日暮れ古本屋

楠木静梨

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三十九冊目

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 睡眠中、ふと気配を感じて目が覚める。

 直後、店の扉が開く音がする。

 羽団扇を持って静かに部屋を出て、様子を見に行く。
 しかし、既に扉は閉じており、人っ子一人居ない。

 不審に思い、気付かれぬように明かりはつけ無い状態で店内を探っていると、肩にポンと手が置かれる。

「何してんの?」

 声がすると同時に羽団扇を抜きながら振り向くと、そこにいたのは猫宮さんだった。

「え、羽団扇抜いて本当に何やってるの?」

 聞かれて、事情を説明する。

 音の原因は、まあ顔が見えた瞬間悟ったが猫宮さんと荒木寺さんが帰ってきた音だった。

 気配も同様二人のものだ。

「そっか、起こしちゃったか。
「ごめんね、わざわざ」

 猫宮さんは言う。

「いや、大丈夫ですよ。
「もう四時前ですからそろそろ起きる時間でしたし」

 言うと、猫宮さんは少し嬉しそうな顔をする。

「こんな時間だけどさ、今からって何か用事ある?」

 聞かれ、久々にジョギングに出るつもりだったが何かあるなら明日でもいいと思う。

「いえ、少し体を動かすくらいですよ」

「そっか、それじゃあ今から久し振りに手合わせしてみない?」

 予想外のお誘いだが丁度良い。
 丁度人との訓練で使ってみたい技があったのだ。

「ええ、喜んで。
「試したいこともありましたしタイミングバッチリなぐらいですよ」

 答えると、猫宮さんは僕の手を引いて一目散に地下に駆ける。

 あっという間に地下に着くと、猫宮さんは準備運動をする。

 あんなに走った後に筋肉をほぐして一体何の意味があるんだと思ったが、きっと猫宮さんの中ではあれくらい運動のうちに入らないのだろう。

 猫宮さんが一言だけ鉤爪と言うと、両の手の爪が四十センチ程伸びる。
 伸びると言うか、急成長って感じもする。

 僕も羽団扇を構えると、今回は自分から攻めてみる。

 最近、初手が相手から始まることが多い。
 猫宮さん程の速度で攻撃されると昨日のように防ぐことも難しいだろうから、敢えて自分からだ。

 猫宮さんに向かい駆けながら、風で加速する。

 右足の位置にある刃を左上に一閃。
 当然のように躱されるが想定のうちだ。

 早速、まだ誰にも見せていない隠し球を披露する。

 昨日の火吹きの左腕で感覚を掴んで試した結果、一発で成功した術。
 羽団扇からの炎噴射だ。

 元より、天狗が使っていたことから羽団扇から炎が出ることは知っていた。

 しかし、炎は日常で見る機会はあっても、自ら触れる機会などは滅多にない。

 しかし、その問題は昨日解決した。

 猫宮さん、昨日の失敗の副産物ですよ。
 自分で考えていて少し悲しいですけどそんなのは関係ない。
 炎を出せたことが問題なんですもの。

 そんな事を考えながら炎を纏った刃を振り下ろす。

 しかしそれも回避される。

 まあ当然だろう。
 だって当たらないと風と大差ないのだから。
 強いて言えば近づくと暖かい程度だ。

 猫宮さんは一度バックステップで距離を取る。

 隠し球の炎だ、今まで使っていない技を警戒したのだろう。

「目を離している隙に成長するって、宗介くんは子供かな?」

 人によっては煽りに聞こえるが、猫宮さんのことだから純粋な賞賛だろう。

「それは、どうも!」

 言いながら羽団扇を床に添うように斬りあげる。
 猫宮さんは間合いの遙か先にいるが問題ない。 

 床を添うように炎が一列引かれ、猫宮さんの元に炎が辿り着いた瞬間、爆発した。

 炎の線が妖力の通り道となり、線の先にある炎の塊を爆発させる仕組み。
 まあ、文字通り導火線ということだ。

 爆発も紙一重で避けると、猫宮さんは宙高く跳び上がった。

 宙で体を捻り、回転の勢いごと爪をこちらに振るう。

 それを風で弾き、一閃、刃を振るった瞬間、首筋に冷たいものが当たる。

「はい、お終い」

 当たっているものは猫宮さんの爪だった。

「参りました、やっぱ敵いませんね」

「いいや、中々手こずったよ。
「風を出すのも早くなってたし、成長したんだね」

 言われて、少し嬉しくなってしまった。

 それから僕たちは少し話をした。
 昨日起きたことの話や、火吹きの左腕が発動しないという相談だ。

「それってさ、言葉に妖力が乗ってないからじゃない?」

 猫宮さんは言った。

 そう言えば同じようなことを沙耶が言っていた気がする。

「言葉に妖力をって言うのは聞いたことがあるんですけど、詳しいやり方とかが分からないんですよね」

「そっか、それじゃあ先ずは声には妖力を込めなくていいから昨日やったみたいに術を使ってごらん?」

 少し不思議に思ったが、取り敢えずは言われた通り昨日と同じように術を使う。
 左腕に妖力を集め、炎をイメージする。

「火吹きの左腕」

 言うと、やはり昨日と同じように左腕に炎を纏ったような感覚だけが現れる。

「なるほど、本当に惜しいね。
「腕の妖力をここ、男の子だったら喉仏がある辺りに持ってきてごらん」

 猫宮さんは自分の喉に触れながら言う。

「あとは炎のイメージをより鮮明に、自分の腕に纏っているような姿を強く思い浮かべれば使える筈だよ」

 なるほど、言われてみたらそれで出来る気がしてきた。
 一つのやり方に拘らずに色々なパターンを試すべきだったと反省しながらイメージする。

 左腕に炎を纏う。
 皮膚と炎が一体になるような。
 僕はその炎を自由に操れる。
 当然だ、自分の腕なのだから。

 喉に妖力を集め、言う。

「火吹きの左腕」

 瞬間、左腕が炎に包まれる。

 今度ば感覚だけではない。
 目で見て、確実にそこにあると分かる。

 喉に集めた妖力はいつのまにか腕に移動しており、その妖力で炎が自分に当たらないように調節出来る。

「おお、出来た!」

 思わず声を上げた。
 すると、妖力の制御がブレて炎が自分の頬を掠る。

 熱っつ! と再度思わず声を上げるが、今度は気を抜かず制御はブレなかった。

 制御は少し難しいが、色々応用が効きそうな技だ。

「おお、カッコいい!」

 僕と同じくらい、もしくは僕以上にテンションの上がった猫宮さんが目を輝かせて言う。

 ありがとうございます、僕がそう言おうとすると、猫宮さんが一つ大きな欠伸をする。

「ごめんね、移動中寝てたんだけど寝足りなかったみたい」

 元気過ぎて忘れていたが、思い返せば猫宮さんは出張から帰ってきたばかりだ。
 疲れも溜まっているだろう。

「疲れてるだろうに付き合ってもらっちゃってすいません。
「もし嫌でないようならおぶって帰りますけど、大丈夫ですか?」

「気にしないで、私から言い出したことだし。
「でも、おんぶはお言葉に甘えちゃおうかな」

 猫宮さんは目を擦りながら言う。
 これだけ眠そうならば階段で足を踏み外す可能性もある。
 おぶるのが正解だろう。

 僕がしゃがむと、猫宮さんが首元に手を回す。
 両足を抱えて立ち上がり、階段を歩き出す。

 猫宮さんは直ぐに寝てしまったのでら起こさないように静かに揺らさぬように歩く。

 胸などが背中に当たっているが、気づいたところで心拍数が上がるわけでもなく、只々気づいただけと言った状況だった。

 数ヶ月前の僕ならばドキドキでもしたのだろうか。

 戦いやら人の死やらを乗り越えて、性欲が死滅でもしたのだろうか。
 それとも、今は強くなることに精一杯で性欲に割り振る脳の余裕がないだけだろうか。

 どちらにしろ、今の僕には関係ない話だった。
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