君との距離は声より近い

Iris

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番外編

その後②

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結局あの後、もうだめと縋り付くまで延々と抱かれた。
行為の後特有の、汗やら自分の吐き出したものやらでベタベタになった体のまま抱えられ、そのまま風呂場に放り込まれた。
ひんやり冷えた床に、まだよく働かない頭でぼんやり座り込んでいると、案の定すぐにショーイチも入ってきた。
こういうとき、絶対俺のこと一人にはしないっていう自惚れ。

「続きすんの?」
「したいけど、お前限界だろ。」

何故か俺よりも俺の限界を把握しているショーイチは、洗ってやるからおいで、と風呂椅子を示した。
言われた通りに腰を下ろすと、ぬるま湯を頭から全体に浴びせかけられた。
さっきまで俺を散々追い詰めて啼かせた手が、髪を優しくかき混ぜたり、さっきとは違った目的で全身に触れられたりすると、不思議な気分になる。
でもやっぱり気持ち良くて安心感を覚えるのは、ショーイチだからだろう。
情事の疲れからか、積もり積もった疲労からくるのか、自然と瞼が落ちて意識が遠のくのを感じた。

「圭太。」

緩く揺すられ薄目を開けると、ショーイチの呆れ顔と目が合った。

「お前、座ったまま寝るなよ」
「終わったん?」
「ん。俺もすぐ洗うから浸かってろ。」
「んー。」

また抱え上げられて、湯船の淵に持たれかけさせれるように、湯船に入れられた。
少し熱めにはられたお湯は骨身に染みた。こんな言葉、働きに出るようになって初めて使うようになったかも。
湯気に隠れてショーイチの体が忙しなく動く。焦らなくていいのに。大丈夫、俺起きていられるよ。
口を動かそうとしても、漏れ出るのは意味をなさないものばかりで。

「むー。」
「なんだ、どうした?」

水が滴る髪を掻き上げこちらを横目で見やるショーイチに、ゆるりと首を左右に振った。
もうちょい待ってろ。耳に届くと同時にシャワーの音でかき消された。
立ち込める湯気の中、浮かぶ姿にあー色っぽいなぁーとか、かっこいいなーとか贔屓目抜きでも思う。自然と贔屓しちゃうけど。
蛇口を閉めた音がすると、段々視界がクリアになる。射抜くような目で俺を見るショーイチの顔も次第に目に入る。

「お前ね、そんなに熱っぽい目で見んなっつの。」
「見てへんー。」
「見てるんだよ。」

途端に目の前が真っ暗になった。俺の視界を覆うのはもちろんショーイチの手で。

「いつからそんなに誘うのうまくなったんだ。」
「知らん。」

塞ぐ手が邪魔で腕を掴むといとも簡単にそれは離れた。思いのほか近くにあったショーイチの顔に息を飲む。
やっぱりかっこいい。

「俺、ショーイチしか知らんもん。やったら、誘い上手にしたのもショーイチやんか。」

理性という名の情報処理機能がいたく欠落した今の俺には、何がショーイチを刺激するかなんて判断のしようがなかった。

「・・・もう知らねーから。」
「えっ」

ああまた食べられる。本能が警告した頃には、同じ湯船の中、ショーイチの膝の上で啼かされていた。
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