青い耳鳴り

ぼくる

文字の大きさ
1 / 1

First Breath After Coma

しおりを挟む
 耳鳴りはスタッカートでもついてるみたいに頭の中心を刺してくるから、心持ち頭を垂れた。
 そうすれば止まるかと思ったけど、すぐに気づいた。
 これは良い耳鳴りだって。

 視覚が聴覚を肩代わりしてくれたなら、いくつもの雄大な景色が広がっていたんだろう。
 遠い国のどこか。山並みを撫でながら、早回しで流れる雲。
 空は両腕を広げて、雲のゆくままに小脇を空ける。
 別に期待してたってわけじゃない星空が透けて見えて、私が勝手に心地よくなる。
 空って、ずるい。
 これ見よがしじゃなく、聞えよがしじゃなく、綺麗なものを見せるからずるい。
 勝手に街を見下ろして、そこに天があると見せかけるからずるい。
 信じられるものなんてないのに、いかにもそれがあるように容赦なく広がるからずるい。
 耳鳴りは雲間を覗けばまだ鳴っている。
 
 空が見下ろす街並みは、速き早き捷し。
 タクシーの走行音も、スマホを弄る指も、雑踏も、間断なく都会の窓ガラスがまねっこする。
 見渡せる街並みのなかで一番強いのは信号だった。赤くて青い信号機の中の人――調べて出てきた名前はアンペルマン。
 もしギュッと抱きしめられる誰かを選ぶとなれば、アンペルマンがいい。
 彼が青いところと赤いところを、同時に見られたらなんて思う。
 でもそれが出来ないことが分かってるから、生きづらい。
 忙しない流動に目を奪われて、聴くのを忘れていた。
 耳鳴りは他の音楽に紛れながら、それでもまだまだ鳴っている。

 全部、流れのせいにしようと思った。
 そう思い至った瞬間、バスドラム染みた動悸が鳴って耳鳴りを隠す。
 他のいくつもの人が、街が、風景が流れてるから、流れるのを続けなくちゃならない。
 続けてきたってだけで、続けなくちゃならない。
 続けさせられたのは流れのせいだ。
 続くことを祈らない人たちが、それでも祈り続けてる。
 どれもこれも、流れのせいだ。
 だから私はとりあえず、動悸の合間を縫って響く耳鳴りを探す。

 いずれにしたって、今この瞬間の信号は、青かった。
 青が赤になったところで耳鳴りが続いてしまうことを分かっていても、今はとにかく青だった。
 今度は耳に目の肩代わりをしてもらおう。
 だから広がれ空。広がれよ、もっと空。
 流れ続けることが許されるくらいには。


 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

一途な恋

凛子
恋愛
貴方だけ見つめてる……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...