碧天のノアズアーク

世良シンア

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ダスク・ブリガンド編

19 少女の生きる意味

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side セツナ

暗い暗い闇の中。私はただひとり佇んでいた。周りには人も動物もなく、ただただ私ひとりだけの空間。

ああ、またこれか。

これは私が飽きるほど見た夢。いつもこの冷たい暗闇から始まる。そして、次は……。

「この恩知らずが!誰がお前をここまで育ててやったと思ってるんだ!お前が生まれたせいで俺たちは……くそっ!このクズめ!」

これまたいつもの痛みが腹に来る。この男は私の父だ。私がまだ五歳かそこらの時からこうして殴ってくる。原因は私らしいが、私にはそんな覚えはない。

「どうして、こんなことに……っ……うぅ……」

母は古びた椅子に座ってすすり泣く。私が父に殴られていることなど無視だ。助けてくれたことなど一度もない。ただの傍観者。手は出さないけど、助けもしない。そんなのこのクズな父と何ら変わらない。

それに母はまるで私を害虫であるかのように見てくる。私がこの家に住みついた虫けらであるかのように。

「…………」

私は泣き叫ばなかった。以前はギャーギャー喚いたり、殴り返したりしたが、数日で気づいた。こんなことをしても無駄だと。

喚いたところで誰も助けてはくれない。殴り返したところで自分に倍以上で返ってくるだけ。

ならば、気の済むまでやらせるのが賢明というものだ。

……ああ、また切り替わる。

殴られ蹴られを繰り返されていた場面から、今度は暗い森の中に変わった。

「それが私たちに売りたいと言う子供ですか」

「そうだ。こんなくそガキがうちにいたんじゃ、迷惑極まりないんでな。なら最後くらいはせめて、俺たちのために役立ってもらわないと」

私はただそれを父の隣で見守っていた。確かこの時は七歳ぐらいだったか。こんなやつらから離れられるのならどこでも良かった。というか、そもそも私は生きる意味を失っていた。ここで売られて殺されても別に構わなかった。

「ふむ。使えるのかどうかは定かではありませんが……まあいいでしょう。使えなければ殺せばいい話。あなた方にはそれなりにお世話になりましたし」

丁寧な口調で話す男は私の腕を引っ張った。私は逆らうこともせずに身を任せた。

「ほう。逃げないとはなかなか度胸がありますね。これからどうなるかわからないというのに……」

「……別に。死ぬなら死ぬでいい。私はその程度の人間だったってことだから」

「ははは。随分と肝の座ったお嬢さんだ。いいでしょう。私が直々に指導して差し上げます。いい駒になりそうです」

男は父に汚れた袋を渡した。そして私は男に手を引かれ、父とは反対の道を進んだ。遠くから父の嬉しそうな声が聞こえてくる。

ああ、本当にどうでもいい。

また場面が変わる。私はあの男に弓を習った。命令に従い数々のものを盗んだ。輝く宝石や、機密文書……そして人間の命さえも。

私はこの仕事になんら疑問も抱かなかったし、自分の生きる意味を与えられていたとさえ思っている。ただ毎日暴力を振るわれ、父のサンドバッグになるよりもよほど生きている実感が湧いた。

人の命を奪うことも何の躊躇もなかった。所詮は他人。他人の命なんてどうでもいいことだ。

「このっ!……ぎゃぁっ」
「うわぁぁ!」
「助けてくれぇ!」

……なんだ、これは。

いつもならまた最初の暗闇に取り残される自分を俯瞰して目が覚める。なのに……どうなっている?

これは……あの時の記憶だ……。

ドミニクから「殺せ」と指示が下り、一斉にあの奇妙な女へと襲いかかった。私も弓でサポートした。だけど、ほんの一瞬。その一瞬で仲間がほぼ全滅した。ドミニクを除く仲間が。

私は運良く足場を崩されただけで、殴られはしなかった。というよりも、たまたま足場が崩れて殴られる標的に入らなかっただけだ。私は仲間の死体の上に落ちた。そして……。

「おいおい。全員でかかってきたってのにこの程度か?……弱すぎる」

睨むような目つきでドミニクを見据える女。ドミニクは首根っこを掴まれ、宙に浮いている。

「……っ」

「はぁ。もういいよ、おまえら」

女が力を込めた。その瞬間、ドミニクの首は潰れ、その口から多量の血が吐き出された。

「チッ。汚ねぇな。俺は強者の血は大歓迎だが、雑魚の血には興味ねぇんだよぉ」

女は死んだドミニクの体をその辺に投げ捨てた。

こんなやつに、勝てるわけがない。

私は死を悟った。運良くまだ生きてはいるけど、こんな怪物から逃げられるわけがない。

そう思った時だった。新たな来訪者が来たのは。

その三人組は女の攻撃に耐えていた。ドミニクでさえ一瞬で殺されたというのに、そいつらは生き残っていた。そしてその三人組の中に、一人だけ見覚えのあるやつがいた。

あの子は私が人生で唯一、手を差し伸べた子どもだ。

そしてその後場面は青に染まる。高温の熱気が辺りを埋め尽くす。その炎は例外なく私にも届いた。

ああ、私はやはりここで死ぬのか。

意識が遠のく感じがする。前がよく見えない。息もしづらい。
だけど、ほんの刹那、私の名前を呼ぶ声がした。








side ノア=オーガスト

「ぅ……」

「セツナお姉ちゃん……!」

ベットで横たわるセツナがわずかに動いた。リュウはいち早く気づいて声をかける。

「……はっ……ここ、は……?」

悪い夢でも見ていたのか、セツナは布団を勢いよく捲るようにして起き上がった。セツナの顔には汗が見える。

「……リュ、ウ……?なんで……」

汗だくの顔でリュウを見つめるセツナ。その顔は明らかに驚いていた。

「痛いとこ、ない?」

「ああ、ない……ない、けど……」

「よかった……!」

リュウは一際嬉しそうに声を上げ、セツナに微笑む。一方のセツナは自分が一体どういう状況にあるかが分からず混乱している様子だ。

「良かったな、リュウ」

オレはリュウの頭にポンッと手を乗せた。

「……誰だ、あんた」

そんな睨むなよ。怖いってーの。

「オレはノア。リュウの兄……みたいなもんかな」

「リュウに兄弟などいないはずだ」

警戒心が高いなー。きっとリュウを心配してのことなんだろうけどさー。てことはつまり、めっちゃいいやつってことではないだろうか。

「血は繋がってないけど、なんつーか、うーん……」

説明が難しいなー。えーと……。

「血は繋がってはいないが、家族のように大切に思っている。そういうことだ」

オレが悩んでいる隙に、部屋に入ってきたシンが答えてくれた。

ったく、シンは相変わらず頭の回転が速いなー。双子でこうも差が出るなんて悲しいよ、ほんと。

「家族、だと……?そんなものは一番信用ならない。リュウを騙すつもりならとっとと消えろ」

鋭い目がオレを捉える。それに語気も強い。こんなの喰らったら普通は怖気づく。まるで子ども必死に守ろうとする母親だ。

「……セツナにとって、リュウはどんな存在なんだ?」

「あんたに教える道理はない」

『……』

静寂が部屋を包む。どうやらセツナはオレと会話をしたくないらしい。ていうか、たぶんだけど、オレに限らず人と話すのが嫌いなんだろう。

さっき、家族という言葉に敏感に反応したところを見るに、その原因はセツナ自身の家族にあるのかもな。

「セツナお姉ちゃん……!」

このなんとも言えない沈黙の時間が進む中、これを止めたのはリュウだった。

「ぼくは……ノア兄ちゃんも、シン兄ちゃんも、セツナお姉ちゃんと、同じくらい……大好きだよ。だから、喧嘩、しないで……」

リュウはセツナの手の甲を包むように、そっと自分の手を乗せた。

「…………分かった。私が疑いすぎてたみたいだ。ごめん、リュウ」

セツナは乗せられたリュウの手を握ることで、もう敵意はないことを示した。

「聞いてもいい?」

「ん?オレに答えられることならいくらでも構わないぞー」

リュウのおかげでやっと警戒心を解いてくれたセツナ。聞きたいことはいっぱいあるだろうからなー。しっかり答えられるようにしないと。

「私の記憶では、ブリガンドは全滅して拠点も燃やされたことになっている。私もその炎に飲まれたと思ったんだが……なぜ私は生きている?」

「それはオレたちが助けたからさ。リュウの願いでな」

「あんたたちが……」

「そっ。まあ、ちょい危なかったけど、結局は全員無事だし結果オーライだ」

終わりよければなんとやら、ってやつだな。

「どうやってそんなことーーー」

「なーにが、結果オーライ、なんだぁ?ノア」

「げっ。秀……」

セツナの疑問を遮るようにして部屋に入ってきたのは秀だった。

それに……湊やカズハ、エルも後ろにいる。

「お前らが帰ってこねぇから全員で森を探してみりゃあ、結局は普通に戻ってきてやがる」

「最初から紫苑に頼めばもっと早くに見つけられただろうがな」

「毎回紫苑に頼っていられねぇだろ。それに紫苑を外に出すのはーーー」

秀と湊は戻ってきて早々何やら言い争い始めた。

「もー、心配したんだよー。日が暮れても戻ってこないんだからさー」

「でも皆さん無事で良かったです」

カズハとエルが安堵の表情を浮かべている。

やっぱりこうなったかー。さっと行ってさっと帰ってくるつもりだったけど、あんなことがあったから結構遅くなったんだよな。もう真っ暗で周り全然見えないし。

「ごめん、みんな。ちょーっと用事ができたからさ、遅くなっちゃった」

「ははは。遅くなった、ねぇ。一体何してたんだぁ?」

オレに白状させようと、秀が詰め寄ってきた。冷や汗が止まらなくなりそうだ。

「えーっと……」

「おい」

突如、背後から声がした。振り向くと、セツナがイライラした面持ちでこちらを見ていた。

「まだ私の質問は終わってない」

「誰だ、お前」

「あんたこそなんなんだ?今、私はそこの男と話をしていたんだ。邪魔をするな」

「なんだぁ?こいつ。口悪すぎるだろ」

面食らった顔をしてるけど、秀も口が悪い方に入る気がしないでもない。

似たもの同士ってやつかも……?

「はいはい。喧嘩は良くない良くない。とりあえずお互いに自己紹介から始めよう」

オレはとりあえずこの険悪な空気を変えるため、お互いのことを知ろうという案を出してみた。結果的に全員自己紹介はしたけど、セツナはトゲトゲした物言いだったので、ちょい警戒してそうだった。

リュウがそれを緩和してると言っても、おそらくこれはセツナのルーツに関わることだろうから、直せるものでもないと思う。それにオレとしても直さなくていいと思ってる。

それはセツナの個性だから、それを抑えるのはなんか違うしなー。ただまあ、セツナは会話を断ち切るのが上手いから、その他大勢から好かれるタイプではなさそうだ。

だけど、その本質を見てくれる人はちゃんといるもんだ。リュウみたいにな。

「よし。とりあえずお互いの名前がわかったところで、さっきの話の続きをしよう」

オレは部屋にあった小さなテーブルに座り、深呼吸をした。

「謎の二人組の攻撃でオレたちは火の海に包まれたんだけど、オレはセツナを助けに、シンとリュウは先に避難って感じで分かれてーーー」



「やっばいなー、これ。出口への道は炎と瓦礫で塞がっちゃったし……」

天井からは炎を纏った瓦礫たちが降ってくるし……。

オレはセツナをおんぶした状態で、なるべく炎が近くなく、瓦礫もあまり降ってはいない場所に避難はしたけど、そもそもこの建物がもう保たなそうだ。持って数分って感じな気がする。

「こんなとこで灰になるわけにはいかないし……」

方法としては、壁をぶっ壊すとか自分の周りにシールドを張って身を守るとかあるけど……。

前者は威力を間違えると脱出前に建物が崩れて潰されるし、後者はそもそもオレがそういう系の氣術を使えないんだよなー。仮に使えたとしても、この炎を防げるとは正直思えない。半端なシールドじゃ簡単に破られそうな、そんな感じがする。

「ここはオレの氷属性の氣術を……ゴホッゴホッ……っ……」

まずい。かなり息苦しくなってきた。これはもうなりふり構ってる場合じゃないな。けどあの氣術を使えばオレはぶっ倒れる可能性が高い。あれはオレが持つ最も威力の高い氷系統の氣術。今のオレの状態じゃ、一発放つのが限度だ。

けどまあ……やるしかない、よな……!

「ニブル…………へ?」

その瞬間、目の前が真っ白になった。あの激しい青の空間はどこにもなく、ただただ真っ白な世界が広がっている。

ここって……。

そう思った矢先、再び目の前の景色が変わった。今度は荒野の世界だ。

「出れた……のか……?」

「……兄さん」

振り向くとそこには、嬉しいようなそれでいて辛そうな、なんとも言えない気持ちを抱えたオレの弟がいた。隣にはリュウもいる。

「シン。それにリュウも。二人とも無事だったんだな。良かった良かった」

オレがそう口にした途端、青く燃え盛る炎の背丈が低くなると同時に辺りに轟音が響いた。

「……」

オレはそれを目の当たりにして思った。

あと一歩遅かったら、下手したら死んでたかもしれないと。

「頼むから、もっと自分を大事にしてくれ」

突然背後から聞こえた悲痛な声。その声の主はシンだった。

いつもクールでポーカーフェイスなシンが、こんなにも感情をむき出している。

「兄さんが死んだら、俺は……っ……」

シンは右腕で自分の胸元辺りをギュッと握りしめていた。そのせいで服には皺ができてしまっている。

オレはセツナをそっと地面に横たわらせ、シンに近づいた。

「ごめん、シン。ごめんな……」

シンの頭に右手を回し、左手をシンの背中に回して抱き寄せる。シンはオレの肩にうずくまる形になった。

「心配させたよな。ごめんな。兄ちゃんが悪かった」

ポンポンと優しく頭に触れながら、オレはシンに謝った。少し……いや、かなり配慮が足りなかった。

「それと、ありがとな。シンのおかげで助かった。ほんと、感謝してる」

シンの特殊氣術『アナザーディメンション』。これを発動してくれたおかげで、オレは間一髪で助かったんだから。

「……もう、平気だ」

シンは照れ臭くなったのか、オレの手を優しく振り解いて、ほんの少し距離を取った。

「そう?シンは甘えるのが下手だから、兄ちゃんとしてはちょい心配になるんだよなー」

まあ、シンがこんなことになったのは全部オレが原因なんだけど。

「セツナお姉ちゃん、生きてる……?」

ちょこちょこと服を引っ張られた感覚がした直後、近くからリュウの声が聞こえてきた。見ると不安げな様子のリュウがそこにいた。

「ああ!大丈夫。疲れて寝ちゃってるだけだから」

「そっか……!」

先ほどの陰りは消え、リュウは嬉しそうに微笑んでいた。

良かったな、リュウ。

「よし。なんやかんや色々あったけど、当初の目的だったセツナの救出は達成できたなー」

オレは未だ眠るセツナとセツナの手を握るリュウを見て、満足げな気持ちになったのだが……。

「あっ……」

そう、オレは気づいてしまった。

ここに来た時は太陽がまだ地平線より上にあったけど、今じゃちょうど地平線上にある。つまり村に着く頃には、辺りは真っ暗であるということに。

「……とりあえず、戻るか……」




「「「……」」」

「そんでまあ今に至るってわけだけど……」

「「「……」」」

なんか、みんな黙ったままでなんの反応もないんだけど……。

誰でもいいから返事してくれよー!

「ひとついいか、ノア」

ようやく口を開いたのは湊だった。それは嬉しかったけど、なんか嫌な予感が……。

「ノアが自由に行動するのは構わない。それを制限することは誰にもできないからな。だが……なんの連絡もなくいなくなるのはやめてくれ。気が気じゃなくなる」

怒られる、と思った。でも湊から発せられたのは、そんなものよりもっと胸が痛くなる言葉だった。

これは、あの時のシンと同じものだ。

「ごめん。……次からは、気をつける」

オレは素直に謝った。どう考えても連絡しなかったオレが悪い。こんなアホがリーダーで大丈夫かと自分でも思うくらいだ。

「湊が言いたいこと全部言っちまったからなぁ……うし。ノアリーダーには今回の件の落とし前をつけてもらうっつうことで、メンバー全員のお願いをひとつ聞いてもらうぞー」

「えぇっ。マジで……?」

まさか秀がそんな提案してくるなんて……。

「いいねー、それ。面白いじゃーん」

「あ、そういえば私もノアさんにお願いしたいことが……」

「俺は特にはないが……まあそれぐらいのこと、ノアなら朝飯前だろう」

「シンとリュウはどうなんだぁ?」

「俺は兄さんにつく。だから好きにしろ」

「ぼくは、えと……ノア兄ちゃんは、ぼくのお願い、聞いてくれた、から……ぼくは、ノア兄ちゃんと、一緒に、みんなのお願い、聞きたい……!」

ったく、シンもリュウも優しいなー。

オレは頭をぽりぽりと掻きむしりながら立ち上がった。

「あーもう分かった分かった。オレがみーんなの願いまとめて叶えてやっから、言ってみろ……!」








side セツナ

「私実はさー、一度でいいから帝城お抱え料理人の極上料理を食べたかったんだよねー」

「ちょっと待って。それ、無理くね?オレそんなツテないし、だいたいオレみたいなCランク程度の冒険者が城の中入れるわけなくない?」

「えー。だってなんでもお願い聞いてくれるんでしょー?」

「いや限度があるだろ!限度が!」

「全くしょうがないなー。じゃあー、亜人国家レグルスのお抱え料理人のーーー」

「同じじゃんか、それー!」

わーわー、わーわー、うるさいな。暗闇で生きていた私には迷惑なくらいだ。

「えー。我儘だなー、ノアは」

「それはオレなのか……?」

「ふふっ……」

リュウが……笑った?

「なぜ笑うんだ?リュウ」

私のベットの横でちょこんと椅子に座るリュウは、私の方へと向き直った。

「ノア兄ちゃんたちと、いるとね……なんだかとっても、あったかくなるんだ。ぼく、今すごく、幸せ、なんだ」

リュウはニコッと今までに見たことのない笑顔を見せた。あんなにも苦しんでいたリュウ。なのに今は信じられないくらいに幸せそうだ。

リュウを救ったのは、きっと、あのノアという男なんだろう。

「そっか……」

リュウはようやく人として当たり前の幸せを掴んだんだな。私はとっくにそんなものは捨てていたけど、リュウには私が手にすることの叶わなかった幸福を掴んでほしいと願っていた。だからか、少し嬉しい気がする。

……私は……これからどうすればいいのだろうか。

唯一の居場所だったブリガンドを失い、今はただの生きる屍状態だ。気にかけていたリュウのことも解決したからな。このままのたれ死んでもいい。

……親に復讐でもするか?

だが今更か。正直親のことなどもうどうでもいいし、あいつらが何してようが私の知ったことじゃない。

……生きるって、なんなんだろうな。

「……しいよ……!」

「え?」

考え事をしていたせいか、リュウの言葉を聞きそびれてしまった。

「セツナお姉ちゃんも、きっと、楽しいよ……!」

「楽しい?」

「うん……!」

再びあの笑顔を見せたリュウ。

楽しい、ね。そんな感情、生まれてから一度も思ったことがない。このカビのようにこびりついた暗闇から抜け出さない限り、そんな感情とは一生無縁だろうな。

私はふと、あの賑やかな奴らに目を向けた。

「えー、これもダメなのー?ちょっとノア、本当にお願い聞いてくれるわけー?」

「叶えてやりたくても到底不可能なお願いばっかりするからだろー?!」

「不可能じゃないよー。例えば料理人を攫ってきてーーー」

「それじゃオレ犯罪者だろ!大帝国師団に捕まっちまうわ」

まだやっていたのか、その話。飽きない奴らだな。

それにしても……犯罪者、か……。

私は自分のやったことに後悔はしていない。それ自体が生きる意味のようなものだったからな。

だが今はどうだ?その唯一の生きる理由を失った私は、一体どうすればいい……?

私は顔を俯かせ、ギュッと拳を握りしめる。

「セツナお姉ちゃん?大丈夫……?」

「あ、ああ。なんでもない」

「そこまでにしとけ、二人とも。カズハはもうちょいハードル下げたお願いを考えとけ。ノアは次のカズハの要望は絶対に叶える。これでこの話は終わりだ」

「りょうかーい」
「お、おう」

さっき私の話を遮った赤髪の男が有無を言わさぬ口調で仲裁し、ようやく静かになった。

「あの……!」

突然、リュウが声を上げた。その声に反応し、全員がリュウを見る。

「ぼく、セツナお姉ちゃんと、一緒が、いい……」

……………。

「それがリュウのお願いか?」

「えと……そう。でも、ぼくも、またお願いして、いいの?」

「はははっ。そんなのお安い御用ってもんだ。リュウはとっくにオレたちの仲間なんだ。もっとオレたちを頼ってくれていいんだぞ?それにオレは、仲間が増えることに関しては大賛成だしなー」

仲間?誰が誰の仲間になるって……?

「お、おい、勝手に話をーーー」

「まだリュウは正式なノアズアークの一員じゃないけど、戻ったらメンバー登録してもらおうと思ってたし、ちょうどいいな!」

ちょうどいいって……そんな簡単に片付けられる話ではないはずだ。こいつらからしたら私は元ブリガンド所属の人間で、しかも素性がほとんどわからない危険人物。

そんな奴を仲間にするなんて……正気か?

「みんなもそれでいい?」

そうノアという男が聞くと、反対する者は誰ひとりとしていなかった。

「…………」

……なんなんだこいつらは。

「よし、決まりだな。とりあえず今日はもう遅いし、詳しいことはまた明日ってことで」

内心唖然とする私を置き去りにして、ノアは部屋を出ていき、その後を続くようにして他の奴らもこの場を後にした。

残ったのはリュウだけだ。

「なんなんだ、あいつらは……」

「良かったね!セツナお姉ちゃん……!」

リュウはニコッと笑い、目を輝かせている。よほど私と一緒というのが嬉しいらしい。

「ふぅ……」

何が何だかよくわからないが、とりあえずリュウが喜んでいる。

特にやることもない。一先ずはこの流れに身を任せてみるのも悪くないのかもしれないな。























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