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グランドベゼル編
10 巨大ダンゴムシ退治
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side 八神秀
『ゲゲゲゲェェ』
気持ち悪りぃ声を上げたかと思えば、気味の悪りぃ液体を飛ばしてくる。
俺の顔面目掛けて飛んでくる緑褐色の液体。俺は左側へ避けつつ、念のため体の右側を厚めに氣で覆った。
「へぇ。厄介だなぁ、この酸は」
用心として氣で身体を覆ったわけだが、そこに飛び散った酸が付着した。その結果、酸が付着した部分だけ覆った氣に少し穴が空いてやがる。
このシールドのような意味合いの氣は、身体の外側、つまり肌の表面に流すことで自身への攻撃を防ぐことができる。氣術名はとくにつけられていないが、これができるとできないとじゃ、戦闘力の差が歴然だ。
ちなみに守りたい部分へ送る氣の量が多ければ、その氣は自身を守る頑丈な鎧のようになる。
「全員油断すんなよ。こいつの酸を喰らうのは極力避けろ」
だが、流す氣の量を多くすれば氣のコントロールが不安定になりやすく、失敗しちまうなんてことはざらにある。氣弾のように爆発するとかはねぇが、氣のシールドが消えちまう。つまりは、その瞬間完全無防備になるわけだ。
ある程度氣を流してなけりゃ……ガチの生身で攻撃を受けちまえば、人間ころっと簡単に逝っちまうからなぁ。魔族や亜人と違って、人間ってのはそんだけ貧弱っつうことだ。
「ロックスピア!」
カズハが土属性の中級氣術、ロックスピアを放つ。鋭く尖った岩の槍がいくつも飛んでいった。
ラーナの身体に小さな無数の穴が空く。だが、図体が無駄にデケェこいつには、この氣術はあまり意味をなさないらしい。
『ゲゲェ?』
「わー、やっぱ効かないよねー。知ってたけどー」
「サンダースパーク」
カズハに続いてセツナの雷属性の中級氣術がラーナへ轟く。ラーナの体にはビリビリと幾重にも白と黄色の電撃が走ったはずだが、ラーナはピンピンしている。
『ゲゲゲェェ?』
「ちっ……アイススピア』
今度は氷属性の中級氣術を放った。だがこれもカズハと同様の結果に終わる。一応、ラーナに空いた小さな穴付近は凍りついたが、それだけだ。
『ゲッゲッゲェェ!』
ラーナはまた数秒で自身の身体を再生しやがった。
「……埒が開かねぇなぁ」
おそらくは俺の似たような氣術でも倒せねぇだろうなぁ。あれを使えば話は変わるか……?いや、そういう問題じゃなさそうだなぁ。
あーたしか、こういうスライム系のやつは、決まって氣核があるよなぁ。それを見つけなきゃ話になんねぇってことか。
さてどう探すか……。
「……っ!」
考え込んだせいか、俺はラーナの吐いた酸への反応が遅れた。だがその直後、不意に身体を強く押される感覚に襲われる。
見れば、セツナが身を挺して俺を助けていた。俺とセツナは勢いよく壁際まで転がった。
セツナはすぐに立ち上がる。俺もそれに続く。
「何ぼーっとしてる。あんたらしくないな」
ははっ。まさかセツナに助けられちまうとはなぁ。年下に助けられるなんざぁ、情けねぇぞ、馬鹿タレが……!
俺は両の手で自分の頬をパンッ、と思い切り叩いた。
「は?何やって……」
「ああ?いや、気合入れだ、気合い入れ。気にすんな。それとすまねぇな。助かったわ」
「あっそ……それでどうするんだ?」
どうするか。それは俺も考えてたことだ。
カズハは絶対防御を使いながら、うまくラーナを引きつけている。おかげで俺たちはいつも通りのパフォーマンスを出せている。
シンは火属性の氣術を試したり、氣弾を何度も撃ったりと、色々試行錯誤してやっているようだな。
今も氣弾を天井に……ん?天井?
シンはラーナ本体に当てず、天井目掛けて複数の氣弾を放っている。
「シンは何をしようとしてるんだ?」
「いや、俺にも分からねぇが……」
シンは無意味なことなど絶対にしねぇ。無駄や面倒事が嫌いだからなぁ。
土煙に混じってボロボロと瓦礫の雨が降り注ぐ。そして同時にシンはラーナへと突っ込んでいく。降り続く瓦礫を足場にして。どんどん上へ上へと駆け上っていった。
『ゲゲゲェェ?!』
「いけー!シン!」
カズハの応援とともに、シンは握っていた一本の剣を構える。そして、ラーナの両の目玉を一刀両断した。
『ゲギャァァァァァァァ!!!』
あの嘲笑いから一転。ラーナは洞窟が震えるほどの断末魔を上げた。ラーナの体は白い煙を上げ、やがて消えた。その時には瓦礫の雨もすっかり止んでいた。
あっという間に倒しちまいやがったなぁ。対策を練る前にひとりでさっさとやっちまう。シンらしいと言えばらしいが……。
俺たちにも手伝わせろってんだ……ったくよぉ……!
「いい剣筋じゃねぇか、シン」
俺は一仕事終えたシンへ声をかけた。
「その剣は見ての通りだがな」
シンの左手を見れば、剣の刀身がほとんどなくなっていた。目玉を斬った時、酸に触れた部分が大きかったってとこか。
「ネームド武器ならこうはいかねぇんだろうが……ま、仕方ねぇな」
「ネームド武器って、あの?」
「不死身の武器ってやつねー。私も持ってるよー。名前は空蝉で、ダイダロスが打った名剣なんだけど……セツナも欲しい?」
「どちらかと言えば欲しいよりだ。使えるものは使う主義だからな」
「なるほどねー。セツナらしい……それにしても、シンの武器また派手に壊れちゃったねー」
カズハはシンが手にしている剣……もう武器として機能してはいない哀れな剣を見つめる。
「私があの時シンに貸せば、その剣生き残ってたよねー。あー、失敗したー」
「別にいい。このボロ剣は捨てるほどこの世にある。それにこの程度の戦いに耐えられない、この武器が雑魚なだけだ」
相変わらずの毒舌だな、シンのやつは。
「お前ら。話をすんのもいいが、勝負に勝ちてぇなら、早く出るぞ」
「お、帰ってきた。湊、何分だ?!」
「……十分だな」
「わぁぁぁ!マジかぁ。オレがあの時おしゃべりに夢中になってなきゃ、勝てたかもしれないじゃんかぁぁ!オレのバカァァァ!」
ノアは両手で顔を覆い、天を見上げながら叫んでいた。
戻って早々、何事だ?これは。
「どうかしたのか?ノアのやつは」
とりあえず湊に聞いてみた。
「まあ、な。そっとしておいてやれ」
「そうか」
……まあ触れないでおくか。
俺はふとカズハに絡まれ中のセツナを見る。
あんま気にしいとまた過保護がなんだと言われそうだしなぁ。
「セツナとの関係値は回復したか?」
「んだよ、気づいてたのかよ」
てか、回復も何も、そもそもの関係値が低すぎるがな。
「お前はわかりやすいからな。ノアほどとは言わないが」
「うっせ。……ただまあとりあえずは、お互いようやくスタートラインに立ったって感じだなぁ」
「その調子で好感度を上げることだ。いつか寝首をかかれても俺は知らないからな。お前の自己責任だ」
「なんつー縁起でもねぇことを言うんだよ、お前は」
「ふ……冗談だ」
冗談になってねぇんだよ。セツナならやりかねねぇんだからよ。
ふとセツナと目が合う。セツナは一瞬俺を見据えたが、俺から視線を外しカズハとの会話を続けた。
お?いつもならひと睨みしてくるか不快な顔をしてすぐに視線を外すんだが、今回はどちらも該当せずだった。
……まだまだこれからって感じだなぁ。だがまあ、悪くないリスタートだ。
「すー……はぁー……よし!切り替えだ切り替え!」
大きく深呼吸をして気持ちを切り替えたらしいノア。その側にはいつのまにかシンがいる。
「はいはーい。第一層ラーナの討伐は全員無事終了したねー。そんじゃ、次の第二層について軽く説明ねー。えーとね、まずはっと……リュウ、ちょっとこっち来て」
カズハは手招きをしてリュウを呼ぶ。
「……?」
「この門に手当ててみて」
「うん……」
『ゴゴゴゴゴゴォォォ』
大きな物音とともに、門に彫られていた絵がみるみるうちに変化していった。ちなみにリュウはその音に驚き、すぐに手を引っ込めていた。
「おお。面白いなー」
ノアは相変わらず感動している。未知のものに弱いからなぁ、ノアは。
「はい、これが第二層の相手、オエスコねー」
見た目は……ボールっぽいなぁ。その中心に向かって線が何本も入ってるって感じだ。
「先生質問!」
ノアはピシッと垂直に手を上げた。
「はい、ノアくん。なんでしょうー」
……なんで生徒と先生設定なんだ?
「あの門の彫刻はリュウが触れたことで変化したけど、オレや他のみんなが触れてもこうなってたってこと?」
「ふんふん、いい質問だね。実はノアくんの言ったことは正しいんだ。けど今君たちが触ってもこのままだ。なぜなら君たちはまだ第三層以降に入る資格なしであると、このトロイメライに判断されているからだよ」
私は賢いですよと言わんばかりの口調で話すカズハ。眼鏡をかけているわけでもないが、なぜか鼻根の辺りを指でクイッとする。
「ってことは、カズハが触れば……」
「そう。私が触れば第七層の相手が浮かび上がるのだよ。それとこれは補足だけど、自分が倒した層、ノアくんなら第一層、私なら第六層以下だね。これらの層は再挑戦可能だ。具体的には門に触れて、再戦したい層の相手を頭の中で想像する。見た目の特徴とかどんな技を使うのかとか。そうすると、門の彫刻もそれに合わせて変化する。そして再び門に触れれば再チャレンジできるわけだね」
「はあぁぁ。なるほどー。ありがとうカズハ先生」
「これぐらい朝飯前さー、はっはっは」
……なんなんだ?この謎の茶番は。
「んんっ。話戻すねー。えーとねー、オエスコは超頑丈な身体をもってるんだけど、どのくらいの強度かは自分の目で確かめてねー」
カズハは咳払い後、いつもの口調で話し始めた。
頑丈ねぇ。硬さが売りっつうわけか。硬い殻で覆われてるタイプか、身体全てが鋼鉄のように硬い物質からなるのか。頑丈って言葉だけじゃ、見当がつきにくいな。この辺は直に見るしかねぇな。
「あとは……得意技が自分の体を急速回転させて突進するってことぐらいかな。どんな感じかは、これも実際に見てみてー。みんなびっくりすると思うからー」
へぇ。それは楽しみじゃねぇか。
「そんじゃあ、今度はシンチームからっつうことでどうだ?」
「いいねー、それ。ノアたちはどうー?」
「オレたちも異論なし!」
「決まりねー。じゃあ、第二層オエスコ攻略、張り切っていこうー!」
side シン=オーガスト
「またこの場所か」
第二層の様相は第一層となんら変わりない。広い洞窟。それだけだ。洞窟といっても暗いわけではない。その辺りはトロイメライという遺跡が作り出した特別な事象と言える。
第三層以降をまだ見てはいないが、もしかすればここまでの二層と同じような空間かもしれないな。
「さーて。さっきはいいとこ見せれなかったからなぁ。今回はパパッと俺が決めてやる」
指をパキパキと鳴らす秀。
「…………」
セツナも秀同様に気合いの入った顔をしている。
……今回は俺の出番はなさそうだ。
「カズハ」
「どしたの?シン」
「情報を開示するかどうか、結局はカズハの判断で決めるということにしたが、撤回だ。絶対に話すな。それから俺もお前もオエスコにトドメを刺すのはなしだ」
困惑するカズハ。
「……どして?」
「あいつらのシンプルな連携力を試すためだ」
敵の情報を集めるところからすでに、連携力は重要な要素になる。
秀は連携するという行為自体、ノアズアークの中で最も慣れている。なぜなら式神がいるからだ。秀は卒なく全員のサポートをしていたが、セツナとの連携は一度も見たことがない。
セツナは、そもそも自ら連携をとる素振りはほとんど見られないが、ある程度身についてきてはいる。仲間に頼まれた場合などはうまくやっている。だが、こちらも秀と連携している姿は全く見ていない。
この二人がどんな連携を見せるのか。俺がひとりでやるより、二人に任せた方がまだ面白いというもの。
それにこの二人が連携を取れるようになるだけでノアズアークの戦力向上につながる。それは引いては兄さんを喜ばせることにもなる。
「なるほどねー。確かに、私も秀とセツナが息を合わせて戦うところ見てみたいかも」
『ゴロゴロゴォォォ』
モンスターの鳴き声らしきものと、地響きが洞窟に鳴り広がっていく。
地面から勢いよく飛び出してきたのは、イモムシのような身体をもつモンスターだ。だが、イモムシのように柔らかくはなさそうだ。
「来たなぁ、オエスコ。戦闘開始だ」
秀の合図とともに散開する。秀は右回り、セツナは左回りに走り出す。カズハは土属性の下級氣術ロックショットを正面から撃ちはじめ、オエスコの気を引く。
俺はオエスコに正面から走り込む。カズハは俺に当てないようにうまく氣術を撃っているらしい。相変わらずいい腕だ。
オエスコとの距離をかなり詰める。オエスコはロックショットをあの鋼鉄のような身体でものともしていないようだが、注意はそれなりに引いているようだ。
俺は地面を蹴ってオエスコの頭上へ跳ぶ。そしてオエスコの身体に片足を着地させ、さらにそこから一回転をして宙に弧を描きながら、オエスコの後方へと両足をつける。
やはり見た目通り、こいつは硬い。足の感触的に、明らかに頑丈だったな。
とはいえこれで、正面、左側方、右側方、後方にひとりずつついることになる。オエスコの四方を囲んだということだ。
「とりあえずはコテ調べってとこだなぁ。……陰陽術氷雨」
「ロックスピア」
「サンダーショット」
「ファイヤーキャノン」
秀、カズハ、セツナ、俺の氣術が一気にオエスコへと放たれる。だがその直後、その形状を変化させた。
イモムシ型の形状から丸々とした形状へ。その全身はあの硬い甲羅のようなもので覆われていることが目に見えてわかる。
「へぇ。その形ならどっから攻撃されても問題ねぇってわけだ」
『ゴロゴロゴォォォォ!』
オエスコは唸り声を出したかと思うと、その体を急速に回転し始めた。それは轟音を響かせ、地面を容赦なく抉り取り、抉り取られた大小様々な岩が無差別に飛ばされていく。
「これか。カズハが言っていたやつはよぉ」
このままなら地面には巨大な穴が空くことになるが、結果はそうはならなかった。急速回転を続けるオエスコの身体は、ある程度の地面を抉ってからは、宙に浮いていた。
「これじゃあ、攻撃もできねぇな」
急速回転から十数秒後、ついにオエスコは動き出した。勢いよく発射したオエスコは、まずは正面……つまりはカズハを標的とした。
「あちゃー、やっぱり正面からだよねー。……でも残念」
オエスコがカズハへと直撃する。常人ならこれで一発退場だろう。常人なら、な。
オエスコの身体は一直線には転がらず、軌道を変えて斜め上方向へと飛んでいった。まるで頑丈な壁にでもぶつかったかのように。
「『絶対防御』にはそんな単純な突進攻撃は効かないよー」
カズハにダメージがないだろうことはここにいる誰もが分かっていたことだ。問題はその後にある。
カズハにより弾かれたオエスコは、天井へと飛び上がったわけだが、予想通りオエスコの攻撃はこれで終わらなかった。
天井、床、壁……この空間のあらゆる所へとオエスコは突進し続ける。オエスコがぶつかった箇所は大きな穴が空く。オエスコのバウンドは不規則であり、読みにくい。加えて、あのスピードだ。避けるのは至難の業といえる。
たいていの冒険者は避けることより防ぐことを選ぶか。もしくは運に頼るか。そんなところだろう。
第一層、第二層とやってきたわけだが、なかなかに難易度は高めのようだ。野外にいる魔物を楽に倒せる冒険者の方が多いだろうな。
「おいおい、いつまで跳ね続けんだ、こいつはよぉ」
大きなバウンド音が鳴り響く中、不満げな声がかすかに聞こえてくる。
セツナの方にも目をやると、俺にもわかるほどにイラついた顔をしていた。普段は俺同様に表情が外に出ないタイプだからな。珍しいこともあるようだ。
カズハは特殊氣術で防御し、秀は自身の周りに不均等に岩壁を複数設置し、セツナは防御はせず矢を撃ち続けている。つまりは無防備ということだ。
効かないことはわかっているだろうに、矢を無駄うちするとは……いや、セツナはそこまで馬鹿ではないはずだ。今までの戦い方を見ていれば分かる。これは何か意図があるな。
いずれにせよ、この状況はセツナのカバーにいくのが最善ではある。俺は身体能力の関係上、オエスコの攻撃は紙一重ではあるが交わすことが可能。仮に喰らったとしても、氣で守れば問題ない。
だがここは見守るのが妥当か。俺が助けに入ってはセツナの成長を妨げる。それにここはトロイメライ。ここで死んだところで基本的には現実世界では死ぬことはない。
オエスコのランダムな突進攻撃を俺たちはうまく捌き、結果的に誰も当たることはなかった。セツナに関しては、オエスコが自身とスレスレの場所を通っても避ける素振りを見せてはいなかった。つまりは運で凌いだということだ。
豪運だな。だがそれも冒険者に必要な要素になり得る。今それが証明されたわけだしな。
『ゴロゴォォ……』
突進攻撃を終えたオエスコは、丸まった身体を開き、イモムシ型の形状に戻った。ただ最初と異なるのは、動きが鈍くなっていることだろう。
力を一時的に失った状態かもしれないな。あれだけスピードと威力のある攻撃だ。エネルギー消費が激しいのは道理といえる。
これは反撃のチャンスだ。おそらくはこの機を逃せば再びあのバウンド突進攻撃が始まり、この状態になるまで耐え続けなければならない。耐えることは問題ないが、効率が悪い。時間もかかる。あとは……単純に面倒だ。
俺が仕留めるのは容易だが、それでは意味がない。俺が求めているのは単純な撃破ではないのだから。
秀とセツナに目をやる。秀はセツナに目を向けていた。セツナは何やら新たなことに挑戦しているらしい。
それを秀は汲み取ったのか、氣術を発動し始めた。
「仕方ねぇな。今回はセツナ、お前に譲ってやるよ。……陰陽術岩壁」
オエスコの足場から、勢いよく岩壁が飛び出した。オエスコは鈍っていたためか反応できず、宙を舞った。オエスコはクルクルとゆっくり回転する。
そして、一本の緑光の矢がオエスコを貫いた。
『ゴロゴロゴォォォォ!!!』
痛烈な悲鳴が上がった。そして、オエスコはドンッ、と大きな音とともにぐったりと地面に倒れ伏した。その衝撃が骨まで響く。その数秒後、オエスコの体は光の粒子となって姿を消した。
「やるじゃねぇか、セツナ」
「……あんたも、な」
「はっ。あんぐらい俺じゃなくてもできる」
「あ、そう」
今までで最もいい連携を取れた秀とセツナ。お互いを褒め合えるということは、それなりに距離は縮まったと見ていいか。これなら兄さんが心配することもないだろう。
「二人ともすごいじゃーん!抜群の連携だったねー」
上機嫌に近づいてきたカズハ。険悪だった秀とセツナの今の様子が余程嬉しかったようだ。
「んじゃまあ、第二層攻略ってことで。外に出るぞ」
side セツナ
第二層の攻略に向けトロイメライに入った私たち。現れたのはオエスコという身体が硬い殻のようなもので覆われたモンスターだった。
私たちは四方に分かれてそれぞれが氣術を放ってみたけど、結果は無意味に終わる。そしてオエスコのランダムな突進攻撃が始まったわけだけど、その直前に私はセイに話しかけられた。
『セ~ツ~ナ~』
突然甘えたような声が聞こえてくる。
「何?今忙しいから。邪魔しないで」
『最近ボクのこと全然呼んでくれないじゃないか!ボクはこんなにも寂しかったのに……』
「だから今話しかけないで。……後で聞いてやるから」
そう言うとセイはパッと顔を明るくさせた。
『ハハッ。やっぱりセツナは優しいな~。じゃあそんなセツナにひとつ、いいこと教えてあげるよ』
これは簡単には帰ってくれないな。
「はぁ……。手短に言って」
『今のセツナなら氣で矢を創り出すことができるはずだ。そうすれば今使ってる矢なんかより、格段に強力な攻撃ができるんだ』
「氣で矢を……?そんなことができるのか」
『そうだよ。ボクがやり方を教えてあげる。でもそれをモノにできるかどうかは……セツナ、キミにかかってるからね!』
そして私はセイに氣で矢を創造するコツを聞きながら、自分が持ってきた矢を全てオエスコに放った。これは単に私の射撃能力を上げるためであって、倒すために撃ち続けたわけではない。
あのスピードで動く標的に矢を当てられれば、私の射撃能力は今以上に向上する。まあ、結果は掠りはした矢もあったけど、結局一発も当たらなかった。
これは私の成長に十分につかえる。トロイメライは私の成長の糧になるとわかった。確か再戦は何度でも可能だとカズハが言っていたな。ならば利用しない手はない。
そんなことを考えつつ、セイからの助言通りに私は矢を氣で創った。言葉では簡単に言えるが、実際に作り出すのはかなり困難だった。初めて挑戦することはいつも以上に集中力が必要だった。おかげで一射分しか作ることができなかった。
ただ、緑光を強く放つこの一本の矢は、確かに、普通の矢などとは比べものにならないほどに強力であることが明明白白だ。
『うん、初めてにしては上出来だよ、セツナ!』
「……この一本を作るので精一杯なんだ。こんなの上出来でもなんでもない」
『まったく、セツナは自分に厳しいなー。でもセツナのそういうところ、ボクはとっても大好きだよ!』
「……あっそ」
私がセイとともに準備を整えた終わると、ちょうどオエスコはバウンド突進攻撃を終えていたらしい。正直この瞬間に撃ってもよかったけど、秀が私に目配せをしたのを見てしまった。
ならば、待つしかないだろう。
そして秀は私の読み通り、私がオエスコを確実に仕留められるようお膳立てをした。空中に無防備に舞い上げられたオエスコに私は狙いを定め……。
緑光が一閃した。
『ゲゲゲゲェェ』
気持ち悪りぃ声を上げたかと思えば、気味の悪りぃ液体を飛ばしてくる。
俺の顔面目掛けて飛んでくる緑褐色の液体。俺は左側へ避けつつ、念のため体の右側を厚めに氣で覆った。
「へぇ。厄介だなぁ、この酸は」
用心として氣で身体を覆ったわけだが、そこに飛び散った酸が付着した。その結果、酸が付着した部分だけ覆った氣に少し穴が空いてやがる。
このシールドのような意味合いの氣は、身体の外側、つまり肌の表面に流すことで自身への攻撃を防ぐことができる。氣術名はとくにつけられていないが、これができるとできないとじゃ、戦闘力の差が歴然だ。
ちなみに守りたい部分へ送る氣の量が多ければ、その氣は自身を守る頑丈な鎧のようになる。
「全員油断すんなよ。こいつの酸を喰らうのは極力避けろ」
だが、流す氣の量を多くすれば氣のコントロールが不安定になりやすく、失敗しちまうなんてことはざらにある。氣弾のように爆発するとかはねぇが、氣のシールドが消えちまう。つまりは、その瞬間完全無防備になるわけだ。
ある程度氣を流してなけりゃ……ガチの生身で攻撃を受けちまえば、人間ころっと簡単に逝っちまうからなぁ。魔族や亜人と違って、人間ってのはそんだけ貧弱っつうことだ。
「ロックスピア!」
カズハが土属性の中級氣術、ロックスピアを放つ。鋭く尖った岩の槍がいくつも飛んでいった。
ラーナの身体に小さな無数の穴が空く。だが、図体が無駄にデケェこいつには、この氣術はあまり意味をなさないらしい。
『ゲゲェ?』
「わー、やっぱ効かないよねー。知ってたけどー」
「サンダースパーク」
カズハに続いてセツナの雷属性の中級氣術がラーナへ轟く。ラーナの体にはビリビリと幾重にも白と黄色の電撃が走ったはずだが、ラーナはピンピンしている。
『ゲゲゲェェ?』
「ちっ……アイススピア』
今度は氷属性の中級氣術を放った。だがこれもカズハと同様の結果に終わる。一応、ラーナに空いた小さな穴付近は凍りついたが、それだけだ。
『ゲッゲッゲェェ!』
ラーナはまた数秒で自身の身体を再生しやがった。
「……埒が開かねぇなぁ」
おそらくは俺の似たような氣術でも倒せねぇだろうなぁ。あれを使えば話は変わるか……?いや、そういう問題じゃなさそうだなぁ。
あーたしか、こういうスライム系のやつは、決まって氣核があるよなぁ。それを見つけなきゃ話になんねぇってことか。
さてどう探すか……。
「……っ!」
考え込んだせいか、俺はラーナの吐いた酸への反応が遅れた。だがその直後、不意に身体を強く押される感覚に襲われる。
見れば、セツナが身を挺して俺を助けていた。俺とセツナは勢いよく壁際まで転がった。
セツナはすぐに立ち上がる。俺もそれに続く。
「何ぼーっとしてる。あんたらしくないな」
ははっ。まさかセツナに助けられちまうとはなぁ。年下に助けられるなんざぁ、情けねぇぞ、馬鹿タレが……!
俺は両の手で自分の頬をパンッ、と思い切り叩いた。
「は?何やって……」
「ああ?いや、気合入れだ、気合い入れ。気にすんな。それとすまねぇな。助かったわ」
「あっそ……それでどうするんだ?」
どうするか。それは俺も考えてたことだ。
カズハは絶対防御を使いながら、うまくラーナを引きつけている。おかげで俺たちはいつも通りのパフォーマンスを出せている。
シンは火属性の氣術を試したり、氣弾を何度も撃ったりと、色々試行錯誤してやっているようだな。
今も氣弾を天井に……ん?天井?
シンはラーナ本体に当てず、天井目掛けて複数の氣弾を放っている。
「シンは何をしようとしてるんだ?」
「いや、俺にも分からねぇが……」
シンは無意味なことなど絶対にしねぇ。無駄や面倒事が嫌いだからなぁ。
土煙に混じってボロボロと瓦礫の雨が降り注ぐ。そして同時にシンはラーナへと突っ込んでいく。降り続く瓦礫を足場にして。どんどん上へ上へと駆け上っていった。
『ゲゲゲェェ?!』
「いけー!シン!」
カズハの応援とともに、シンは握っていた一本の剣を構える。そして、ラーナの両の目玉を一刀両断した。
『ゲギャァァァァァァァ!!!』
あの嘲笑いから一転。ラーナは洞窟が震えるほどの断末魔を上げた。ラーナの体は白い煙を上げ、やがて消えた。その時には瓦礫の雨もすっかり止んでいた。
あっという間に倒しちまいやがったなぁ。対策を練る前にひとりでさっさとやっちまう。シンらしいと言えばらしいが……。
俺たちにも手伝わせろってんだ……ったくよぉ……!
「いい剣筋じゃねぇか、シン」
俺は一仕事終えたシンへ声をかけた。
「その剣は見ての通りだがな」
シンの左手を見れば、剣の刀身がほとんどなくなっていた。目玉を斬った時、酸に触れた部分が大きかったってとこか。
「ネームド武器ならこうはいかねぇんだろうが……ま、仕方ねぇな」
「ネームド武器って、あの?」
「不死身の武器ってやつねー。私も持ってるよー。名前は空蝉で、ダイダロスが打った名剣なんだけど……セツナも欲しい?」
「どちらかと言えば欲しいよりだ。使えるものは使う主義だからな」
「なるほどねー。セツナらしい……それにしても、シンの武器また派手に壊れちゃったねー」
カズハはシンが手にしている剣……もう武器として機能してはいない哀れな剣を見つめる。
「私があの時シンに貸せば、その剣生き残ってたよねー。あー、失敗したー」
「別にいい。このボロ剣は捨てるほどこの世にある。それにこの程度の戦いに耐えられない、この武器が雑魚なだけだ」
相変わらずの毒舌だな、シンのやつは。
「お前ら。話をすんのもいいが、勝負に勝ちてぇなら、早く出るぞ」
「お、帰ってきた。湊、何分だ?!」
「……十分だな」
「わぁぁぁ!マジかぁ。オレがあの時おしゃべりに夢中になってなきゃ、勝てたかもしれないじゃんかぁぁ!オレのバカァァァ!」
ノアは両手で顔を覆い、天を見上げながら叫んでいた。
戻って早々、何事だ?これは。
「どうかしたのか?ノアのやつは」
とりあえず湊に聞いてみた。
「まあ、な。そっとしておいてやれ」
「そうか」
……まあ触れないでおくか。
俺はふとカズハに絡まれ中のセツナを見る。
あんま気にしいとまた過保護がなんだと言われそうだしなぁ。
「セツナとの関係値は回復したか?」
「んだよ、気づいてたのかよ」
てか、回復も何も、そもそもの関係値が低すぎるがな。
「お前はわかりやすいからな。ノアほどとは言わないが」
「うっせ。……ただまあとりあえずは、お互いようやくスタートラインに立ったって感じだなぁ」
「その調子で好感度を上げることだ。いつか寝首をかかれても俺は知らないからな。お前の自己責任だ」
「なんつー縁起でもねぇことを言うんだよ、お前は」
「ふ……冗談だ」
冗談になってねぇんだよ。セツナならやりかねねぇんだからよ。
ふとセツナと目が合う。セツナは一瞬俺を見据えたが、俺から視線を外しカズハとの会話を続けた。
お?いつもならひと睨みしてくるか不快な顔をしてすぐに視線を外すんだが、今回はどちらも該当せずだった。
……まだまだこれからって感じだなぁ。だがまあ、悪くないリスタートだ。
「すー……はぁー……よし!切り替えだ切り替え!」
大きく深呼吸をして気持ちを切り替えたらしいノア。その側にはいつのまにかシンがいる。
「はいはーい。第一層ラーナの討伐は全員無事終了したねー。そんじゃ、次の第二層について軽く説明ねー。えーとね、まずはっと……リュウ、ちょっとこっち来て」
カズハは手招きをしてリュウを呼ぶ。
「……?」
「この門に手当ててみて」
「うん……」
『ゴゴゴゴゴゴォォォ』
大きな物音とともに、門に彫られていた絵がみるみるうちに変化していった。ちなみにリュウはその音に驚き、すぐに手を引っ込めていた。
「おお。面白いなー」
ノアは相変わらず感動している。未知のものに弱いからなぁ、ノアは。
「はい、これが第二層の相手、オエスコねー」
見た目は……ボールっぽいなぁ。その中心に向かって線が何本も入ってるって感じだ。
「先生質問!」
ノアはピシッと垂直に手を上げた。
「はい、ノアくん。なんでしょうー」
……なんで生徒と先生設定なんだ?
「あの門の彫刻はリュウが触れたことで変化したけど、オレや他のみんなが触れてもこうなってたってこと?」
「ふんふん、いい質問だね。実はノアくんの言ったことは正しいんだ。けど今君たちが触ってもこのままだ。なぜなら君たちはまだ第三層以降に入る資格なしであると、このトロイメライに判断されているからだよ」
私は賢いですよと言わんばかりの口調で話すカズハ。眼鏡をかけているわけでもないが、なぜか鼻根の辺りを指でクイッとする。
「ってことは、カズハが触れば……」
「そう。私が触れば第七層の相手が浮かび上がるのだよ。それとこれは補足だけど、自分が倒した層、ノアくんなら第一層、私なら第六層以下だね。これらの層は再挑戦可能だ。具体的には門に触れて、再戦したい層の相手を頭の中で想像する。見た目の特徴とかどんな技を使うのかとか。そうすると、門の彫刻もそれに合わせて変化する。そして再び門に触れれば再チャレンジできるわけだね」
「はあぁぁ。なるほどー。ありがとうカズハ先生」
「これぐらい朝飯前さー、はっはっは」
……なんなんだ?この謎の茶番は。
「んんっ。話戻すねー。えーとねー、オエスコは超頑丈な身体をもってるんだけど、どのくらいの強度かは自分の目で確かめてねー」
カズハは咳払い後、いつもの口調で話し始めた。
頑丈ねぇ。硬さが売りっつうわけか。硬い殻で覆われてるタイプか、身体全てが鋼鉄のように硬い物質からなるのか。頑丈って言葉だけじゃ、見当がつきにくいな。この辺は直に見るしかねぇな。
「あとは……得意技が自分の体を急速回転させて突進するってことぐらいかな。どんな感じかは、これも実際に見てみてー。みんなびっくりすると思うからー」
へぇ。それは楽しみじゃねぇか。
「そんじゃあ、今度はシンチームからっつうことでどうだ?」
「いいねー、それ。ノアたちはどうー?」
「オレたちも異論なし!」
「決まりねー。じゃあ、第二層オエスコ攻略、張り切っていこうー!」
side シン=オーガスト
「またこの場所か」
第二層の様相は第一層となんら変わりない。広い洞窟。それだけだ。洞窟といっても暗いわけではない。その辺りはトロイメライという遺跡が作り出した特別な事象と言える。
第三層以降をまだ見てはいないが、もしかすればここまでの二層と同じような空間かもしれないな。
「さーて。さっきはいいとこ見せれなかったからなぁ。今回はパパッと俺が決めてやる」
指をパキパキと鳴らす秀。
「…………」
セツナも秀同様に気合いの入った顔をしている。
……今回は俺の出番はなさそうだ。
「カズハ」
「どしたの?シン」
「情報を開示するかどうか、結局はカズハの判断で決めるということにしたが、撤回だ。絶対に話すな。それから俺もお前もオエスコにトドメを刺すのはなしだ」
困惑するカズハ。
「……どして?」
「あいつらのシンプルな連携力を試すためだ」
敵の情報を集めるところからすでに、連携力は重要な要素になる。
秀は連携するという行為自体、ノアズアークの中で最も慣れている。なぜなら式神がいるからだ。秀は卒なく全員のサポートをしていたが、セツナとの連携は一度も見たことがない。
セツナは、そもそも自ら連携をとる素振りはほとんど見られないが、ある程度身についてきてはいる。仲間に頼まれた場合などはうまくやっている。だが、こちらも秀と連携している姿は全く見ていない。
この二人がどんな連携を見せるのか。俺がひとりでやるより、二人に任せた方がまだ面白いというもの。
それにこの二人が連携を取れるようになるだけでノアズアークの戦力向上につながる。それは引いては兄さんを喜ばせることにもなる。
「なるほどねー。確かに、私も秀とセツナが息を合わせて戦うところ見てみたいかも」
『ゴロゴロゴォォォ』
モンスターの鳴き声らしきものと、地響きが洞窟に鳴り広がっていく。
地面から勢いよく飛び出してきたのは、イモムシのような身体をもつモンスターだ。だが、イモムシのように柔らかくはなさそうだ。
「来たなぁ、オエスコ。戦闘開始だ」
秀の合図とともに散開する。秀は右回り、セツナは左回りに走り出す。カズハは土属性の下級氣術ロックショットを正面から撃ちはじめ、オエスコの気を引く。
俺はオエスコに正面から走り込む。カズハは俺に当てないようにうまく氣術を撃っているらしい。相変わらずいい腕だ。
オエスコとの距離をかなり詰める。オエスコはロックショットをあの鋼鉄のような身体でものともしていないようだが、注意はそれなりに引いているようだ。
俺は地面を蹴ってオエスコの頭上へ跳ぶ。そしてオエスコの身体に片足を着地させ、さらにそこから一回転をして宙に弧を描きながら、オエスコの後方へと両足をつける。
やはり見た目通り、こいつは硬い。足の感触的に、明らかに頑丈だったな。
とはいえこれで、正面、左側方、右側方、後方にひとりずつついることになる。オエスコの四方を囲んだということだ。
「とりあえずはコテ調べってとこだなぁ。……陰陽術氷雨」
「ロックスピア」
「サンダーショット」
「ファイヤーキャノン」
秀、カズハ、セツナ、俺の氣術が一気にオエスコへと放たれる。だがその直後、その形状を変化させた。
イモムシ型の形状から丸々とした形状へ。その全身はあの硬い甲羅のようなもので覆われていることが目に見えてわかる。
「へぇ。その形ならどっから攻撃されても問題ねぇってわけだ」
『ゴロゴロゴォォォォ!』
オエスコは唸り声を出したかと思うと、その体を急速に回転し始めた。それは轟音を響かせ、地面を容赦なく抉り取り、抉り取られた大小様々な岩が無差別に飛ばされていく。
「これか。カズハが言っていたやつはよぉ」
このままなら地面には巨大な穴が空くことになるが、結果はそうはならなかった。急速回転を続けるオエスコの身体は、ある程度の地面を抉ってからは、宙に浮いていた。
「これじゃあ、攻撃もできねぇな」
急速回転から十数秒後、ついにオエスコは動き出した。勢いよく発射したオエスコは、まずは正面……つまりはカズハを標的とした。
「あちゃー、やっぱり正面からだよねー。……でも残念」
オエスコがカズハへと直撃する。常人ならこれで一発退場だろう。常人なら、な。
オエスコの身体は一直線には転がらず、軌道を変えて斜め上方向へと飛んでいった。まるで頑丈な壁にでもぶつかったかのように。
「『絶対防御』にはそんな単純な突進攻撃は効かないよー」
カズハにダメージがないだろうことはここにいる誰もが分かっていたことだ。問題はその後にある。
カズハにより弾かれたオエスコは、天井へと飛び上がったわけだが、予想通りオエスコの攻撃はこれで終わらなかった。
天井、床、壁……この空間のあらゆる所へとオエスコは突進し続ける。オエスコがぶつかった箇所は大きな穴が空く。オエスコのバウンドは不規則であり、読みにくい。加えて、あのスピードだ。避けるのは至難の業といえる。
たいていの冒険者は避けることより防ぐことを選ぶか。もしくは運に頼るか。そんなところだろう。
第一層、第二層とやってきたわけだが、なかなかに難易度は高めのようだ。野外にいる魔物を楽に倒せる冒険者の方が多いだろうな。
「おいおい、いつまで跳ね続けんだ、こいつはよぉ」
大きなバウンド音が鳴り響く中、不満げな声がかすかに聞こえてくる。
セツナの方にも目をやると、俺にもわかるほどにイラついた顔をしていた。普段は俺同様に表情が外に出ないタイプだからな。珍しいこともあるようだ。
カズハは特殊氣術で防御し、秀は自身の周りに不均等に岩壁を複数設置し、セツナは防御はせず矢を撃ち続けている。つまりは無防備ということだ。
効かないことはわかっているだろうに、矢を無駄うちするとは……いや、セツナはそこまで馬鹿ではないはずだ。今までの戦い方を見ていれば分かる。これは何か意図があるな。
いずれにせよ、この状況はセツナのカバーにいくのが最善ではある。俺は身体能力の関係上、オエスコの攻撃は紙一重ではあるが交わすことが可能。仮に喰らったとしても、氣で守れば問題ない。
だがここは見守るのが妥当か。俺が助けに入ってはセツナの成長を妨げる。それにここはトロイメライ。ここで死んだところで基本的には現実世界では死ぬことはない。
オエスコのランダムな突進攻撃を俺たちはうまく捌き、結果的に誰も当たることはなかった。セツナに関しては、オエスコが自身とスレスレの場所を通っても避ける素振りを見せてはいなかった。つまりは運で凌いだということだ。
豪運だな。だがそれも冒険者に必要な要素になり得る。今それが証明されたわけだしな。
『ゴロゴォォ……』
突進攻撃を終えたオエスコは、丸まった身体を開き、イモムシ型の形状に戻った。ただ最初と異なるのは、動きが鈍くなっていることだろう。
力を一時的に失った状態かもしれないな。あれだけスピードと威力のある攻撃だ。エネルギー消費が激しいのは道理といえる。
これは反撃のチャンスだ。おそらくはこの機を逃せば再びあのバウンド突進攻撃が始まり、この状態になるまで耐え続けなければならない。耐えることは問題ないが、効率が悪い。時間もかかる。あとは……単純に面倒だ。
俺が仕留めるのは容易だが、それでは意味がない。俺が求めているのは単純な撃破ではないのだから。
秀とセツナに目をやる。秀はセツナに目を向けていた。セツナは何やら新たなことに挑戦しているらしい。
それを秀は汲み取ったのか、氣術を発動し始めた。
「仕方ねぇな。今回はセツナ、お前に譲ってやるよ。……陰陽術岩壁」
オエスコの足場から、勢いよく岩壁が飛び出した。オエスコは鈍っていたためか反応できず、宙を舞った。オエスコはクルクルとゆっくり回転する。
そして、一本の緑光の矢がオエスコを貫いた。
『ゴロゴロゴォォォォ!!!』
痛烈な悲鳴が上がった。そして、オエスコはドンッ、と大きな音とともにぐったりと地面に倒れ伏した。その衝撃が骨まで響く。その数秒後、オエスコの体は光の粒子となって姿を消した。
「やるじゃねぇか、セツナ」
「……あんたも、な」
「はっ。あんぐらい俺じゃなくてもできる」
「あ、そう」
今までで最もいい連携を取れた秀とセツナ。お互いを褒め合えるということは、それなりに距離は縮まったと見ていいか。これなら兄さんが心配することもないだろう。
「二人ともすごいじゃーん!抜群の連携だったねー」
上機嫌に近づいてきたカズハ。険悪だった秀とセツナの今の様子が余程嬉しかったようだ。
「んじゃまあ、第二層攻略ってことで。外に出るぞ」
side セツナ
第二層の攻略に向けトロイメライに入った私たち。現れたのはオエスコという身体が硬い殻のようなもので覆われたモンスターだった。
私たちは四方に分かれてそれぞれが氣術を放ってみたけど、結果は無意味に終わる。そしてオエスコのランダムな突進攻撃が始まったわけだけど、その直前に私はセイに話しかけられた。
『セ~ツ~ナ~』
突然甘えたような声が聞こえてくる。
「何?今忙しいから。邪魔しないで」
『最近ボクのこと全然呼んでくれないじゃないか!ボクはこんなにも寂しかったのに……』
「だから今話しかけないで。……後で聞いてやるから」
そう言うとセイはパッと顔を明るくさせた。
『ハハッ。やっぱりセツナは優しいな~。じゃあそんなセツナにひとつ、いいこと教えてあげるよ』
これは簡単には帰ってくれないな。
「はぁ……。手短に言って」
『今のセツナなら氣で矢を創り出すことができるはずだ。そうすれば今使ってる矢なんかより、格段に強力な攻撃ができるんだ』
「氣で矢を……?そんなことができるのか」
『そうだよ。ボクがやり方を教えてあげる。でもそれをモノにできるかどうかは……セツナ、キミにかかってるからね!』
そして私はセイに氣で矢を創造するコツを聞きながら、自分が持ってきた矢を全てオエスコに放った。これは単に私の射撃能力を上げるためであって、倒すために撃ち続けたわけではない。
あのスピードで動く標的に矢を当てられれば、私の射撃能力は今以上に向上する。まあ、結果は掠りはした矢もあったけど、結局一発も当たらなかった。
これは私の成長に十分につかえる。トロイメライは私の成長の糧になるとわかった。確か再戦は何度でも可能だとカズハが言っていたな。ならば利用しない手はない。
そんなことを考えつつ、セイからの助言通りに私は矢を氣で創った。言葉では簡単に言えるが、実際に作り出すのはかなり困難だった。初めて挑戦することはいつも以上に集中力が必要だった。おかげで一射分しか作ることができなかった。
ただ、緑光を強く放つこの一本の矢は、確かに、普通の矢などとは比べものにならないほどに強力であることが明明白白だ。
『うん、初めてにしては上出来だよ、セツナ!』
「……この一本を作るので精一杯なんだ。こんなの上出来でもなんでもない」
『まったく、セツナは自分に厳しいなー。でもセツナのそういうところ、ボクはとっても大好きだよ!』
「……あっそ」
私がセイとともに準備を整えた終わると、ちょうどオエスコはバウンド突進攻撃を終えていたらしい。正直この瞬間に撃ってもよかったけど、秀が私に目配せをしたのを見てしまった。
ならば、待つしかないだろう。
そして秀は私の読み通り、私がオエスコを確実に仕留められるようお膳立てをした。空中に無防備に舞い上げられたオエスコに私は狙いを定め……。
緑光が一閃した。
10
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