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【第一章】
第十六話 古代遺跡ウィルベル探索初日 ~後編~
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遺跡内部に侵入し、俺達は不思議そうに自分の体と周囲を見渡した。
周りの景色以外は、何も変わりがない。
「石造りの迷宮みたいな感じだな……色は変な黄色だけど。ご丁寧に階層まで書いてあるのか」
入り口から伸びる通路脇の壁には、《地下一階》と表示されている。
「……何だか目まぐるしくて、頭が付いていかないのです~」
不安そうに引っ付いたチロルがそんなことをいうが、リュカはお構いなしで腕を振り回す。
「ね、早く先進もーよ! おいら早く宝探ししたい!」
「あれ、リュカ、皆も……それ、なに?」
そこで何かに気づいたライラが、リュカの右肩の辺りを指さした。
「わぅっ!? なんだこれ……水晶玉かな?」
そこには、中央で仕切りがされ、赤と青の液体が入った水晶球が宙に浮かんでいる。俺も自分の右肩にそれを確認し触れようとしたが、手は宙を素通りするばかりだ。
「あは? あっはは、見てみて、付いて来る~きゃははは!」
身体を右、左と傾けた後、激しく走り回るリュカにそれはぴったりと付いて来て、動きに合わせてくるくると回った。一体何なのか見当もつかず、俺達は首を捻る。
「皆、特に体の調子が悪くなったりはしてないな?」
「ええ。これもあの精霊とかいうのの仕業なのかしら? 何だか、落ち着かないわ……」
「出て来たパーティーの奴らには何もついてなかったよな? とりあえず、そういうものなんだろうと思うしかないな。体調に異変が起こったら言うんだぞ、二人とも」
「は~い」「わかりましたのです!」
ここで思い悩んでも仕方が無い。水晶玉のことは一旦置いておいて、俺達は先に進むことに決める。
「俺が前な。鑑定で何か異常があったら警告する。リュカは耳がいいから後ろを警戒。チロルとライラは真ん中で、道順と構造をメモしてくれな。……リュカ?」
「……ふぁい!」
――カリ、コリ。
リュカは慌てて、鞄の中に何かをしまう。ちらっと見えたが、恐らくさっきあった保存食のクルルの実だろう。糖蜜漬けにしてあるもので疲労回復の効果があるが、今食べるものではないだろうに。
「わ、わかってる、おいらちゃんとやるよ!」
元気だけはいい返事が聴こえ、がっくり肩を落とした俺は、そこであることに気づき、前言撤回をする。
「……あ、やっぱメモはチロルじゃ駄目だわ。ライラに任そう」
「なっ、なぜなのですか!? わたし頑張りますのに!」
が~んと、チロルはショックを受けた表情で立ち尽くすが、こればかりは彼女に任せられない理由がある。
「だってさ、なぁ……ライラも見ただろ?」
「あ、あれね。忘れてたわ」
ライラも思い出したようで頭を押さえる……チロルの部屋に飾られた前衛的な芸術の数々を。こいつにこの手のことを任せると、ろくなことにならない。
「ライラ、悪いけどあんたに頼む。チロルも書きたいなら書いてもいいぞ」
「……テイルさんひどいのです。いーのです、わたしも勝手に練習しますから」
「えらいえらい。きっと他に何か頼むこともあるから……それじゃ行きましょ」
「はぁい……」
むくれるチロルを慰めるライラ。そんな彼女達を伴い、俺は早速通路へ足を踏み入れる。見た目、足元や壁に特に異常はなし……周辺には魔物の気配もなし。
(入り口近辺だし何もないな。ここらを縄張りにしてるパーティーもいるのか……?)
所々に積もっている灰を見ると、誰かが近くに出たらすぐに倒しにかかっているらしく、魔物との遭遇はしばらくお預けのようだ。ずんずん進み、結局何も見つからないまま地下へ下がる階段を見つけてしまった。
「何もなかったじゃん……」
「戻ってもしゃあない。次に進もう」
「これじゃ、ただの散歩だよー……わぅ~」
リュカががっかりとした表情でとぼとぼ階段を下りてくる。
しかし、つまらなそうな顔をしていられるのもここまでだった。
本格的な攻略がすぐに始まったのだ……。階下の広間を出て、《地下二階》の表示を横目に通り過ぎるとすぐ魔物達と遭遇し、悲鳴じみたチロルの声が上がる。
「サンドスライムなのです!?」
これはEランクのモンスターだ。ゴブリンやコボルトなどより脅威は少ないが、砂の塊のような体での巻き付き攻撃や、砂煙の噴射がうっとうしい。
「こっちはラージセンチピードだよ! 結構数がいる!」
これもEランク。身の丈1M位の巨大なムカデの魔物だ。軽い毒を有しており、強い顎からの噛みつき攻撃が厄介だ。
それらが群れで押し寄せ、俺達を取り囲む。
「リュカ、気を付けろよ!」
「大丈夫だよ、避けるから」
俺はリュカと並びながら数匹のラージセンチピードを相手取る。
この位の相手ならスキルを使うまでもなく、松明で頭をぶん殴って沈めていく。
リュカもうねる相手の体を気味悪そうにしながら、果敢に斬りつけて細切れにしていった。
一方、壁を這った数体のサンドスライムが俺達を抜けて二人に寄って行くが、問題ない……ライラがいる。
「そっち、いけるか?」
「任せて! チロル、あなたは魔力を温存しときなさい。……はっ!」
ライラが魔力を手のひらに集め、生成した巨大なハンマーを振り回す。
サンドスライムは核が見えにくいので、叩き潰した方が早いと思ったのだろう。
「てぃ、やぁっ!」
ぺったんぺったんと溶けたチーズのように伸びるサンドスライム達を始末するライラ。
この程度のモンスターなら、今の俺達には相手にならない。特に手傷を負うこと無く、あっという間に戦闘が終わる。
「ふぅ……この程度なら全然余裕だな。おっ罠……皆気を付けろー!」
鑑定アビリティのある俺からは、罠の横に注意書きが見えている。
【←魔法のくくり罠:踏むと魔法のロープにより身体が一定時間拘束される】
俺が足元に見つかったスイッチ罠を踏まないように避けさせていると、ライラが隣に寄って羨ましそうにした。
「なんだよ、押したいのか?」
「まさか……。便利よね、鑑定アビリティって」
「だろ? これも前の冒険と後、以前の職場が酷いせいで培った技術だ。何でもやっとくもんだよ、全く」
俺が鑑定スキルを大きく上昇させることが出来たのは、半分以上は冒険をしていたおかげだ。
スキルやアビリティのレベルの上昇には個人差が大分あると言われているが、それを加味しても街で黙々と作業するよりも冒険者として活動した方がスキルの伸びは良かった(あくまで俺の所感ではあるが)。
その証拠に、戦闘系スキルを持っているような冒険者はスキルレベルが50を越えているのもちらほら見かけるが……製造系スキル、生活系スキルなどではほぼそれは見当たらない。高くとも20や30がせいぜいといったところ。
噂で根拠のない話だが、旅をして色々なものに触れる経験や、命の危機に乗り切る行動などにより必要以上に経験が蓄積するのだと言われている。アビリティに関しても特定の行動がトリガーになり発現する場合が多いから……自然冒険者はアビリティ持ちが多い。
後はまあ、ブラックギルドで鑑定アビリティを駆使しないと終わらないような雑用を押し付けられたせいでもある。連日の作業場での泊まり込み作業は二度と思い出したくない。
「それにしては、冒険者になろうって人は少ないのね」
ライラは首を傾げるが、それに答えたのはリュカとチロルだ。
「でも、普通はやんないよ。故郷の村だって冒険者になろうなんていうの、おいらだけだったもん」
「わたしも、お父さんやお母さんにものすごく反対されたのです……危ないだけだからって」
彼女達の言う通り、実際に冒険者として活動してみようという人間は存外少ない理由は……シンプルに危険だからの一言に尽きる。
大きく儲けようとすればランクを上げ、強力な魔物に挑んだり危険な土地に赴かないといけない一方、低ランクでは日銭を稼ぐのが精一杯の仕事。
それでもまだ、戦闘系スキルを持っているなら活躍出来てやりがいを感じられるかも知れないが……製造系スキル持ちならば普通に働いた方が儲かるし、戦闘力の低い人間が付いて行っても煙たがられるだけだ。
そんなことをまるで分かっておらず、当時の俺は簡単に大金が稼げると勘違いして冒険者ギルドの門を叩いた。前のパーティーに入れていなければ、取り返しのつかない怪我を負い夢を諦めることだって有り得た。
そんなことにならない為にも、ぜひ彼女達には早期に旅の助けになるアビリティを習得して欲しいものだ。
「ライラやチロルはまだ発現してないし、どんなのが出て来るのかちょっと楽しみだな」
「そうね。他の冒険者にも色々聞いてみたけど、個人的には察知とか便利そうだなと思った。後は地味だけど、状態異常耐性とか」
察知とは周囲の状況を把握するアビリティ。レベルが上がる程、範囲や対象が増える。状態異常耐性は毒麻痺眠りなど、各種の状態異常を緩和、無効にできる。
「わたしはお父さんが瞬駆を持っていたので、そんなのがいいかなと」
瞬駆は素早さに補正がかかり、移動力が増えるらしい。
前に聞いたが、彼女の父親はそれを生かして郵便屋として働いているとか。
「はい、おいらもなんか欲しいよ!」
元気そうに腕を上げたのはリュカだが、俺はそれをたしなめた。
「リュカは幸運が出てるだろ? 贅沢言うなよ」
「だってこれ、どうやって上げたらいいのか良く分かんないんだもん……あにきみたいに使えないから実感湧かないし」
確かに、彼女の《幸運》は取得時からあまり上がっていない。意図的に使用するタイプのアビリティではないから上げ方が分からないのだ。
(あ~……ちょっと待てよ。あの人も幸運系アビリティ持ちだったな。なんつってたっけか……そうだ!)
俺は元パーティーのリーダーの顔を思い出してアドバイスした。
「確か、幸運とかは善行を積むと上がるって聞いたぞ。知り合いが確かそれだったから、試してみるといいかもな」
するとリュカは、目を丸くして驚いた。
「そうだったの!? さすがあにき、何でも知ってる! 尊敬しちゃうよ……おいら、荷物持ってあげるね!」
「おっ、ありがとな」
せっかくの好意なので素直に受け取ると、彼女がご機嫌で頭をこすりつけて来たので撫でてやった。リュカは現金だけど、素直で可愛い奴なのだ。
さて、せっかくの遺跡……ほのぼのするのは大概にして前に進もう。
俺は皆を先導し、更なる遺跡の奥へと踏み込んでいった……。
周りの景色以外は、何も変わりがない。
「石造りの迷宮みたいな感じだな……色は変な黄色だけど。ご丁寧に階層まで書いてあるのか」
入り口から伸びる通路脇の壁には、《地下一階》と表示されている。
「……何だか目まぐるしくて、頭が付いていかないのです~」
不安そうに引っ付いたチロルがそんなことをいうが、リュカはお構いなしで腕を振り回す。
「ね、早く先進もーよ! おいら早く宝探ししたい!」
「あれ、リュカ、皆も……それ、なに?」
そこで何かに気づいたライラが、リュカの右肩の辺りを指さした。
「わぅっ!? なんだこれ……水晶玉かな?」
そこには、中央で仕切りがされ、赤と青の液体が入った水晶球が宙に浮かんでいる。俺も自分の右肩にそれを確認し触れようとしたが、手は宙を素通りするばかりだ。
「あは? あっはは、見てみて、付いて来る~きゃははは!」
身体を右、左と傾けた後、激しく走り回るリュカにそれはぴったりと付いて来て、動きに合わせてくるくると回った。一体何なのか見当もつかず、俺達は首を捻る。
「皆、特に体の調子が悪くなったりはしてないな?」
「ええ。これもあの精霊とかいうのの仕業なのかしら? 何だか、落ち着かないわ……」
「出て来たパーティーの奴らには何もついてなかったよな? とりあえず、そういうものなんだろうと思うしかないな。体調に異変が起こったら言うんだぞ、二人とも」
「は~い」「わかりましたのです!」
ここで思い悩んでも仕方が無い。水晶玉のことは一旦置いておいて、俺達は先に進むことに決める。
「俺が前な。鑑定で何か異常があったら警告する。リュカは耳がいいから後ろを警戒。チロルとライラは真ん中で、道順と構造をメモしてくれな。……リュカ?」
「……ふぁい!」
――カリ、コリ。
リュカは慌てて、鞄の中に何かをしまう。ちらっと見えたが、恐らくさっきあった保存食のクルルの実だろう。糖蜜漬けにしてあるもので疲労回復の効果があるが、今食べるものではないだろうに。
「わ、わかってる、おいらちゃんとやるよ!」
元気だけはいい返事が聴こえ、がっくり肩を落とした俺は、そこであることに気づき、前言撤回をする。
「……あ、やっぱメモはチロルじゃ駄目だわ。ライラに任そう」
「なっ、なぜなのですか!? わたし頑張りますのに!」
が~んと、チロルはショックを受けた表情で立ち尽くすが、こればかりは彼女に任せられない理由がある。
「だってさ、なぁ……ライラも見ただろ?」
「あ、あれね。忘れてたわ」
ライラも思い出したようで頭を押さえる……チロルの部屋に飾られた前衛的な芸術の数々を。こいつにこの手のことを任せると、ろくなことにならない。
「ライラ、悪いけどあんたに頼む。チロルも書きたいなら書いてもいいぞ」
「……テイルさんひどいのです。いーのです、わたしも勝手に練習しますから」
「えらいえらい。きっと他に何か頼むこともあるから……それじゃ行きましょ」
「はぁい……」
むくれるチロルを慰めるライラ。そんな彼女達を伴い、俺は早速通路へ足を踏み入れる。見た目、足元や壁に特に異常はなし……周辺には魔物の気配もなし。
(入り口近辺だし何もないな。ここらを縄張りにしてるパーティーもいるのか……?)
所々に積もっている灰を見ると、誰かが近くに出たらすぐに倒しにかかっているらしく、魔物との遭遇はしばらくお預けのようだ。ずんずん進み、結局何も見つからないまま地下へ下がる階段を見つけてしまった。
「何もなかったじゃん……」
「戻ってもしゃあない。次に進もう」
「これじゃ、ただの散歩だよー……わぅ~」
リュカががっかりとした表情でとぼとぼ階段を下りてくる。
しかし、つまらなそうな顔をしていられるのもここまでだった。
本格的な攻略がすぐに始まったのだ……。階下の広間を出て、《地下二階》の表示を横目に通り過ぎるとすぐ魔物達と遭遇し、悲鳴じみたチロルの声が上がる。
「サンドスライムなのです!?」
これはEランクのモンスターだ。ゴブリンやコボルトなどより脅威は少ないが、砂の塊のような体での巻き付き攻撃や、砂煙の噴射がうっとうしい。
「こっちはラージセンチピードだよ! 結構数がいる!」
これもEランク。身の丈1M位の巨大なムカデの魔物だ。軽い毒を有しており、強い顎からの噛みつき攻撃が厄介だ。
それらが群れで押し寄せ、俺達を取り囲む。
「リュカ、気を付けろよ!」
「大丈夫だよ、避けるから」
俺はリュカと並びながら数匹のラージセンチピードを相手取る。
この位の相手ならスキルを使うまでもなく、松明で頭をぶん殴って沈めていく。
リュカもうねる相手の体を気味悪そうにしながら、果敢に斬りつけて細切れにしていった。
一方、壁を這った数体のサンドスライムが俺達を抜けて二人に寄って行くが、問題ない……ライラがいる。
「そっち、いけるか?」
「任せて! チロル、あなたは魔力を温存しときなさい。……はっ!」
ライラが魔力を手のひらに集め、生成した巨大なハンマーを振り回す。
サンドスライムは核が見えにくいので、叩き潰した方が早いと思ったのだろう。
「てぃ、やぁっ!」
ぺったんぺったんと溶けたチーズのように伸びるサンドスライム達を始末するライラ。
この程度のモンスターなら、今の俺達には相手にならない。特に手傷を負うこと無く、あっという間に戦闘が終わる。
「ふぅ……この程度なら全然余裕だな。おっ罠……皆気を付けろー!」
鑑定アビリティのある俺からは、罠の横に注意書きが見えている。
【←魔法のくくり罠:踏むと魔法のロープにより身体が一定時間拘束される】
俺が足元に見つかったスイッチ罠を踏まないように避けさせていると、ライラが隣に寄って羨ましそうにした。
「なんだよ、押したいのか?」
「まさか……。便利よね、鑑定アビリティって」
「だろ? これも前の冒険と後、以前の職場が酷いせいで培った技術だ。何でもやっとくもんだよ、全く」
俺が鑑定スキルを大きく上昇させることが出来たのは、半分以上は冒険をしていたおかげだ。
スキルやアビリティのレベルの上昇には個人差が大分あると言われているが、それを加味しても街で黙々と作業するよりも冒険者として活動した方がスキルの伸びは良かった(あくまで俺の所感ではあるが)。
その証拠に、戦闘系スキルを持っているような冒険者はスキルレベルが50を越えているのもちらほら見かけるが……製造系スキル、生活系スキルなどではほぼそれは見当たらない。高くとも20や30がせいぜいといったところ。
噂で根拠のない話だが、旅をして色々なものに触れる経験や、命の危機に乗り切る行動などにより必要以上に経験が蓄積するのだと言われている。アビリティに関しても特定の行動がトリガーになり発現する場合が多いから……自然冒険者はアビリティ持ちが多い。
後はまあ、ブラックギルドで鑑定アビリティを駆使しないと終わらないような雑用を押し付けられたせいでもある。連日の作業場での泊まり込み作業は二度と思い出したくない。
「それにしては、冒険者になろうって人は少ないのね」
ライラは首を傾げるが、それに答えたのはリュカとチロルだ。
「でも、普通はやんないよ。故郷の村だって冒険者になろうなんていうの、おいらだけだったもん」
「わたしも、お父さんやお母さんにものすごく反対されたのです……危ないだけだからって」
彼女達の言う通り、実際に冒険者として活動してみようという人間は存外少ない理由は……シンプルに危険だからの一言に尽きる。
大きく儲けようとすればランクを上げ、強力な魔物に挑んだり危険な土地に赴かないといけない一方、低ランクでは日銭を稼ぐのが精一杯の仕事。
それでもまだ、戦闘系スキルを持っているなら活躍出来てやりがいを感じられるかも知れないが……製造系スキル持ちならば普通に働いた方が儲かるし、戦闘力の低い人間が付いて行っても煙たがられるだけだ。
そんなことをまるで分かっておらず、当時の俺は簡単に大金が稼げると勘違いして冒険者ギルドの門を叩いた。前のパーティーに入れていなければ、取り返しのつかない怪我を負い夢を諦めることだって有り得た。
そんなことにならない為にも、ぜひ彼女達には早期に旅の助けになるアビリティを習得して欲しいものだ。
「ライラやチロルはまだ発現してないし、どんなのが出て来るのかちょっと楽しみだな」
「そうね。他の冒険者にも色々聞いてみたけど、個人的には察知とか便利そうだなと思った。後は地味だけど、状態異常耐性とか」
察知とは周囲の状況を把握するアビリティ。レベルが上がる程、範囲や対象が増える。状態異常耐性は毒麻痺眠りなど、各種の状態異常を緩和、無効にできる。
「わたしはお父さんが瞬駆を持っていたので、そんなのがいいかなと」
瞬駆は素早さに補正がかかり、移動力が増えるらしい。
前に聞いたが、彼女の父親はそれを生かして郵便屋として働いているとか。
「はい、おいらもなんか欲しいよ!」
元気そうに腕を上げたのはリュカだが、俺はそれをたしなめた。
「リュカは幸運が出てるだろ? 贅沢言うなよ」
「だってこれ、どうやって上げたらいいのか良く分かんないんだもん……あにきみたいに使えないから実感湧かないし」
確かに、彼女の《幸運》は取得時からあまり上がっていない。意図的に使用するタイプのアビリティではないから上げ方が分からないのだ。
(あ~……ちょっと待てよ。あの人も幸運系アビリティ持ちだったな。なんつってたっけか……そうだ!)
俺は元パーティーのリーダーの顔を思い出してアドバイスした。
「確か、幸運とかは善行を積むと上がるって聞いたぞ。知り合いが確かそれだったから、試してみるといいかもな」
するとリュカは、目を丸くして驚いた。
「そうだったの!? さすがあにき、何でも知ってる! 尊敬しちゃうよ……おいら、荷物持ってあげるね!」
「おっ、ありがとな」
せっかくの好意なので素直に受け取ると、彼女がご機嫌で頭をこすりつけて来たので撫でてやった。リュカは現金だけど、素直で可愛い奴なのだ。
さて、せっかくの遺跡……ほのぼのするのは大概にして前に進もう。
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