会長にコーヒーを☕

シナモン

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3話 はじめての課題

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『いよいよ出張ですかぁ~。翼の近くに座ると酔いにくいって聞きますけどね』
『飛行機酔いの人に飛行機出張だなんて酷ですねー。新幹線でいけないんですか?』
 うんうん、そうだよね。飛行機ダメーな人間が何故わざわざ飛行機なんぞに乗らなきゃならんのだ。
 ……アメリカ行きの前座だ。仕方ない。はあ。
 自信ないなあ。たかだか1時間のフライトに耐えられない私が10時間以上の拘束に耐えられると思うの?
 もーー、会長、どうにかしろ!
 と、わがブログを前にブツブツ
 いよいよ明日に迫った初出張。
 高広くんのことよりもアメリカ行きよりもまず突破しなきゃならない最初の一歩。
 あーあ、憂鬱。
『私も~乗り物全般弱かったですけど、新幹線で旅行するときーー彼氏に手を握ってもらってたらいつの間にか乗り物酔いなおってました。それって今の旦那なんですけどね』
『へー。確かに手を握ると安心しますよね』
『今でもデートするときはお手手つないでますよ♪』
『らぶらぶですね!』
『そういえば私も手をつないでるなあ。うちの場合は子供より旦那の方が行方不明になる確率が高いので迷子防止に握っていたらだんだん習慣になったw』
『彼氏がぎゅってしてくる~。指絡めるヤツでしょ』
『恋人つなぎね。最近多いよね。腕組んでるだけだと、するっとどっかいっちゃうから、うちのヤツ。ちゃんと握っておかないと(笑)』
 あれって恋人つなぎって言うんだ。
 小さなため息を漏らす私。
 いつものことだが、うちのブログは食べ物系であるにもかかわらず、何故か各客人のラブ自慢合戦になる。本人たちはただの報告程度にしか思ってないのだろうけど。コメント欄がチャット会場にへんしーーん。独身既婚問わずらぶらぶな状態の女の子ばかり集まる。
 ブログ主の私がフリーなのに……。この状態って? 女の子が長時間カフェでだべってるみたいに話が続く続く……。
 ゆるカフェというタイトルがそうさせるのだろうか。
 ゆる過ぎるわ……。
『確かに多いですね~。日本もやっとグローバルスタンダードに近づいてきたのかな』
『手のひら合わせると案外相性わかるしね。冷たい手とかあったかい手とかじめっとしてたり乾いていたり人によって違うし』
『キスよりもまず手よね』
『こないだ映画館で握ってたらいつの間にか眠ってたな~』
 いいなぁ。
 私も……。
 また復活してくれないかなあ。恋人つなぎ……。
 全然そんな気配なくなっちゃったもん。いい感じだったのに……。
 はっ。
 何思い出してるんだ、私ったら!
 もやっと感触がよみがえって、ふけってしまいそうになった。
 ああー、ダメダメ、不謹慎、不謹慎。
 みなさんのは旦那さん及び彼氏さん。
 私は単なる部下。
 でもね……。
 いきなり意味不明に抱きしめられるより、手握ってくれる方がいいよね。安心するから。赤ちゃんが抱っこされて安心するのと同じ原理なのかもしれないわ。
 おっきくてあったかい手……。何よりも落ち着くの。
 飛行機酔いだなんて打ち明けなきゃよかったかな。
 会長の隣で手をつないでもらってればよかったりして……?
 どうせファーストクラスとかだろうし。
 いらないこと言わなきゃよかった……。
 そうすればこんな出張なんて行かなくて済んだのかも。
 ああ、涙の出張。用意だけは着々と進む……。
 先日、例の病院にも行ってきた。で、もらってきた安定剤と軽い睡眠導入剤。『とにかくね、たかが1時間程度なんだから、うんうんうなってもすぐすぐ。きれいなお姉さんに介抱してもらえてラッキーくらいに思わなきゃ。切羽詰っちゃダメ』おじいちゃん先生は気楽に言ってくれるし。
『他に症状出ることある? 例えば閉所恐怖症とか、高所恐怖症とか』
『いいえ。全然平気です』
『ジェットコースターは? 乗れる?』
『はい。それも大丈夫』
『そうねえ。飛行機に関してだけ神経が緊張するんだねえ。緊張しないで、リラックス、リラックス。これ見てみて。神経ってのは大雑把に分けて2種類あるの。交感神経と副交感神経。あれしなきゃこれしなきゃって常に緊張してるのが交感神経。それを和らげてやるのが副交感神経。この絵あなたにあげるから、イメージしてみなさい。ピリピリとがった神経をやさしく包み込む感じをね。あなた年頃の女の子なんだから得意でしょ、イメージング』
 と、更に理科の実験室に必ず一体はある人体模型をそのまま2次元に写したような解剖図をくれたのだ。『もうグミも終わっちゃって何もあげるもんないのよ』などと付け加えて。
 大丈夫なの、あの医者……。
 こんなの貰ってどうイメージしろと……?
 ただグロいだけなんですけど。


「あの、それでは明日行ってまいります」 
 いよいよ定時が近づいて。一応上司様に挨拶を済ませておこうと彼の前に立った。
「土曜は宿に入るだけだから夕方でいいよ。日曜に施設を見て回って、月曜日は宿にとどまるなりキミの好きにしなさい。水曜までゆっくりしておいで。料理はまあエビ尽くしになるだろうがね」と送り出しの言葉を賜る。「広島に寄るんだな」
「はあ」
 室長に言って、羽田ー宇部便を広島便に変更してもらった。広島住みの友達に打診すると快くドライバー役を引き受けてくれたのだ。例の道後土産の子だ。彼氏の車で迎えに来るという。いいの? いいのだ、どーせ、早く紹介したいのだろうから! まったくどいつもこいつもらぶらぶでよいこと! 帰りは未定。ていうか、本当に宇部と松江の距離を知っているのか、この人。とても気軽に迎えに来て~なんていえない距離なのだが。しかも平日。とりあえず長距離バスででも実家に戻るしかないか。
「服装は……普段着でいいんでしょうか」
「ああ、キミがいつも着てるようなものでいいよ」
 向こうの人と挨拶するみたいだけど、それってスーツじゃなくてもいいのかな。スーツったって、リクルートスーツしかないけど。あれじゃいかにも新入社員だ。黒いジャケットに白シャツ、シガレットパンツ、こんなところか。ユニクロのがあったはずだ。あれでいいかなあ? こういうとき重くのしかかるのが、会長室専任社員の肩書きだ……。
「……気になるのなら、買ってあげようか?」
 心のうちを見透かされたみたいにニヤニヤして言われて、ついかっとなってしまった。
「け、結構ですっ」
 ちくしょー。「失礼しますっ」
 ちょっとちょっと、からかわれてない? ここんとこ。
 クヤシー。絶対飛行機克服してやるっ。
 いや。
 逆に、飛行機乗れないままのほうがよかったりして……?
 この人の思い通りにはなりたくないっ。

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