国道7号線家族

藤沢 南

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告白

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  小鹿先輩は「はー、」と一呼吸置いてから話し始めた。

 「嫌よ。私、あなたの事が大好きなんだから。」「私のことが好きだと言われても、とても迷惑なんです」「何言ってるの、みんな私たちの事、仲良い先輩後輩としか見てないわよ。スキンシップぐらいいいじゃない。女同士なんだし。それに、私、一線は超えてないよね。あなたの寮まで押しかけていくことはないし、時間外でメールやらラインやら仕事以外で送ったことはないでしょう。」確かにそうだ。小鹿先輩は求愛はものすごいが、そういった犯罪すれすれの粘着性の行動をとることはない。それをしたら、それこそ小鹿先輩がこの病院にいられなくなる。「あなたがそのラブラブな彼氏とうまくいかなくなった場合も考えられるでしょう。その時は。」「そんな不吉なこと言わないでください!」彼女はムキになって言い返した。「…その時は新潟には返さないから。私と一緒に、ここ静岡で頑張ろう、ねっ。」小鹿先輩は彼女の手を取り、自分の胸に押し当てた。「!?ちょっと、小鹿さん、何しているんですか。やめてください!」「…ふふっ。あなたも私の胸触ったね。これでおあいこね。どう?わたしのチチ」どう、と言われても…。…結構いい形してる…はっ!危ない危ない。しかもチチ、なんて口走ったこの女。オヤジかっ。彼女が戸惑っている間に、小鹿先輩はたたみかけた。「あなたが彼氏と別れたら、私があなたと付き合うの。恋人になるの。だから、ここであなたを押し倒したり、しないから安心して。正々堂々、あなたの心をもらっていくから。」そう言って小鹿先輩はナース服をさっそうと翻し、女子トイレから出て行った。

「はーあぁぁぁぁぁ。」

 彼女はその場にうずくまった。ちょうどその時に、別の同僚看護師が女子トイレに入ってきた。「どうしたの?気分悪いの?大丈夫?」同僚はうずくまる彼女に驚いて声をかけた。なんでもっと早く入ってこないのだ。間が悪い。「ちょっとね…。」彼女は力なく顔を上げた。同僚は彼女の顔色に驚き、しかし彼女の心をえぐってしまった。「ちょうど今、小鹿さんとすれ違ったの。呼んでこようか。」この同僚も、小鹿先輩は彼女の姉貴分だと信じて疑わないおバカさんだった。「いい」「そう、じゃ医務室行こうか。」「それもいい」「じゃ…」この子はいい子だけど、天然すぎる。少しは察してくれ。このままだと事態がややこしくなる。彼女は立ち上がった。「さ、仕事仕事」「大丈夫なの?」「うん、ちょっとめまいがしただけ」
  
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