解雇(クビ)にされた細工師が自分の価値を知る【リ】スタート冒険者生活~ちまたで噂されてる伝説の職人の正体は、どうも俺らしい~

安野 吽

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【第二章 第一部】

第十六話 ジェレッド公カルミュ

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 エルスフェリア七大公爵家。

 ロブルース家や、ジェレッド家を筆頭とした……俺たちの住むエルスフェリア王国で、もっとも王族に近しい位を持つ者たち。

 もともとは、建国の際に最も功績の高かった七人の英雄たちを祖にした家柄だった、と伝えられているが、まさかそんな高貴な家柄の人間とまた対面する機会があるとは思わなかった。

 ハルトリア市街のド真ん中に立つ、赤をメインとした配色で彩られた城の中に招かれた俺は、好奇の視線を浴びながら、シルブラウン伯爵の後ろに続いている。

 うんざりするほど長い距離を歩かされた後、到達した大広間に敷かれた赤絨毯の奥。玉座に座る、若い女性の姿が段々近づいてくる。

 ここまで来たら、尻尾を巻いて逃げ帰るということは許されない。
 女性の数歩前で立ち止まり、跪く伯爵にならって俺も頭を垂れた。

 老齢の伯爵が、へりくだった挨拶の口上を述べる。

「本日はご尊顔を拝謁でき、恐悦至極に御座います。シルブラウン伯ヴィンセント……このたびカルミュ様にお力添えいただきたいことがあり、老骨に鞭打ってまかり越しました」
「笑えるわね……お前、そこそこ有能なくせにわたくしを毛嫌いして近づかなかったじゃない。それがわざわざこの城まで来るなど。その男にそれほどの価値があると、そうとって構わないのかしら?」

 ジェレッド公カルミュの、スラリとした足が目の前で組みかえられた。
 派手で妖艶な血色のドレス、豪奢に整えられた赤い髪と、同色の瞳……だがこの場にチロルがいても、その雰囲気にのまれて騒ぐことはできなかったろう。圧倒的上位者の威厳を備えた彼女は面白がるように俺たちを見下している。その威圧に、老年のシルブラウン伯さえも喉をごくりと動かす。

 だが、彼はしっかりとした口調で願い出た。

「この青年は先日、我が妻の頼みを聞き届け、破壊された当家に伝わる装飾品を見事に修復してみせたのです。その腕前たるや、王家に品を納める王都ジールベルヌ細工師ギルドの者たちにも劣らぬものと判断し、また本人の希望もあったため、カルミュ様にお目通りさせた次第にございます」
「ふうん? わたくしに仕えたいというの? 面を上げなさい」

 カルミュ様のお許しを受けたので、俺は顔を上げる。
 鋭く吊り上がる赤い瞳が、俺の内面までも抉り出そうとするように強く輝く。

「お前、名は?」
「テイル・フェインと申します。冒険者を営む傍ら、細工師として活動しています」
「ふん……冒険者ね。まぁいい、お前の価値はわたくしに捧げられるもので決まる。面倒な御託は抜きにして、なにか持ってきたんでしょう? 見せなさいな」

 見極めようとするのは分かっていたので、俺も準備していた作品のひとつを献上した。

★★★★★エピック 闇赤晶の獅子眼(装飾品)》
 スロット数:3
 基本効果:力+100、火炎耐性+50
 追加効果:【◆焔獅子フレオ】【燃焼耐性(中)】【素早さ+100】
 特殊効果:《◆焔獅子》……詠唱により、装着者を護衛する火炎の獅子を召喚する。

「まずはこちらをお納めください。緊急時に詠唱していただければ、御身の魔力の続く限り、炎の獅子があなた様を守ります」

 獅子の瞳をモチーフにして、斜めに切り出したダークルビーを嵌め込んだ純金の腕輪を前に、俺は簡単に説明を添える。少ない日数でできる限り力を振り絞った作品だが……果たしてどうか。

 表情を動かさずにカルミュ様はひとつ指を鳴らすと、人を呼びそれを鑑定させる。傍に控えていた男性が耳元で詳細を告げ、彼女はわずかに眉を動かした。

「魔法の品ねえ……少し試したいわ。外へ出るわよ」

 彼女は俺たちを一瞥すると、広間の外へと歩きだす。どうやらついて来いということらしい。中庭の一角に出て、彼女はその腕輪を手のひらで転がす。 

「どうやって使うのか教えなさいな」
「《焔獅子フレオ》、火輪を潜り来たれ……とおっしゃっていただければ」

 カルミュ様はすぐさまそれを復唱する。
 少し離れた地面に火線が走って円を成し、一匹の小獅子がそれを潜るように現われる。

「ガオ」

 小獅子は彼女を見上げ、大人しく佇む。

(……あら、可愛い)
「はい?」

 それを見てわずかに口を動かすカルミュ様の呟きは、小さすぎて俺たちには聞きとれない。

「なんでもないわ……。お前、この子になにができるの?」
「公爵様の命令通りに動きますし、魔力が強いほど、強い力を発揮します。なにか的のようなものはありますか?」
「そうねえ……あの木でいいわ。お前、《焔獅子フレオ》といったわね。ちょっとあれを攻撃して見なさい。わかる?」
「ガオ」

 炎の獅子は、一声鳴いて火の粉を巻きながら弾丸のように突進していった。

(あ、ヤバそう)

 大人の胴回り程ある大木に突っ込む獅子をみて俺は危険を直感したが、止める間もなく。

 ――ドボゥ!

 次の瞬間、中庭に盛大な火柱が立ち、大木が丸ごと薪と化した。

(あー……)
(テイル君……)

 俺とシルブラウン伯爵はそれを遠い目で見つめた。
 吹き荒れた火の粉が舞い散りこちらまで届いてくる。

『な、なにが起こった!』
『しょ、消火ー! ありったけの水を持ってこい! 流水魔法を使えるものはいないのか!』

 瞬く間に城内が戦時のような大騒ぎになってしまった。非常用の鐘が響き、そこら中から人や兵士が出て来て消火作業を開始する。

 カルミュ様の魔力量がここまで優れているとは……。俺が試しに使った時は、チロルの《ファイアボール》程度のの火力しか出なかったのに……。

「ガル」

 小獅子はやってやった、みたいな顔で戻って来てカルミュ様を見つめており、彼女はそれを持ち上げて胸に抱いた。

「中々やるじゃない。では戻るわよ」
『整列して順次桶を手渡していけー! 周りに燃え広がらないようにするんだ!!』
『《アクアブリッド》、《アクアブリッド》! 誰か、マナポーションは持って無いか!?』
(いいのかこれ……)

 配下たちの姿をまるで見もせず、なにもなかったかのように建物内に戻ってゆくカルミュ様。腕輪は気に入ってもらえたようだが、なんとなくひどい罪悪感を感じながら俺は伯爵と共に彼女への後ろへと続く……。



 軽い事件にはなったが、カルミュ様はひとまずあの腕輪と《焔獅子フレオ》を認めてくれたようだ。

「体も軽くなるし、護身用に丁度いい。お前、テイルと言ったわね。褒めてつかわす」
「ありがたく存じます。つきましては、話だけでも聞いていただけますでしょうか」
「言ってみなさい」「ガオ」

 なんでお前まで偉そうにしてるんだと目の前の焔獅子に内心で文句を垂れつつも、俺はカルミュ様への要求を口に出す。何事も機嫌のいい内に進めてしまいたいものだ。

「金貨を30万枚、用意していただきたいのです。後一月半の間に」
「できなくはないわね。なにに使うの?」
 
 彼女は焔獅子を解除し、その瞳から好奇心を覗かせたので、俺はかいつまんで事情を説明する。

「ふうん? マガビトの奴隷の身請けねえ……」

 すると、カルミュ様は肘置きを指でコツコツと叩きだす。少し考え込んでいるようだ。

 腐るほど金はあるだろうが、さりとて簡単にはいそうですかと渡しはしない。レティシアさんから聞かされていた通りだ。

 そして彼女は、俺を見据え妖艶に微笑んだ。

「お前、この城に仕えてみる? ならば考えてあげてもいいわよ……?」

 笑ってはいるが、その目の奥から発せられた気配は、そこいらのやくざ者など問題にならないレベルで恐ろしい。思わぬ威圧感で胃がずんと重くなる。だが、チロルたちとの約束があるのだ、その希望は叶えられない。

「申し訳ありませんが、そのお話は受けられません。俺は他にもやらなければならないことがありますから」

 否定し頭を下げる俺。
 するとゆっくりと立ち上がったカルミュ様は歩み寄り、俺の顎に手をかけ持ち上げた。

 かがんだドレスの胸元が大きく開き、先程のぞっとするような笑みが近づく。

「目の前にいるのが誰か、忘れていない? わたくしはお前をこのまま、捕まえることも殺すこともできるの。従わない鳥は言うことを聞くまで痛めつけてもいいしね。いっそ、その娘の代わりにわたくしに繋がれてみる? わたくしなしでは生きられないようにしてあげるわ」
「無意味ですよ。鳥は美しいから眺める価値もあるかも知れないけど、俺みたいなのを籠に入れたってなんの得にもなりません。道具を使わずに死蔵したところでなんの価値も生み出さない、そうでしょう?」

 公爵相手に無茶な交渉をやっている実感はあったが、ここで引けばおそらく要望は叶えられない。ハッタリ上等……ここは強気で行く。

 機嫌を損ねられても、舐められて足元を見られてもいけない、微妙なラインの綱渡り。しばしのにらみ合いが続き、やがて、彼女の目の奥の光が和らいだ。

「言うわね。度胸と自信だけは買ってあげるわ……。そうまで言うならば、お前の価値を自分で示す機会をあげる。二週間後、王国主催の定例品評会が王都で開かれるから、参加して優勝しなさい。もしできたなら、その作品をその場で金貨30万枚で買い取ってあげようじゃない」
「……王国品評会には、確か所属ギルドを明確にする条件があったはずです。それに確か、一カ月前までには参加申請を行っておかないとならないはずですが……」
「ハッ、そんな些細な決まり、わたくしの力があればどうとでもできるわ。やるのか……やらないのか、もうそれだけよ。これ以上の交渉は認めない。できないならこれを持ってさっさと帰りなさい」

 俺の手元に、ダークルビーの輝く腕輪が投げ入れられる。
 さっきまで気に入っていたはずのものをあっさりと手放す……この見事な割り切りこそが、彼女の強さのひとつであるのだろう。
 
 これ以上の譲歩は望めないと感じ、俺は決断した。

「わかりました……やります」
「しかと聞き届けた。そしてもうひとつ。もしうまくいかなかったら、そうねぇ」

 彼女は俺を立ち上がらせると、赤い唇からちろりと舌を出す。

「わたくしの遊び相手にでもなってもらおうかしら?」
「……は!?」

 これには思わず目が点になる。
 さすがにこの年でおままごとでもあるまいし……。遊ぶとは、そういう意味の言葉だろう。隣にいるシルブラウン伯爵も青ざめた顔で凝視してきた。

「ご冗談を……カルミュ様」
「あら、冗談ではなくてよ。市井の男と付き合う機会なんてそうそうないし、私の身分を慮って下手に出てばかりの男は飽き飽きしてたしね。お前は肝も太いし面白そうだわ。鍛えているその体つきも嫌いではないしね? ふふ……」
「やめてくれませんか……」

 自らの所有物のように身体を触り始めたので、俺はぞっとして身を引く。
 つい素に戻ったそんな反応にもカルミュ様は、楽しそうに喉を鳴らす。

「……いい反応。決めた、そうするわ」
「勝手に決められても困ります」
「ならば、実力で我を通すのね。話に乗ってやっただけありがたく思いなさい。これでどちらに転んでも楽しめそうだわ。ほほほ……」

 そして契約がわりか、俺の手元から腕輪を再び抜き取り手首に嵌めた彼女は、もう用は済んだとばかりに背を向け追い払うように手を振った。

(……はぁぁぁぁ……つっかれた)

 公爵の配下から退出を命じられた俺たちは、広間から出て大きく息を吐き出す。
 交渉は成功したといえるが、なかなか面倒な条件がセットになってしまい、肩が重くなった。

(失敗したら情夫とか……本気で嫌だぞ)
「テイル君、老人の肝をあまり縮めてくれるなよ。……といってもあの方に希望する条件を通したのだから、大したものだがな」
「いえ……これでようやく、開始地点に立てたってところですから」

 もはや、王国品評会などに再び参加する日が来ようとは、思っていなかったが……。

(まあ、どうにかやってみるさ……)

 ピピを助ける唯一の方法であると同時に、約二年前と比べ、俺の腕がどれだけ上がったのか、あるいは下がったか、知るいい機会でもある。

 ものづくりに対する熱意は衰えていない……。以前の自分を乗り越えるためにどうするのか、この時すでに、俺の頭の中では様々な構想がぐるぐると渦を巻いていた。
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