逢魔刻の旅人

ありす

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9人目-髪

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大学生になったばかりの俺は
アパートで一人暮らしを始めた
広く綺麗な場所

とはいかないが
バイト代ではこれが限界な家賃だったし
一人暮らしには充分の広さ

何より駅から10分かからない場所にあり
貧乏学生の俺には持って来いだった

アパートの両隣は
一人暮らしの男性と空き部屋になっている

大家さんが1階に住んでおり
朝いつも挨拶をしてくれる

大学も順調だった
ある日バイトが終わり
疲れた足取りで家に帰る

荷物を置きぱっと床に視線をやると
長い髪の毛が落ちていた


「んっ?この髪の毛なんだ?」

初めは荷物についてたやつが落ちたのかな?
くらいにしか思っていなかった

次の日も大学から帰り
電気をつけると
キッチンの床に長い髪の毛が数本落ちている

「一体どこからだ?」
少し不気味には感じたものの
あまり気にしていなかった

何回か家に帰ると
長い髪の毛が落ちているってことが度々あったが
他に奇妙な現象があるとかはなかった

ある日大学から帰ると
アパート前のゴミを大家さんが掃き出ししていた
大家「あらこんにちは 最近いつも来てくれて良いわね仲が良くて」

ん?
なんの事だ?

「えっ?いつも来てるって誰がですか?」

大家「あら彼女さんじゃなかったの?毎日来てるじゃない今日も来てるでしょ?」

頭が真っ白になった

「あ、あの僕彼女なんて居ないし毎日来るような友人もいないんですが..」
と言うと
大家さんは驚いた様子で
大家「えっ??じゃぁあれは誰?」
と部屋の窓を指さした

髪の長い女がすりガラスに顔をつけこちらを見ていた

その日は大学の男友達の家に泊めてもらいアパートへと帰らずすぐに引き払い
大学は実家から通うことにした

あの髪の毛はあの女のものだったんだ

あの時大家さんと会わなければ
鉢合わせしてしまっていたかもしれないと思うと
今でも寒気がする

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