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第四章

真夜中の推理げぇむ

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あの後も話し合いは続いたが、今一つ確証が手に入らないまま夜が更けた。『犯罪者』役の未来人は演技が上手いどころの話じゃないな。気候もなにも無さそうなこの場所にも嵐が来て、闇夜の静けさを荒らしている。風呂上がりに廊下でまた少し満くんと務くんと話した後、あわよくば断罪の銃を『犯罪者』に撃てないかと思い、僕は誰も居ない広間で窓枠に腰かけていた。少しして、廊下からの扉が開き桜子ちゃんが近づいてくる。僕の考えでは桜子ちゃんは『犯罪者』ではないけれど、一応引き金に指を添えて出向かえる。桜子ちゃんはいつものように微笑んでいて、手にはなにも持っていないようだった。
「ねえ雪平くん、『犯罪者』は誰だと思う?」
だしぬけかつ核心に迫る質問。もしかしたら既に桜子ちゃんも目星をつけ始めていて、僕が同じ考えなのか確認しにきたのかもしれない。・・・全く見当がついてなくて僕を頼りに来たって可能性も、なくはないけど。こんな危ない状況で広間にくるくらいだ。きっとなにか考えがあるんだろう。
「僕たち二人ではないと思ってるよ。僕が『犯罪者』じゃないことは僕が一番よく分かってるし、桜子ちゃんは冷静で頭のいい女の子だもん。イカれた『犯罪者』なわけない。」
死んだらどうせおしまいだし、ちょっとカッコつけたことを言ってみる。深夜と呼ぶにはまだ早いけれど、この状況はそういう気分にさせられるのだ。桜子ちゃんは少し笑って、(苦笑いに見えたけど)
「嬉しい、ありがとう。」
と言った。僕の深夜テンションはまだ収まらなくて、さらに付け足す。
「桜子ちゃん、お返しに褒めてくれたりする?疑われてるんだとしたら、迂闊に誰が怪しいかも話せないしさ。」
桜子ちゃんは少し考えるそぶりを見せ、苦笑いじゃない笑みで言った。
「雪平君は優しいけど、割とあっさりしてるっていうか・・・倫理観よりゲームに勝つことを優先してる感じがするの。もし雪平君が『犯罪者』だったら、詩の通りに殺したりなんて回りくどいことはせずに、もっと淡々と殺してくんじゃないかなって思うよ。」
それって褒めてる・・・よね?疑問は持ったけれどそれでも自分がもし『犯罪者』だったら確かにそんなことをするような気がした。桜子ちゃんは思ったより周りの事をよく見ている。疑われていないことが分かったので、最初に聞かれた質問に答えるようにして僕の考えを伝えていく。
「『犯罪者』だけどね、ヒカル君か・・・或いは恵美ちゃんだと思ってる。」
僕の言葉に桜子ちゃんは驚いたみたいだった。
「本当に?どうして?」
「ヒカルくんは今日のアリバイが一番少ないってのが大きな理由かな。恵美ちゃんはなんていうか・・・深作くんとは違う理由で、本気でゲームに取り組んでいないように見えた。もし本当にゲームに勝つ気なら、桜子ちゃんと恵美ちゃんが話していることを聞こうとしていても、ちゃんと僕たちが外に出ないか見張っていたと思う。確定シロを出さないようにしてるんじゃないかな。」
そんなことを気にもできなくなるようなことを二人が話してたのならまた変わるけど、だとしたら昼食のときに共有してないのはおかしい。
「そっか・・・そういうこともあるかもね。」
「桜子ちゃんは誰が怪しいと思ってる?」
きいてみると躊躇う様子もなく一人の名前が出された。
「立花さん。」
意外な名前だった。僕はかなり『被害者』寄りだと思っていたからなおさらだ。
「理由を聞いても?」
「三回の殺人のうち、二回は毒殺でしょ。そういうのに一番詳しそうだから。勿論運営側の人間は毒の使い方を知ってるだろうけど、一番違和感なく実行できるのは立花さんだと思うし。」
言ってることはもっともだ。でもそれだけじゃ解決できない問題がある。
「でも深作くんの場合はどう?シャワー浴びてた時間にやるのは、やっぱり無理なんじゃないかな。もし務くんがやったのなら、シャワー浴びて鈍器持って大急ぎで恵美ちゃんに見つからず外に出て、深作くんのところまで行った後すぐに戻って僕たちに合流しなきゃならないんだから。それだけやって息も切らしてないなんて、そんなことできる?」
桜子ちゃんは首をふって
「そのときじゃないと思う。もっとあとにもチャンスはあった。」
と言った。
「もっと後?」
「昼ごはんの時間に、清水くんを呼びにいったでしょ?あの時。」
・・・そんな大胆なことするかな?
「危ないことはなかったんじゃないかな。もう清水くん以外の全員が食堂にいたから見つかるはずがないもん。」
僕は務くんじゃないと思っているけれど、桜子ちゃんの意見はいいところをついていた。
「あるいはこんなのはどう?もし_」
しばらく推理をしてから、僕たちも個室に戻った。就寝前、いくつか質問をするためアンノウンを呼び出す。個室にも来てくれるか気になってはいたけれど、いつものように天井から顔を出してくれた。
「アンノウン、質問だ。『犯罪者』は歌の通りに殺さなくちゃならないのか?」
アンノウンはむむっとした顔になり、それに関しては答えられないと口元でバッテンをつくった。
「元の物語に関する情報だからね♪教えるとみんなから記憶を消してる意味がなくなっちゃう☆」
イエスやノーでは答えてもらえなかったが、これに関してはいずれ分かることだ。大事なのはもう一つの方。僕は断罪の銃をアンノウンに向け、二つ目の質問をした。
「アンノウン、もしこの断罪の銃で_______________?」
返答に満足した僕は、銃を机に置きアンノウンに帰ってもらい、眠りについた。これはなかなかの長期戦になるかもしれない。
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