二つの世界、六つの瞳

buri

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第三章

53話 同行者

 「ソフィアと申します。今更ですが…」

 ーー朝。

 空が白み、木々の間から日が差していた。

 小屋の周りでは、下草が風に揺れ、陰と戯れる。

 彼女ーーソフィアは、小屋の入り口の前にぴしりと立ち、腰を折った。

 キヨトは目をすがめ、溜まった目やにを払うように瞬きを繰り返した。

 「あぁ…。キヨトです」

 キヨトの声は、水分を失ったように掠れていた。

 「エドガーだ。で、あれが……ヴェロニカだ」
 
 いつの間にか、キヨトのとなりに立っていたエドガー。

 彼も名乗り、ちらっと背後を振り返ると、未だ木に背をもたれさせて寝ているヴェロニカに視線を送った。

 くすっ。

 ソフィアが手で口を押さえ、笑った。

 「あ、ごめんなさい」
 「いや…。あいつはああなんで、気にせず」

 はぁ…。

 そう言うエドガーの口からは、深い溜息が漏れた。

 しかし、すぐに頭を振ってそれを振り払うと、後ろを振り返って街道の方角を指差した。

 「俺たちは、このまま昨日の道を北に進んでいきます」

 『俺たち』
 それが心なしか、はっきり聞こえた。

 「そうですか。ちなみに、どちらまで?」
 「サン・トピアです」

 答えたエドガーの言葉に、彼女は目を見開いた。

 その拍子に、ばちりと、キヨトと視線がぶつかる。

 「連れて行って、くださいませんか?」

 すぅ、と息を吸ったと思えば、その息と共に吐き出した言葉。

 それを聞いて、すぐに頷いたエドガー。
 キヨトはその横で、ずっと彼女の横顔を見つめていた。

 
 ◇


 「さぁ、出発だね!」

 太陽に向け、盾を掲げるヴェロニカ。

 「お前は相変わらずどこでも寝られるんだな」
 「はっ!冒険者なんだ。戦う時は戦う。休む時は休むのが基本さ」

 一行の先頭を歩くヴェロニカ。
 彼女はエドガーの声に振り返ると、にかりと歯を見せて笑った。

 ふふっ。

 そこに混じる、小さな笑い声。
 すっと、ヴェロニカの目が冷えた。

 「あ、すみません。仲がいいんですね」
 「まぁ、こいつとは長いんでね」

 となりに視線をやり、鼻頭を掻きながらエドガーが答えた。

 その様子にヴェロニカはふん、と鼻を鳴らすと前を向きーー

 長い鼻の下だね。

 小さく呟く
 その言葉はすぐに、風に消える。

 「なんだ?」
 「なんでもないよ!」

 がりっ、と地面をこする盾。
 ヴェロニカの声が街道に響いた。

 「どうしたってんだ?」

 エドガーの声。
 それでも、ヴェロニカは前を向いたままだった。

 チチチ。

 向こうから鳥たちが飛んできて、キヨト達の真上で左右に分かれ、背後に過ぎ去っていく。

 夜の寒さに冷やされた土が、朝日に温められ、白いもやが立ちこめる。

 四人はその中を歩く。

 ーー。

 最後尾のキヨトは、そのもやが、微かに揺らぎ波打ったような、そんな気がした。

 
 
 
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