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第28話 蓮見悠助と天動神示

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「先週、暴行やストーカー行為を行った容疑者蓮見悠助ですが、現在も逃走中ということで警察は捜索中であり…。」

ニュースでは、毎日のように蓮見悠助の事を取り上げている。

「まだ、捕まっていないんだね…。」

「そうだな…。」

現在、イリスは信之の家に泊まっている。

事件の次の日に警察から悠助が病院から脱走したという連絡があり、イリスは怖くなり信之に相談した。

信之は、それなら事が収まるまでうちにおいでと言ったのだ。

そこから二人は共同生活を送っている。

「不安?」

信之はイリスに問いかける。

「…正直、ちょっと怖いけど、信くんが一緒にいてくれるから平気。」

イリスは笑顔で信之を見るが、あまり元気は無い。

イリスは、なんとなく自身の投稿しているSNSを確認した。そして、恐ろしいものを目にして息が止まる。

「ひっ!」

「イリス、どうした?」

信之はイリスを心配する。

「こ、これ…。」

イリスのスマホを確認すると、SNSに悠助のアカウントからメッセージが届いていた。

「イリス~、俺はてめぇの事、絶対にあきらめねぇからな。せいぜい夜道に気を付けるんだなぁ!!」

これを見たイリスは顔を青くし、震えている。

「信くん…怖いよ…。」

震えるイリスを信之は優しく抱く。

「大丈夫、大丈夫だよ。俺が絶対守るから。」

そう優しくいった信之であったが、心の中ではイリスを脅かす悠助に腸が煮えくり返る思いだった。

(蓮見悠助…。絶対に許さないからな。)



時は遡って、事件の次の日。
蓮見悠助は、病院で目を覚ました。

(ここは…)

始めはぼーっとしていた悠助だが、だんだんと記憶が戻ってくる。

(俺は…そうだ!あのピエロみたいなやつにやられて!!)

ここが病院であるということを認識し、周りを見るとデジタル時計を発見する。
事件の日の次の日ということを確認した悠助は、駐車場で起こした事件により警察が来るのも時間の問題と考え、4階の窓から脱走する。

家付近まで来た悠助だが、家の近くには警察がいた。
周りの人に事情聴取をしているようだ。

(家に帰るのはあぶねぇ。…仕方ねぇ、頼りたくねぇけどあいつのところに行くしかねぇ。)

悠助は家に帰らず、とある場所へと向かった。





「やぁ、久しぶりだね。かなりやらかしたみたいじゃないか。悠助。」

とあるビルの中で、悠助は男と対談していた。

「チッ、正直マジでやらかしちまった。すまねぇが天動、お前の力を貸してもらいてぇ。」

目の前にいる男は天動 神示てんどうしんじ。悠助とは旧知の仲であるが、悠助は天動を苦手としている。

「もちろんだよ、悠助。僕と君との仲じゃないか。」

神示は、すべてを見透かすような目で悠助を見る。

神示は悠助と同年代であり、現在22歳。身長は180センチほどだ。
髪は黒髪オールバックで後ろ髪が少し長く、目は切れ長で眼鏡をかけており、聡明さを感じる。

「とりあえず、衣服や携帯電話、住居とお金も渡しておこう。」

「あぁ、サンキューな。」

これだけの好待遇を受けられて安堵する悠助。

「ただし、以前から君に話していたあの件…受けてもらうよ?」

神示は少し下がった眼鏡を持ち上げながら、悠助に確認する。

「あぁ、お前のスキルで契約するってやつか…。確か、英雄ってスキルだったか?それって俺にデメリットあるのか?」

「デメリットというほどではないけど、君がモンスターを倒した際の経験値の1%が自動的に僕に送られるようになる。だが、君にはそれ以上のメリットがあるよ?」

「メリット?何があんだ?」

「僕とコントラクトした場合、君はすべての能力が10%増加するんだ。」

神示の持つ英雄というスキルは、契約《コントラクト》が必要なスキルである。
契約をした者は、神示に対して獲得した経験値の1%分を贈呈する代わりに自身の能力を10%増加することができる非常に強力なスキルだ。

英雄スキルは契約者が多ければ多いほど、強力になっていくスキルであり、現在神示と契約している人の数は300人を超えている。

今でも十分なほどの恩恵を手にしている神示だが、これが数千、数万の人と契約した場合の恩恵は計り知れないものとなる。

神示はIT会社の社長である。
この世界にモンスターが蔓延るまでは普通の会社であった。

モンスターが現れ、神示が英雄のスキルを手に入れてから天動衆という組織を作った。

現在、会社で働いているほぼすべての人達は、神示に手伝ってもらいステータスを獲得している。その際に神示と契約を交わし天動衆に入っている。

「すべての能力10%増加はでけーな!デメリットも全然問題ねーしコントラクト?してやるよ!」

メリットと感じた悠助は、神示の提案に賛成する。

「そうか。それなら早速コントラクトしようか。」

「あ、でもよ、その前に教えてくれ。その天動衆って言ったか?それっつうのは何が目的で動くんだ?」

悠助は天動衆の目的について神示に聞く。

「あぁ、すまない。言ってなかったね。天動衆のまず第一の目的は、日本を牛耳ることだよ。」

「は?日本を牛耳る?そんなことできんのか?」

目的のスケールの大きさに、悠助は驚く。

「あぁ、僕の英雄スキルがあればできるさ。日本を手に入れていずれは世界を手に入れる!!」

神示は狂気を宿した目で大げさに手を広げてそう言い放つ。

「おいおい、それって世界的に戦争起こすってことだろ?やれんのかよ?」

「やれるよ。日本を牛耳って皆にステータスを獲得させ、全員が僕とコントラクトを結ぶのさ。そうすれば皆能力は上がり最強の軍団が作れる!それに契約者が増えることで僕はより一層レベルが上がりやすくなる。そしてさらに…」

そう言って、神示は机の上にあったゴブリンの魔石を手に取る。

「これが凄い活躍をするからねぇ。」

「それ、ゴブリンの魔石か?そんなのが役に立つのかよ。」

悠助の問いに、神示は笑みを浮かべる。

「あぁ。現在政府がこれで強力な武器を作っていてね。うちの会社がそれを手伝っているのさ。試作品だがもう少しで完成する。そうしたら天動衆は動くから、その時は悠助にも手伝ってもらうよ。だからそれまではおとなしくしておいてくれ。」

「チッ、わかったよ。早くしてくれよ?」

生活等を補助してもらえるのだから悠助に反論する余地はない。

「あぁ。もちろんさ。」


神示の眼鏡が妖しく光った。
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