異世界最強の〝強王〟はお友達が欲しい

ましゅ / MaSu GAR

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第一章:最強の〝強王〟 脱走計画を実行する

王は普通を望んでいる

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     ***

 まずは、アルス自身、自らの欲望を振り返る必要があるだろう。
 第一に、一つ、「普通の生活を享受したい」。
 王としての生活ではなく、そう、民の誰もが普通に味わえる「普通」という概念に触れてみたいのだ。
 以上、ソレのみ、他に望みはない。
 だが、すべての望みは、その一つに、集約されていると言って良い。
『友達が欲しい』
 という願いも、込めて、そのすべてが「普通」への強い欲求なのである。

 王としての権威を示す、そんな街歩きを終え、アルスは王宮に帰って来た。
 そして、過ごす場所はいつもの自室であり、普段の日常では一日の時間を最も多く過ごす場所である。
 王が住まうとは思えない簡素な造りだが、ソレも、王であるアルスの意思を尊重したものであった。基本的に高級品で埋め尽くされた広い部屋というのは、嫌いであり、唯一特筆すべき点と言えば部屋の至る部分に本の数々が置いてあるところだろう。王宮の中の大図書館から拝借し、そのまま、部屋に置いてあるという訳だ。

 王として、成すべき仕事という物事は、実を言ってしまえば一つもない。

 アルスが成すべき大業とは、「力を以て世界を制する」という行為であり、その他の物事は基本的に〝本能〟の中には含まれていない。
 なので、王としての実務は、実際のところ、王直属の三人の中の一人である実務担当――アルファン・ノルン――にぜんぶ丸投げして任せている形だった。
 アルファンが王国内で表立って歩くコトは少なく、基本的には――裏方として――王宮内に籠もっているか、外交上の都合で外国に出張っているかのどちらかが多い。
 なお、彼女自身は「賢者グランドマスター」という、魔法全属性に完全適性を持つ並外れた才能を有する女性である。
 絶世の美女と言って差し支えない、そんな、見目麗しき妖艶な女性なのだが――。
 そんな彼女は、文句一つも言うコトはなく、アルスの代わりに実務を担当してくれている。

 アルスという男は「王」という「仕事」には向いていない。

 正直に言えば、戦うコトは誰よりも得意であっても、王として国を統治する力――税制や法整備など――に関しては一ミリの知識も自信もないのだ。
 やってみれば、あるいは、できるのかも知れない。
 だが、王として振る舞うだけでも精一杯なのに、ソレ以上のコトに縛られるなど、アルスとしても願い下げであったのだ。
 なので、実行力として、そういった物事が得意であったらしいアルファンにソレを「お願い」している立場なのである。

 自分の従者に仕事を丸投げして、その上で、脱走をする〝王〟とは尊敬に足る存在か?

 そのコトについてを考え、だが、色々を考えた上で今のアルスは部屋の中で着替えを淡々とこなしている。
 知ったコトじゃない。
 先ほどまで着ていた――着せられていた――黒い威圧的なロングコートだったり、獅子のような長い後ろに向けられた髪を前に下ろし、普段通りの普通の姿に戻る。
 丁寧に作られた薄い生地の白いシャツに伸縮性の良い――黒い――長ズボン、高貴さとはかけ離れた、しかし、ソレが王宮内で羽を伸ばした際のアルスの姿なのである。
 如何に王と言えど、常に気を張り続ける必要はなく、自室の中でくらいはのんびりとしたいものである。

 鏡に映る自分の姿を眺め、アルスは小さく息を零し、そして確信をする。

 この姿の自分自身であれば、きっと、城下町を歩いていたとしても〝王〟だと疑われるコトはあるまい。
 ついでに、身分を偽るために、自分自身を「冒険者」とする方が良いだろうか――。
 そうとなれば、身分を示す、武器も必要だ。
 部屋の片隅に転がっている、大剣――フランベルジュ――ではなく、小回りが利く一般的な剣――ブロードソード――の方をアルスは選択する。
 別に、アルス自身としては、剣の種類などはどうでも良い話であった。

 愛着はない。

 ただ、大剣の方は、どう考えても目立つし、城下町を動くには邪魔になる。そして、なによりも、相対する相手に対して必要以上に威圧感を与えるコトに繋がりかねない。
 ただでさえ、容姿は変えられない――抜きん出て高身長で目つきが悪い――ので、その辺りはより一層に気を付けるべきだろう。
 ついでに、シャツと長ズボンだけでは不格好なので、威圧感を抑えた淡いベージュのジャケットを羽織る。
 アルスは小さく首肯し、満足感を示し、鏡をもう一度見てから、机の上に向かって歩いて行く。
 机の上に用意していた、木の板を眺め、机に備え付けてあった太いペンを取り出す。

『〝王様はとても集中しています。なので、扉を開けたら殺します。〟』

 うん、と、満足の意を込めてアルスは首肯をする。
 そして、書いた木の板を、部屋のドアの外側に向けて貼り付けておいた。《空位魔法》を使って《重力操作》――力の方向と強弱を操作できる能力――で貼り付けておいたので、容易に剥がされるコトもなく、アルスの意図を除いて外すコトは不可能だ。
 ここまで書けば、王直属の従者三人はともかくとして、宮殿内の面々もおいそれと部屋に近づく者はおるまい。
 そうでなくとも、アルスは王であり、彼の部屋に無断で近づこうという者も少ないのである。
 あるとすれば、先述通り、直属の従者である三人――アルファン、ステーヴァン、イーサン――のみであろう。
 そんな彼らも、主がここまで書いているのだから、気安く入り込むような真似はするまい。

「(後は――。まぁ、なんとかなるだろう)」

 後の思考をアルスは放棄した。
 アルスがこうした行動を取ろうと決めたのも、昨今、特に争いの影がなく「平穏」と言って差し支えない世界であるからこそなのだ。
 今までは、ある程度、適度にアルスが出張る――力を振るって痛い目を見させる――場面があったのだが、今年はソレの兆候も見られない。
 脱走するのであれば、そう、今を逃せば他にない。
 部屋の窓際に向かい、扉をスライドし、空を見て笑みを零す。

「さて。いざ――。窓からの脱走劇を始めようかっ!!」

 窓を抜け、《空位魔法》の《重力操作》で身体を宙に浮かせ、アルスは空を駆けて抜けた。
 新しい日々に、心を躍らせていないと言えば、ソレは大きな大嘘となるだろう。
 自由に外を歩くのは、もう、遥かに昔からずっとできていない。

 王としてではなく、アルス・テレシア・クロフォード、一人の男として外に出る。

 ソレは彼がずっと悲願として、憧れ、願っていた未来の一つであったのだから。
 高揚。
 その気分を否定するコトは誰にもできないだろう。
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