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おはようござい死ね篇

#4 ふぇぇぇん、こわいですぅぅぅう

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〖プレイヤーネーム:”バンブー”が死亡しました。〗

〖蘇生可能時間の超過を確認。〗

〖30秒後に復活します。〗

〖デスペナルティ-1:6時間のステータス半減〗

〖デスペナルティ-2:6時間の経験値獲得無効〗

〖ビギナープロトコル:初ログインより72時間の間、デスペナルティの破棄〗

〖素体再生─Now Loading…〗



 目が覚めると、建物の中に居た。
 大理石らしき物で作られた柱を見る限り、教会的な場所だろうか。
 俺は指をパチンと鳴らした。
 すると仮面が虚空こくうへと消え、黒ずくめの衣装からどこにでもいる女の子、と言った風貌ふうぼうに早変わりだ。
 これは【早着替え】という瞬時に装備を変更するかゆい所に手が届くスキルだ。これで消費ポイントがたったの2というのだから、もうけものだろう。
 予想通り、生き返った拍子に髪はズタズタの盗賊ヘアからセミロングに戻っている。この辺は他のゲームと変わらないんだな。陰キャワなヘアスタイルも、ハーフエルフの小さく伸びた耳を隠すのに一役買ってくれている。
 教会で感知スキルを発動するヤツなんて居ないだろうし、人がごった返す中で【隠密】を発動しているから、きっと俺の衣装が変わったのを認識したやつなんて居ないだろう。
 故に美少女殺人鬼である事を、誰も気付かないだろう。
 あの戦闘で俺自身のレベルは4、【隠密】が4、【短剣術】と【疾走】が3、【闇魔法】が2にまで上昇した。
 先刻の戦闘はこのゲームの体の動きになれる事、暗殺プレイの肩慣らし、異邦人の今の平均的な戦力や膨大すぎて全て確認できていないスキルの確認等、様々な思惑があっての事だった。
 目的は無事成功し、収穫も十分だ。最後の自殺に成功し、相手に経験値を多く取らせない事が叶ったのも素晴らしい。
 難はあったが順調な滑り出しと言えるだろう。

 さて。下調べも済んだことだし、そろそろ本腰を入れよう。
 俺は歩きながらこれからの事について思考をめぐらせる。
 まず、この最初の街。ここは異邦人の最初のスポーン地、セーブポイントとして設定されているが、その特性はこの街に限らない。
 ゲーム開始時に複数ある始まりの街ポジションの場所からランダムで決まるらしい。これはソクソの公開したいくつかのゲームルールの内一つだ。アンチは対象を良く調べるべし。常識だ。
 しかしこの街以外にもセーブポイントがあるとはいえ、そこを潰されては少なくない被害が出る。それにβ組の見解によれば、始まりの街はある程度にぎわった都市である事が判明している。NPC達の都市が潰れれば経済が狂う。経済が狂えば異邦人も只事ただごとでは居られない。そこを突く。
 ではどうやって潰すか? もし、俺が何かの偶然で超チートスキルを会得しようとも、街一つ潰す事は容易では無いだろう。この世界は回っている。都市が襲われればレベルの高いNPCの騎士団や冒険者達が出しゃばってくるのは火を見るより明らかだろう。
 安心して欲しい。作戦はある。
 それは──

「オイ、ネーチャン。あんた俺達のパーティに入らないか?」

「ひゃ、ひゃいっ?! わ、わたしですか?」

「そうそう! その格好、アンタ初心者だろ? 俺が手取り足取り教えてやるからさ」

「ちょ、お前言い方きもっ!」

「ハハハ!」

「え、あ、その……」

 チッ、
 面倒なヤツらに絡まれた。考えに集中するあまり【隠密】を切らしていたか。
 出会い厨めが。お前らの脳ミソはソクソでも詰まっているのか? いや、曲りなりにもゲーム界のトップであるウンコとゲーム内でしか出会いを求められない哀れなウンコでは月とすっぽんだな。いや、それだとスッポンが余りにいたたまれない。ノミとかダニに等しいと言えるだろう。
 俺は生まれて初めてソクソに謝罪の意をいだいた。

 それにしても我ながら素晴らしい演技力。オドオドとした女子の口調、声色、動作、仕草、目線の向きや移り変わり、その他諸々もろもろに至るまで細部までこだわり抜いた完璧な仕上がり。
 ちなみに声はキャラクリでイジれる。鍛え抜かれた小動物感あふれる至高の声調整である。

 確かにこの声も容姿も全て姫プによる情報収集や味方陣営の人員増加する為に、俺が丹精たんせい込めて作った物だ。しかし、このような不粋なヤツらに振る舞うための物では断じて無い。
 それに多分、コイツらは使えない。主導権がこちらにある事に腹を立てて反乱を起こすだろう。それが無いにしても、ネカマも疑わず出会い厨をやっているような馬鹿だ。チームに馬鹿が一人居るだけで勝率がグーンと下がる。
 真に恐れるべきは有能な敵ではなく無能な味方である。かの有名なナポレオンもそう言っている。
 こんな馬鹿が身内にいれば、いつヘマをこくか心配で夜にしか眠れない。

 ちなみに夜しか眠れないのは駄目な事だ。
 学びの徒でありながらネットに住む者共の正しい就寝リズム。それは授業中にたっぷりとエネルギーを貯蔵ちょぞうしておき、そのエネルギーを深夜帯に解放する事である。
 それが正しいネットとの向き合い方だ。

 話を戻そう。このバカ三人衆をどうにかしなければいけない。しかしこの手の馬鹿は下手に反対意見を出すと逆ギレして怒鳴りつけてくる。
 恐らくコレらをひねり潰す事は簡単だ。しかし、それでは折角の変装大作戦が全ておじゃんだ。美少女殺人鬼だとバレてしまう。はてさてどうした物だろうか。

 そうして悩んでいると、思わぬ助け舟が出される。

「おい、君たち! 彼女困ってるじゃないか!」

 声の主はさわやかな好青年、と言った印象を抱かせる男だった。
 黒髪に白のメッシュ、目の色は白い右眼に黒い左目のオッドアイ。
 腰には長剣を背負い、左腕には小盾が取り付けられている。革の胸当てと膝当ては、そこまで高価そうに見えない。この世界の住民NPCはアジア系とは似ても似つかない顔立ちをしている。だが彼はどこからどう見ても日本人だ。
 俺は確信する。異邦人プレイヤーだな。

「俺達の邪魔しよってのか?」

「面白ぇ、やれるもんならやってみな!」

「そこのネーチャンの意見も聞かずにンな事言って良いのかよ! あ?!」

「あ、わ、私は……」

「大丈夫だよ。君は下がってて」

 お、オレ君カッコイイ~! 惚れてまうやろ?
 俺はトテトテっと小走りでオレ君の後ろに回った。
 チンピラ共は剣を抜いた。
 オイオイ、マジかよ正気か?馬鹿なの?死ぬの?
 ここは街中だぞ? 街中で刃を白日の元に晒すなんて頭がおかしいんじゃないのか?
 ヒトを殺める時はね、誰にも邪魔させず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。
 オレ君がゆっくりと長剣に手をかける。しかし、それはさえぎられる。

「騎士団だ! これは何の騒ぎだ!」

 現れたのは騎士様だった。恐らく、さっき俺が起こした騒動でここら辺に来ていたのだろう。俺をお縄ちょうだいする為に駆けつけたのに、俺を知らず知らずの内に助けているとは実に滑稽こっけいだ。ふぁ~おもろ。
 チンピラ達は脱兎だっとの如く逃げて行く。オレ君は騎士の人に事情を話した後、駆け寄って来た。

「遅くなっちゃったね。大丈夫?」

「あ、ありがとう……ござい…………ました……」

 俺が身をよじりながら顔を紅潮こうちょうさせる。俺レベルになると涙を流すのはもちろんの事、顔を赤らめる事なんざ御茶の子さいさいなのだ。
 これにはイケメンにキメてるオレ君もおもわず赤面。

「あ、おう……」

 思わずニヤけそうになるのを抑えながら、俺はしおらしく微笑んだ。
 こいつァ、使えるなァ…………










>to be continued… ⌬
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