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Iris

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プロローグ

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パァンッ
乾いた音と張り詰めた空気。それから俺のジンジンと痛む頬。

「ふざけんな!」

でも、今まで見たことない、お前の涙に滲んだ瞳と、唇をギュッと噛み締めた悔しそうな表情に、心の方がもっと痛んだ。

「俺がお前のこと好きだって見透かされてたのかも知んねぇけど!!もっとやり方あるだろ!!」

悪かった、そう口を開く前に、いや、俺が言おうとしたことを察してか、二の句を継がせないよう口火を切ったのはお前だった。

しかし、今の思いも寄らない発言で頭が真っ白になる。今何って言った?

「…お、俺のこと、好き、だった…?」

まさかの事実に頭が追いつかず、疑問をそのまま言葉に出せば、悔しげは顔はみるみる怒りの顔へと変わる。

「しらばっくれんな!だからこんなことしたんだろ!本当…見損なったわ…。」

それから、目に溜まった涙が耐えきれないとでも言うように、ツーと一筋頬を零れ落ちた。

「えっ、ちょ、待って…。」

思わず、このままではマズイと本能が先に判断し、去りゆく腕を掴んでいた。

「触んな!!…お前とは絶交だ…」

しかしそれも逆効果だったらしい。力強く腕は振り払われ、一瞬キツい睨みを俺に浴びせたかと思えば、駆け出し教室の向こう側へ消えて行った。

激しく扉が閉められる音に体の力が抜け、その場にしゃがみ込む。

「待って…、俺どの辺から間違えたの…」

俺は西日が差し込む部屋で、ポツンと残された女物のウィッグともに、絶望の中しばらく動けずにいた。
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