魔王を"封印"した聖女の生まれ変わりはまた聖女でした!

此花チリエージョ

文字の大きさ
33 / 52
銀髪と緋色の瞳の聖女と仲間達

『とても……懐かしい…気配だわ』 ※主人公視点

しおりを挟む
 閉じていた瞳を微かに開く。
 私の銀髪や衣服の裾が上空へ、ふわりと舞い上がり"浄化"の魔法を何時でも発動出来るように力が集まっていく。

 この“浄化”だけでは、ディアーナ王国全体の濃厚な瘴気は"浄化"仕切れないから、ルティルナの都を中心に"浄化"魔法を広げていくように"想像イメージ"して、身体から真っ白に光輝く巨大な白鳥が現れると同時に私は祈るように両手を組む、

 …ーどうか、人々を魔物の驚異から守れますように。

 その願いと共に巨大な白鳥はバサッと翼を広げて、ガルフォンが私達の姿を隠すためにはった認識阻害の空間結界の外へ、羽ばたいて行く。

「あれ、なんだ!」
「すっげぇ」
「白い鳥!」
「誰の魔法っ!?」
「ママぁー、あれ、なぁに?」

 私の"巨大な白鳥浄化魔法"を目撃した人々が騒ぎだす。
 巨大な白鳥からはキラキラと光る真っ白な粒子が人々へ降り注ぎ、最後は霧散して、ルティルナの都の外へ広がって消えていく。

「あら?身体が怠かったのに、楽になった?」
が""されてねぇか!?」
「聖女様がいらっしゃるのか?」
「聖女様はまだ王宮に居られるだろ?」
「もう、旅立たれたはずだ!」
「行方不明って聞いたわよ」

 聖女の"浄化"魔法だと気付いた人々が「聖女の噂話」で騒ぎ始めた。

 くらっと眩暈めまいがしてうずくまった私に、フィル君が慌てて駆け寄る。

「ハル、大丈夫?」
「…ハァ、ハァ。
 ………うん、大丈夫」
「支えてるから立てる?」
「うん」

「おい!
 でっかい鳥、この辺から出てこなかったか!?」
「誰もいないぞ」
「分かってるな!?
 だぞっ!」
「分かってるわよ」

 私達が居る鐘塔カンパニーレの中、上層の鐘がある場所まで、下層の、しかも屋外からのざわめきが届く。
 人々の声が重なりあって、私にはよく聞こえない。ガルルッとフゥが周囲を警戒する。

「賞…金…?…山…分け?」
「お頭?」
「ティティ、どうしました?」
「しっ、静……かに…して」

 ティティは「静かに」の意味で、口元に人差し指を立てる。狼の耳がキョロキョロと左右に動く。
 人狼族ティティの耳が人間達でも、拾えない音を拾ったようだ。

「……王宮の……から。
 フィルと…ハルに……懸賞金が…ひとり…白銀貨、50枚…掛け…られて…る」

 ひとり白銀貨50枚って、日本円で50,000,000円!
 ふたりで白銀貨100枚で、総額100,000,000円もっ!?

「宰相。
 ……か?」
「…ええ、ガリジェダ・リディエール宰相。
 王宮の【魔王封印派】のです」

 フィル君とガルフォンの会話が私の耳にはいる。

 ガルフォンの叔父さんって、3年前にガルフォンの両親と弟さんを暗殺して、一緒に亡くなった執事長のディオールさんが言うには……何かに憑かれてるって人だよね。
 その人が国王陛下とフィル君の【魔王打倒派】の敵対派閥のトップって偶然なの。

 私は不安と心配が入り交じった表情でガルフォンを見つめる。その表情に気付いたガルフォンが、

「大丈夫だよ、嬢ちゃん。
 ここは俺がなんとかする」

 そう言って、私の頭をわしゃわしゃと荒く撫でる。

「何処だ?何処に居る?」
「此方か!」
「あっちを探せ!」
「此方は誰も居ないわ」

 屋外では、まだ私達を捜索する人々が居る。さっきより人数が増えてる。

「何か策はあるんですか?」
「"浄化"魔法の時と一緒だよ。
 認識阻害と防音の空間結界をはる」
「ガルの…テリトリーに……入った…人に…見つから…ない?」
見つからないそうならないように、空間結界の範囲を狭めて、俺達の輪郭に沿って、空間結界をはる。って、ことで嬢ちゃん、ちっと我慢しろ」
「きゃ、あぁ…」

 ガルフォンにまた俵担ぎをされた私は思わず悲鳴をあげる。捜索する人々に見付からないように、慌てて口に手を当てる。

「ガルフォン!
 ハルは僕が支えるからっ」
「……それだとアレ突破すんのに時間かかるだろ」

 フィル君とガルフォンは小声で話して、私にはよく聞こえないが、ガルフォンが親指で屋外の「捜索する人々」を指差してる。

「さすがに…俵担ぎそれは…」
「ん。じゃあ、お姫様抱っここうかぁ?」
「わ、わわっ」

 俵担ぎだった私が、ぐるんっと下へ落ちて、ガルフォンの胸元へ、お姫様抱っこの体制になる。
 ガルフォンはニヤニヤしながらフィル君を見つめる。

「……それも、だめ「フゥに…乗せて」
「お頭?」「ティティ?」

 フィル君の声に被るようにティティが口を出した。ガルフォンとフィル君がティティを見つめる。

「ハルは…フゥに、乗せて。
 …フィルは…後ろに…乗って…支えて…」

 ガルフォンが…なんとも言えない…怒り?を孕んだ、黒いオーラのティティに見つめられる。その瞳はギラリッと獲物を狙う肉食獣と一緒だった。

「これ…だと、の…空間結界…でしょ?」
「へ、へぃ」
「それと……あんまり…フィルと…ハルに…構ってる…と、面白く…ない」

 ティティは自分の身体をピッタリと、ガルフォンの身体にくっ付ける。ガルフォンは照れながら、

「お頭……悪かったよ」

 私をフゥに乗せながら、そう呟いた。そんなやり取りを見ていた私はー…、

 え、えぇ。
 ガルフォンとティティふたりって、恋人同士だったの??

 私は視線で、後ろのフィル君に問いかける。フィル君は私の言いたいことを察して、コクコクと頷く。

 異種族恋愛かぁ~。
 ムツキとイーディスと一緒だぁ。

 …でも、異種族同士だとんだよね。



 ―――――



 ハルがルティルナの都で"浄化"魔法を使った同時刻。王宮の一室。

『あら』

 執務机で書類を確認していた、宰相ガリジェダは手を止めて立ち上がる。男性のガリジェダから、女性の声が零れる。
 ゆっくり窓へ近づき、そっと窓ガラスに手を触れる。

『とても……懐かしい…気配だわ』

 窓を開けると風が部屋の中へ入り込む。

『誰だったかしら?』

 ガリジェダは少し考え込む。

『…ああ、思い出したわ。
 ……ムツキ様だったかしら』

 コン、コン。
 部屋のドアがノックされる。

「どうぞ」

 本来のガリジェダの声で入室を許可すると、国王陛下付の文官が入ってくる。

「国王陛下がフィルシアール様と聖女様のことでお呼びです」
「承知しました。今から謁見へ向かいます」

 ガリジェダはそう言うと、文官を残して部屋から出ていく。

 ガリジェダ宰相…。
 昔はよく笑う陽気な人で、自分にも他愛ない言葉をかけて下さったのに、兄夫婦家族が亡くなった3年前から、人形のように変わってしまった。

「何が…貴方を…変えてしまったのですか?」

 文官の呟きは誰にも届くことなく消えていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...