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2.その男は
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猫が目を覚ます数時間前にさかのぼる。
王都の南東方向にイスキアという街がある。イスキアから三キロ南に向かうと世にも珍しい光る湖があり、その光る水を飲むとどんな病も治せると言われている。
しかし、この湖を求めて向かった人は誰一人と帰ってくることはなく、眉唾物の迷信とされていた。
その迷信につられてまた一人、イスキアの街にやってきた青年がいた。
青年の名前はルーカスといい、耳にかかる長さのダークブラウンの髪の毛は癖が強く、たれ目がちな目元にはスクエアの眼鏡がかけられている。どことなく知的な印象を持たせる男だった。
ルーカスがイスキアに到着したのは日が傾きつつある時間帯であった。街では食堂や酒場の客寄せが始まり、昼頃とは違った賑わいを見せていた。
「これは早めに宿を探したほうがよさそうだな……」
客寄せに捕まりたくなかったルーカスは、宿で食べるものを見繕いながら空いている宿を探すことにした。
二件目の宿を満室で断られてからは宿が立ち並ぶ区画を外れ、人通りの少ない場所にひっそりと建つ宿屋を見つけた。そこに望みをかけようと入り口に近づいたとき、何かが目の端でもぞりと動いた。
動いた何かに目を留めると、土や葉っぱをふんだんに巻き込み、残飯を絡ませたモップの塊であった。
風のせいで動いたように感じたのかと考えると、今度はモップの塊だと思っていた物から、か細い鳴き声が聞こえる。
「……まさか生き物なのか?」
生き物だと気づいてからルーカスの行動は早かった。
服の袖をまくり、その生き物を抱き上げる。生ごみの臭いが鼻についたが、それよりも冷え固まった毛の奥からうっすらと体温と心臓の鼓動が感じ取れたことに安心した。
そのまま宿屋に駆け込んだあと、宿泊費に色を付けて支払い、その生き物の治療を申し出た。宿屋の主人には多少渋られたが、生き物の状態とルーカスのあまりの剣幕により、宿に連れ込むことを承諾してもらえた。
部屋に備え付けの風呂場に連れていき、ぬるま湯で汚れやごみを流していると猫のシルエットが出てきた。
――猫だったのか……いったいどんな生活をしてたらこんな汚れるんだ?
猫の体を石鹸で二度、三度と洗っていると、マーブルのようだった毛の色が真っ白になっていき、体に真新しい傷ができていたことに気が付いた。
「どれだけ汚れを溜め込んでいたんだ……それに、この状態でよく生きてたな」
誰に聞かせるでもなく独り言つ。手慣れた様子で傷に触らないように手早く洗い流し、タオルで水分を拭いとった。
――骨は折れてなさそうだが、傷が化膿するかもしれないな。手持ちの可能止めの薬草を貼って様子をみるか。
タオルで猫を包んでから部屋に戻り、宿のベッドにそっと下ろした。
ルーカスはテーブルへ近づくと自身の鞄から数種類の薬草を取り出す。猫に使っても問題のない薬草を選別し、揉みこんでいくとほのかに薬草から透明な粘り気のある液体が出てきた。
ルーカスは猫に近づいていき、丁寧にその液体を傷口に塗布していく。
――これでひとまずは大丈夫だろう。それにしても、しっかり洗ったら随分と綺麗な白猫じゃないか。起きたら何か食べやすそうな物でも与えてみようか。果物とか買っておけばよかったな…………。
ルーカスは猫を乗せたベッドに背中を預けると、白猫の治療を終えた安堵で旅路の疲れを思い出し、意識がゆるゆると夢の中に誘われたのだった。
王都の南東方向にイスキアという街がある。イスキアから三キロ南に向かうと世にも珍しい光る湖があり、その光る水を飲むとどんな病も治せると言われている。
しかし、この湖を求めて向かった人は誰一人と帰ってくることはなく、眉唾物の迷信とされていた。
その迷信につられてまた一人、イスキアの街にやってきた青年がいた。
青年の名前はルーカスといい、耳にかかる長さのダークブラウンの髪の毛は癖が強く、たれ目がちな目元にはスクエアの眼鏡がかけられている。どことなく知的な印象を持たせる男だった。
ルーカスがイスキアに到着したのは日が傾きつつある時間帯であった。街では食堂や酒場の客寄せが始まり、昼頃とは違った賑わいを見せていた。
「これは早めに宿を探したほうがよさそうだな……」
客寄せに捕まりたくなかったルーカスは、宿で食べるものを見繕いながら空いている宿を探すことにした。
二件目の宿を満室で断られてからは宿が立ち並ぶ区画を外れ、人通りの少ない場所にひっそりと建つ宿屋を見つけた。そこに望みをかけようと入り口に近づいたとき、何かが目の端でもぞりと動いた。
動いた何かに目を留めると、土や葉っぱをふんだんに巻き込み、残飯を絡ませたモップの塊であった。
風のせいで動いたように感じたのかと考えると、今度はモップの塊だと思っていた物から、か細い鳴き声が聞こえる。
「……まさか生き物なのか?」
生き物だと気づいてからルーカスの行動は早かった。
服の袖をまくり、その生き物を抱き上げる。生ごみの臭いが鼻についたが、それよりも冷え固まった毛の奥からうっすらと体温と心臓の鼓動が感じ取れたことに安心した。
そのまま宿屋に駆け込んだあと、宿泊費に色を付けて支払い、その生き物の治療を申し出た。宿屋の主人には多少渋られたが、生き物の状態とルーカスのあまりの剣幕により、宿に連れ込むことを承諾してもらえた。
部屋に備え付けの風呂場に連れていき、ぬるま湯で汚れやごみを流していると猫のシルエットが出てきた。
――猫だったのか……いったいどんな生活をしてたらこんな汚れるんだ?
猫の体を石鹸で二度、三度と洗っていると、マーブルのようだった毛の色が真っ白になっていき、体に真新しい傷ができていたことに気が付いた。
「どれだけ汚れを溜め込んでいたんだ……それに、この状態でよく生きてたな」
誰に聞かせるでもなく独り言つ。手慣れた様子で傷に触らないように手早く洗い流し、タオルで水分を拭いとった。
――骨は折れてなさそうだが、傷が化膿するかもしれないな。手持ちの可能止めの薬草を貼って様子をみるか。
タオルで猫を包んでから部屋に戻り、宿のベッドにそっと下ろした。
ルーカスはテーブルへ近づくと自身の鞄から数種類の薬草を取り出す。猫に使っても問題のない薬草を選別し、揉みこんでいくとほのかに薬草から透明な粘り気のある液体が出てきた。
ルーカスは猫に近づいていき、丁寧にその液体を傷口に塗布していく。
――これでひとまずは大丈夫だろう。それにしても、しっかり洗ったら随分と綺麗な白猫じゃないか。起きたら何か食べやすそうな物でも与えてみようか。果物とか買っておけばよかったな…………。
ルーカスは猫を乗せたベッドに背中を預けると、白猫の治療を終えた安堵で旅路の疲れを思い出し、意識がゆるゆると夢の中に誘われたのだった。
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