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ねえ雫
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アタッシュケース サングラス
「雛見ちゃん雛見ちゃん! 私、凄いもの見ちゃった!」
「へぇ、凄いじゃん」
「でしょ! やっぱり雛見ちゃんは話の分かる女だねっ!」
雫はいつも通りのハツラツさで言った。
私の返答に満足したのか、華麗なターンで振り返ってから、二歩三歩と離れて行き、何を思ったかもう一度ターン。
すぐに私の元まで戻って来る。
西部劇の一騎打ちを連想し、少し笑ってしまいそうになったものの、なんとか表情を保った。
「ねえ、何が凄かったのか聞いてよ」
「今日は気付く日か…………」
雫の知能は、日々可変する。
今の扱いで、雑に流されたと気付かない日もあれば、今日のような日もある。
ただ雑に流されたと分かった上でまあいいとしているだけの可能性もあるけれど、そこまでを私が把握する必要性は感じない。
雫は日々莫大なエネルギーを消費しながら生きている。
日々省エネな私とは対極な生き物。
それだけを把握していれば、問題はないのだ。
「で、何が凄かったの?」
「よくぞ聞いてくれたっ!」
この話は、思い通りに聞いてやるまで終わらないだろう。
私は頬杖を突き、雫の話を聞く態勢を整えた。
それを見た雫は意気揚々と、机に両手を突き、前のめりになり、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
「それがですね? なんと、うちの学校にエージェントが侵入しているんだよっ!」
「よくエージェントなんて難しい言葉知ってるね」
「私を馬鹿にし過ぎだよ雛見ちゃんっ!」
雫は怒ったような素振りで騒ぐが、ただ騒いでいるだけ。
表情をちゃんと見れば、いつも通りに楽し気だ。
「エージェントって、メン・イン・ブラックみたいな? それかミッション:インポッシブルとか、キングスマンみたいな」
「どれかと言えばメインブラックかなあ」
「スーツに黒サングラス?」
「そう、しかも二人組で、揃っておそろっちのアタッシュケース持ちだったんだよ。こんなの絶対エージェントだと思わない!? 大統領からの命令で、何か機密情報を盗みに来たに違いないよっ!」
「うちの学校ある機密情報って何さ…………」
私達の通う学校に、大それたものなどありはしない。
そんな当然の事を、つい呆れて口に出してしまった。
すると雫は、水を得た魚、或いはフリスビーを見つけた大型犬ののように目を輝かせ――――表情だけで、この馬鹿話を広げていくぞと雄弁に語る。
「色々あるよ、機密情報」
「…………例えば?」
「例えば? 待ってね、今考えるから」
思いついてから言って欲しい。
私がそう思ていると同時に、雫が考える人の像と同じポーズで、雫が頭を悩ませる。
思いつくアイディアは当然全てが学校規模で、銀幕に映る程のエージェントが遣わされるに値しないものばかりであろう。
「例えば、何で購買のカレーパンは、ひき肉じゃなくて汁っぽい方のカレーなのかっ!」
「そうなの?」
「ううん。そもそも私お弁当派だから、購買にカレーパンがあるのかも知らない」
「気にして損した」
「雛見ちゃん、意外と簡単に騙せるよね」
「雫にだけは言われたくないね」
「その雫に騙されたのが雛見ちゃんだよ」
誇らしげに胸を張る姿を見ていると、少し腹が立つ。
それをどう発散してやるかは、すぐに決まった。
「そっか、じゃあエージェントが居たって話も嘘かな。少し気になってたのに残念」
「え、待ってよ雛見ちゃん。それは嘘じゃないから、もうちょっと話しよ? ね?」
期待した通りの反応をしてくれる。
慌てふためき、数秒前までの様子から一転し、コロコロと表情を変える――――雫などという可憐な名前とは程遠く、雫は可愛らしい人間だ。
「そういえば今日バイトのシフト入ってたっけな。そろそろ行かないとなぁ」
「シフトなんて入ってないよ雛見ちゃん! 私達同じバ先なんだから知ってるよ雛見ちゃん! なんで立ち上がるのさ。帰ろうとしないでよ雛見ちゃん!」
興が乗って、試しに帰り支度を始めてみると、そんな私を食い止めるべく、雫が私のシャツへ縋りつく。
その必死さ加減を見ていると、元々そこまででもなかったイラつき、延いては悪戯心が満たされる。
満足して雫の顔を見ると、僅かながら泣きべそをかき始めていた。
ここいらが潮時ということだ。
私はチョップ一つで雫をシャツから引き剥がすと、いよいよ帰り支度を済ませて、教室の扉前まで行く。
雫のテンションを持ち直すには、この程度の演出で充分だ。
「ねえ、エージェントが居た場所見に行こうとか言い出すと思ってたんだけど、違うの?」
「…………っ! 違わないよっ、雛見ちゃん!」
扱いの簡単な奴というのは、ありがたい。
雫は、自分の荷物を詰め込んだ鞄を取って帰り支度を済ませると、駆け足で私の元まで。
健気にも、ダラダラと歩く私に歩幅を合わせようとする姿を見ていると、嫌に気が滅入ってしまう。
「で、エージェント、どこいたの?」
「三階の女子トイレ前っ!」
「それ不審者なんじゃないの?」
「そもそもエージェントって存在が不審だと私は言いたいね。ずぅとコソコソ何かやっててさ」
「あいつらはコソコソするのが仕事だからね」
「堂々としてるエージェントは変?」
「どうだろ…………変装して進入中とかなら、雫ぐらい堂々としてても変じゃないかも」
「へえ。雛見ちゃん、私の変装を見破っていたんだね」
悪い顔をして、雫は言った。
茶番をしますと口に出して言っているようなものだ。
これも、付き合ってやるまで終わらない展開なのだろう。
「ずっと前からね」
「へっへっへ。バレちゃあしょうがない。撤退っ!」
「転ぶなよ」
駆け出した雫に私が言ったのも束の間、雫は見えないバナナを踏んだのではと思う程に綺麗なフォームで滑り、床に全身を打ち付けた。
しかも顔から、ふぎゃあと声を上げながら。
「雫、怪我は? 今顔面からいったように見えたけど」
「ふへへ、コケちゃった」
私は省エネなだけで、何も人の心が無いわけではない。
目の前で人が転んだならば、心配もする。
だけれど、雫はそんな私の気も知らずか、転んでなお楽しそうに、力の抜けるような声で言った。
怪我も無いようだし、一先ず大事は起きていないだろう。
雫に手を貸し、立ち上がらせ、服についた埃を払ってやる。
「歩ける?」
「私ってば丈夫に出来てるから、ヨユ~だよ」
その言葉を裏付けるように、雫は軽い足取りで数歩進んで見せ、廊下の曲がり角で止まる。
ほらね、とでも言われるものかと思っていたが、実際の雫は廊下の先を見た瞬間固まって、唖然としながら角の先を指さす。
「どうした? やっぱりどこか痛むとか――――」
私は雫に追いついて、指の指す方向を見た
見えた光景は確かに驚愕するに値するものだった。
廊下に二人、スーツ姿にサングラスと、片手にアタッシュケースを持った男達。
つまりは、エージェントが居たのだ。
「うっわ、マジじゃん」
「ねっ! 居たでしょ雛見ちゃん、エージェントっ!」
「居たね…………って、何だ」
一度は驚いたものの、よく見れば見慣れた顔だ。
同じクラスの男子、宇埜と墨田――――それさえ確認すれば、あの格好も説明がつく。
そもそも、雫からエージェントが出没した場所を聞いた時点で気付けたかもしれない。
「宇埜と墨田じゃん。演劇部の助っ人?」
「ああ、よく分かったな。出演予定のヤツが風邪らしくて、手伝い頼まれた」
声を掛けると、宇埜が少し気恥ずかしそうに答える。
すると、遅れて全てを理解した雫は、墨田の元へ――――その格好、演劇の演目について、質問攻めを開始した。
聞かれる側の墨田は、宇埜と違って羞恥心の欠片もなく返答している。
雫のテンションに少しの遅れも無く対応できる人間は、世界で墨田ぐらいかも知れない。
「二人は、今帰りか?」
「ぼちぼちね」
宇埜は落ち着いた声で私に声を掛け、私もそれに言葉を返す。
私程の省エネでは無いにしろ、宇埜も常無駄なエネルギーを消費するタイプではないので、話していて楽な相手だ。
「相変わらずお前らは仲が良いな。知り合ったの高校来てからだろ?」
「うん。宇埜は雫と同中なんだっけ?」
「小学からだな」
「長いね。雫、昔っから友達多かったでしょ?」
言ってから、後悔した。
知ってどする? 何が聞きたい? 何がしたい?
目的も無く、何となくで放った問い――――その答えは、どうあろうと私の身を焦がすだろう。
「まあな。でも、アイツがあんなに懐いた相手はお前ぐらいだよ」
「へえ。じゃあさ――――」
想定外に、喜ばしい言葉が帰って来た。
それに安心した。してしまった。
だから、私らしくなく、学ばず調子に乗ってしまった。
けれど、そんな行動の因果応報を喰らうより早く、チャイムの音が響く。
言葉を遮られ、私はようやく自分が口にしようとした問二の危うさに気付いた。
「そろそろ、俺達戻るわ」
「そっか。じゃあまた明日」
「おう」
宇埜が教室の中に戻ると、雫と話していた墨田も後を追って行く。
教室の中から練習が再開された声が聞こえると、廊下は私と雫、二人だけの空間に戻った。
「あの二人、スーツ似合ってて格好良かったね」
「何、雫ってああいうのが好きなの?」
「大人っぽくて嫌いじゃあないけど…………もしかして、妬いた?」
その後付けに、私の心臓は絞めつけられた。
一瞬、嫌が表情に漏れ出すけれど、すぐに平然を取り繕い。
何か言葉を返そうとするけれど、何も浮かばない。
私は家へ帰りたくなり、無言のまま昇降口目掛け歩き始める。
雫の言葉に苛立ったからでも、図星だったからでもなく、居た堪れなくなったから。
「あっ、雛見ちゃん置いてかないでっ!」
私の心中など露知れず、雫は追いついて来て、歩幅を合わせて笑った。
その行為が、無垢に私を追い詰める。
悪意の欠片も含まずに、友情だけを持ってして。
雫の事が好きなのかと、誰かが私に聞いたとする。
すると私は僅かな躊躇いの後、いつものようにため息を溢してから答えるのだ。
お前の事が、世界で一番嫌いだと。
「雛見ちゃん雛見ちゃん! 私、凄いもの見ちゃった!」
「へぇ、凄いじゃん」
「でしょ! やっぱり雛見ちゃんは話の分かる女だねっ!」
雫はいつも通りのハツラツさで言った。
私の返答に満足したのか、華麗なターンで振り返ってから、二歩三歩と離れて行き、何を思ったかもう一度ターン。
すぐに私の元まで戻って来る。
西部劇の一騎打ちを連想し、少し笑ってしまいそうになったものの、なんとか表情を保った。
「ねえ、何が凄かったのか聞いてよ」
「今日は気付く日か…………」
雫の知能は、日々可変する。
今の扱いで、雑に流されたと気付かない日もあれば、今日のような日もある。
ただ雑に流されたと分かった上でまあいいとしているだけの可能性もあるけれど、そこまでを私が把握する必要性は感じない。
雫は日々莫大なエネルギーを消費しながら生きている。
日々省エネな私とは対極な生き物。
それだけを把握していれば、問題はないのだ。
「で、何が凄かったの?」
「よくぞ聞いてくれたっ!」
この話は、思い通りに聞いてやるまで終わらないだろう。
私は頬杖を突き、雫の話を聞く態勢を整えた。
それを見た雫は意気揚々と、机に両手を突き、前のめりになり、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
「それがですね? なんと、うちの学校にエージェントが侵入しているんだよっ!」
「よくエージェントなんて難しい言葉知ってるね」
「私を馬鹿にし過ぎだよ雛見ちゃんっ!」
雫は怒ったような素振りで騒ぐが、ただ騒いでいるだけ。
表情をちゃんと見れば、いつも通りに楽し気だ。
「エージェントって、メン・イン・ブラックみたいな? それかミッション:インポッシブルとか、キングスマンみたいな」
「どれかと言えばメインブラックかなあ」
「スーツに黒サングラス?」
「そう、しかも二人組で、揃っておそろっちのアタッシュケース持ちだったんだよ。こんなの絶対エージェントだと思わない!? 大統領からの命令で、何か機密情報を盗みに来たに違いないよっ!」
「うちの学校ある機密情報って何さ…………」
私達の通う学校に、大それたものなどありはしない。
そんな当然の事を、つい呆れて口に出してしまった。
すると雫は、水を得た魚、或いはフリスビーを見つけた大型犬ののように目を輝かせ――――表情だけで、この馬鹿話を広げていくぞと雄弁に語る。
「色々あるよ、機密情報」
「…………例えば?」
「例えば? 待ってね、今考えるから」
思いついてから言って欲しい。
私がそう思ていると同時に、雫が考える人の像と同じポーズで、雫が頭を悩ませる。
思いつくアイディアは当然全てが学校規模で、銀幕に映る程のエージェントが遣わされるに値しないものばかりであろう。
「例えば、何で購買のカレーパンは、ひき肉じゃなくて汁っぽい方のカレーなのかっ!」
「そうなの?」
「ううん。そもそも私お弁当派だから、購買にカレーパンがあるのかも知らない」
「気にして損した」
「雛見ちゃん、意外と簡単に騙せるよね」
「雫にだけは言われたくないね」
「その雫に騙されたのが雛見ちゃんだよ」
誇らしげに胸を張る姿を見ていると、少し腹が立つ。
それをどう発散してやるかは、すぐに決まった。
「そっか、じゃあエージェントが居たって話も嘘かな。少し気になってたのに残念」
「え、待ってよ雛見ちゃん。それは嘘じゃないから、もうちょっと話しよ? ね?」
期待した通りの反応をしてくれる。
慌てふためき、数秒前までの様子から一転し、コロコロと表情を変える――――雫などという可憐な名前とは程遠く、雫は可愛らしい人間だ。
「そういえば今日バイトのシフト入ってたっけな。そろそろ行かないとなぁ」
「シフトなんて入ってないよ雛見ちゃん! 私達同じバ先なんだから知ってるよ雛見ちゃん! なんで立ち上がるのさ。帰ろうとしないでよ雛見ちゃん!」
興が乗って、試しに帰り支度を始めてみると、そんな私を食い止めるべく、雫が私のシャツへ縋りつく。
その必死さ加減を見ていると、元々そこまででもなかったイラつき、延いては悪戯心が満たされる。
満足して雫の顔を見ると、僅かながら泣きべそをかき始めていた。
ここいらが潮時ということだ。
私はチョップ一つで雫をシャツから引き剥がすと、いよいよ帰り支度を済ませて、教室の扉前まで行く。
雫のテンションを持ち直すには、この程度の演出で充分だ。
「ねえ、エージェントが居た場所見に行こうとか言い出すと思ってたんだけど、違うの?」
「…………っ! 違わないよっ、雛見ちゃん!」
扱いの簡単な奴というのは、ありがたい。
雫は、自分の荷物を詰め込んだ鞄を取って帰り支度を済ませると、駆け足で私の元まで。
健気にも、ダラダラと歩く私に歩幅を合わせようとする姿を見ていると、嫌に気が滅入ってしまう。
「で、エージェント、どこいたの?」
「三階の女子トイレ前っ!」
「それ不審者なんじゃないの?」
「そもそもエージェントって存在が不審だと私は言いたいね。ずぅとコソコソ何かやっててさ」
「あいつらはコソコソするのが仕事だからね」
「堂々としてるエージェントは変?」
「どうだろ…………変装して進入中とかなら、雫ぐらい堂々としてても変じゃないかも」
「へえ。雛見ちゃん、私の変装を見破っていたんだね」
悪い顔をして、雫は言った。
茶番をしますと口に出して言っているようなものだ。
これも、付き合ってやるまで終わらない展開なのだろう。
「ずっと前からね」
「へっへっへ。バレちゃあしょうがない。撤退っ!」
「転ぶなよ」
駆け出した雫に私が言ったのも束の間、雫は見えないバナナを踏んだのではと思う程に綺麗なフォームで滑り、床に全身を打ち付けた。
しかも顔から、ふぎゃあと声を上げながら。
「雫、怪我は? 今顔面からいったように見えたけど」
「ふへへ、コケちゃった」
私は省エネなだけで、何も人の心が無いわけではない。
目の前で人が転んだならば、心配もする。
だけれど、雫はそんな私の気も知らずか、転んでなお楽しそうに、力の抜けるような声で言った。
怪我も無いようだし、一先ず大事は起きていないだろう。
雫に手を貸し、立ち上がらせ、服についた埃を払ってやる。
「歩ける?」
「私ってば丈夫に出来てるから、ヨユ~だよ」
その言葉を裏付けるように、雫は軽い足取りで数歩進んで見せ、廊下の曲がり角で止まる。
ほらね、とでも言われるものかと思っていたが、実際の雫は廊下の先を見た瞬間固まって、唖然としながら角の先を指さす。
「どうした? やっぱりどこか痛むとか――――」
私は雫に追いついて、指の指す方向を見た
見えた光景は確かに驚愕するに値するものだった。
廊下に二人、スーツ姿にサングラスと、片手にアタッシュケースを持った男達。
つまりは、エージェントが居たのだ。
「うっわ、マジじゃん」
「ねっ! 居たでしょ雛見ちゃん、エージェントっ!」
「居たね…………って、何だ」
一度は驚いたものの、よく見れば見慣れた顔だ。
同じクラスの男子、宇埜と墨田――――それさえ確認すれば、あの格好も説明がつく。
そもそも、雫からエージェントが出没した場所を聞いた時点で気付けたかもしれない。
「宇埜と墨田じゃん。演劇部の助っ人?」
「ああ、よく分かったな。出演予定のヤツが風邪らしくて、手伝い頼まれた」
声を掛けると、宇埜が少し気恥ずかしそうに答える。
すると、遅れて全てを理解した雫は、墨田の元へ――――その格好、演劇の演目について、質問攻めを開始した。
聞かれる側の墨田は、宇埜と違って羞恥心の欠片もなく返答している。
雫のテンションに少しの遅れも無く対応できる人間は、世界で墨田ぐらいかも知れない。
「二人は、今帰りか?」
「ぼちぼちね」
宇埜は落ち着いた声で私に声を掛け、私もそれに言葉を返す。
私程の省エネでは無いにしろ、宇埜も常無駄なエネルギーを消費するタイプではないので、話していて楽な相手だ。
「相変わらずお前らは仲が良いな。知り合ったの高校来てからだろ?」
「うん。宇埜は雫と同中なんだっけ?」
「小学からだな」
「長いね。雫、昔っから友達多かったでしょ?」
言ってから、後悔した。
知ってどする? 何が聞きたい? 何がしたい?
目的も無く、何となくで放った問い――――その答えは、どうあろうと私の身を焦がすだろう。
「まあな。でも、アイツがあんなに懐いた相手はお前ぐらいだよ」
「へえ。じゃあさ――――」
想定外に、喜ばしい言葉が帰って来た。
それに安心した。してしまった。
だから、私らしくなく、学ばず調子に乗ってしまった。
けれど、そんな行動の因果応報を喰らうより早く、チャイムの音が響く。
言葉を遮られ、私はようやく自分が口にしようとした問二の危うさに気付いた。
「そろそろ、俺達戻るわ」
「そっか。じゃあまた明日」
「おう」
宇埜が教室の中に戻ると、雫と話していた墨田も後を追って行く。
教室の中から練習が再開された声が聞こえると、廊下は私と雫、二人だけの空間に戻った。
「あの二人、スーツ似合ってて格好良かったね」
「何、雫ってああいうのが好きなの?」
「大人っぽくて嫌いじゃあないけど…………もしかして、妬いた?」
その後付けに、私の心臓は絞めつけられた。
一瞬、嫌が表情に漏れ出すけれど、すぐに平然を取り繕い。
何か言葉を返そうとするけれど、何も浮かばない。
私は家へ帰りたくなり、無言のまま昇降口目掛け歩き始める。
雫の言葉に苛立ったからでも、図星だったからでもなく、居た堪れなくなったから。
「あっ、雛見ちゃん置いてかないでっ!」
私の心中など露知れず、雫は追いついて来て、歩幅を合わせて笑った。
その行為が、無垢に私を追い詰める。
悪意の欠片も含まずに、友情だけを持ってして。
雫の事が好きなのかと、誰かが私に聞いたとする。
すると私は僅かな躊躇いの後、いつものようにため息を溢してから答えるのだ。
お前の事が、世界で一番嫌いだと。
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