第三王子のキス係

林優子

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 突然だが、この私、エリザベス・ミロードが生きている世界は魔法文明が発達した世界だ。
 その中でも私は魔法大国で知られるエーリア王国に住んでいる。
 十六歳で公務員だ。
 役職は、第三王子カインの運命の恋人係である。

 このアホな役職は、王位継承権五番目までの高位の王族に付けられている。
 何をするかというと、担当の王族がピンチの時にチューする役だ。

 この魔法世界では、運命の恋人による真実のキスは、最強の力を誇る魔法なんである。
 例えば、呪われた時。
 例えば、死にそうな病気の時。
 例えば、死にそうな怪我をした時。
 そんな時に、キスすれば治る。
 万一死んでもそこに真実の愛があるなら大丈夫、生き返る。

 つまり、運命の恋人とは、万能の薬に匹敵する。
 昔々の大魔法使いはここに着目した。
 運命の恋人さえいれば、寿命以外のあらゆる状態異常に対応出来るのではないかと――。
 そこで、王国では王位継承権五番目までの王族が生まれると、国中から相性の良い異性が探されるのだ。
 異性が見つからない時は同性を宛がわれるらしいが、相性がいいくらいの相手は広い王国、探せば大体見つかるので、そこまで気まずいペアリングが誕生したことはないらしい。
 私は二歳で国中で最もカイン王子と相性の良い子供として、彼の『運命の恋人』役に選ばれた。
 ポイントはここだ。
 運命の恋人はトータルスコアSランク。
 これは神が定めしマジもんの運命の恋人だ。
 神が定めしっていうくらいだが、どれだけ遠く離れて生まれようと、どれだけ身分差があろうと、絶対に結ばれる運命にある。
 二人を引き裂こうとすると神の罰を受けるとわかりきっているので周りも交際をあまり反対しない。
 だが、ランクSの相性の相手はそう滅多にいない。
 運命の恋人がいるのは、一万人に一人くらいではないかと推計されている。
 これは王族も同じだ。

 私とカイン王子の相性は、トータルスコアAAランクだった。
 これはかなり相性が良いが、運命の恋人ではない。
 運命の恋人はあらかじめ神に定められているもの、そして後天的に試練を乗り越えた場合に発生する、と言われている。

 我が国の優秀な魔法使い達は、この相性を高める付加能力エンチャントを開発した。
 付加能力エンチャント付きアクセサリーを何重にも重ね合わせ、一時的に相性のトータルスコアをSランクに上昇させる。そこで高度な固定化の魔法儀式をすると、二人の間に絆が生まれ、一時的に運命の恋人となる。
 これが、運命の恋人役だ。

 この一時的にというのが、誰にとっても都合が良い。
 王族なんだから、いずれはしかるべきご身分の方や、政略結婚の相手と結婚せにゃならんのだ。
 本当の運命の恋人なら添い遂げねばならないが、運命の恋人であって、本物ではない。
 エンチャントを外し、魔法契約を解除すれば単なる相性の良い異性に戻る。

 その然るべきご身分の方や政略結婚の相手が相性が良ければ、その方が運命の恋人役を引き継ぐことになる。
 もし丁度良い相性の相手がいなければ、継続になるが、そんな訳ありの男女を配偶者の側に置きたい結婚相手はいるだろうか、いや、いない。
 ということで、大抵は引き離される。
 男性も女性も王都から遠く離れた辺境地に飛ばされるのが通例だが、運命の恋人役は男女問わず、王族の側近として教育されているので、それなりの教養なんぞが身についている。
 そのため地方でも冷遇はされず、それなりの地位が約束され、それなりの結婚相手も見繕われる。
 まあまあ幸せに暮らすそうだ。


 運命の恋人役は普通ならあまり危険な目には遭わない。何故なら王子様も王女様も大体お城の最奥で十重二十重に守られて怪我もしない。
 暗殺も……されるかも知れないが、その前に大抵優秀な騎士や女官が付いている。
 その目をかいくぐり、王族方が生命の危機に瀕するというのは、ホントーにホントーに稀である。
 普通なら念のためのセイフティーの一つとして存在するはずのこの私、だがしかし、担当の第三王子カイン様は、変な奴だった。
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