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第三章 ガキツキの場合
第二話 死に神の過去
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ここに送られてくる海馬は、映写機のような機能を持ち合わせている。しかし、普段は呪文を唱えないと映写しないのだが、誤作動だろうか。ガキツキは倒れたままの姿勢で映し出された記憶を見つめていた。
綺麗な雪景色だ。視界のどこを見ても雪。こんな光景は年中荒野のここでは一切見ることができない。が、何故だろうか。以前にもこんな気持ちになった気がする。こんな、寂しい気持ちに……。
「おーい! ガキツキ!」
「……っ! はい!」
「遅いぞ! 早く始末書書かねえと叱られんの俺なんだぞ!」
「うす! すんません!」
ガキツキは慌てて資料を元の場所に戻し、大急ぎで少年の資料を取りに向かった。
光を辿り、ささっと資料を集めて出口に向かうと、地上出口のすぐ横にイツキがいた。
「はあはあ……。イツキさん、遅れてすんません」
「天使から連絡来ちゃったよ、めんどくせえ」
「いやほんとにすんません……。ちょっとナンバー探すのに手こずりまして……」
「ふーん……」
「と、ところで! 天使はどいつからっすか……?」
「サリエル、早く書類よこさねえと下界に魂戻さねえぞって脅してきやがったあの野郎」
「……だるいっすね」
そう言いながらガキツキは顔をしかめた。
「さて、さっさとオフィスで始末書書くぞ」
イツキはそう言ってパチンと指を鳴らした。すると、今度は荒野が消え、二組の机と椅子のある、白い空間に二人は包まれた。
ガキツキはイツキに資料を渡し、座って粛々と始末書を書く。
しかし、だ。なぜだろうか、どうも頭が痛く、作業に集中できない。今までこんなことは一度だってなかった。
そもそも死に神は普通体調不良になどならない。人ならざる存在だから当たり前と言えば当たり前なのだが。しかし、そのおかげで二十四時間労働というふざけた環境でも働くことができている。
それがどうだろうか、気のせいでもなく確かにガキツキの頭はズキズキと痛む。そして時折何か人の声のようなものが聞こえる気がするのだ。
「イツキさん……」
「なんだ? 仕事に集中しろ」
「いやあの、俺らって、死に神……っすよね?」
「何だ、どうしたお前」
「死に神って、頭痛くなったりするんすかね、俺今なんか痛くて」
ほんの冗談のつもりだった。イツキが、そんなことないだろ、といつもの無表情で答えてくれる、と。
しかし、イツキの反応はそんなガキツキの予想と全く異なっていた。
「ガキツキ……!」
初めて見るイツキの動揺だった。椅子が倒れることなどお構いなしに勢いよく立ち上がり、恰幅の良い体つきに似合わぬ速さでこちらに向かい、ガキツキの肩を掴んでいた。
「お、お前……、地下で、何をした」
「ち、地下ぁ? べ、別に何も……」
「何をした!」
イツキは、イラつくことはあってもめったに怒鳴りはしない。もう三年の付き合いになるが、一度だってこんなに声を荒げたことはなかった。
イツキの目が、明らかにただ事でないことを語っていた。
「地下で、男の記憶を見ました……。でも! 本当に……。本当に、偶然で……。資料を落としてしまった時、なぜかたまたま映像が……」
「……! ……なんてこった……」
ガキツキの肩を掴んでいたイツキの手の力は抜けていき、そのまま全身の力が抜けていくようにイツキは倒れ込んだ。
「い、イツキさん……!」
「……」
「す、すんません、黙ってて。でも俺怒られるかなとか思っちゃって。本当に事故だったんす。資料に傷とかなかったし、だから」
「消える……」
「えっ……?」
「お前は、あと一時間も経たないうちに消える」
「は……? はは、イツキさん、何を言って」
「記憶が戻ってるんだ。頭痛はその初期症状にすぎない」
「イツキさん……? やめてくださいよ、ほんと。俺冗談は」
「冗談なんかじゃない……! いいか、ガキツキよく聞け。お前の前世は人だ。あの地下の資料の中の一人として保管されている。そして……、地下でお前が見た映像。あれが、お前の前世の記憶だ」
綺麗な雪景色だ。視界のどこを見ても雪。こんな光景は年中荒野のここでは一切見ることができない。が、何故だろうか。以前にもこんな気持ちになった気がする。こんな、寂しい気持ちに……。
「おーい! ガキツキ!」
「……っ! はい!」
「遅いぞ! 早く始末書書かねえと叱られんの俺なんだぞ!」
「うす! すんません!」
ガキツキは慌てて資料を元の場所に戻し、大急ぎで少年の資料を取りに向かった。
光を辿り、ささっと資料を集めて出口に向かうと、地上出口のすぐ横にイツキがいた。
「はあはあ……。イツキさん、遅れてすんません」
「天使から連絡来ちゃったよ、めんどくせえ」
「いやほんとにすんません……。ちょっとナンバー探すのに手こずりまして……」
「ふーん……」
「と、ところで! 天使はどいつからっすか……?」
「サリエル、早く書類よこさねえと下界に魂戻さねえぞって脅してきやがったあの野郎」
「……だるいっすね」
そう言いながらガキツキは顔をしかめた。
「さて、さっさとオフィスで始末書書くぞ」
イツキはそう言ってパチンと指を鳴らした。すると、今度は荒野が消え、二組の机と椅子のある、白い空間に二人は包まれた。
ガキツキはイツキに資料を渡し、座って粛々と始末書を書く。
しかし、だ。なぜだろうか、どうも頭が痛く、作業に集中できない。今までこんなことは一度だってなかった。
そもそも死に神は普通体調不良になどならない。人ならざる存在だから当たり前と言えば当たり前なのだが。しかし、そのおかげで二十四時間労働というふざけた環境でも働くことができている。
それがどうだろうか、気のせいでもなく確かにガキツキの頭はズキズキと痛む。そして時折何か人の声のようなものが聞こえる気がするのだ。
「イツキさん……」
「なんだ? 仕事に集中しろ」
「いやあの、俺らって、死に神……っすよね?」
「何だ、どうしたお前」
「死に神って、頭痛くなったりするんすかね、俺今なんか痛くて」
ほんの冗談のつもりだった。イツキが、そんなことないだろ、といつもの無表情で答えてくれる、と。
しかし、イツキの反応はそんなガキツキの予想と全く異なっていた。
「ガキツキ……!」
初めて見るイツキの動揺だった。椅子が倒れることなどお構いなしに勢いよく立ち上がり、恰幅の良い体つきに似合わぬ速さでこちらに向かい、ガキツキの肩を掴んでいた。
「お、お前……、地下で、何をした」
「ち、地下ぁ? べ、別に何も……」
「何をした!」
イツキは、イラつくことはあってもめったに怒鳴りはしない。もう三年の付き合いになるが、一度だってこんなに声を荒げたことはなかった。
イツキの目が、明らかにただ事でないことを語っていた。
「地下で、男の記憶を見ました……。でも! 本当に……。本当に、偶然で……。資料を落としてしまった時、なぜかたまたま映像が……」
「……! ……なんてこった……」
ガキツキの肩を掴んでいたイツキの手の力は抜けていき、そのまま全身の力が抜けていくようにイツキは倒れ込んだ。
「い、イツキさん……!」
「……」
「す、すんません、黙ってて。でも俺怒られるかなとか思っちゃって。本当に事故だったんす。資料に傷とかなかったし、だから」
「消える……」
「えっ……?」
「お前は、あと一時間も経たないうちに消える」
「は……? はは、イツキさん、何を言って」
「記憶が戻ってるんだ。頭痛はその初期症状にすぎない」
「イツキさん……? やめてくださいよ、ほんと。俺冗談は」
「冗談なんかじゃない……! いいか、ガキツキよく聞け。お前の前世は人だ。あの地下の資料の中の一人として保管されている。そして……、地下でお前が見た映像。あれが、お前の前世の記憶だ」
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