初恋エンジン‼︎ー武蔵社宅の少年少女の日々ー

藤沢 南

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富山の想い

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「待てよ。」

部屋を出て行こうとした時に、背後で声がした。富山だった。
「お前が出てったら、このクリスマス会はどうなる。お前が雰囲気をぶっ壊して、そのままで終わるぞ。料理を用意してくれたまみちゃんのお母さんやお姉さん、しばらくしたらお父さんも来てくれるんだ。そこまで準備してくれた中井家の皆さんに失礼だろ。」
「トミー、この場をこんなにしてしまったら、もう俺は、ここにいられないだろ」僕はムキになって言った。
「バカ言うな。転校を誰に最初に話すかなんて、俺にしてみたら、どうでも良いことだぞ。とにかく、座れ。みんなも、落ち着いてくれ。」
「トミー、ツーはもういなくなるんだ。本人がそういうんだから、好きにさせてやれよ。」横山は僕を外したいようだった。
「よこやんも。ツーがいなくなるとか、…少し言いかたを考えてくれ。さっき、俺たちは仲間だと言ったのはお前だろう。」
「たしかに言った。が、大事な事を仲間に、公平に話さないのはおかしいだろう。そんなヤツは仲間とは認められない。」
「…よこやん。」

富山は、横山の津山に対する気持ちが分かったようだった。そういえば、このところ津山抜きのメンバーで遊びに行くことが多かった。『俺もうかつだった。…気づけなかった。』富山はハッとした。火種は、こんなところにあったのだった。
「トミー、よこやんのいっている事は、間違っていない。俺が悪かったんだよ。」
あらためて、僕は部屋を出ようとした。富山が、表情を固くした。

「…それでも帰るなら、俺はもうお前とは縁を切る。」
富山らしからぬ、冷静さのない捨てゼリフだった。僕は悲しさをこらえ、売り言葉に買い言葉で、捨てゼリフを返した。

「…どっちみち転校して広島へ行かなくちゃいけないんだよ。縁なんて、嫌でもそこで切れるんだ。」

「パァン」

乾いた音がした。僕は富山にひっぱたかれていた。今度は一同が驚いた。「これは俺からの餞別だ。ここまでしてくれた4年3組の皆の思いを無視したお前に。さ、もういい、津山、どこへでも行っちまえ。」富山の目には怒りがこもっていた。「それから…横山。お前も言い過ぎだ。転校のつらさは、社宅に住んでる俺たちなら、他人事ではないはずだ。お前の言い方はツーでなくても、相当に傷ついたはずだ。お前も、同罪だ。この場から出ていけ。」

富山は感情が昂ぶっていた。しかし、僕たち2人に対する裁きは完璧だった。原因を作った僕にはビンタ+退場処分、挑発した横山には退場処分だった。いつも温厚で人望厚い富山の最初で最後の激しい怒りを見た。言い訳の多い横山が、珍しくすんなり従った。彼も、富山が人を叩くのを見たのは初めてだったからだ。悪態をついていたアッコと泉とミサコは、口をつぐみ、姿勢を正し、下を向いた。
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