龍生

風蓮華

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番外編

初めて色を見た日

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 私には唯一の友達がいた。
 生まれつき病弱だった私は、入院生活を余儀なくされていた。
「外へ行くと危ないから」
「外は私の命を奪ってしまう所だから」
そう言い聞かされ、私は病院の外を歩いたことが無かった。それはまるで白い箱に閉じ込められた様で、気味が悪かったがいつしか慣れてしまった。

 ある日、廊下で少年と目が合った。同い年くらいの白髪の少年。同じ入院服を着こなしていた。背丈はあまり変わらず、発育が良くなさそうな、不健康そうな第一印象を受けた。
その時、自分でも不思議だった。声をかけるつもりなんてこれっぽちもなかった。
けれど、言葉が口から溢れていた。話しかけていたのだ。

「おはよう、君も入院してるの?」

少年は目を見開いた後、数回頷いた。そして見た目にそぐわない低音で言葉を紡いだ。

「君も…なんだね」

私もゆっくり頷いた。
 最初は廊下ですれ違う度に挨拶をする程度だったが、いつしか二人はお互いの病室に出入りする関係になっていた。

「いつしか元気に外を駆け回ってみたいの」

私がそう言えば彼は優しい笑みを浮かべて必ず肯定してくれる。

「うん、君になら出来るよ」

私は少しずつ背が伸びて、肥えてきた。彼は出会った時からずっと変わらない見た目をしていた。


 ついに私の退院日が決まったらしい。両親が大喜びして舞い踊っていたのを見た。両目に大粒の涙を浮かべて。
そう、私に白以外の色を見る日が来たのだ。見たい。見たい。そうだ、彼に報告をしなければ。
慌てて彼の部屋に駆け込む。

「ねぇ!退院日が決まったの!」

乱暴にドアを引き、息絶え絶えに伝えた。少年は驚いたのか、口をぽかんと開け、手に持っていた本を床に落としていた。

「そうなんだね、おめでとう」

彼は表情を一変させ、ベッドから降りようとするが、私は無理しないで、と布団の中へ促す。彼が安静にしているのを確認してそれでね、と続きを話す。

「退院日、最後に会いたいの」

彼は間髪いれず返事をする。

「俺もだよ。受付で待ってて、絶対会いに行く」

嬉しさのあまり、彼に抱き着く。本当ならここで寝泊まりしたいところだが、看護師さんに怒られてしまう。そう思い、彼に「また明日ね」と軽い挨拶をして渋々自分の部屋へと戻る。
病院のベッドに寝転ぶ。硬くて質素な白一色の物だが、これが最後かと思うと少し寂しい。ふと時計を見ると既に日にちが変わっていた。
もうになっていたんだ。もう夢から覚めたら、私は色を見れるんだ。楽しみにする気持ちを押し殺して、深い眠りにつく。途中、部屋の外が騒がしかったが、睡魔には勝てず意識はそのまま沈んだ。






 彼が亡くなった。その日は私の退院日だった。
ずっと病院の受付で彼を待っていた。やって来たのは、彼の専属医であった大人だった。淡々と私に彼の事を告げた後、何事もなかったかのように業務へと戻った。


人気の無くなった病院の庭で、ただ一人の少女が立ち尽くしていた。ぼうと空を見上げ、音も無く泣いていた。声は出なかった。
やっと憧れていた外の世界。目一杯の色が押し寄せてくる。見たかったはずなのに、ずっと待ち焦がれていたはずなのに。全ての色が滲み霞んで見えた。

「こんなの…私が見たかった色じゃっ…ないよ」

-私は君と一緒に、この世界の色を見たかった。
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