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おはようござい死ね篇
#8 あつまれ!ウサゲコの森!
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ムホンは十匹の子分を引き連れて森を練り歩いている。見つけては倒し、たまに子分の子分にする。
そうしていくうちに、我が軍はみるみる大規模部隊へと進化を成していった。ムホンを除くとその数なんと1480匹。
しかし、それが強いのかと言われれば俺は首を縦にも横にも振ることが出来ない。
例えばムホンの弟配下を①番、弟配下の配下を②としたとしよう。
するとレベルキャップは①が10レベ、②が5、③が3で、④がわずか2レベルとなってしまう。
配下の数だって、ムホンが10体、①が7体、②が5で③が3。④に関しては0体となる。恐らく無限に仲間の勢力を伸ばせないように設計されているのだろう。
そうなると1050体、約70%を占める〈一角兎〉達はレベル2で頭打ちとなるのだ。
いくら、戦いは数だよ兄さん、という名言があるからと言って、流石に心許無い。塵も積もれば山となるとはよく言うが、ここはゲーム。レベルが全事象の4~6割を左右すると言っても過言では無い。
ギリギリ山になっているかどうかも分からないラインなのだ。
ではこのまま計画を実行するか? んな訳ない。このままでは確実に大敗する。
確かに俺の兎は数が多い。それは間違い無くそうであろう。しかし、数が多いのは向こうも同じだ。
サービス開始直後というのは多くのゲームの場合、最もアクティブユーザーの多い時期の一つであろう。
新しいとはそれだけで影響力がある。
それが忌々しくも超大手企業ともなれば話題性としては一級品である。
いくらランダムな国家、ランダムな土地に散り散りになるからと言っても、頭数が多ければそれだけ一点に集まるものだ。
例えば国民アンケートなんかで反対意見は数パーセントと言っても、数えてみれば数万人はくだらない。パーセントや乱数に全てをあてにするのは危険と言えるだろう。
ではどうするか? 答えは実にシンプル。兵力を底上げすればいい。
でもどうやって? 数もレベルも限界まで上がっているのに?
お忘れか?これはゲームだ。
つまり、俺のレベルが上がればムホンのレベル上限が上がる。ムホンのレベルが上がれば配下①のレベル上限が上がり、①のレベルが上がれば②の上限が…………と、俺のレベルこそがものを言う。
当然と言われれば当然だ。これはレベルシステムのあるゲームで、コイツらは俺の配下なのだから。
ただ、配下量キャップに関しては配下の配下的な方程式によってレベルよりも厳しい制限がかかっているので、兵数は現状維持で行く。それにこれ以上増えると俺のスキルポイントの管理する手間がかかり過ぎる。時間は有限だ。
てなワケでコチラの物件、あつまれウサギさんの森をしていた時に偶然見つけたダンジョンちゃんでーす!
まだ中には入っていないが、恐らく初心者用フィールドの中に入口がある事から弱い魔物の住むダンジョンなのだろう。
このゲームのダンジョンの定義、それは何らかの原因によって出現した<迷宮の心臓>と呼ばれる核があり、それが作動している事。
<迷宮の心臓>とは魔物を半永久的に産み出す謎の物体だ。ソースは例のごとくソクソ公式だ。
このゲームの世界は回っている。全ての生物は、一部の例外を除きみな平等に死ねば生き返らない。死ねば死ぬ、極々自然な摂理である。
壊れた建造物や木々岩々がいつの間にか元通りになっていたり、地面からいきなりポリゴンと共に〈小鬼〉や〈粘魔〉が生えてくる事も無いだろう。
しかし、ダンジョン産の魔物はそれに該当しない。ニョキニョキ生えてくる。ここなら倒しても倒しても魔物の在庫切れを心配する必要は無い。
それに罠や宝箱等のギミックはあれど基本的に魔物以外は存在しない場所である。
魔物は探すまでも無く向こうから無限にやってくる。最高の狩場であると言えよう。
いわばレベルを上げるにはこれ以上無い優良物件なのだ。
「念の為に、変装しておくか」
「ピョン」
このダンジョンの最初の発見者が俺であるという保証は一ミリも無い。念には念を入れるべきだろう。
俺は指をパチンと鳴らす。美少女の生着替えだぞ、喜べ。ネカマだがな。
するとなんと言う事をしてくれたのでしょう。あんなに可愛らしかった服装は、一瞬で黒ずくめの不審者に。匠の粋な計らいにより付けられた仮面はより一層不気味さを際立たせて居ます。
ちなみに服は一定以下の防御力、もしくは特殊能力が無いかぎり死に戻り時にアバターと共に治る仕様だ。
ボロボロになって死んだ異邦人を全裸寸前の状態で教会という公共施設に転移させるなんて鬼畜シュチュをさせない為だろう。
髪をバッサリと切り捨てた俺はダンジョンへと足を踏み入れたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダンジョンはゴツゴツとした岩が天井や壁を担う洞窟だった。足元は踏み慣らされた様な不自然なフラットさがあった。
ちなみにムホンと配下①番以外の配下は森に散らせておいた。この洞窟で千の大群を動かすのは狭過ぎる。逆に邪魔だ。
歩き進めて行くと、ポリゴンが地面から飛び出す。蚊虫の群れの様に蠢くソレは集束して行き、生き物の形を成す。
「……ゲコォ」
目の前に現れたのは紫色のきっしょい蛙だった。
「ピョン」
「あ~、悪いなムホン。ちょっと俺一人で戦わせて。色んな魔物と戦っておきたい。このゲームのNPCで戦った事あるのが兎だけってのも、何となく不安要素なんだわ」
目の前の紫蛙はまだこちらに気付いていない。【隠密】とムホン達の気配のおかげで俺の存在を認識出来ていないのだ。背後から一気に潰す……!
───〔スライド〕
〔ビギン・スライド〕の進化系、〔スライド〕で紫蛙の背中を斬り付ける。グェ、と不愉快な濁音と粘液が紫蛙の口から漏れる。
距離を取りながら振り向いた蛙は、口から紫色の泥団子のような物体を勢い良く吐き出す。
俺はそれをナイフでいなそうとするが、液体なのか刃先に当たった途端に弾け飛んでしまった。
「これは……毒かっ!?」
飛び散った液体が付着した部分は煙を立てて黒紫に変色し、体力バーは点滅を繰り返している。
俺は思わず顔を顰めて舌打ちする。状況を改善するため、俺は飛んでくる毒弾を躱しながらウィンドウを操作する。
残りポイントは44。まだまだ余裕がある、なら!
ウィンドウに映し出されるのは【毒耐性】の文字。体力バーの点滅速度が緩やかになる。これで多少はマシになった。
俺は再び攻撃を躱しながら紫蛙へと斬り掛かる。紫蛙は逃げようと跳ぶが、すかさず右太腿に〔ビギン・スライド〕を叩き込む。
「ゲクォッ!」
バランスを崩した紫蛙はそのまま地面に顔を打ち付ける。そのまま背中に刃を立てる。
「ゴエェェッ!」
「滑るッ! クソッ!」
ヌルヌルとした蛙の肌の所為でナイフを上手く刺す事が出来ない。ズルッ、と滑った刃先は蛙の横腹を裂くに留まった。クソが。
舌打ちをする顔に蛙の左脚が迫る。濡れた布を叩き付けられたような感覚が左頬を襲う。
「ブベッ!」
「ゲココッ!」
間の抜けた声を出し姿勢の傾く俺に、紫蛙はここぞとばかりに毒弾を吐き出した。
俺は腕を地面にバネのようにして大きく突き上げて姿勢を戻し、低姿勢狙いのゲロを躱す。
起き上がる勢いで、俺は蛙の右眼を目掛けてナイフを滑らせる。先程のことから突き付けるのではなく斬り付ける感じで。
俺の目論み通り、蛙の口の上から片目、首の手前までが緑の液体を撒き散らしながら大きく裂ける。
やはり粘液は刺突を邪魔できるが斬撃に対してはほぼ無力の様だ。悶える蛙を見ながら俺は内心ガッツポーズをキメる。
「ゲロォッ!!」
一度自分の攻撃の通った相手に痛手を負わされた事に腹を立てたのか、はたまたピンチを感じ取った生存本能故の焦燥からか。
蛙は右面から体液を垂らしながら、俺に決死の特攻を仕掛ける。しかし、暗殺者にとって気の確かでない相手ほど容易い相手は居ない。
今まで切っていた【隠密】を再度発動させる。
認識されている状態からの発動は効果が著しく低下する。これはまぁ当たり前だ。だがここで重要なのはゼロでは無い事だ。
一瞬揺らいだ気配に戸惑う紫蛙。俺はその隙を逃がさない。逃がせない。そのままスルリと背後へ周り、背筋に沿って蛙の皮膚を脳天から一気に切断する。
───〔スライド〕
喉の潰れたようなグェェ、という声と共に蛙はポリゴン状に散っていった。
>to be continued… ⌬
そうしていくうちに、我が軍はみるみる大規模部隊へと進化を成していった。ムホンを除くとその数なんと1480匹。
しかし、それが強いのかと言われれば俺は首を縦にも横にも振ることが出来ない。
例えばムホンの弟配下を①番、弟配下の配下を②としたとしよう。
するとレベルキャップは①が10レベ、②が5、③が3で、④がわずか2レベルとなってしまう。
配下の数だって、ムホンが10体、①が7体、②が5で③が3。④に関しては0体となる。恐らく無限に仲間の勢力を伸ばせないように設計されているのだろう。
そうなると1050体、約70%を占める〈一角兎〉達はレベル2で頭打ちとなるのだ。
いくら、戦いは数だよ兄さん、という名言があるからと言って、流石に心許無い。塵も積もれば山となるとはよく言うが、ここはゲーム。レベルが全事象の4~6割を左右すると言っても過言では無い。
ギリギリ山になっているかどうかも分からないラインなのだ。
ではこのまま計画を実行するか? んな訳ない。このままでは確実に大敗する。
確かに俺の兎は数が多い。それは間違い無くそうであろう。しかし、数が多いのは向こうも同じだ。
サービス開始直後というのは多くのゲームの場合、最もアクティブユーザーの多い時期の一つであろう。
新しいとはそれだけで影響力がある。
それが忌々しくも超大手企業ともなれば話題性としては一級品である。
いくらランダムな国家、ランダムな土地に散り散りになるからと言っても、頭数が多ければそれだけ一点に集まるものだ。
例えば国民アンケートなんかで反対意見は数パーセントと言っても、数えてみれば数万人はくだらない。パーセントや乱数に全てをあてにするのは危険と言えるだろう。
ではどうするか? 答えは実にシンプル。兵力を底上げすればいい。
でもどうやって? 数もレベルも限界まで上がっているのに?
お忘れか?これはゲームだ。
つまり、俺のレベルが上がればムホンのレベル上限が上がる。ムホンのレベルが上がれば配下①のレベル上限が上がり、①のレベルが上がれば②の上限が…………と、俺のレベルこそがものを言う。
当然と言われれば当然だ。これはレベルシステムのあるゲームで、コイツらは俺の配下なのだから。
ただ、配下量キャップに関しては配下の配下的な方程式によってレベルよりも厳しい制限がかかっているので、兵数は現状維持で行く。それにこれ以上増えると俺のスキルポイントの管理する手間がかかり過ぎる。時間は有限だ。
てなワケでコチラの物件、あつまれウサギさんの森をしていた時に偶然見つけたダンジョンちゃんでーす!
まだ中には入っていないが、恐らく初心者用フィールドの中に入口がある事から弱い魔物の住むダンジョンなのだろう。
このゲームのダンジョンの定義、それは何らかの原因によって出現した<迷宮の心臓>と呼ばれる核があり、それが作動している事。
<迷宮の心臓>とは魔物を半永久的に産み出す謎の物体だ。ソースは例のごとくソクソ公式だ。
このゲームの世界は回っている。全ての生物は、一部の例外を除きみな平等に死ねば生き返らない。死ねば死ぬ、極々自然な摂理である。
壊れた建造物や木々岩々がいつの間にか元通りになっていたり、地面からいきなりポリゴンと共に〈小鬼〉や〈粘魔〉が生えてくる事も無いだろう。
しかし、ダンジョン産の魔物はそれに該当しない。ニョキニョキ生えてくる。ここなら倒しても倒しても魔物の在庫切れを心配する必要は無い。
それに罠や宝箱等のギミックはあれど基本的に魔物以外は存在しない場所である。
魔物は探すまでも無く向こうから無限にやってくる。最高の狩場であると言えよう。
いわばレベルを上げるにはこれ以上無い優良物件なのだ。
「念の為に、変装しておくか」
「ピョン」
このダンジョンの最初の発見者が俺であるという保証は一ミリも無い。念には念を入れるべきだろう。
俺は指をパチンと鳴らす。美少女の生着替えだぞ、喜べ。ネカマだがな。
するとなんと言う事をしてくれたのでしょう。あんなに可愛らしかった服装は、一瞬で黒ずくめの不審者に。匠の粋な計らいにより付けられた仮面はより一層不気味さを際立たせて居ます。
ちなみに服は一定以下の防御力、もしくは特殊能力が無いかぎり死に戻り時にアバターと共に治る仕様だ。
ボロボロになって死んだ異邦人を全裸寸前の状態で教会という公共施設に転移させるなんて鬼畜シュチュをさせない為だろう。
髪をバッサリと切り捨てた俺はダンジョンへと足を踏み入れたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ダンジョンはゴツゴツとした岩が天井や壁を担う洞窟だった。足元は踏み慣らされた様な不自然なフラットさがあった。
ちなみにムホンと配下①番以外の配下は森に散らせておいた。この洞窟で千の大群を動かすのは狭過ぎる。逆に邪魔だ。
歩き進めて行くと、ポリゴンが地面から飛び出す。蚊虫の群れの様に蠢くソレは集束して行き、生き物の形を成す。
「……ゲコォ」
目の前に現れたのは紫色のきっしょい蛙だった。
「ピョン」
「あ~、悪いなムホン。ちょっと俺一人で戦わせて。色んな魔物と戦っておきたい。このゲームのNPCで戦った事あるのが兎だけってのも、何となく不安要素なんだわ」
目の前の紫蛙はまだこちらに気付いていない。【隠密】とムホン達の気配のおかげで俺の存在を認識出来ていないのだ。背後から一気に潰す……!
───〔スライド〕
〔ビギン・スライド〕の進化系、〔スライド〕で紫蛙の背中を斬り付ける。グェ、と不愉快な濁音と粘液が紫蛙の口から漏れる。
距離を取りながら振り向いた蛙は、口から紫色の泥団子のような物体を勢い良く吐き出す。
俺はそれをナイフでいなそうとするが、液体なのか刃先に当たった途端に弾け飛んでしまった。
「これは……毒かっ!?」
飛び散った液体が付着した部分は煙を立てて黒紫に変色し、体力バーは点滅を繰り返している。
俺は思わず顔を顰めて舌打ちする。状況を改善するため、俺は飛んでくる毒弾を躱しながらウィンドウを操作する。
残りポイントは44。まだまだ余裕がある、なら!
ウィンドウに映し出されるのは【毒耐性】の文字。体力バーの点滅速度が緩やかになる。これで多少はマシになった。
俺は再び攻撃を躱しながら紫蛙へと斬り掛かる。紫蛙は逃げようと跳ぶが、すかさず右太腿に〔ビギン・スライド〕を叩き込む。
「ゲクォッ!」
バランスを崩した紫蛙はそのまま地面に顔を打ち付ける。そのまま背中に刃を立てる。
「ゴエェェッ!」
「滑るッ! クソッ!」
ヌルヌルとした蛙の肌の所為でナイフを上手く刺す事が出来ない。ズルッ、と滑った刃先は蛙の横腹を裂くに留まった。クソが。
舌打ちをする顔に蛙の左脚が迫る。濡れた布を叩き付けられたような感覚が左頬を襲う。
「ブベッ!」
「ゲココッ!」
間の抜けた声を出し姿勢の傾く俺に、紫蛙はここぞとばかりに毒弾を吐き出した。
俺は腕を地面にバネのようにして大きく突き上げて姿勢を戻し、低姿勢狙いのゲロを躱す。
起き上がる勢いで、俺は蛙の右眼を目掛けてナイフを滑らせる。先程のことから突き付けるのではなく斬り付ける感じで。
俺の目論み通り、蛙の口の上から片目、首の手前までが緑の液体を撒き散らしながら大きく裂ける。
やはり粘液は刺突を邪魔できるが斬撃に対してはほぼ無力の様だ。悶える蛙を見ながら俺は内心ガッツポーズをキメる。
「ゲロォッ!!」
一度自分の攻撃の通った相手に痛手を負わされた事に腹を立てたのか、はたまたピンチを感じ取った生存本能故の焦燥からか。
蛙は右面から体液を垂らしながら、俺に決死の特攻を仕掛ける。しかし、暗殺者にとって気の確かでない相手ほど容易い相手は居ない。
今まで切っていた【隠密】を再度発動させる。
認識されている状態からの発動は効果が著しく低下する。これはまぁ当たり前だ。だがここで重要なのはゼロでは無い事だ。
一瞬揺らいだ気配に戸惑う紫蛙。俺はその隙を逃がさない。逃がせない。そのままスルリと背後へ周り、背筋に沿って蛙の皮膚を脳天から一気に切断する。
───〔スライド〕
喉の潰れたようなグェェ、という声と共に蛙はポリゴン状に散っていった。
>to be continued… ⌬
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