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第三章

第六話 出会い頭に生存者

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「なぁ、清水のこと、どう考えてる?」
何か怪しいものが無いか、キッチンを調べていると急に務くんがトマトを仕舞いながら誰にともなく聞いてきた。
「どうって…変なこと言うやつだとは思うよ。それがどうかしたのか?」
「俺たちはイカれた未来人の『犯罪者』を探してる。怪しいと言えなくはないんじゃないか?」
「でもベクトルが違う感じがしない?変わってるなとは思うけど、運営側…未来人のイカれ方は一線を画きてるっていうか…どんな風にって言われたら難しいけど。」
缶詰は沢山あるのにカップ麺が無いことに少しショックを受けながらそう務くんに返す。務くんはトマトの袋を棚に入れ終わると肉類を調べている満くんのところへ歩いていきそれを手伝いながら曖昧に頷いた。
「そうだな。第一、もっと有力な『犯罪者』候補がいる…雪平、こっちも終わりだ。アンノウンの言う通り、三日分はあるな。パッと見だが仕掛けもされてない。」
「歌詞的にも次は食べ物系じゃ無さそうだしな。…広間も食堂もキッチンも終わったから個室行くか。のればっかりはプライベートとか言ってる場合じゃねえ。」
キッチンを出て食堂から個室に通じる広間に行くと、個室から出てきたらしい瑞希ちゃんに出くわす。なんだか不満げな顔をしていた。
「あなたたち、あたくしの毛糸を知りません?少し席を立った間に、無くなってしまいましたの。」
毛糸って…さっき持ってたグレーの?
「ええ。せっかく編んでいたのにこれじゃ暇も潰せないじゃない。」
「命狙われてんのに暇つぶしとは大したもんだな。」
「私が死ぬわけないでしょう?常に正しいことをしているのだから。神は間違った人にのみ罰を与えるのよ。」
瑞希ちゃんの発言に僕たちは思わず顔を見合わせた。こう言っちゃあれだけど、こういう人とはちょっと話しづらい。皮肉が通じなかったからか、満くんなんか見るからに嫌そうな顔をしている。務くんが僕たちの心の声を代弁するように
「…今回の件に関してはもっと現実に則した根拠を持った方がいいと思うぞ。死なない確信があるとしたら、それは自分が『犯罪者』であるときだけだ。」
と冷たく言うと、瑞希ちゃんは
「まぁ!」
とだけ言って食堂へ行った。毛糸を探すんだろうか。多分セリフが続いてたら「なんてこというのかしら。あなたにも罰が下るわよ。」って言ったと思う。宗教はいいものだと思うし信仰は自由だけど、ああまでいくと考えものだ。入れ違うように外から桜子ちゃんが入ってきた。深作くんの姿はなく、一人だ。
「あ、三人とも、お疲れ様。」
桜子ちゃんはなんだか怯えたような顔をしていた。深作くんと一緒に居たんじゃなかったっけ?
「そうなんだけど…清水くん、完全に諦めちゃってるっていうのかな、もう移動する気もないみたいで。終いにボクたちは死ぬ運命なんだって言い出したの。これ以上一緒にいると私までああなりそう。」
正直一緒にいてもらったほうが助かるけど、桜子ちゃんの言うことももっともだと思った。マイナス思考の人といると、自分までマイナス思考になってくるっていうか。ただでさえこんなゲームに参加させられてるのにその上暗い呟きを聞き続けてたらどんなやつだって鬱になりそうだ。
「色々あったみたいだからこれから幸せになってくれたらいいなとは思ってる。…少し中で休んだらまた外に行くね。みんなも気をつけて。」
廊下に移動すると、今度は恵美ちゃんに遭遇した。狭い島だからかもしれないけど、こうもポンポン人に出くわすものなんだろうか。まぁ生きてるってことだしいいことだとは思うけどね。
「探検行ってた三人組じゃん!どう?なんか見つかったりした?」
これといったのはあんまり。でも外は比較的安全そうだったよ。見晴らしがいいからそう簡単にはいかないんじゃないかな。
「おっけ~。じゃあまた後で。」
ポニーテールを揺らして去るその背中に務くんが鋭く声を飛ばす。
「お前は何してたんだ?ただ個室に引きこもってただけか?」
足を止めた恵美ちゃんは振り返らずに淡々と言った。
「そうだよ。だって個室が一番安全だもん。今回のことについて改めて考えてたの。」
「じゃあなんで出てきた。」
「安全って言っても個室じゃ手がかり掴めないし。ちょっと外で調査しようかと思って。」
「調査って何を。」
「そこまでは教えらんないかな。つとむんたちのうちの誰かが『犯罪者』かもしれないし。」
「もういいだろ務。どうせ証拠も何も見つかってないんだ。時間無いの忘れたか?」
満くんののんびりした声に務くんは今やるべきことを思い出したらしい。追及をやめて最初の個室の方に歩き出した。恵美ちゃんも外へと歩き出していく。恵美ちゃんは他の人に比べると何を考えてるのかよくわからないな。調査っていっても僕たちがしてるわけだし。
「ねぇ、瑞希ちゃんがグレーの毛糸を持ってたみたいに、各自の部屋にしかないものがあると思うんだ。」
そして一番端の僕の部屋から順に調べ始めた。僕の部屋は特に変化がなくそのまま。内側から鍵を閉められるものの、外側からは鍵がかけられない。浴室のカーテンは水色。満くんの部屋にはそこまで変わったものはなかった。メモ帳やペン、それにサイズのあった洋服。瑞希ちゃんを見た時にもしかしたらと思ったけど、服はサイズだけでなく好みにも合わせたものが準備されているらしい。浴室のカーテンは黄色。素材は同じオイルシルク_レインコートに使われてるようなものだけど、部屋ごとに違うみたいだ。務くんの部屋にはなんと注射器があった。様々な医療器具が入ったバッグが置かれていたのだ。全ての道具の使い方は知らないと言っていたが、一応注射器の使い方は知識として知っているらしい。使ったことは一度も無いらしいけど。浴室のカーテンは青色。多分この各個室のアイテム(?)はルールの1つに記載されていた『元の物語』に関係するんだろうということで話がまとまり、とりあえず個室を後にする。これで全部かと思ったけれど、満くんが廊下の端に何かを見つけた。
「階段がある。屋根裏なんかに繋がってるんじゃねーか?何かを隠すにはピッタリだ。」
その時、階段の奥から何やら音が聞こえた。スッ…スッ…という小さな足音。務くんが階段を登ろうとしていた満くんの腕を掴んだ。不思議そうな満くんに僕は人差し指を立て自分の口に近づける。
「静かに。」
五秒後、また同じ音が聞こえた。誰かが屋根裏を、こっそりと足音を忍ばせて歩いている。満くんがひそひそ声で
「行ってみよう。」
と言った。聞こえてくる音と同じように足音を忍ばせ、細い階段を登っていく。小さい扉が屋根裏の近くにあった。先頭にいた満くんは全員が登って来たのを確認し、ドアをパッと開いた。すぐに後を追いかけた僕たちが見たのは…衣類を両手に抱えたヒカルくんだった。

えっと…どうしてここに?
「荷物を下に移そうと思いまして。皆さん個室で目覚めたと思うんですけど、私とヒカリはここで目を覚ましたんです。下に空き部屋があったので、そこに移動しようかなと。ここは遠くて不便ですから。また少ししたら戻ってきますね。」
扉が閉じると、満くんが辺りを見渡しながら言った。
「えらく静かに歩くやつだな。怪しいっつー務の言い分もわかるよ。」
部屋、戻る前に調べちゃおっか。
「ああ。もう怪しい場所はここしかない。確実に証拠を掴んでやる。」
五分後、僕たちは暗い屋根裏で顔を見合わせていた。全員浮かない顔をしている。蜘蛛の巣と埃を幾つ被っても、証拠はひとつも見つからなかった。
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