上 下
3 / 7

シャーレイ〜親友との出会い⑵〜

しおりを挟む
酒場から出た二人はまずはと、話し合う。

「アラナちゃん、まずはどこで採取する?」
「そうね…。話聞いた限りだとハーブは摘みに行ったんでしょ?ほかにも採れるものはあるけど…とりあえずキノコ採りでも行かない?」
「キノコ?毒キノコとかない?わたし、見分けられるかな…。」
「あたしが教えるから大丈夫よ。」
「本当?ありがとう。それじゃあ行きましょう。」

キノコが採れる森までは距離があったが、二人の会話は盛り上がり全く苦にならなかった。
アラナは旅について興味があるらしく、よく聞いてきた。
最初はアラナに対して強引な雰囲気も感じ取れたが、話してみると話しやすい相手であった。
色々な話をしているうちに、森に着く。その頃には太陽も天辺に差し掛かっていた。
この国の森は木漏れ日が零れる、どこか神秘的な空気を感じる森だ。さらに奥の方には遺跡もあり、より神秘的な雰囲気を助長させている。

「それじゃあ早速採りましょ。キノコはね、主に二つのキノコが絶品なのよ。」
「へえ。どんなキノコなの?」
「焼くととってもジューシーでソースにも使われるヤマ茸、小さくてさっぱりした味が逆に止まらないマチ茸があるわ。」
「なんか想像しただけでも美味しそうね。」
「そうでしょう。採れたら食べてみましょうよ。折角だからオステリーアさんの分もとって、作ってもらって3人で食べましょ。」

ウキウキと花が飛んでいるようにも見えるアラナをほほえましく思いながら、オズウェルも気分が高揚していった。
アラナがヤマ茸とマチ茸を教えてくれ、昨日エドワードからもらった短剣を取り出してキノコを採る。

「その短剣持ってるんだ。買ったの?」
「いいえ、貰ったの。エドワード君から。」
「エドワードってエドワード・コーニングさんだよね?随分優しいんだね。」
「そうなの。昨日知り合ったんだけど、王国の案内やハーブを教えてくれて、とってもいい人だったんだ。」

その時にこれも貰ったんだと、大切そうに胸に短剣を抱くオズウェル。
それを見てニヤッとアラナは笑った。

「へええ。……もしかして恋しちゃった?」
「えっ………。そんなんじゃないよ!そもそもわたし恋がどんなものかよくわからないし…。」
「あらあ、わからないわよお?もしかしたらこれから恋になるかもしれないし。うんうん、恋も知らないのならこれから知ってけばいいわ。」

なにやらしたり顔でうなずくアラナ。対してオズウェルは恥ずかしさのあまり爆発しそうだ。

「もう……早く採って酒場に戻ろう!」
「はいはい。」

オズウェルが恥ずかしがってるのに気づいたのか、アラナはそれ以上追及せずキノコを採りながら別の話題に変えた。それをオズウェルはありがたく思った。少しおせっかいだけどいい人だと思った。
夕の刻に差し掛かるころには、二人分の籠一杯にキノコが採れていた。

「これだけ採れればいいでしょう。戻りましょ。」
「そうだね、戻ろう。」

今日の朝から一緒にいた二人はかなり親睦が深まったと言える状態だった。
帰る道のりも最早昔から一緒にいた仲の様に話が弾む。
オズウェルはエドワードといいアラナといい、この国の人柄なのかもしれない、すごく居心地の良い国に寄れて良かったと心から思った。
お腹の虫もなっているので足早に酒場に向かった。

「おかえりなさい。ずいぶんいっぱい採ってきたのね。」
「はい、沢山採れました。」
「それで良かったらオステリーアさんの分も採ってきたので料理作ってくれないかしら?」
「あら、ふふ。良いわよ。腕によりをかけて料理させてもらうわ。」
「ありがとうございます!楽しみだね、オズウェル。」
「ええ!……あっ、それかお手伝いしますよ!待ってるのも悪いですし!どうかな?アラナちゃん。」
「それは素敵ね!オステリーアさんどうかしら?」
「ふふ、それは楽しそうね。一緒に作りましょうか。」

3人で並んで料理を作る。不慣れな二人を気遣ったのか、比較的失敗しにくい料理を作った。

「わあ!美味しそうに出来たわね!」
「本当ね、お腹ペコペコだわ。」
「ふふ、じゃあ冷めないうちに食べましょうか。」

3人で料理をテーブルに並べ、座る。
いただきますと声を揃えてフォークを手に取った。

「んん~っ!美味しい!」
「すっごく美味しい……!」
「ふふ、誰かと作るって食べるってより美味しく感じるわね。」

ヤマ茸はソテーにしてあり香ばしく、ソースをよく含んで噛んだ瞬間ジュワッとなるのが堪らない。
マチ茸はフライにしてあり、シンプルな味付けなのに止まらない。
3人とも話をしつつ楽しく食べる。たくさんあったにも関わらず、食は進み、食べ終わるころには幸福感と満腹感に満ちていた。
 
「はー!お腹いっぱい!」
「ちょっと食べすぎちゃった…。」
「ふふ、食後のお茶を準備するわね。」
「あ、オステリーアさん、手伝います。」
「じゃああたしも手伝うわ!」
「あら、ありがとう。」
 
3人で入れたお茶を飲みながら、まだまだ話は続く。
 
「親睦が深まったようで何よりだわ。」
「はい、オステリーアさんのおかげです。」
「すごく楽しかったわ。」
 
オステリーアは嬉しそうに話を聞いていたが、ふと思いついたようにオズウェルに提案した。
 
「そうだ、オズウェル。あなたこの国に定住してみる気はないかしら?」
「え?」
「それいいわね!とっても素敵だわ!」
 
オズウェルが戸惑ったように声をあげたが、アラナの嬉しそうな声にかき消されてしまった。
 
「もちろん無理にとは言わないけれど……。せっかくいい人たちに巡り合えたんだから悪くないんじゃないかしら?」
「あ、そうね。もちろんオズウェルの意思を尊重するわ。でもあたしはオズウェルと親友になれたと思ってるから考えてくれると嬉しいわ。」
「アラナちゃん……。」
 
親友、という言葉にジーンとする。
 
「旅って私、すごく楽しいから…。旅を終えて定住するなんて考えたことなかった。でも私のこと親友って言ってくれる人がいて、すごくうれしい…!ちょっと考えてみるね。」
「ええ…ええ!ゆっくりでいいわ!」
「ふふ、友情って素晴らしいわね。定住の意思が決まったら教えて頂戴。」
「はい、分かりました!」
「それじゃあもう夜も遅いし、解散にしましょうか。」
「あ、こんな時間!帰らないと!オズウェル、オステリーアさん、おやすみなさい!」
「おやすみなさい。気を付けてね」
「大丈夫よ!またね!」
 
あわただしく出ていくアラナを見送って、オズウェルはオステリーアに向き合った。
 
「オステリーアさん、ありがとうございます。定住の件じっくり考えてみます。」
「ええ、その方が良いわ。でも今日は疲れたでしょう。ゆっくり休んで頂戴。」
「はい、おやすみなさい。」
「おやすみ。」
 
オズウェルは部屋に戻った後、知らずに興奮していた気持ちを鎮めるために窓を開けて外の空気を吸う。
満天の星空を見上げると流れ星が一筋流れた。消えないうちに願い事を祈った。どんな願い事か、それは本人だけが知っている。
しおりを挟む

処理中です...