碧天のノアズアーク

世良シンア

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レグルス編

46 涙の先で咲く笑顔

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side 八神秀

「なるほど。念願の復讐を遂げるために百年も旅を続け、この国にたどり着いた矢先に不運にもクズ悪党どもの魔の手に堕ちてしまった、というわけですか」

「そう、なりますね。改めて言葉にされると、私たちの不甲斐なさが際立ちます……。本当に申し訳ございません」

木製の椅子に座り深々と頭を下げるカイト。向かいに座る俺とライアン宰相は、終始罪悪感満載で話すカイトに対し、自分たちのいつも通りの態度で接した。俺の方がカイトと仲がいい自覚はあるが、仲良しという理由だけで、ここで手を差し伸べるのは全く筋が通らない。

どんな理由であれ、やっちまったもんに見合ったケジメっつうのは、できるだけつけた方がいいだろ。

「ま、エルフっつうなら寿命は誰よりもあんだろ?ちぃとばかしこの国に貢献してよ、一区切りついたらまた旅でもやったらどうだ?」

「え……」

思わず顔を上げたカイトは、呆けた表情でこっちを見た。

「ノアがな、鳥籠で身動き取れないお前らが、自由に羽ばたくところを見たいんだとよ」

「っ!」

「お前らほんっとにノアに感謝しろよ?あいつが行動を起こさなきゃ、今俺はここにはいねぇんだからよ」

「……っ、はい。ありがとう、ございますっ……!本当に、ありがとう……ございます……っ!」

カイトは涙をひとつ流すと、一音一音噛み締めるように言葉を紡いだ。

なんでこんないい奴が面倒事に巻き込まれちまうのかねぇ。ほんと、世知辛い世の中だぜ。

「確かに、あの時は私も驚きましたよ。国全体を不安の渦に陥れていた事件を解決に導いた功労者のひとりであるというのに、その褒美を自分のためではなく他人のために使うんですから。耳を疑いました」

「もし俺がライアン宰相、あんたの立場だったら、ぜってぇに同じこと考えてたね。うちのリーダー様は、誰もが認める好奇心バケモノっつう称号を持ってるくせに、いい奴だ!気に入った!って思った奴にゃ、とことん甘くなりやがる。ほんっとに厄介なんだぜ?」

「なるほど。やはり私の見立て通りの純真で素直な方でしたか。裏表がない人なんて存在したんですね」

「ただ無意識に、全部真正面から受け止めてきたんだよ、ノアは。だからか、いくら誤魔化そうと、取り繕っていようと、あいつは相手の本質を的確に捉えちまう。見る目はある、ってやつだな」

「……ノアさんは、ありきたりな言葉しか思いつきませんが……太陽のような方だと私は思います。その光のおかげで、私たちはこれ以上、道を誤らずに済んだのですから」

目を閉じるカイト。その隙間から一滴の涙が頬をつたい、テーブルに跡を残した。

「ま、とりあえずこの後すぐにでも釈放されるだろうから、心の準備をしておけよ」

「はい……っ」

「あ、そうだ。ひとつ、カイトの昔話を聞いて聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「……?ええ、私で答えられることであれば」

「その話、私も同席しても?」

「ああ、別に構わないぜ」

疑問符を浮かべるカイトと興味深そうに俺を見るライアン宰相。ライアン宰相が何を考えてるか腹の内は読めないが、聞かれて困るような話でもない。むしろ、聞いてた方がこの国にとって有益になる可能性すらあるかもなぁ。

「百年前、お前らの国で突如仲間たちが暴れ出し互いに殺しあった……まさに地獄絵図のような話だが、その時お前は傷を負ったか?」

「……はい。今でも残っています」

カイトは襟を下に引き寄せ、首元を見せつける。そこには大きな剣傷が残されていた。

「以前お話しした通り、私は父につけられた古傷を背負い、今まで生きてきました。長い時を経てもあの時の憎しみや絶望を忘れずに済むという点では、いいものと言えるかもしれません」

「そう、その傷。それは国が滅んだ時に負ったわけだろ?」

「はい、あの時に……」

「前に聞いた時も思ったが、普通傷跡ってのはよ、百年も残るもんかねぇ」

「「っ?!」」

二人が同時に目を見開く。そしてライアン宰相は手を顎に当て、深く考え込むようなそぶりを見せる。

「そりゃあ、いくら細胞が日々入れ替わる……要するに肉体が修復されていくからといって、大きな傷ってのはそうそう消えやしない。ただそれはこの時代になっていなかったらの話だ」

「それは一体、どういう……」

「ちょっと考えりゃ誰だってわかるさ。ほら、冒険者をやってる奴なら必ず世話になってる物があんだろ?」

「必ず……あっ、ポーション、ですか?」

「そうだ。どんな傷でもなかったことのようにできる魔法の薬。それがポーションなんだろ?」

「あなたの言う通りです。ポーションは今でこそなくてはならない治癒アイテムとなりましたが、これが世に出回り始めたのは十数年前。当初は量産技術もなかったので、本格的に全ての人々の手に充足し始めたのは、数年前からと言ってもいい」

ライアン宰相は、真剣な表情で丁寧に説明を付け加えてくれる。眼鏡も相まって、さらに聡明さが際立つな。

「流石は宰相殿、よくご存知だ。んで、カイト。お前はポーションを使ったことはもちろんあるよな?」

「はい。魔物相手に無傷とはいきませんから。効力と効率もよいポーションはよく使っています」

「んじゃ、その時負った傷は綺麗さっぱり消えるよな?なら何故、父親によってつけられたその傷はお前の身体に刻まれたままなんだ?」

「っ!……そ、れは…………」

カイトがそっと傷に触れた。少し浮き出たその痕に痛ましさを覚えない奴はいねぇだろう。

「ポーションが古傷には効かねぇ、あるいはエルフの体質的にポーションに耐性がある……まあ可能性はある程度考えられるが、俺は最も危険な可能性を考えて行動するたちでなぁ……まあ、それを言う前に、だ。お前ら二人はこの不可思議な現象に関してどんな結論を出す?」

情報交換や意見交換は自分たちの身を守る上で重要な策のひとつ。俺には思いつかないような、あるいは俺の考えが甘かったと改めて考えさせられるような、そんな気づきが生まれる可能性がある。その気づきがあるのとないのとでは、生存率が大きく変わる。

未知をどれだけ既知に変えられるか。これはどんな勝負においても、勝利の鍵となる重大なひとつのピースになり得る。みすみすそのチャンスを逃すなんざ、死に自ら近づくのと同義だ。

「……そんなこと、今まで考えもしませんでした。ただ、この傷はあの時の戒めであると、受け入れていただけ……。ですが改めてこの傷の意味を考えて、私は父から呪いを受けたのだと思います」

「ほう?呪い、ねぇ」

知識としては知っているが、実際に見たことはねぇな。

「はい。私たちの国では呪い……呪術は禁忌とされてきました。どんな呪術も必ず自分に跳ね返る、まさに諸刃の剣。それだけでなく、関係のない周囲の生命にさえ多大な悪影響を振り撒く。自然を愛する我々にとって、害悪でしかありませんでした」

「私たち亜人からすると、呪術なる言葉は聞いたことがありませんね。外と交流が途絶していたとはいえ、私はその範疇にはいない。にも関わらず知らないとなると、失われた氣術とも呼べるのでしょうね」

「ええ。呪術はエルフ族が生み出してしまった、いわば汚点とも言うべき氣術。他人に言いふらすエルフ族はまずいない。そしてこの人界ミッドガルドでその術を教えられるのは、今ではもう私とカナタ様しか残っておりません」

「なるほど。魔界ニライカナイにはダークエルフ族が住んでいましたね。彼らも呪術には詳しいわけですか」

魔界ニライカナイか。クロードさんから色々教わりはしたが、やっぱ肌で感じねぇとしっくりはこねぇんだよな。まあいつかは行くことになんだろうから、ちょくちょくいろんな奴から情報は集めておくか。

「はい。呪術に手を出してしまったエルフの中には、ダークエルフ族として隠れ住んでいる者もいると聞いてますから」

「それは興味深い話だが、その呪術とやらでお前の父親がその傷を残したとカイトは思ったわけだな?」

「そうです。父は聡明で厳格な人でしたが、あの時の様子は明らかにおかしかった。もしかしたら、私の知らないところで呪術に手を出し、精神を病んでいたのかもしれません……」

カイトは弱々しい言葉を紡ぎながら俯いた。

自分の父親をそこまで言うのはちいとやるせねぇけど、俺が口出しすることでもねぇわな。

「なるほどな。んじゃ、ライアン宰相はどうよ?」

「そうですね……先ほどの話も実に興味深いものでしたが、私はこう考えました。完治することのない、未知の力が関与しているのではないか、と」

「おっ!マジかよ!」

俺は嬉しくなり、つい声を上げた。

「俺がためにためて言おうとしてたのによ、まさか先に言われちまうとはなぁ!」

「そう言う割には悔しそうではないですね」

「まあな。んじゃあ、何故そう思ったか、その思考過程の答え合わせといこうじゃねぇの」

「そうですね、これといった根拠があるわけじゃありませんが、仮にこれを正とした場合、我が国にとってこれ以上のない脅威であると、そう判断したまでですよ」

「はーん。どこまでいっても国のためってか。いい忠誠心だなぁ」

からかい半分本気半分で言ってみたところ、ライアン宰相はニコリと微笑み返した。

「宰相の立場を授かっているのでね。中途半端な仕事はできません。さて、今度はあなたのお答えをお聞きしましょうか」

「そうだなぁ……。俺から言えるのはこれだけだ。もしを使う奴に出会っちまったら、すぐに逃げろ」

「はい?それは一体どういう意味で?」

「おーし、俺の用事は終わった終わったぁ。さてさて、どっかで美味い飯でも食いに行くかねぇ」

困惑するライアン宰相を他所に、俺は椅子から立ち上がり殺風景なこの部屋を後にしようとする。扉を開けて出る直前、俺は立ち止まって軽く後ろを振り返った。

「あ、そうだ。カイト!」

「……?はい」

「湊がこの後リベンジしたいらしいから、予定空けとけとさ」

「リベンジ、ですか?」

心当たりがないと言わんばかりの表情で首を傾ける。

「ああ。湊でも打ち落とすだけで精一杯だった弾丸を、もう一度受けたいんだと」

「……な、なるほど…………」

「じゃ、よろしくな」

俺は用事を済ませとっととこの殺風景な部屋を後にした。

ようやく……ようやくだ…………。
ようやくの痕跡を見つけたぜ、湊……!






side カナタ=ミステーロ

「本当に釈放されちまった……」

木陰を抜けた先、眩しい陽の光が照らす中、俺は思わず額に手を当て小さな傘を作る。エルフからすれば拘束されていた時間など些細なものだというのに、なんだか懐かしい気持ちになってしまう。

外の空気って、こんなにもうまかったか……?

「カナタ様」

「カイト……ノアの言った通り、お前も自由の身になったのか」

背後から現れ俺の半歩後ろで足を止めたカイトは、嬉しさと戸惑いが混じり合った複雑な表情をしていた。

「そうなりますね……。まさかこのような澄み切った空を見上げることになるなんて、夢にも思いませんでした。私たちはもうすぐ地獄に落ちるのだと、そう覚悟していましたから」

一度目を閉じたカイトは、再び俺を視界に捉える。いつものような温かな眼差しに、俺はガラにもなく安心感と懐かしさを感じてしまった。

「正直、俺もその考えはよぎった。ただ俺らにはまだ、この世でやらきゃなんねぇことがある。必ずやり遂げねぇといけねぇことがよぉ……」

「カナタ様……」

思わず手に力が入る。

俺たちの祖国を踏み躙った何者か……そいつに復讐しねぇ限り、俺たちは易々と地獄に落ちることすらできねぇ。亜人の子どもらには悪りぃが、これはエルフ族の長の子である俺にしか成し得ないことだ。

「……ですね。私はどこまでもついて行きますよ、カナタ様。あなたの騎士シュヴァリエとして、どこまででも」

「当然だ。歴史上最後のロイ、カナタ=ミステーロの唯一の騎士シュヴァリエとして、最後まで隣に立て」

腕を前に突き出せば、応えるようにカイトの拳と軽くぶつかり合う。

長い長い復讐の旅。終わりの見えないこの旅路に、百年という歳月を費やしてきた。今更立ち止まるなど、生を全うできなかった仲間たちへの冒涜だ。

「カナタ先生っ!カイトっ!」

突如、元気いっぱいな声が背後から浴びせられた。少し震えまじりのその声に、俺の喉と目も自然と熱くなり始める。

『ドンッ!』

強いようで軽い、懐かしさすら覚える衝撃が背中を襲った。

いつもなら文句をぶつけてやるってのに……言葉がうまく、発せねぇ……!

「……うぐっ…………っ……」

俺はみっともなく口をはくはくと震わせ、目頭を熱くさせる。溢れんばかりの涙は、今か今かとこぼれ落ちるその瞬間を待っている。

「ごめん……ごめん、ねっ、カナタ先生っ……!」

年相応に泣きじゃくる高く大きな声。きっと服はびしょ濡れになっているだろうが、そんなことを気にする余裕はなかった。

俺は顔をくしゃっとさせながら、クロエを抱き寄せるような体勢で頭をポンッと撫でた。

「っっっ……お、おいおいっ、いつもの笑顔は……っどうしたよ?!あれがねぇと……なんか、調子っ、狂うんだよなぁ……っ」

熱くなり続ける喉から、震えまじりの声が出る。歯を食いしばってどうにか抑えようと必死になるが、そんな抵抗は虚しいばかりで、きっと何の役にも立っていないんだろう。

「……また、会えたっ!」

涙で濡れたくしゃくしゃな顔で、ニッ、と白い歯を見せて笑うクロエ。無邪気なその笑顔に、心が温かくなるような、不思議な感覚が胸中に広がっていく。

ああ。今目の前に、五体満足でいつものごとく屈託なく笑う、生意気なガキがいる。そんな小さなことで、どうしてこんなにも胸も喉も目も熱くなるんだ……!

「クロエ」

「カイト!」

両手を軽く広げるカイトの胸に、クロエは勢いよく抱きついた。この光景も随分と昔にあった出来事のように感じられて仕方がない。

俺は俯きながら服の襟を掴んで乱雑に目元を拭う。

「チッ……」

いつのまにか、クロエの存在が俺たちの中で大きくなっちまっていたらしい。いや、下手したら出会った時から…………。

いやいやいや、それはないな。ないない。

「ふぅ……」

呼吸を整え、まっすぐにじゃれ合う二人を見つめる。この当たり前の世界も、俺の一部、か……。

俺は地に足をしっかりとつけて、一歩、また一歩と足を前に出していく。この状況は頭がおかしくなった俺の妄想でも何でもなく、現実に起きた奇跡であると実感しながら……。

「念願のイノセント再集合祝いだ!美味いもん食いにいくぞっ!!」





side クロエ

「今日釈放されるの?!」

純白の髪に薄灰色の目をした可愛らしい男の子……友達のリュウから、カナタ先生とカイトが外に出てくることを知り、私は全速力で樹宮殿ファレストへと駆け抜けた。人生一足を回転させた自信がある、ほんとに。

薬屋クマックから十分も経たずに、天高く聳える大樹の端っこまでくれば、見覚えのある大切な人たちの姿があった。

新緑みたいに綺麗な緑色の髪を揺らす二人。カナタ先生は若葉色で、カイトは常盤色って言うみたいだけど、私にはどっちも安心できる大好きな色だ。

「カナタ先生っ!カイトっ!」

無我夢中で近かったカナタ先生へと抱きついた。

「ごめん……ごめん、ねっ、カナタ先生っ……!」

私は必死に彼方先生に縋り付く。その温もりが私の身体の中を駆け巡る。

あの暗くてジメジメとした陰湿な部屋。汚いなんて言葉が可愛く思えるあの場所に閉じ込められて、私の心は限界だった。

強がりや我慢はちっちゃな頃から得意だったから、騙されて捕まった時にはどうにかなる、きっとカナタ先生とカイトがすぐに助けてくれるって、そういう希望を胸に抱くことができた。

だけど、あの薄気味悪い空間に時間の感覚もわからなくなるほど放置されたら、燃え上がってたはずの希望の火も風前の灯……ぶっちゃけ自分がどんなことを思ってたかもよく覚えてない。

虚無。

たぶんこの言葉が一番しっくりくる。
だって、本当に何もなかったから。

「っっっ……お、おいおいっ、いつもの笑顔は……っどうしたよ?!あれがねぇと……なんか、調子っ、狂うんだよなぁ……っ」

抱き寄せられた感覚。そしてちょっと力強く頭を撫でる大きな手。愛情表現が私よりも下手なカナタ先生の、精一杯の慈しみ。

絶望すらもない無の中に、今やっと、恋焦がれていた光が差したんだ……!

「……また、会えたっ!」

涙が頬を伝った感覚がした。でもそれ以上に、私はいつものように笑った顔をカナタ先生に見せたかった。

元気いっぱいだったあの頃の私がここにいるって。
楽しい冒険がまだまだ続けられるよって。
ほんとうに、よかったね!って。

「クロエ」

「カイト!」

もうひとりの私の大切な人。カイトが広げてくれた両手の中に、私はブレーキなんか踏まずに飛び込んだ。頭の上から、「ふふっ」と微笑ましそうな声が聞こえた。

ああ、本当に私は帰ってきたんだ!
二人とまた、楽しい冒険の旅に出られるんだっ!

あまりの嬉しさにグリグリと頭をお腹に擦り付ければ、「ちょ、クロエ?痛いですよ」と戸惑う声が聞こえた。

「念願のイノセント再集合祝いだ!美味いもん食いにいくぞっ!!」

カナタ先生の力強くて凛とした大きな声。私はカイトの腕を引っ張って、待っていてくれたカナタ先生の横に立つ。そしてカナタ先生の手もギュッと握った。

「あん?なんだ、手なんか握って」

「ふふーん♪」

「なんだか楽しそうですね、クロエ」

嬉しくて仕方がなかった私は、軽く腕をぶんぶんと振って歩いた。だけど二人とも止めようとはしなかった。

微笑ましそうに私を見るカイトと、戸惑いつつも受け入れてくれるカナタ先生。大好きな二人と手を繋いで、私はまた未来へと歩き出す。

二人がいるなら、私はどこまでだって歩いていけるんだからっ!

「チッ。いい顔で笑ってんじゃねぇっての」

「それはカナタ様も同じでは?」

「ッッッ!それはお前もだ!カイト!!」

「違うよカイト。カナタ先生はもっとニィッ、って笑わないとダメなんだよ?ただでさえ口が悪いんだから、笑ってどうにか誤魔化さないと」

「あ?それは誰のことを言ってーーー」

「まあまあ、カナタ様。事実はしっかりと受け止めないと、いつまでも大人になれませんよ」

「どうしてお前はいつもいつもこいつの味方をするんだよ!」

「私は常に、公平に、正しいと思った方についています。ですので、たまたまクロエの言葉の方が心にくるなと思うことが多いだけですよ」

「チッ。甘いんだよ、お前は」

「それはお互い様です」

「仲良いのはわかったからさー、早く何か食べようよ!お腹減った!お肉お肉!」

「どわっ!急に腕を振り回すな、バカ!!」

「あー、バカとか言っちゃいけないんだー」

「バカにバカと言って何が悪い?!ド正論だろうが!」

「これだからカナタ先生は友達のひとりもできないんだぞー」

「なっ……!」

「ふふふ」

周りが思わず振り向いちゃうような、元気いっぱいの声が澄み切った世界に響き渡る。雲ひとつない碧空が見下ろすこの世界で、私たちイノセントは今日も歩いていく。

満面の笑顔の花々を咲かせて。
























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