2 / 2
番外編
初めて色を見た日
しおりを挟む
私には唯一の友達がいた。
生まれつき病弱だった私は、入院生活を余儀なくされていた。
「外へ行くと危ないから」
「外は私の命を奪ってしまう所だから」
そう言い聞かされ、私は病院の外を歩いたことが無かった。それはまるで白い箱に閉じ込められた様で、気味が悪かったがいつしか慣れてしまった。
ある日、廊下で少年と目が合った。同い年くらいの白髪の少年。同じ入院服を着こなしていた。背丈はあまり変わらず、発育が良くなさそうな、不健康そうな第一印象を受けた。
その時、自分でも不思議だった。声をかけるつもりなんてこれっぽちもなかった。
けれど、言葉が口から溢れていた。話しかけていたのだ。
「おはよう、君も入院してるの?」
少年は目を見開いた後、数回頷いた。そして見た目にそぐわない低音で言葉を紡いだ。
「君も…なんだね」
私もゆっくり頷いた。
最初は廊下ですれ違う度に挨拶をする程度だったが、いつしか二人はお互いの病室に出入りする関係になっていた。
「いつしか元気に外を駆け回ってみたいの」
私がそう言えば彼は優しい笑みを浮かべて必ず肯定してくれる。
「うん、君になら出来るよ」
私は少しずつ背が伸びて、肥えてきた。彼は出会った時からずっと変わらない見た目をしていた。
ついに私の退院日が決まったらしい。両親が大喜びして舞い踊っていたのを見た。両目に大粒の涙を浮かべて。
そう、私に白以外の色を見る日が来たのだ。見たい。見たい。そうだ、彼に報告をしなければ。
慌てて彼の部屋に駆け込む。
「ねぇ!退院日が決まったの!」
乱暴にドアを引き、息絶え絶えに伝えた。少年は驚いたのか、口をぽかんと開け、手に持っていた本を床に落としていた。
「そうなんだね、おめでとう」
彼は表情を一変させ、ベッドから降りようとするが、私は無理しないで、と布団の中へ促す。彼が安静にしているのを確認してそれでね、と続きを話す。
「退院日、最後に会いたいの」
彼は間髪いれず返事をする。
「俺もだよ。受付で待ってて、絶対会いに行く」
嬉しさのあまり、彼に抱き着く。本当ならここで寝泊まりしたいところだが、看護師さんに怒られてしまう。そう思い、彼に「また明日ね」と軽い挨拶をして渋々自分の部屋へと戻る。
病院のベッドに寝転ぶ。硬くて質素な白一色の物だが、これが最後かと思うと少し寂しい。ふと時計を見ると既に日にちが変わっていた。
もう今日になっていたんだ。もう夢から覚めたら、私は色を見れるんだ。楽しみにする気持ちを押し殺して、深い眠りにつく。途中、部屋の外が騒がしかったが、睡魔には勝てず意識はそのまま沈んだ。
彼が亡くなった。その日は私の退院日だった。
ずっと病院の受付で彼を待っていた。やって来たのは、彼の専属医であった大人だった。淡々と私に彼の事を告げた後、何事もなかったかのように業務へと戻った。
人気の無くなった病院の庭で、ただ一人の少女が立ち尽くしていた。ぼうと空を見上げ、音も無く泣いていた。声は出なかった。
やっと憧れていた外の世界。目一杯の色が押し寄せてくる。見たかったはずなのに、ずっと待ち焦がれていたはずなのに。全ての色が滲み霞んで見えた。
「こんなの…私が見たかった色じゃっ…ないよ」
-私は君と一緒に、この世界の色を見たかった。
生まれつき病弱だった私は、入院生活を余儀なくされていた。
「外へ行くと危ないから」
「外は私の命を奪ってしまう所だから」
そう言い聞かされ、私は病院の外を歩いたことが無かった。それはまるで白い箱に閉じ込められた様で、気味が悪かったがいつしか慣れてしまった。
ある日、廊下で少年と目が合った。同い年くらいの白髪の少年。同じ入院服を着こなしていた。背丈はあまり変わらず、発育が良くなさそうな、不健康そうな第一印象を受けた。
その時、自分でも不思議だった。声をかけるつもりなんてこれっぽちもなかった。
けれど、言葉が口から溢れていた。話しかけていたのだ。
「おはよう、君も入院してるの?」
少年は目を見開いた後、数回頷いた。そして見た目にそぐわない低音で言葉を紡いだ。
「君も…なんだね」
私もゆっくり頷いた。
最初は廊下ですれ違う度に挨拶をする程度だったが、いつしか二人はお互いの病室に出入りする関係になっていた。
「いつしか元気に外を駆け回ってみたいの」
私がそう言えば彼は優しい笑みを浮かべて必ず肯定してくれる。
「うん、君になら出来るよ」
私は少しずつ背が伸びて、肥えてきた。彼は出会った時からずっと変わらない見た目をしていた。
ついに私の退院日が決まったらしい。両親が大喜びして舞い踊っていたのを見た。両目に大粒の涙を浮かべて。
そう、私に白以外の色を見る日が来たのだ。見たい。見たい。そうだ、彼に報告をしなければ。
慌てて彼の部屋に駆け込む。
「ねぇ!退院日が決まったの!」
乱暴にドアを引き、息絶え絶えに伝えた。少年は驚いたのか、口をぽかんと開け、手に持っていた本を床に落としていた。
「そうなんだね、おめでとう」
彼は表情を一変させ、ベッドから降りようとするが、私は無理しないで、と布団の中へ促す。彼が安静にしているのを確認してそれでね、と続きを話す。
「退院日、最後に会いたいの」
彼は間髪いれず返事をする。
「俺もだよ。受付で待ってて、絶対会いに行く」
嬉しさのあまり、彼に抱き着く。本当ならここで寝泊まりしたいところだが、看護師さんに怒られてしまう。そう思い、彼に「また明日ね」と軽い挨拶をして渋々自分の部屋へと戻る。
病院のベッドに寝転ぶ。硬くて質素な白一色の物だが、これが最後かと思うと少し寂しい。ふと時計を見ると既に日にちが変わっていた。
もう今日になっていたんだ。もう夢から覚めたら、私は色を見れるんだ。楽しみにする気持ちを押し殺して、深い眠りにつく。途中、部屋の外が騒がしかったが、睡魔には勝てず意識はそのまま沈んだ。
彼が亡くなった。その日は私の退院日だった。
ずっと病院の受付で彼を待っていた。やって来たのは、彼の専属医であった大人だった。淡々と私に彼の事を告げた後、何事もなかったかのように業務へと戻った。
人気の無くなった病院の庭で、ただ一人の少女が立ち尽くしていた。ぼうと空を見上げ、音も無く泣いていた。声は出なかった。
やっと憧れていた外の世界。目一杯の色が押し寄せてくる。見たかったはずなのに、ずっと待ち焦がれていたはずなのに。全ての色が滲み霞んで見えた。
「こんなの…私が見たかった色じゃっ…ないよ」
-私は君と一緒に、この世界の色を見たかった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる