雨の上がる時・・・

本条蒼依

文字の大きさ
上 下
4 / 15

4話 明美の自信

しおりを挟む
 明美は、その日の放課後までずっと顔が真っ赤になり、授業中上の空だった。先生が明美の顔を見て真っ赤だったので、熱があると思い保健室に行けと言われたほどだったのだ。
 そして、放課後明美はいつものように教室で、時間を潰すような感じで残りの小説を読み切る為に、教室に一人で読書をしていた。

 するとそこに、担任が教室に入って来た。

「なんだ?まだ残っていたのか?」

「えっ?」

「そろそろ、下校時間だから早く帰れよ」

「は、はい!わかりました」

 明美は、小説を読むと時間も経つのも忘れるほど没頭してしまうのである。

「やばい……かえって早くご飯の支度しなきゃ駄目だわ。アオもお腹を空かしているんじゃ……あっ、今日はお父さんがいるか」

 明美は、家にスマホに連絡入れたら父が出て、今から帰る事を伝えた。

「陽が高くなってきているが、気を付けて帰ってくるんだぞ」

「うん、わかった!晩御飯のおかずを買って帰るからいつもより遅くなるからね」

「いや、もう日が暮れるから晩御飯のおかずはいいから帰って来なさい!」

「でも、冷蔵庫にもう買い置きは無かったはずだよ?」

「父さんが、今買いに行って帰って来たばかりだから大丈夫だ!」

「え?本当に?助かった!」

「だから、気をつけて帰ってくるんだぞ?」

「はーい」

 明美は、スマホを切り先生に挨拶をして学校を出たのだった。すると、校門前では部活帰りの生徒たちがいっぱいいて、その中に博也がいた。

「おう!立花も今帰りか?」

「あれ?村田君なんで?」

「なんでって部活に決まっているだろ?」

「いや、それは分かっているけど……今日大変だったんじゃないの?」

「そうなんだよ……むっちゃ腹が減ってもう倒れそうだよ……」

 そう言った所で、博也のお腹が大きな音を立てて鳴った。

「ええ!今のお腹の音?」

「さっきから、この調子で早く帰って晩飯早く食いたいよ」

「あははは!そんな大きな音でなるなんて初めて聞いたよ」

「育ち盛りの男子高生なめんな!」

 そういって、博也は明美を途中まで送って家に帰ったのだった。その途中、明美は博也に、あの公園に差し掛かったところで話しかけたのだった。

「ねえ、村田君……」

「なんだよ?」

「昨日から、あたし考えていたんだけど、自信の持てることが分からないんだ……」

「はあ?何言ってんだよ?」

 博也は、明美の言っていることが理解できなかった。

「あたしは真剣に昨日から悩んでいるんだよ?」

「いやいやいや……本当に何言ってんだよ?あるだろう?」

「昨日から、考えているけど本当に何も浮かばないんだよ。村田君は、自分に自信を持てっていったけど、あたしみたいに髪はぼさぼさだし見た目も良くないし、村田君みたいにみんなと話が上手に出来る訳じゃないし……」

「あるじゃんか!」

「なにが?」

「今日、お前に貰った弁当むっちゃ美味かったんだぜ?あの時、言ったセリフは本当で嘘じゃないよ」

「嘘……」

 明美は、昼間の事を思い出し、また顔が真っ赤になり手で顔を覆った。

「嘘じゃねえって、あの料理の腕は十分自慢できるものだぞ?」

「本当に?」

「立花、お前ってみんなと同じになろうとしているんじゃないのか?」

「えっ⁉」

「あのな?自信を持つことは、自分にこれなら誰にも負けないと言えるものなんだぞ?」

「村田君はなにかあるの?」

「そんなの当り前だろ?」

「なに?」

「部活でサッカーをやっているけど、これは誰にも負けない!」

「えっ?」

「確かに、先輩には敵わないよ?だけど、俺はサッカーが好きだし、誰にも負けたくないからな!俺にとって自信のあるものはサッカーだよ」

「そ、そっか……」

「だから、立花もさっき言ったみたいに見た目がどうこうや、コミニュケーションが自分で自信が無いと言っていたが、そんなことはどうでもいいんだよ?立花には、あんなうまい料理が出来るんだから、そういう自慢できることがあるんだから十分なんだよ」

「……」

 明美は、博也にそんな事を言われるとは思いもしなかったので、お母さんの味に近づけたと思っていた為、目に涙が溢れたのだった。

「何で泣くんだよ……」

「うんん……嬉しいの。村田君が、料理が自慢できると言ってくれたことが嬉しいの」

 明美は、その眼鏡を取って涙を拭いた。博也は明美の眼鏡を取った顔を見た事無かったため、明美の素顔を見てドキドキしていたのだった。

 博也は、そんな明美の素顔を見て固まってしまっていた。博也は今までにないドキドキを感じて顔を真っ赤になるのを自分で感じたのだった。

「村田君?どうかした?」

「い、いや……何でもない……俺腹減ったから帰るわ!また明日な」

 博也は、明美の素顔にドキドキしてその場にいられなくなって、ダッシュでその場を離れたのだった。

(な、なんだよ立花の奴、見た目に自信が無いってどんだけ自己評価が低いんだよ……むっちゃくちゃ美少女じゃねえか……)

 博也はそんな事を考えて、胸が高まりっぱなしのところ家まで全力疾走した為、心臓が破れるかと思ったほどだった。



 公園にただひとり残されて、博也の後姿を見送り、明美は思いふけた。

「変な村田君……でもありがとね」

 明美は、公園で大きな夕日に笑顔を向けて佇むのだった。


しおりを挟む

処理中です...