3 / 5
3
しおりを挟む「ここなら人そんなにいないですし心置きなく喋れますよ」
そう言って「よっこいしょ」と言いながらカバンを置いて草むらの上に腰を下ろす。私は相変わらず箒に座ったまま。
次に連れて行ってくれた場所は小さな川の傍の土手。確かに人通りは少なく、ごくたまに犬の散歩の人やジョギングしている人が通過するぐらいだ。ここならまだ大丈夫だろう。
そろそろ日が傾き始め、空の色が橙色になりつつある。
『ゲーム楽しかった?』
「楽しかったっすよ。でも…」
『でも?』
「やっぱ一人じゃちょっとつまんねぇかな」
『そうなの?』
「…魔女さんも一緒に出来たらたぶんもっと楽しかっただろうな」
『………』
話題を変えるとするか。
『…ねっ、ねぇ。孝信君は高校生なの?』
「あっ、ハイ。この近くの“てんこう”に行ってます」
『…てんこう?』
「天道学園高校。略して“てんこう”っす」
『ふふっ!何それマジシャンみたい!』
「プリンセス的な?あはは!」
それから当分の間本当にいろいろな話をした。
孝信君は今高校一年生で、この三月が終われば二年生になる。今日は「ノー残業デー」ならぬ「ノー部活デー」だったらしく、もともとゲーセンでちょっとあのゲームの練習をして帰るところだったらしい。
見た目はワルそうだがこんなに優しくて私のような者にも付き合ってくれるし、よく笑ってくれているのに友達は多くはないらしく、あの「ちぃちゃん」以外の同級生とあまり話すこともないらしい。ちなみに彼女とは五歳ぐらいからの長いお付き合いで、所謂幼なじみというやつだが、今は高校は一緒でもクラスは違うそう。次こそ同じクラスだったらいいのにな~と言っていて、少しだけ嫌な気分になってしまう。本当にあの子が羨ましい。
またここで話を変え、彼の趣味や好きなもの全般の話になった。
どうやら漫画が好きなのか実家の漫画の蔵書数が半端ないらしく、こ●亀全二百巻はおろか手●治●大全集の四百巻までも網羅されているらしい。この他にも少年漫画や青年漫画が数多く置いてあるが、少女漫画や女性向け漫画はほとんどなく、たまに「ちぃちゃん」から少女漫画を借りて読む程度なのだとか。ちなみに家族にお姉さんがいるらしいけれど、お姉さんも少女漫画はあまり読まないそう。
部活は空手部で、幼少期はひ弱な見た目でいじめられることもあったため強くなるべく始めたという。今はどちらかと言うと筋骨隆々な体つきなのだからちょっと信じられない。最初こそ慣れなかったものの、今では瓦割りが得意で軽く二十枚は割れるようになったと話してくれたから、思わず『すごーい!』と感嘆の声をあげてしまった。その後でさり気なく『カッコイイじゃん』と言うと、彼はちょっと嬉しそうに口角を上げていた。
他には見かけに寄らず甘いものが好きで、クリスマスの日にご両親に内緒でお姉さんと割り勘でケーキを買って二人でこっそり食べたこと。部活のない休みの日は家で漫画を読むか、お寺の境内に棲み着いてる猫と遊ぶか、「ちぃちゃん」やその友達と遊びに行ったりしていること。誕生日が三月二十五日と迫っていて一番欲しいものを考えているが、ピアスか数珠ブレスレットあたりにしようと思っているということ。着ているTシャツに書いてある四字熟語は「色即是空」で、「この世にあるものは全て実体はない」という意味なのだそうだが…私の頭ではちょっと難しくて正直よくわからない。
そして個人的に一番気になっていた、好きな女性のタイプは…特にこれといってないそうだ。
『えっ、本当にないの?』
「はい、特には。彼女いない歴=年齢なんで…」
『え~嘘でしょ!?全然そう見えないよ!』
「ホントですって、ホント!」
『孝信君イケメンなのに~』
「そんな褒めても何も出ないす……あ、人来たんでちょっと…」
長らく誰も通らなかったが、彼の言う通り少し遠くから人が歩いていてこっちに向かっている。私は黙ってコクンと首を縦に振った。
その通行人は暫く歩いたところでふと立ち止まった。もしかして孝信君が一人で話しているのを見てしまって…怪しんでいる!?
と危惧したが、そうではなかったようだ。
「・・・こんなとこで吸うかね」
誰にも聞こえない程度の小声で、呆れたように孝信君が呟く。
その人はタバコを一本揺すり出して口に咥え、程なくしてライターも取り出す。
シュッと音が鳴り、先端にオレンジ色の火がつく。それと同時にたくさんの煙が出て、あの人の顔が見えなくなった。
思い出したくもなかった、非常に厭わしい記憶が…突如フラッシュバックする。
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
〈完結〉だってあなたは彼女が好きでしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
「だってあなたは彼女が好きでしょう?」
その言葉に、私の婚約者は頷いて答えた。
「うん。僕は彼女を愛している。もちろん、きみのことも」
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
王子様への置き手紙
あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯
小説家になろうにも掲載しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる