平成寄宿舎ものがたり

藤沢 南

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3人の県費留学生

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   さらに一年前。一昨年の今頃。中学3年生の諸岡百合子は、勉強に熱心な女子生徒だった。彼女は中学生時代にあまり男の子と交流をしてこなかった。諸岡は成績優秀、容姿端麗で、周りにいた中学生の少年たちは気軽に声をかけられる存在ではなかったようである。ラブレター等はたくさんもらった彼女も、中学生の間は特定のボーイフレンドは見つけられずじまいだった。彼女に釣り合うレベルの少年が周りにいなかったのか、それとも諸岡百合子が周りの少年に興味を示さなかったのか…。

県費留学生は、諸岡の他に男子生徒が2人いた。1人は浦和の男子校の県立高校生で、この少年も優秀だったが、スポーツが苦手のようで、スポーツ関係の誘いは1週間で途絶え、楽器を演奏するのが好きな仲間とつるんでいることが多かった。あまり女子生徒との関わりはないようだった。彼は英語が苦手だが、数学が得意で、言葉が通じないなりにも数学の難しい問題を教えていた。諸岡はそんな彼の様子を見て、英語そのものに対する考えが変わった。
「所詮、言葉なんて道具だ。」
その県立の男子高生は音楽と数学でラ=ファイエット高校の生徒たちと交流しているからだ。
『日本人は英語を過大評価してはいないだろうか。』この彼女の意識が、帰国後、台湾出身の同級生、関麗華への関心を芽生えさせる事になった。

もう1人の県費留学生は、埼玉県在住だが、東京の私立名門高校に通う生徒だった。
全国的に有名な開邦高校の生徒で、開邦高校は共学ということもあり、彼は女子生徒との交流も自然体で楽しんでいるようだった。
「ユーリは英語がうまいな。」
「あなただって。女の子たちといつもおしゃべりしているじゃない。」
「いや。俺、英語もフランス語も大して喋れない。ジェスチャーが多いかな。」
その後諸岡はその「開邦の男の子」とラ=ファイエットの女子生徒たちが会話をしている様子を観察したが、確かにジェスチャーは多いものの、そんなに彼は英語もフランス語も喋れないとは思えない。
諸岡は彼をしばらく観察していたが、ラ=ファイエットの女子生徒がその謎を教えてくれた。
「彼、男前じゃない。それだけの事よ。ユーリは、彼がハンサムだと思わないの?」
なーんだ、と諸岡は苦笑したが。彼女はあまり男の子を顔だけで判断しない傾向があり、「私、彼の顔は好みじゃないからね…」とごまかしておいた。しかしそれはうまくラ=ファイエットの女子生徒に伝わらず、開邦高校くんは『カナダの女の子の好む顔』という結論に落ち着いたようだ。
そうは言っても、日本人女性の性というものか、大多数の他人が「イイ!」というものは何となく、「イイかも…」と流されてしまう。諸岡は、この短期留学の終わる頃には、ラ=ファイエットの男子高生のみならず、その開邦高校生とも仲良くなっていた。
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