魔女旅に出る

鳳凜之助

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「ここなら人そんなにいないですし心置きなく喋れますよ」



そう言って「よっこいしょ」と言いながらカバンを置いて草むらの上に腰を下ろす。私は相変わらず箒に座ったまま。

次に連れて行ってくれた場所は小さな川の傍の土手。確かに人通りは少なく、ごくたまに犬の散歩の人やジョギングしている人が通過するぐらいだ。ここならまだ大丈夫だろう。
そろそろ日が傾き始め、空の色が橙色になりつつある。



『ゲーム楽しかった?』
「楽しかったっすよ。でも…」
『でも?』
「やっぱ一人じゃちょっとつまんねぇかな」
『そうなの?』
「…魔女さんも一緒に出来たらたぶんもっと楽しかっただろうな」
『………』



話題を変えるとするか。



『…ねっ、ねぇ。孝信君は高校生なの?』
「あっ、ハイ。この近くの“てんこう”に行ってます」
『…てんこう?』
「天道学園高校。略して“てんこう”っす」
『ふふっ!何それマジシャンみたい!』
「プリンセス的な?あはは!」






それから当分の間本当にいろいろな話をした。

孝信君は今高校一年生で、この三月が終われば二年生になる。今日は「ノー残業デー」ならぬ「ノー部活デー」だったらしく、もともとゲーセンでちょっとあのゲームの練習をして帰るところだったらしい。

見た目はワルそうだがこんなに優しくて私のような者にも付き合ってくれるし、よく笑ってくれているのに友達は多くはないらしく、あの「ちぃちゃん」以外の同級生とあまり話すこともないらしい。ちなみに彼女とは五歳ぐらいからの長いお付き合いで、所謂幼なじみというやつだが、今は高校は一緒でもクラスは違うそう。次こそ同じクラスだったらいいのにな~と言っていて、少しだけ嫌な気分になってしまう。本当にあの子が羨ましい。

またここで話を変え、彼の趣味や好きなもの全般の話になった。

どうやら漫画が好きなのか実家の漫画の蔵書数が半端ないらしく、こ●亀全二百巻はおろか手●治●大全集の四百巻までも網羅されているらしい。この他にも少年漫画や青年漫画が数多く置いてあるが、少女漫画や女性向け漫画はほとんどなく、たまに「ちぃちゃん」から少女漫画を借りて読む程度なのだとか。ちなみに家族にお姉さんがいるらしいけれど、お姉さんも少女漫画はあまり読まないそう。

部活は空手部で、幼少期はひ弱な見た目でいじめられることもあったため強くなるべく始めたという。今はどちらかと言うと筋骨隆々な体つきなのだからちょっと信じられない。最初こそ慣れなかったものの、今では瓦割りが得意で軽く二十枚は割れるようになったと話してくれたから、思わず『すごーい!』と感嘆の声をあげてしまった。その後でさり気なく『カッコイイじゃん』と言うと、彼はちょっと嬉しそうに口角を上げていた。

他には見かけに寄らず甘いものが好きで、クリスマスの日にご両親に内緒でお姉さんと割り勘でケーキを買って二人でこっそり食べたこと。部活のない休みの日は家で漫画を読むか、お寺の境内に棲み着いてる猫と遊ぶか、「ちぃちゃん」やその友達と遊びに行ったりしていること。誕生日が三月二十五日と迫っていて一番欲しいものを考えているが、ピアスか数珠ブレスレットあたりにしようと思っているということ。着ているTシャツに書いてある四字熟語は「色即是空」で、「この世にあるものは全て実体はない」という意味なのだそうだが…私の頭ではちょっと難しくて正直よくわからない。

そして個人的に一番気になっていた、好きな女性のタイプは…特にこれといってないそうだ。



『えっ、本当にないの?』
「はい、特には。彼女いない歴=年齢なんで…」
『え~嘘でしょ!?全然そう見えないよ!』
「ホントですって、ホント!」
『孝信君イケメンなのに~』
「そんな褒めても何も出ないす……あ、人来たんでちょっと…」



長らく誰も通らなかったが、彼の言う通り少し遠くから人が歩いていてこっちに向かっている。私は黙ってコクンと首を縦に振った。

その通行人は暫く歩いたところでふと立ち止まった。もしかして孝信君が一人で話しているのを見てしまって…怪しんでいる!?

と危惧したが、そうではなかったようだ。






「・・・こんなとこで吸うかね」



誰にも聞こえない程度の小声で、呆れたように孝信君が呟く。
その人はタバコを一本揺すり出して口に咥え、程なくしてライターも取り出す。



シュッと音が鳴り、先端にオレンジ色の火がつく。それと同時にたくさんの煙が出て、あの人の顔が見えなくなった。










思い出したくもなかった、非常に厭わしい記憶が…突如フラッシュバックする。


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