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Take Me Somewhere Nice
しおりを挟むエモさばっかし探し疲れて、寝ぼけマナコをこすり損ねてもう昼だった。
片付けらんないコンビニの袋の価値は三円。
アラーム通りに起きれないわたしの価値はたぶん右肩下がり。
片手をもう片方の手から垂直にあげて「ありがとう」
鼻筋をつまむみたいに形にしてから、そろえた指を顔の正面で下ろせば「ごめんなさい」
そんな手話だけで輝けるような自分の晴れ舞台を夢にして飯を食う。
建前と本心の間で揺れるわたしをがっちり抑えてくれる手話でのワンマンライブ。
言葉を探す必要もなくって、奇をてらった言葉を使う必要もなくて、シンプルで心地いい。
だけど現実は、イヤホンで塞ぎっぱなしの自分が見たくないから鏡を避ける日々。
人とすれ違うときとおんなじ素っ気なさ全開で、鏡の前を通る。
急いでスティックパンを飲み込んで、一日はこれからって時にはもう夜だった。
「やっば」
とりあえずそんな感じのこと口にして、危機感抱いた振りをする。
なんだかヤバイ自分をそれでもとにかく意識できてる。だから大丈夫。
そう言い聞かせてるってことだけは知らない振り。
世界中の人間が持ってる卒業アルバムという卒業アルバムから、自分を消したいなんて想いも押し殺す。
そうしないと、まぁやってけない。
自分らしさがどこかにあるって、エモさがどっかにあるって思いこむことを飯にして食う。
そんで生きる。
パーカーとジーンズとサンダルとコインランドリーと洗濯物はあるけど、わたしは多分いなかった。
そこに自分の入る余地は、エモさがあってようやく生まれてくるもんで。
エモくないからわたしはわたしじゃないし、そこに在るのはパーカーとジーンズと……エトセトラだけというわけで。
こんなんでも生活を続けていられるのは、大学の不合格通知が届いた直後のキャトルミューティレーションのせい。
あの時、UFOがわたしから言葉を根こそぎ搾り取ったおかげで喋れなくなった。
なにか話そうとすれば、雪の上で夏服に袖を通すみたいな違和感だけがつのる。
「わたし、大学おちて、かなしい」
ママはそう言ったわたしを優しく抱きしめてくれたけど、わたしの本当に言いたかったことは全部UFOに吸い込まれた。
確かにわたしは悲しかったけど、本心では精一杯悲しめる出来事に見舞われた自分に酔いしれようとした自分もいた。
大学に落ちたから、わたしは誰よりも悲しい女子で、その点ではサイキョウなんだ。
世の中の悲しい出来事の全部を、わたしは大学不合格という一つの事実にギュウギュウ詰め込んだ。
そんなわたしをママが良く思わないことは知ってた。
だから私はママに知られたくない自分も、ママに聞かれたくない言葉も、UFOの中に押し込んだ。
それは紙皿みたいな形のUFO。真っ白で、ランプが三個くらいついていて、洒落たWiFiルーターみたいなの。
そこから宇宙人を登場させたってもうエモくはない。
だから溜息一つこぼすと同時、コインランドリーに緑色のスライムみたいな宇宙人が入ってきてもわたしはまだ背景だった。
「ニョ~。フンニョっ、ニョッニョッウ」
ダンディな声だった。
多分なんかの予防接種は受けたかどうかとか、そんな世間話を振ってきたっぽい。
意味のつかみ取れないまま、わたしは愛想笑いで返した。
「ニョっ、ドォルゥニニョッ」語尾にクエスチョンマークを付けたみたいな言い方で宇宙人は言う。
わたしは苦笑いしながら、首を傾げることしかできない。
「ニョッニョッニョッ」ハッハッハッとでも言いたげな感じに宇宙人は笑う。
わたしは黙ったまま、自分の困惑ぶりをどう示そうとするかに大忙しだった。
「ニョウェ! アブレッ!」と、いきなり切羽詰まったような口ぶりでわたしに顔を近づける。
それでも黙ったまま、わたしはスマホを取り出して緊急アラームを鳴らそうとした。
「アブッ! アブレッ!」
もう汗だくになっている宇宙人を前に、わたしは沈黙を貫いた。沈黙は金、雄弁は……。
――途端に、宇宙人は目の前で爆散した。スライム状の液体が体中に飛び散って気持ち悪かった。
コインランドリー内がうるさすぎるくらい静かになった。
パーカーとジーンズとサンダルと洗濯物。そしてスライムにまみれた体だけで生きれてしまうような帰り道。
死んでしまった宇宙人のUFOはそれでも浮かんでいて、もうどうでもいいやって思った。
靴ん中に石入ってた。
けど立ち止まったら、まずい気だとか沈黙の圧に耐え切れなかったあの子みたいに爆散してしまいそう。
それでも痛いのは仕方ないことだとか、そう認める自分を意識したくない。
だから歩いてる。
組んだり小突いたりできるような肩のある静けさが。
そいつが死んでしまったって事実がバズるまで。
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