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第1 章 自分だけの職業
26話 ヒロトシ生産ギルドへ
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ヒロトシは、ガインの作ったプレートを作業台の上に置いた。
「主!何をするつもりだ?」
「これ以上滑らかにすることが出来ないんならしょうがないだろ?だから、俺が仕上げ直すんだよ」
「どうやって?儂でもこれ以上は無理なのに……」
「まあ、みてろよ。こういう事は、今までもよくあったからさ」
そう言って、ヒロトシは研磨道具召還でベビーサンダーを出した。そして、紙やすりが連なったディスクを、ベビーサンダー取り付けると起動させたのだ。
「主!なんだそりゃ⁉ものすごい勢いで円盤がまわっているぞ?」
「危ないから近づくなよ?」
そして、ヒロトシはガインが作ったボコボコのプレートとディスクを平行にして、プレートの表面を撫でる様に滑らせたのだ。
「あっ!そんなにきれいに映っていたのに傷が!」
「大丈夫だよ!今はプレートの表面のぼこぼこを取っているところだ」
ヒロトシは、時々ベビーサンダーを止めて、プレートを手で撫でながら確認をしていた。
「主?何をしているんだ?」
「ボコつきが無いか、手で触って確認しているんだよ。触ってみるか?ここに微かにポコッて感じのボコつきがあるだろ?」
ガインは、ヒロトシに言われて触ってみたが、どこにボコつきがあるのか分からなかった。そればかりか、本当に表面にあれほど叩き傷でぼこぼこだったのが、滑らかだと思ってびっくりして目を見開いていた。
「ど、どこにそんなボコつきがあるんだ?」
「本当に微かだぞ?ゆっくり動かしてみな」
ガインは、ヒロトシに言われて指だけでプレートを触り、ゆっくり動かすと1mmもないような、山があるのが分かった。
「まさか……これの事なのか……」
「わかったか?」
「主はこの程度のボコつきを歪みというのか?」
「その通りだ。このプレートは鏡になるんだ!これでも顔の一部が歪めば不良品になるんだよ」
「じゃあ、今ある銅鏡は何だというんだ?」
「はっ!俺から言わせればあんなの鏡じゃないね。マイン達の部屋に、化粧台があるのは知っているな?」
「ああ……そんなじっくり見たことはないが……」
「あれが最高級品だと聞いて、あれしかなかったから俺は購入したが、本当なら苦情を入れているところだ」
「馬鹿な……あの銅鏡は本当によく顔が映っているじゃないか?」
「じゃあ、これからこのプレートを磨くからよく見ててみな。俺が、あの銅鏡を不良品で苦情を入れたいと言った意味がすぐにわかるよ」
ヒロトシは、ベビーサンダーを掛け終わり、研磨し始めたのだった。今回は、冒険者の武器のように+アイテムにする訳ではないので、魔力を込めなくても良い。
地球の時のように、ただ磨けばいいのだ。まずは、金剛砂の付いた80#のバフを使い、ベビーサンダーの傷を落とした。
今回は800#研磨にする為、順に番手を上げていき最終的には250#のバフを使い、金剛砂の傷を細かくするのだ。ここで80#の傷が残らない様にして、ヒロトシは仕上げバフであるサイザルバフに白棒という研磨剤を使った。
すると、先ほどまで細かい傷で白くなっていたプレートは、鏡のようになったのだった。
「なっ!これは魔法か?」
「いやいや……これが研磨の技術だよ」
そのプレートには、ガインの顔が歪まず映り込んでいた。しかし、ヒロトシはもう一度バフを付け替えていた。
「主、何をしているんだ?」
「今回は鏡だからな。もう一段階磨き上げるんだよ」
「はぁあ?十分綺麗じゃないか?」
「ガイン。一つ言っておくが、物づくりにこれでいいと思ったらそこで成長は止まるぞ?いいものは、お客様が必ず手を取る。その期待に応えるのがプロってものだ」
ヒロトシは、ガインにものの考え方を教え、キャラコという柔らかい布で出来た真っ白のバフを取り付けた。
そして、今度は青棒という研磨剤でプレートを磨き始めたのだった。今度は前の仕上げバフであるサイザルバフの擦り傷と言ってもいいような傷を落としたのだった。
800#研磨とは、一般的に鏡面研磨と言われ、交差点に設置してあるミラーと同じである。厳密には、それから電解研磨という物を施しているが、それと同じようなものだった。
「こ、これは凄い!」
「これぐらいやって鏡という物なんだよ」
「確かにこれを見たら、鏡台であるあの銅鏡は鏡とは言えんな……」
ヒロトシは、このプレートにクリーンの魔法をかけて、バフの粉を落として綺麗にした。そして、磨いた面に保護テープを綺麗に張ったのだった。
「これで磨きは終わりだ。後は、ブロッガンの装飾を待つだけだな」
「主……すまなかった……」
「いきなりどうした?」
「儂は、今の技術を見て今までの作業内容が間違っていたのが分かった。儂の店が潰れて、儂が奴隷になった理由が分かった気がする……」
「そうか。それならよかったじゃないか?」
「良かった?」
「ああ!間違いが分かれば、これからの行動が変わって前向きになれるんだからな。その間違ってたことをしなければいいんだよ」
「しかし、儂は奴隷に落ちてしまった……」
「馬鹿だなあ。お前は奴隷になったからと言って生産まで諦めるのか?言っちゃなんだが、俺達の生活はお前が想像する奴隷のような生活なのか?違うだろ?」
「た、確かに……」
「だったら、今度はここで鍛冶の腕を磨いていけばいいだろ?」
「分かったぜ。今度は商品の出来に妥協せずに突き詰めていく。それが、主の役に立つと信じて……」
「ああ、がんばれよ」
ヒロトシは、ガインを温かい目で見て微笑んだのだった。そして、ブロッガンの方はデザインが出来たら、ヒロトシに相談してきたのだ。
「主殿。デザインが決まったんだが、こんな感じでどうだ?」
ヒロトシは、そのデザインを見たとき、何でこんな美的センスがあるのに奴隷に落ちてしまったのか、疑問に思ったほど素晴らしいものだった。
「これは凄いが、花と鳥が主張しあっている感じになってないか?」
「た、確かに……」
「ブロッガンは、どっちにおもむきを置きたいんだ?」
「やはり、手鏡なら花の方かな」
「だったら、その方向でもう一度デザインし直してくれ」
「わ、わかった」
ブロッガンはすぐにデザインをやり直し、納得した物が出来上がり蚤で彫りだし始めたのだった。そして、五日後出来上がった物は本当に素晴らしいものだった。
「なあ?ブロッガンこれだけの物が出来て何で……」
「奴隷に落ちたかって事ですかい?」
「ああ、そうだ。これだけの物が出来たなら、店が潰れる事はないだろ?」
「主殿……ワシの店は今だに健在だよ。ちゃんと、今も経営しているはずだ」
「だったら何で?」
「ワシは、弟子に騙されて店を乗っ取られたんだよ……」
「乗っ取られた?」
「いつの間にか、貴族への納品の失敗をワシのせいにされていた……その責任を押し付けられてのう……」
「そ、そっか……」
「しかし、主殿のおかげだ。またこうして作品を作り上げることができる。それだけでワシは幸せ者じゃよ」
ブロッガンは、寂しそうな笑みを浮かべた。やはり、自分の店を乗っ取られた事が悔しかったのだろう。ヒロトシには、何もできずブロッガンの肩をポンポンと叩き、言葉を掛ける事が出来なかった。
「主殿が、そんな顔をする必要はない。ワシがもっとしっかりして居れば……」
「ブロッガン……すまないな。どんな言葉を掛けたらいいのか、俺には分からないが元気を出していこう」
「主殿、ありがとう……これからよろしく頼みます」
しかし、この鏡が売り出される事になり、予想だにしなかったのが、ブロッガンから店を乗っ取った、今の店の店主になる事をまだ知らない。
出来上がった木彫り細工に、プレートはしっかりはまり取れる事はなかった。これを持って、ヒロトシはミルデンスに護衛をしてもらい生産ギルドへと向かった。
「主君。今日は生産ギルドに行くのですか?」
「ミルデンス……その主君というのはどうにかならないか?なんか照れ臭いんだけど……」
「何を言うんですか?わたしを拾ってくれた恩人なんですよ。私にとって、ヒロトシ様は主君であられる」
ミルデンスは、日頃セバスが休日のとき、護衛をしている。護衛というよりお茶友達のように過ごし、カードゲームをしているのだが、今日はヒロトシと一緒に行動していた。
もう45歳という年だが、その肉体は鍛え上げられていて、剣の腕は現役の時と変わらない強い人物である。少々堅物な面はあるが、信頼できる男である。
そして、ヒロトシはミルデンスと一緒に生産ギルドの門をくぐった。すると、ヒロトシの姿を見つけたエリスがとんできたのだった。
「ヒロトシ様いらっしゃいませ!やっと、生産ギルドに所属する決意をしてくれたのですか?」
「毎日毎日、俺の仕事の邪魔をしに来て何を言っている!」
「えっ……なんでそんなに怒っているのですか?」
「じゃあ、聞くが君は受付業務をしているとき絡まれて、仕事が出来なかったらどう思うんだ?」
「そ、それは……」
「迷惑だろ?」
「はい……」
「だから今日は、あんたの邪魔をしに来たんだ。俺は一人で風の群狼を壊滅させたからな。誰にも逆らえないのは分かるだろうしな」
「えっ……そ、そんな……」
「今日は一日、エリスに付き纏ってやるから覚悟しろよ」
エリスは顔を真っ青にさせた。他の職員に助けを求めて、横目で見たが仲間の職員から目線を外されてしまったのだ。
「じゃあ、エリスさん。ギルドマスターの所に案内してよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。今までの事を、ギルドマスターに言うつもりじゃ……」
「なんで?指示を出していたのはギルドマスターなんだろ?」
ヒロトシは、エリスの独断で動いていたことに気づいていた。最初は確かにギルドマスターの指示だったが、なんとか自分の功績を上げたくて、独自に誘い込もうとしていた。
「い、いえ……それが、その……」
職員の一人が様子を見て変だと思い、すぐにギルドマスターを呼びに行ったのだ。
「ヒロトシ殿、いったいどうしたのですか?」
「ギルドマスターさんお久しぶりですね。今日は、ちょっと用事がありましてこうして伺った次第です」
「用事とは?ひょっとして、生産ギルドに所属して頂けるのですか?」
「その前に、このエリスさんの事なんですが聞いていただけますか?」
「エリスが、どうかしたのですか?」
「ちょ、ちょっとヒロトシ様……」
「ここじゃ、困る人がいるかと思うので、部屋へ案内をしてもらえませんか?」
「あ、ああ……わかった。こちらにどうぞ」
ギルドマスターは何が何だかわからなかったが、ヒロトシがこうしてギルドに足を運んでくれた事で、客室に案内したのだった。
「エリスさんも、一緒に来てくださいね」
ヒロトシは、エリスの肩を掴み逃げれない様に、一緒に部屋に入った。
そして、客室で聞かされたことに、ギルドマスターのロドンは顔が真っ青になった。確かに、最初交渉に行ってくれと頼んだことはあったが、最初の1回目で失敗した事で別の方法を考える為、エリスには計画の中止を伝えていたのだ。
しかし、エリスは一回の失敗で中止させられ焦ってしまったのだ。なんとか、自分で成果を上げようとしていたのだ。
「ヒロトシ殿、わしが悪かった……まさか、エリスが独断で動いているとは思わなかった」
「いや、それはもういいんです!もう終わった事だしね……これから、こういう事が無い様にしてほしいんだよ」
「そ、それは当然だ!エリス!お前も謝らんか」
ロドンは、エリスの頭を押さえつけようとしたのだった。
「あ!ロドンさん!そんな事はしないで!」
ヒロトシは身を乗り出し、ロドンの手を取ったのだった。
「な、何を⁉」
「女の子に、そんな乱暴な事をしたら駄目です」
「しかし……こやつのせいで、ヒロトシ殿が生産ギルドに所属してくれなくなったのだ」
「そのことで相談があるんですよ」
「相談?」
ようやく、ヒロトシは生産ギルドに条件を付けて、所属の意思があると説明したのだった。
「主!何をするつもりだ?」
「これ以上滑らかにすることが出来ないんならしょうがないだろ?だから、俺が仕上げ直すんだよ」
「どうやって?儂でもこれ以上は無理なのに……」
「まあ、みてろよ。こういう事は、今までもよくあったからさ」
そう言って、ヒロトシは研磨道具召還でベビーサンダーを出した。そして、紙やすりが連なったディスクを、ベビーサンダー取り付けると起動させたのだ。
「主!なんだそりゃ⁉ものすごい勢いで円盤がまわっているぞ?」
「危ないから近づくなよ?」
そして、ヒロトシはガインが作ったボコボコのプレートとディスクを平行にして、プレートの表面を撫でる様に滑らせたのだ。
「あっ!そんなにきれいに映っていたのに傷が!」
「大丈夫だよ!今はプレートの表面のぼこぼこを取っているところだ」
ヒロトシは、時々ベビーサンダーを止めて、プレートを手で撫でながら確認をしていた。
「主?何をしているんだ?」
「ボコつきが無いか、手で触って確認しているんだよ。触ってみるか?ここに微かにポコッて感じのボコつきがあるだろ?」
ガインは、ヒロトシに言われて触ってみたが、どこにボコつきがあるのか分からなかった。そればかりか、本当に表面にあれほど叩き傷でぼこぼこだったのが、滑らかだと思ってびっくりして目を見開いていた。
「ど、どこにそんなボコつきがあるんだ?」
「本当に微かだぞ?ゆっくり動かしてみな」
ガインは、ヒロトシに言われて指だけでプレートを触り、ゆっくり動かすと1mmもないような、山があるのが分かった。
「まさか……これの事なのか……」
「わかったか?」
「主はこの程度のボコつきを歪みというのか?」
「その通りだ。このプレートは鏡になるんだ!これでも顔の一部が歪めば不良品になるんだよ」
「じゃあ、今ある銅鏡は何だというんだ?」
「はっ!俺から言わせればあんなの鏡じゃないね。マイン達の部屋に、化粧台があるのは知っているな?」
「ああ……そんなじっくり見たことはないが……」
「あれが最高級品だと聞いて、あれしかなかったから俺は購入したが、本当なら苦情を入れているところだ」
「馬鹿な……あの銅鏡は本当によく顔が映っているじゃないか?」
「じゃあ、これからこのプレートを磨くからよく見ててみな。俺が、あの銅鏡を不良品で苦情を入れたいと言った意味がすぐにわかるよ」
ヒロトシは、ベビーサンダーを掛け終わり、研磨し始めたのだった。今回は、冒険者の武器のように+アイテムにする訳ではないので、魔力を込めなくても良い。
地球の時のように、ただ磨けばいいのだ。まずは、金剛砂の付いた80#のバフを使い、ベビーサンダーの傷を落とした。
今回は800#研磨にする為、順に番手を上げていき最終的には250#のバフを使い、金剛砂の傷を細かくするのだ。ここで80#の傷が残らない様にして、ヒロトシは仕上げバフであるサイザルバフに白棒という研磨剤を使った。
すると、先ほどまで細かい傷で白くなっていたプレートは、鏡のようになったのだった。
「なっ!これは魔法か?」
「いやいや……これが研磨の技術だよ」
そのプレートには、ガインの顔が歪まず映り込んでいた。しかし、ヒロトシはもう一度バフを付け替えていた。
「主、何をしているんだ?」
「今回は鏡だからな。もう一段階磨き上げるんだよ」
「はぁあ?十分綺麗じゃないか?」
「ガイン。一つ言っておくが、物づくりにこれでいいと思ったらそこで成長は止まるぞ?いいものは、お客様が必ず手を取る。その期待に応えるのがプロってものだ」
ヒロトシは、ガインにものの考え方を教え、キャラコという柔らかい布で出来た真っ白のバフを取り付けた。
そして、今度は青棒という研磨剤でプレートを磨き始めたのだった。今度は前の仕上げバフであるサイザルバフの擦り傷と言ってもいいような傷を落としたのだった。
800#研磨とは、一般的に鏡面研磨と言われ、交差点に設置してあるミラーと同じである。厳密には、それから電解研磨という物を施しているが、それと同じようなものだった。
「こ、これは凄い!」
「これぐらいやって鏡という物なんだよ」
「確かにこれを見たら、鏡台であるあの銅鏡は鏡とは言えんな……」
ヒロトシは、このプレートにクリーンの魔法をかけて、バフの粉を落として綺麗にした。そして、磨いた面に保護テープを綺麗に張ったのだった。
「これで磨きは終わりだ。後は、ブロッガンの装飾を待つだけだな」
「主……すまなかった……」
「いきなりどうした?」
「儂は、今の技術を見て今までの作業内容が間違っていたのが分かった。儂の店が潰れて、儂が奴隷になった理由が分かった気がする……」
「そうか。それならよかったじゃないか?」
「良かった?」
「ああ!間違いが分かれば、これからの行動が変わって前向きになれるんだからな。その間違ってたことをしなければいいんだよ」
「しかし、儂は奴隷に落ちてしまった……」
「馬鹿だなあ。お前は奴隷になったからと言って生産まで諦めるのか?言っちゃなんだが、俺達の生活はお前が想像する奴隷のような生活なのか?違うだろ?」
「た、確かに……」
「だったら、今度はここで鍛冶の腕を磨いていけばいいだろ?」
「分かったぜ。今度は商品の出来に妥協せずに突き詰めていく。それが、主の役に立つと信じて……」
「ああ、がんばれよ」
ヒロトシは、ガインを温かい目で見て微笑んだのだった。そして、ブロッガンの方はデザインが出来たら、ヒロトシに相談してきたのだ。
「主殿。デザインが決まったんだが、こんな感じでどうだ?」
ヒロトシは、そのデザインを見たとき、何でこんな美的センスがあるのに奴隷に落ちてしまったのか、疑問に思ったほど素晴らしいものだった。
「これは凄いが、花と鳥が主張しあっている感じになってないか?」
「た、確かに……」
「ブロッガンは、どっちにおもむきを置きたいんだ?」
「やはり、手鏡なら花の方かな」
「だったら、その方向でもう一度デザインし直してくれ」
「わ、わかった」
ブロッガンはすぐにデザインをやり直し、納得した物が出来上がり蚤で彫りだし始めたのだった。そして、五日後出来上がった物は本当に素晴らしいものだった。
「なあ?ブロッガンこれだけの物が出来て何で……」
「奴隷に落ちたかって事ですかい?」
「ああ、そうだ。これだけの物が出来たなら、店が潰れる事はないだろ?」
「主殿……ワシの店は今だに健在だよ。ちゃんと、今も経営しているはずだ」
「だったら何で?」
「ワシは、弟子に騙されて店を乗っ取られたんだよ……」
「乗っ取られた?」
「いつの間にか、貴族への納品の失敗をワシのせいにされていた……その責任を押し付けられてのう……」
「そ、そっか……」
「しかし、主殿のおかげだ。またこうして作品を作り上げることができる。それだけでワシは幸せ者じゃよ」
ブロッガンは、寂しそうな笑みを浮かべた。やはり、自分の店を乗っ取られた事が悔しかったのだろう。ヒロトシには、何もできずブロッガンの肩をポンポンと叩き、言葉を掛ける事が出来なかった。
「主殿が、そんな顔をする必要はない。ワシがもっとしっかりして居れば……」
「ブロッガン……すまないな。どんな言葉を掛けたらいいのか、俺には分からないが元気を出していこう」
「主殿、ありがとう……これからよろしく頼みます」
しかし、この鏡が売り出される事になり、予想だにしなかったのが、ブロッガンから店を乗っ取った、今の店の店主になる事をまだ知らない。
出来上がった木彫り細工に、プレートはしっかりはまり取れる事はなかった。これを持って、ヒロトシはミルデンスに護衛をしてもらい生産ギルドへと向かった。
「主君。今日は生産ギルドに行くのですか?」
「ミルデンス……その主君というのはどうにかならないか?なんか照れ臭いんだけど……」
「何を言うんですか?わたしを拾ってくれた恩人なんですよ。私にとって、ヒロトシ様は主君であられる」
ミルデンスは、日頃セバスが休日のとき、護衛をしている。護衛というよりお茶友達のように過ごし、カードゲームをしているのだが、今日はヒロトシと一緒に行動していた。
もう45歳という年だが、その肉体は鍛え上げられていて、剣の腕は現役の時と変わらない強い人物である。少々堅物な面はあるが、信頼できる男である。
そして、ヒロトシはミルデンスと一緒に生産ギルドの門をくぐった。すると、ヒロトシの姿を見つけたエリスがとんできたのだった。
「ヒロトシ様いらっしゃいませ!やっと、生産ギルドに所属する決意をしてくれたのですか?」
「毎日毎日、俺の仕事の邪魔をしに来て何を言っている!」
「えっ……なんでそんなに怒っているのですか?」
「じゃあ、聞くが君は受付業務をしているとき絡まれて、仕事が出来なかったらどう思うんだ?」
「そ、それは……」
「迷惑だろ?」
「はい……」
「だから今日は、あんたの邪魔をしに来たんだ。俺は一人で風の群狼を壊滅させたからな。誰にも逆らえないのは分かるだろうしな」
「えっ……そ、そんな……」
「今日は一日、エリスに付き纏ってやるから覚悟しろよ」
エリスは顔を真っ青にさせた。他の職員に助けを求めて、横目で見たが仲間の職員から目線を外されてしまったのだ。
「じゃあ、エリスさん。ギルドマスターの所に案内してよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。今までの事を、ギルドマスターに言うつもりじゃ……」
「なんで?指示を出していたのはギルドマスターなんだろ?」
ヒロトシは、エリスの独断で動いていたことに気づいていた。最初は確かにギルドマスターの指示だったが、なんとか自分の功績を上げたくて、独自に誘い込もうとしていた。
「い、いえ……それが、その……」
職員の一人が様子を見て変だと思い、すぐにギルドマスターを呼びに行ったのだ。
「ヒロトシ殿、いったいどうしたのですか?」
「ギルドマスターさんお久しぶりですね。今日は、ちょっと用事がありましてこうして伺った次第です」
「用事とは?ひょっとして、生産ギルドに所属して頂けるのですか?」
「その前に、このエリスさんの事なんですが聞いていただけますか?」
「エリスが、どうかしたのですか?」
「ちょ、ちょっとヒロトシ様……」
「ここじゃ、困る人がいるかと思うので、部屋へ案内をしてもらえませんか?」
「あ、ああ……わかった。こちらにどうぞ」
ギルドマスターは何が何だかわからなかったが、ヒロトシがこうしてギルドに足を運んでくれた事で、客室に案内したのだった。
「エリスさんも、一緒に来てくださいね」
ヒロトシは、エリスの肩を掴み逃げれない様に、一緒に部屋に入った。
そして、客室で聞かされたことに、ギルドマスターのロドンは顔が真っ青になった。確かに、最初交渉に行ってくれと頼んだことはあったが、最初の1回目で失敗した事で別の方法を考える為、エリスには計画の中止を伝えていたのだ。
しかし、エリスは一回の失敗で中止させられ焦ってしまったのだ。なんとか、自分で成果を上げようとしていたのだ。
「ヒロトシ殿、わしが悪かった……まさか、エリスが独断で動いているとは思わなかった」
「いや、それはもういいんです!もう終わった事だしね……これから、こういう事が無い様にしてほしいんだよ」
「そ、それは当然だ!エリス!お前も謝らんか」
ロドンは、エリスの頭を押さえつけようとしたのだった。
「あ!ロドンさん!そんな事はしないで!」
ヒロトシは身を乗り出し、ロドンの手を取ったのだった。
「な、何を⁉」
「女の子に、そんな乱暴な事をしたら駄目です」
「しかし……こやつのせいで、ヒロトシ殿が生産ギルドに所属してくれなくなったのだ」
「そのことで相談があるんですよ」
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