碧天のノアズアーク

世良シンア

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ダスク・ブリガンド編

2 白髪の少年

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※グロテスクな表現が含まれていますので、苦手な方はご注意ください。




side ノア=オーガスト

EDEN本部の地下に存在する遺跡、トロイメライの予約を済ませたオレたちは、当初はみんなで何かしらの依頼をこなそうとしていたのだが、カズハがギルド長のグレンさんに呼び出しを受けたため、予定が変更になった。

結局のところ、オレとシンは武器屋に行って剣を新調することにし、秀と湊はEDEN内でたまたま見かけた桜木兄妹と談笑し始め、エルはお母さんの所に顔を出しに行くことになった。

「うーん……」

飾られた武器を真剣に見ていくが、これといっていいものは見当たらない。どれもいつも買っている剣となんら変わらないように見える。オレの剣の扱いが下手なのか、どれも二日ともたずに壊れてしまうのだ。

「シン、そっちはなんかいいのあったか?」

「ここにあるのはなまくらな武器ばかりで使えない。他の武器屋を当たる方がいい」

相変わらずの辛口コメントだなー。ま、シンの目に間違いはないからな。次の店行くかー。

「おいコラ、にいちゃん」

店を出ようとニ人でドアの前へ移動すると、後ろから男の声がした。見るとそこには、先ほどまでカウンターにいたおじさんがいた。

「お前いま、うちのものにいちゃもんつけたよなあ?」

「……」

シンは一応振り返ったものの、特にこの男に何か言葉を返す事なく、黙っていた。

「うちのはなあ、かの有名な鍛冶屋『ブラックスミス』から直接取り寄せをしている唯一の武器屋なんだよお。それを侮辱されてみすみす帰すわけがないだろうが」

「……」

シンは先ほどと同じように黙りこくったままではあったが、近くにあった剣を無造作に掴み取った。

そして……

『バリン!』

「なっ……!」

「これのどこが鈍じゃないんだ?」

シンは手にしていた金ピカの剣を容易く真っ二つに折った。

「き、貴様ぁぁ!!」

おじさんは顔を真っ赤にしてシンを指差した。

「う、うちの商品になんてことをするんだ!こ、この剣はうちの店の中で最も高価なものだったんだぞぉぉ!!」

キャンキャンと吠える店主に、オレは小さくため息をついた。

来る店間違えたなー、これは。

「あー、その剣っていくらなわけ?」

オレは早くここから去ってしまおうと思い、おじさんに値段を聞くことにしたのだが……。

「あ?お前、こいつの連れか?」

……オレの質問への解答が返ってこないんだが?

「兄だけど」

「そうかそうか。なら、お前がこの落とし前をつけてくれるんだよなあ?弟のミスは兄貴が取り返さないとなあ」

そう言いながら、おじさんはオレの肩を掴もうとする、が……。

「おい……俺の兄さんに気安く触るなよ」

シンは怒り心頭といった様子でおじさんの手首を掴んだ。

「き、貴様何を……ぐっ…いたたたた!」

おじさんはシンが少しだけ力を込めた瞬間に悲鳴をあげ、シンの手を剥がそうとする。しかし、シンはそれを無視してさらに力を入れた。

『ゴキッ』

「うがぁぁぁ!!!」

手首の骨が折れるような鈍い音が聞こえ、おじさんは膝から崩れ落ちた。シンはそれに合わせて手を離す。手首を抑え必死に痛みを和らげようとするおじさんの手は、あられもない方向に折れ曲がっていた。

「……二度と兄さんの前に現れるな、クズが」

シンは鋭い眼光でそう言い放ち、扉を開けた。

「あー、悪いな、おじさん。気休めかもしんないけど、一応ポーション置いとくから」

カズハからポーションもらっといてよかったかもな。まあけど、シンの逆鱗に触れちゃったのはドンマイとしか言いようがないな、うん。







「シン。さっきのはほんのちょっとだけやりすぎだったからなー」

次の武器屋に向かうオレたちは、多くの人で賑わう大通りを歩いてた。

「……骨折っただけだ。殺してはない」

いや、それがやりすぎってことだったんだけど……。

シンはオレのことになるとどうも暴走するきらいがあるんだよなー。愛されてんのは感じるから嬉しいけど、もう少しその過保護なところを抑えてくれるといいんだけどなー。

けどまあ……。

「とは言ったけど、正直めんどくさい人だなって思ったからまあ、今回はお咎めなしってことで」

オレも善人ってわけじゃないしな。あのおじさん、正直好きになれそうにないし、骨が折れようが折れまいが、たとえ死のうが死ぬまいが、別にどっちでもいいんだよなー。

「次の武器屋にはいいのがあれば……おっと」

かなり混雑していたため、脇道から回っていこうとした時、ドンッ、と何かとぶつかった。見るとそこには灰色のマントをつけた子どもが尻もちをついて倒れていた。

「あ、ごめん。大丈夫か?」

オレはその子へ手を差し出す。フードをかぶっててよくは見えないけど、チラッとだけ灰色の目が見えた。

「……」

その子はオレの手を取ることなく、自分で立った。そして手で土埃を払い始めた。

よく見るとこの子のマント所々擦り切れてるし、色も褪せてる。靴もかなりボロボロだ。それに、顔を覗かせている部分の手や足には傷跡が何箇所か見える。

あまりいい家庭にいるとは言い難いよな、これって……。

「……ごめん、なさい………」

そう小さく呟くと、その子はこの場を去ろうとした。

「あ、待って」

オレは手を掴み、軽くこっちに引っ張った。すると、その子のフードが外れ、その顔が明らかとなった。その子は驚くほどに真っ白な髪をもっていた。顔立ちもかなり綺麗で、将来は桜木兄妹に並ぶほどの美形になること間違いなしだろう。

「あっ……」

美しき少年は、その目立つ髪を隠そうと慌ててフードをかぶった。

「綺麗な髪だな」

「え……」

「あ、いや、ごめんな。つい本音が出ちゃって……こんなに純粋で清らかな白って初めて見たから、ビックリしたわ」

「……お前、いじめでも受けてるのか?それとも虐待か?」

自分が認めたやつ以外心底どうでもいいという態度をとるシンにしては、この子に自分から話しかけるなんて珍しいな。

「そうだぞー。服とか体とかボロボロだからちょっと心配でさ」

「……」

白髪の少年はどうしていいか分からないのか、俯いたまま沈黙を続けた。

さて、どうしたもんかなー……。

「オレの名前はノアって言うんだ」

オレは屈んで無造作に少年の両手を握り、少年をまっすぐに捉えた。

「…………」

「君に何があったのかは無理に聞かないけど、何かあればいつでもオレたちのところに来てくれ。『花鳥風月』って宿か、EDENっていう冒険者ギルドのどっちかにはいると思うからさ」

オレは白髪の少年の頭をポンポンッ、と優しく撫でた。

「じゃあなー」

手を振るオレに少年は特に返すことはなく、ただその場で立ち止まっていた。





side 白髪の少年

「……」

少年は突然見知らぬ誰かに頭を触られたことに思考が追いついていなかった。だが、嫌な感じはしなかったようだ。むしろ……。

あったかかったなぁ……。

少年はふと自分の手を頭に乗せてみる。

……?

だが、あの感覚は全く感じられなかった。

なんだったんだろう……すこし、懐かしい感じがする……。

そう思いながら少年は目的の場所へと向かおうとすると、足に何かが当たったのを感じた。見るとそこには、何かのカードが落ちていた。

「……」

拾い上げてみるとその銅色のカードにはたくさんの文字が書いてあった。

なんて書いてあるのか、わかんない……。

「……の………あ……」

少年がかろうじて読めたのはこの二文字だけ。

たしかさっきの優しい人が、ノアって名乗ってた……。あとで届けに行かなくちゃ……。

そう思いながら少年は大通りへと入って行った。







sideとある武器屋の店主

「……ぐっ……いってぇよ、畜生がぁぁ」

ノアがポーションを飲んだものの、痛みがひくことはなく、ひたすら口からは呻き声が発せられている。この男はシンに折られた手首を抑えたまま動けずにいたのである。

「くそおお。最近商売もうまくいかねぇし、こんな目に会うしよおお。……ついてなさすぎるだろお」

男は数年前からこの店を構えていた。ここに置いてある武器をかの有名な鍛冶屋である『ブラックスミス』産と偽って売っていたのだが、最近は評判がガタ落ちとなり、客足も遠のいていたのだ。

原因は詐称したことがバレたからであろう。それもそのはず、この店の武器は他の武器屋よりも長持ちせず、すぐに壊れてしまう粗悪品のだから。そして閑古鳥が鳴いて困っている時に久々に現れた客がノアたちだったわけだが、シンに酷い目に遭わされてしまい、今に至る。

『コン、コン、コン……』

「あ?今は取り込み中だあ。後にしろ!」

『コン、コン、コン……』

「ッチ。しつけぇなあ!」

男は痛みに耐えながら、なんとか扉を開けた。そこにいたのは、灰色のマントを身につけた小さな子どもだった。

「ああ?ガキがこの店になんの用だ?」

「……お前……ガミル……?」

「あ?だったらなんだってんだよ!てか、声小さすぎんだよ!」

「そっか……」

少年は扉をゆっくりと閉め中に入る。そして一瞬にして姿を消した。

「……なっ……あのガキどこに……」

男は辺りを見回そうとする。手首の痛みが体に響き、うまく体を動かせないが、ゆっくりとした動きで子どもを探そうとした。

「……いねぇ…………」

店の中は自分以外誰もいないかのように妙な静けさを漂わせていた。そしてなぜか男の首筋や顔からは嫌な汗が流れ出した。

「……な、なんだ……なんなんだこれは……」

こ、こんな感覚しらねぇぞ。たかがガキ一匹が店ん中にいるってだけのはずだろうが。どうせ棚の後ろとかカウンターの下に隠れて遊んでるだけーーー。

「ぐはっ!」

負傷した手首を握っていた左手に鮮烈な痛みが走った。恐る恐るみるとそこには黒いナイフが刺さっていた。そのナイフはあろうことか左手と右手首を連結状態にし、男の両手の自由を奪ったのだ。

『コツ、コツ、コツ……』

先ほどまで異様なまでに静かであった店の中から、今度は足音がはっきりと聞こえてきた。

『コツ、コツ、コツ……』

徐々に徐々に、そして確実に自身に近づいてくるその足音に、男は人生史上最大の恐怖を抱いた。そして一本の棒のように繋がってしまった腕をあちこちに振り回した。その音を自分から遠ざけたいがために。

「……ぎゃああああああ!!!」

男の悲痛な雄叫びが店中を駆け巡った。それもそのはずだ。男の両腕があっさりと切られ床へと落ちたのだから。

切り口から多量の血飛沫を出した男は床へ仰向けに倒れ込んだ。そして男をこのようなあられもない姿に変えた少年は、血溜まりの中を平然と進み、男の体が触れる寸前までに近づいて男の顔を見下ろした。

「……そ、その目は、まさか……『グリムーーー」

男が言葉を紡ぎ切る前に、少年は手にしていた黒いナイフで男の首を切り裂いた。そこからは先ほど切った腕よりもさらに多量の血飛沫が、まるで噴水のように噴射された。加えて不思議なことに、男は目や鼻、耳からも出血しており、しまいには身体がシワシワになってしまった。

血塗られた少年はこの惨状になんの反応も示さなかったが、虚な目でボソッと一言だけ口にした。

「……ごめん、なさい………」






side カズハ

「あのさー、グレン。私ももうソロで活動してるわけじゃないんだからさー。あんま呼び出されると困るんだよねー。ノアたちは優しいから行ってきていいよって言ってくれたけどさー……ねえ、聞いてる?」

せっかくノアたちと依頼をこなそうと思っていたのに、突然のグレンからの呼び出しで予定が狂ってしまった。みんなに申し訳ないよー、ほんと。

呼び出した当の本人はと言えば、何故だか私が部屋に入ってきてから……もしかしたら入る前からかも……ボソボソと何か言ってて上の空って感じだし。

「なあ、カズハ」

グレンは顔をあげたかと思うと、いつになく真剣な表情で私を見た。

「何?」

……もしやかなりやばい任務でも任されるのかなー?

「明日がなんの日かわかってるか?」

うん?急に何?母さんの誕生日は明日だけど、そんなことでわざわざ私を呼び出すわけないし……え、ないよねー……まさか、ね……。

「わかんないけど」

私は心当たりがないわけでもなかったけど、明確な回答が思いつかなかったので、正直にわからないと伝えた。

「明日はな……愛しのフローラの誕生日なんだよ!」

……はい?

「いやそれはわかってるけど……母さんの誕生日と私が呼び出されたこと、なんか関係あるわけ?」

「思いつかないんだ……」

「は?」

「俺の可愛い可愛いフローラに何をプレゼントしたらいいのか、全く思いつかないんだよ!」

グレンは頭を抱え、自身の髪をグシャグシャにした。

「………」

毎度のことだけどさー、グレンって母さんのことになるとほんとダメ人間に成り下がるんだよねー。それがなければ独身のままいることもなかっただろうに……。

「はぁ……。どうせまたミクリヤに怒られたんでしょ?仕事しろ!ってさー」

「ま、まあな。かれこれ一ヶ月はこんな調子で、毎日怒られてはいるな」

自覚あるなら仕事してよねー、まったく。

「ミクリヤが可哀想だよねー。こんな人が上司ってさー」

「うっ。それを言うな。ミクリヤは頼り甲斐がありすぎてだな、いつも仕事を任せてしまうんだよ」

グレンはミクリヤに申し訳ないといった感じで項垂れた。

……ほんとに申し訳なく思ってるかはわかんないけどねー。

てかさー、プレゼントくらいとっとと決めてくれよーって感じだけど……まあグレンだからしょうがないかー。グレンのせいで苦労してるミクリヤのためにも、しょうがないからこの私がアドバイスしてやろっかなー。

「……で、母さんへのプレゼントだっけ?」

「ああそうだ」
 
プレゼントねー。私はもう決めてあるけど……母さんが喜びそうなの他にあったかな…………あっ、あれがあるじゃん。

「そう言えば母さん、最近帝都の東側に新しくできたパン屋のパンを食べてみたいって言ってたなー」

「そうなのか?!」

急に顔をガバッと上げるグレン。その目はキラキラとしていた。

「う、うん。ほら、私らの家って中央よりとはいえ西側にあるわけじゃん?歩いて行くと結構かかるし、そのパン屋には即完売しちゃう限定商品があるらしくて、母さんはそれが一番食べたいって言ってたよー」

「そうか……パン、か……」

「じゃ、私は帰るからねー」

まったくこんなことで私を呼び出すなんて、ほんと人使いが荒いよねー、グレンって。

ぶつぶつとまたひとりでしゃべりだし、何やら集中し始めたグレンを他所に、私はそっと部屋を出た。








side ノア=オーガスト

とりあえずいろんな武器屋をあたってみたけど、結局はカズハが最初に紹介してくれたところが一番よかったかなー。もう夕方だし、そろそろEDENに戻るかー。

一応、EDENに集合しようと解散前に声をかけたから、みんな揃ってると思うんだよなー。オレたち結構戻るのに時間かかってるし。

EDEN本部の扉を開けると、案の定フリースペースのテーブルに四人が座っていた。

「お待たせ。……結構待った?」

「まあまあだな。ま、喋りながら待ってたからなぁ。なんの問題もねぇよ」

「そっか。じゃあ、シャムロックに寄ってから宿に戻るか」

「なんだあのガキ?」
「見ねぇやつだな」
「何の用だ?」

オレたちが出ようとした矢先、何やら他の冒険者たちが騒ぎ始めた。そして皆同じ方を向いていた。

「ん?一体何が……」

視線を向けると、そこには昼間にあったあの少年が歩いていた。少年はキョロキョロと首を回している。誰かを探しているのだろうか。

少年はオレの方を向いた途端、止めていた足を動かし、こちらへと向かって来た。探しものはもしかして、オレたちか?

「……これ…」

少年はポケットから銅色のカードを取り出し、オレに渡した。これって……。

「オレのギルドカード……!」

あの時落としてたのか……気づかなかった。

オレは少年からカードを受け取り、頭をなでなでした。

「ありがとな。オレ、失くしてたの気づかなかったよ。君のおかげで助かった」

お、気のせいかもしれないけど……今、笑ってくれたのかな?

「知り合いか?ノア」

オレは少年から手を離し湊へと返答した。

「まあな。さっき会ったばっかの子で……あれ?そういや名前聞いてなかったなー。君、名前なんて言うんだ?」

「……」

少年は困ってしまったのか、黙ったまま俯いてしまった。

「あ、無理に答える必要はないからな」

オレはまたまた少年の頭に手を乗せる。少年は小さいながらも自分の名前を言ってくれた。

「……リュウ…………」

「リュウ、か。いい名前だな。とても強そうだ」

オレはリュウにニカッと笑いかけた。すると少年は、フードを手で引っ張って目深に被りながらそそくさとこの場から去ってしまった。

「ありゃりゃ。行っちゃったねー、あの子」

「オレ、なんかまずいことしたのかな?」

「それはないと思いますよ。ノアさんの真っ直ぐな心に戸惑ってしまっただけではないでしょうか」

あれ?オレって真っ直ぐな心持ってたっけ……?

「まあ、それならいいんだけどさー」
















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