかいいですね。実は私も時々カレシにお昼を差し入れしてるんですよ。kofiさんのメニュー参考にさせてもらいます♪』

 またまたおひるごはん仲間が。
 今回はあまり考え込まずこんな風に返してみる。

『はじめまして。コメントどうもありがとうございます。カレシさんに差し入れなんてとっても羨ましいです。よかったら色々教えてくださいね。私の方はお仕事中にお出しするのでどうしても手にとって食べて頂くものばかりに限定されてしまいます。参考になるかどうか。。。』

 この人もみなみんさん同様、カレシに出す料理ってことだから微妙に私とはニュアンス違うんだけどさ。
 『しあわせおひるごはん』ってタイトルまずかったかな?
 こんな寂しいブログをよく探し当てるなと感心しながらも、『カレシにお昼を差し入れ』という箇所で何となく和まされる私。
 そっかぁ。世の中にはほほえましいカップルって結構いるのねぇ。
 ってもまだ2組しか知らないけどさ……。




 次の日出社して秘書室に寄ると、『昨日の送っといたわよ』と社長秘書さんから言われ、会長に朝の挨拶した後初めて自分のメールボックスを開いた。
「うわー、すごいこの夜の埋まり方って」
 ずらずらと表にまとめてある会長のスケジュールを眺めること数分。見事なまでにアフターファイブは真っ黒だ。
「しかもこの店のリストってば」
 久兵衛はもとより、なだ万、サドレル、ロブション、トゥールダルジャン……などなど。グルメ特集? って首傾げるくらいの名店ぞろいだ。
 こんなお店で毎日のように食べてりゃそりゃ舌は肥えるわよねー。それでよく私の料理なんか食べてもらえるもんだ?……一番の疑問はそこなんだけども。
 まあ、お金がかかってるので私も頑張るしかない。
 にしてもすごいスケジュール。アフターファイブだけじゃなく、週末も結構埋まっている。

 ゴルフ、ゴルフ、ゴルフ……。

 この不況ですっかり下火になったかに思われた『接待ゴルフ』であるけれども。金持ち連中にはあんまり関係なかったらしい。相変わらずのご盛況ぶり? 寒いのにすごいな。
 会長、昼間閉じこもってばかりいて健康に悪いなーと思ってみたりするけど、このスケジュール見るとまんざらそうでもないのかもしれない。遠出は週末に集中してる。
 そして更に私は今週末に入っている日程に注目した。

「ん?」

 そこには『釣り』の文字が。

「釣り?――って会長釣りに行くの?」

 2日続けて『銚子』とある。つまり泊まりってことか。
 会長が釣り?
 ―――釣り。
 なんかイメージが。
 ……何となくしっくりこなくて、エスプレッソを持っていく際会長に聞いてみた。

「あ、あのう、昨日秘書の方から会長のスケジュール表頂いたんですが、今週土日の『釣り』って何ですか?」

ってまたストレートに。 『何ですか』って聞き方変だとわかってはいたけども。思ったとおり妙な顔して言われる。

「何って、そのままだが。釣りに行くんだよ。銚子にな」
「はあ。会長、釣りがご趣味だったんですか」
「いや、まさか。接待だ」
「―――接待!?」
 と、私はすっとんきょうな声をあげた。

 ――接待って!?
 『接待釣り』なんてあるの??
 マジ!?

 驚きを隠せない私。会長はやや不満げに顔をしかめつつ大真面目に続ける。
「そうだよ。副社長がひとりじゃアレだというからいつも付き合ってるんだ」
 えーー……。副社長って。昨日のあの人と!?
 釣り?
「つ、釣りって。釣れるんですか、そんなに」
「? そりゃまあ。一本釣りだとメバルか鯛かな。今週は沖合いだから……、先方はびん長を狙ってるようだがね。と言っても小さいやつだよ」
 ―――マジ!?
 びん長ってことは。マグロ釣っちゃうの?
 えーーー?
 私は生まれは田舎だが、目の前で大真面目に釣りの話をしている会長が不思議な人に見えてならなかった。
 そもそも『接待釣り』って何??? そんなの接待になるの??
「……何だ? 君は釣りに興味でもあるのか?」
 しかし逆に不思議そうに問われる。
「あ、い、えーと」
 ていうか、『接待ゴルフ』はたまに聞くけど『接待釣り』なんて初耳なんですけど!?
「マ、マグロって。えーーー? こんな所で釣れるんですか?」
 変な質問をしてしまう私。
「だから小物だよ。……好きなら持って帰ってやろうか? いつもは先方にあげてしまうんだが。副社長も船上で食べるだけ食べたらもういいって口でね。家に持って帰ると持て余すらしいし、秘書にやっても処理に困るし」
 えーー? そんなさも釣り人っぽく語らないで下さいよ。
 マジでこの人たちってマグロ釣っちゃうの!?
 チョーおかしいっ! 釣りバカ日誌かあんたらは!?
『クッ』
 笑いがこみ上げてきそうになる。
「そ、そりゃ拝めるものなら拝みたいですけど。でもどうしてそれが接待なんですか? それもわざわざ会長がいらっしゃるなんて」
「向うも社長クラスが来るんだ。それなりに付き合わなきゃならんだろう」
 ――プ。マジ!?
「さ、寒くないですか? もうすぐ12月ですよ?」
「フ。ゴルフだと伊豆で温泉つきだがね。少々早起きして船を出すその程度のことで100億の商談がまとまるんだから安いものさ」
 って、そんな問題!? おかしすぎる、おじさんの世界って!
 私は遂にこらえきれなくなって秘書室へと退散し、お腹を抱えた。いくら広い部屋だといっても大声で吹いちゃうと聞こえるから必死に口を押さえて。
 もーー……。マジでおかしい、あの人。
 『接待釣り』ってありなの!?
 ――あ、ひょっとして昨日副社長がいらしたのって釣りの打ち合わせだったりとか!? 
 ナニソレ!! あんな大真面目な顔しておかしすぎ!
 何で会長ってばそんなに私の笑いのつぼ押さえてるの~~……?


 結局名前呼ばれるまでヒーヒーうけまくっていた私。ドア開いて会長に顔合わせるのが大変だった。
「市川くん。3時間ほど出てくるから」
 会長は普段と寸分たがわぬ能面顔で。既にお昼前になってて。
「あ、はい。お昼は不要でよろしいですか。会長」
「……いや。戻ってから食べるよ。何か用意しておいてくれ」
 意外な返事が返ってきた。
「あ、あの。立食パーティじゃないんですか?」
 またしても思いつきで言ってしまう私。昼時のパーティってそれっぽいし?
「立食は好かん」
 キッと会長の目が光る。
 ――は?
「あ、そ、そうですか。すみません、私。知らなくって」
 知らないよ、そんなの。立食嫌いな人っているの? っていうか会長、アメリカ暮らししてたって言ってませんでしたっけ? それで立食パーティ嫌いって? はあ? って感じだ。
「いや。昼時にその手の集まりに行くことはめったにないんだがね。知り合いなんだよ。仕方ない」
「は、はあ。えーと、それじゃ何か軽いものでもご用意しておきます」
「ん」
 というわけで。
 昨日の社長秘書さんの予想は外れてしまい、会長が行ってしまった後私は近所へ買出しに走った。
 庶民なら喜んで行くだろう昼間のパーティ。
 一流ホテルのパーティ料理食べない人っているんだ?
 もー、わ・が・ま・ま! 相当なわがままだよ、会長って。
『何か用意しておいてくれ』って。
 とてもじゃないが私にはあーいう所に出てくる料理レベルの一品なんて作れない。
 でも。
 何故かプレッシャー感じなくって……。
 普通に食品売り場ハシゴして、さっさと部屋に戻る。
 メニューはもう思いっきり立食にありがちな『小籠包』にした。
 毎回思いつきなので大した根拠もなく。ホテルのメニューみたいに立派にできないけど、それでも一応皮から手作りして、蟹のほぐし身と豚ミンチとスープの煮こごりを詰めて。3時間あれば楽勝の、またまた簡単メニューだ。
 時間が余ってしまったので暇つぶしに(コラ)ネットつないでブログを覗く。みなみんさんの書き込みを読み返していてぼんやり思った。

 ――セレブなくせにわざわざ出先から帰ってきてひるごはん食べようとするんだ?

 会長にしてもみなみんさんの彼氏にしても何でそうなの? この人たちってマジちっちゃい子みたいじゃない?
 ――男ってばねえ。よくわかんない生き物だって時々思う。でも今までの付き合いでそういう人はいなかったけどな……。
 ある年齢過ぎるとそうなるのだろうか。おじさんの妙な共通点かもしれない。
 会長はきっちり3時間とちょっとして帰ってきた。大きな紙袋のお土産つきで。
「アメリカにいた頃の友人が業績不振だった半導体のメーカーを買収してね。新しく家電の会社を立ち上げたんだよ。これは記念品らしいからよければ君が使いなさい」
 と言って手渡されたモノ。
「は、はい。……え、これ」
 中にはダンボールの箱が。取り出すと、中身は可愛らしい炊飯器だった。
 ……いや、炊飯器もどきというか。白くてコロンとしてて、私が持ってる炊飯器とはちょっとデザインが異なる感じのもの。
 さっと箱の説明書きみると色んな使い方ができるようなことが書いてある。
「これって」
 かわいーー……。
 特に料理好きじゃなくてもそう言ってしまいそうなキュートな外見だ。
  『料理好きさんもそうでない人も楽チンクッキング♪』って。ふーん。
「いらなければ秘書室に下ろして。君の好きにしなさい」
「は、はあ。じゃ使わせていただきます」
 例によってエラソーな命令口調にシタテに出る私。
 ――プ。
 お土産持って帰ってくれて。可愛いところもあるじゃん?
 会長はホントに食べて来なかったみたいなので(信じられないよね? コンラッドよ?)、私は用意していた小籠包とウーロン茶をお出しした。
 具が熱すぎて舌が火傷しちゃわないようちょっと冷まし気味にして。おじさんへの見えない心配りだ。
 会長はいつも通りPC見ながらつまんで。私の更新記録はまた伸びた。
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