魔王を"封印"した聖女の生まれ変わりはまた聖女でした!

此花チリエージョ

文字の大きさ
43 / 52
銀髪と緋色の瞳の聖女と仲間達

イーディス~ティティとティーニャ~ ※ティティ&ティーニャ視点

しおりを挟む
 ボクがハルと話している時、少し離れた場所に居たガルフォンとフィルの近くに懐かしい桜の木が突然現れた。



 フィルがそう呟くと、桜の木はメキメキと懐かしいイーディスの姿になる。唯一変わった事は、イーディスの長い髪をムツキの真っ赤で大きなリボンで纏められていたことだけだ。そしてボクの狼耳みみに、

「…この、お前が?」
「そうです」
「何色だ?」
「え?」
「髪と瞳の色はだ、か?」
「………そう…です」

 そう、微かに聞こえると、イーディスはフィルの右腕うでを掴んで、森の奥へ姿を消した。
 そのふたりの姿を見たボクは、で、イーディスは何かを知ってると悟った。そして、千年前に突然姿を消した怒りも湧いて、ボクの中の細い糸がプツンと切れた。

「…ねぇ、ボクが…誰か…分かる?」
「……か?」
「よかった。…ティーニャむかしは……“”…だったから…気付かれないと…思った」

 ボクはそう言うと、吹雪をイーディスにぶつける。

「はぁ、かの吹雪を溶かせ〈太陽の光ソーリス・ルクス〉」
「ちょっ、イ、イーディス、ティティ!やめっ!!」
「かの者を束縛し護れ〈束縛の蔓オプリガーディオ〉〈守護の結界デーフェンスィオー〉」
「うわっ!」

 イーディスが止めに入ろうとしたフィルを蔓で木に束縛し、その上から結界が、フィルを守るようにはられる。

「変わらんな。少しは大人になったらどうだ」
「そういう…イーディス……もね」
「ふたりともですっ!もう、やめてください!!」

 フィルが一生懸命、止めようと説得するが、ボクとイーディスは聞く耳を持たず、ボクの氷魔法とイーディスの魔術の応酬が続く。

「…せ、せめて話し合って下さい」
「話し合いも無理だったと記憶してるが」
「…それも……無理…でしょ」

 そうボクとイーディスは前世から仲が悪い。ハルとムツキの世界の言葉だと“犬猿の仲”だ。

 エルフやダークエルフは膨大な魔力を持ち、その魔力ちからで独自の魔術を生み出し、発展していった誇り高い種族だ。
 そして、ボクの種族は“獣人”は高い運動神経を持っているが、使、魔力が少なく、他部族からは“”と呼ばれていた。昔は其々の部族の村でひっそりと暮らしていたが、その“高い運動神経”を人間に目を付けられて、攻められ、最初は抵抗していたが、獣人は少数民族で、絶滅より服従を選び、男は“武力”で、女は異種族同士は子が成せない為“慰み”に。そんな正反対の“種族”が相容れないのは当然のことで。

『獣臭いと思ったら、狼が居たか』
『誇り高いダークエルフ様には耐えられない?』
『…“魔力なし”が偉そうに』
『年中“引きこもり”には言われたくない』

 ティーニャとイーディスは、こんな感じで口喧嘩をしていた。
 イーディスがティーニャ相手に魔術を使うことはなかったが、ふたりとも“人間嫌い”で“ムツキ”と“イグニーア”が大好きで、ふたりを独り占めしようと必死だった。
 所謂、あれだ。えーと…“”だったと、思う。
 それもムツキが“生贄”に捧げられた日まで、だったけど。

『クゥ、どうしたの?具合悪いの?』

 ティーニャは疼くまっているクゥに…フゥの母幻狼に寄り添う。

『どうした?』
『ティーニャ、クゥがどうしたの?』
『どうかしましたか?』

 イーディス、ムツキ、イグニがそれぞれクゥを気遣う。
 イーディスがクゥの上に手を翳して、目を瞑る。

『……クゥの“気”が乱れているな』
『原因分かる?』
『…何か……別の“気”が感じるか……詳しいことまで、分からんな』

 ティーニャの問にイーディスが淡々と答える。その表情を見ると、イーディスも分からないことがティーニャにも伝わる。クゥの種族“幻獣”は滅多に姿を現さず珍しく、稀に“獣人族”の其々の“種族”に該当する、人狼族なら幻狼、猫人族なら幻猫げんびょう、鬼人族なら幻鬼げんきが現れる位で、情報が少なく、イーディスが判断出来なくても、仕方がないことだった。

『城下町に腕のいい獣医が居ると聞きます。クゥを診てもらっては?』
『うん、そうする』

 イグニはかなり心配そうに、動物病院までの地図を書いたメモをティーニャに手渡す。


『ひとりでも大丈夫だから、

 ティーニャはムツキの申し出を断り、ひとりで動物病院へ向かう。ティーニャと入れ違いに、ひとりの文官が部屋へ入る。

『イグニーア殿下。…国王陛下がお呼びです』
『承知しました。直ぐに向かいますと陛下にお伝え下さい』
『はっ、受けたまりました』
『ムツキ、イーディス。父上の所へ行ってきますので、何かありましたら、執事や侍女に申し付けて下さいね』

 そうしてイグニも部屋を後にして、その後、理由は分からないが、イーディスも居なくなり、ムツキはひとりで部屋に残り【魔王城】まで、連れていかれることを、ティーニャは知らなかった。


『クゥが?』
『ええ、そうですよ。お母さんと赤ちゃんの“気”が乱れあって、具合が悪いだけです。落ち着けば安定しますよ』

 ティーニャは訪れた動物病院で、獣医からそう聞かされる。ティーニャは早く皆に知らせようと、クゥを連れて王城に戻ると、数人の国王陛下付きの兵士達が、

『なに!聖女様は魔王封印の“生贄”なのか!?』
『ああ。1時間ほど前に【魔王城】に出発された。イグニーア殿下や、仲間達が側を離れなくて“封印”が出来ないと、
『待て、王太子殿下はご存知じゃないのか!?』
『優しいあの方のことだ。それを知ったらだろうさ』
『…それも…そう…だが』
『俺達の家族の平和の試さ。仕方ないさ』

 何を言っているの?ムツキが魔王封印の“生贄”?
 ティーニャは慌てて、ムツキの部屋に向かう。部屋はもぬけの殻で、床にティーアップが割れて落ちて、紅茶が飛び散っている。
 ティーニャはイグニとイーディスを一生懸命探し続けるが、ふたりを見付ける事が出来ず、クゥを連れて城下町を出て、深淵の森付近までやって来る、

『クゥ。クゥはこれから先はついて来ないで』
『クゥゥゥ、クゥ?』
『大丈夫だよ。ムツキを連れて帰ってくるから、あの場所で、

 その約束は果たされず、ティーニャとムツキはクゥの元へ帰ることが出来なかった。


 ボクはイーディスを見下ろす。
 今さらイグニや姿を消したイーディスを責めるつもりはない。ティーニャがムツキの申し出を断らず、一緒に動物病院に来ていれば、別の未来もあったかもしれない。だけど、フィルとイーディスふたりの会話を聞いて、イーディスが“何か”を知っていると分かった以上、をするしかない。

「ねぇ…フィルは……何を…隠しているの?イーディスも……知っているの……でしょう?」
「……そ、それは…」
「知ってどうする。もう“やってしまったあと”だ」
「イーディスッ!言わないで下さいっ!!」

 “やってしまった”ね。

「それは……………?」

 ボクはボクの中にあった疑問をふたりに問いかけた。

「……………」
「……ッ!」

 イーディスは黙り、フィルが息を飲んだことが、ボクにも伝わる。
 ふたりとも変わってない。図星を付かれたら、イーディスは黙り、イグニは息を飲む癖がある。

「…そう。…やっぱり…………

 ボクはそう言うと、フゥから降りて、地面に着地する。

「話して……くれる?」
「フィルシアール、どうする?」

 ボクの質問にイーディスはフィルに問いかける。フィルはブルブルと頭を降って拒絶する。

「だそうだ。フィルシアールの同意を得られない以上、俺も話す気はない」
「…そう」

 やっぱり【闇ギルド商会】頭領の力を使って、独自で調べるしかないか。

「お前」
「ん。……なに?」

 イーディスは何かに気付いて、顔をしかめる。

「“”か?」
「………………………」
「ちょっ、イーディス。……それは…………」

 の“”に、イーディスが悪げなく触れる。フィルも察していたのか、青白くなり、言葉を失っていく。ボクはニッコリと愛想笑いをして、

「……お前……嫌い」

 再び、氷魔法と魔術の応酬が始まった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...