上 下
71 / 109

第71話 ニンニクなんて持ってきてません!

しおりを挟む
「俺らよりも先に十階層に来ていたやつがいたのか?」

アドリアンは信じられないといった仕草をしながら、赤い目の男に近づく。

「ふむ。やはり人間の男は臭いですね。」

赤い目の男は手を薙ぎ払うと、衝撃波が発生しアドリアンを吹き飛ばした。

「ぐはっ!」

勢いよく地面に叩き付けられたアドリアンは、大きなダメージを負い気絶する。

「あ、アドリアン!?」

「今のは魔法か?」

ソフィアはアドリアンの元へ走る。
エドワードは相手が放った攻撃を分析する。

「今のが、魔法?くふ、くははははっ!人間というのは本当に滑稽ですねぇ。ただ腕を払っただけなのに、それを魔法とは…くくく…。」

「腕を…払っただけ…だと…?」

「ええ。折角ですから本当の魔法を見せて差しあげますよ。」

男はそう言うと両手に青い魔力を集める。

「アイススピアという初歩的な魔法ですが、貴方達には十分驚異となるでしょう。」

「な、なんだよ …あの大きさ…。」

「あんなものを受けたらひとたまりもありません!」

男が作り出したアイススピアは槍と言うには大きく、それを見たエドワードとモニカは恐怖する。

「やらせないわ!」

ソフィアは銃を持って数発撃つが…

「ほう、なかなかに速い飛び道具ですね。このようなものは見たことがありません。しかし、うるさいですね。…破壊しますか。」

男は二本のアイススピアのうち、一本をソフィアの銃へ飛ばす。

「アイススピアは追尾しますから、早くそれを手放さないと腕ごと持っていかれますよ?くふふ。」

ソフィアはアイススピアを避けよう大きく横に移動したが、男の言う通り追尾してきた。

「くっ…!捨てるしかないわね…。」

銃を投げ捨てると、アイススピアはソフィアから軌道がずれて銃に突き刺さる。

「それなら…!」

ソフィアは残り一本のアイススピアを阻止するために所持しているレイピアを抜き、男のもとに走り出す。

「ほう、皆が恐怖する中、一人臆さずに向かってくるとは。それに…ふむ。」

男は、ソフィアを見て考える。

(動きが止まった?なぜかは分からないけど、チャンス!)

ソフィアはレイピアで男の心臓を突き刺そうとする。

「あの飛び道具を簡単に避けられる私が、その程度の突きを避けられないとでも思いましたか?」

男はレイピア軽々と避け、ソフィアのレイピアを持つ腕を掴む。

「そ、ソフィア!」

「ソフィアさん!」

エドワードとモニカは、ソフィアが捕まり狼狽える

「くっ!放しなさい」

ソフィアは掴まれた腕を振りほどこうとするが、男の力が非常に強いのか、全く振りほどけない。

「やはり…、美しい。」

男は、ソフィアの顎を指で持ち上げてまじまじと見つめる。

「残念だけど貴方みたいな人、私は趣味じゃないの!」

そういってソフィアは掴まれていない方の手で、閃光弾を取って投げようとする。

「それ以上動いたら、貴女の後ろにいる親しい仲間を殺しますよ?」

「そんなことできるわけ…。」

「やってみましょうか?すぐにでも後ろの男を的にしてアイススピアを飛ばすことができますよ?くふふ。」

「…」

男に脅されたソフィアは動きを止める。

「よい判断ですね。確か名前はソフィア…でしたか。」

「貴方、何者なの?探索者としては見たことないけど…。魔物なの?」

攻撃をしてこないと判断したソフィアは、情報を得るために男が何者なのか尋ねる。

「おやおや、私をそんな下等な生物と一緒にしないでください。私はヴァンパイア。純血たるノーブルヴァンパイア。魔族です。」

「ヴァン…パイア…。」

ヴァンパイアと言われて、ソフィアは全く疑いもせず腑に落ちた。
何故なら燃えるような瞳と、話している際に見える異常に発達した犬歯を目の前で見ているからだ。

「ええ、名前はアルカードといいます。ソフィア、私は貴女の事が気に入りました。私のものになりなさい。」

「…!なるわけないで…」

「お仲間が死んでもいいのですかねぇ?」

アルカードはアイススピアを飛ばす。

「なっ!や、やめて!!」

ソフィアは叫ぶが、アイススピアは止まらずにエドワードの足へと突き刺さる。

「ぐわぁあああああぁ!」

「さあ、もう一度聞きましょうかソフィア。私のものになりなさい。」

ソフィアには実質拒否権が無い命令だ。

「…一つ教えて。私が貴方のものになると言った場合、仲間はみんな安全にここを出してもらえる?」

「やめてソフィアさん!」

「や、やめろ!そんな奴の言葉を信じるな!」

諦めたソフィアは、せめて仲間だけでも助けようと考えた。

「ええ、いいでしょう。私はソフィア以外に興味がありませんので。」

「…わかった。貴方のものになるわ。」

「くふふ、交渉成立ですね!」

そう言うと、アルカードはソフィアに抱き着く。

「…なに?嬉しさのあまりに抱き着きたくなったのかしら?」

突然抱き着かれたソフィアは、驚きながらも皮肉を言う。

「それもありますが、まずは私のものになったことを記念して、眷属になってもらいますよ!」

アルカードはソフィアの首筋に嚙みついた。

「そ、ソフィアーー!」

「イヤーーーー!」

十階層の広間にて、エドワードとモニカの叫び声が木霊した。
しおりを挟む

処理中です...