碧天のノアズアーク

世良シンア

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レグルス編

9 桃兎騒動Ⅱ

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side ノア=オーガスト 

「で?この二人……カナタとカイトから事情を聞いて、勝手に依頼を受けちまったっつうわけな」

秀は向かい側に座るカナタさんとカイトさんに対して顎をしゃくりつつ、オレに視線を戻して呆れたような目を向けてきた。

「いやまあ、せっかくの指名依頼だったし、受けたいなーって思ってさ」

「どうせ反対してないだろ、秀」

オレの隣に座るシンが秀に鋭い言葉をぶつけた。

「お、よくわかってるじゃねぇか、シン」

え、じゃああんな呆れた目で見てこなくても良くないか?

「過保護馬鹿の言動くらい、手に取るようにわかるが?」

「ったく、相変わらずかわいくねぇ主様だなぁ、おい」

「その依頼人というのはまだ来ていないのか?」

湊は秀とシンの……じゃれあい?を無視して向かいの二人に話しかけた。

「どうやらそうらしいな。俺も実際に会ったわけじゃないし、指名依頼ってのはEDEN運営側が取り決めてっから、詳細は俺たちも知らん。たまたま声をかけたのは俺たちだったが、お前たちとそんなに立場は変わらんってわけだ」

カナタさんは頬杖をつき、軽くため息をついた。

「……にしても、普通依頼する側の奴が先に来るもんじゃないのかよ」

「カナタ様、行儀が悪いですよ」

「うっせえよ、カイト。別に王族貴族に会うわけでもなし、細かいことは気にすんなっての」

「…………」

カイトさんはカナタさんの言い分に特に何を返すことなく、軽蔑の目で見下ろしていた。

「チッ。わーったよ、最低限のマナーってやつを守りゃいいんだろ?」

カナタさんは上体を起こし、頬杖をついていた手で首の後ろを軽く掻いた。

「これはこれはみなさんお揃いで!僕のためにこーんなに集まってくれるなんて、とっても嬉しいよー!」

突如テーブルの上に現れた白髪金眼の少年。その少年は、ぴょんぴょんっと軽快なステップで空いた席へと向かっていく。

その間、腰ほどまで伸びた絹のように白い髪が、少年の活発な動きで美しくたなびいていた。そして少年は、「ここにきーめた!」と言いながらカナタさんの隣の席に座った。

「いち、に、さん、し……えーっと、全部で十人かー。まあこんだけいたら流石に見つかるはず!」

少年はここにいるひとりひとりを指さしながら人数確認を行い、そしてガッツポーズをした。

「「「…………」」」

この突然の少年の登場に、反応は十人十色ではあったものの、誰もが黙り込み、少年に声をかけようとはしなかった。

「あっれー?なんでみんな喋らないのさー。そんな暗いと人生つまんないぞー?僕みたいに、もっと楽しく生きようよ!」

少年は両手を勢いよく上に伸ばした。

「あわわっ!」

勢い余ったのか、椅子がガタガタとぐらつき、少年がしっかりと踏ん張らなければ危うく椅子ごと倒れるところだった。

「ふぅー、セーフセーフ」

「お前が依頼人かよ、チビ」

カナタさんは、荒々しい口調で少年を呼んだ。

「チビ……?誰のことを言ってるんだい?」

「お前しかいないだろが」

カナタさんは顎でしゃくり、少年を呆れた目で見た。

「コラコラ!僕はチビなんて名前じゃないんだぞ!僕はハ…………」

勢いよくカナタさんに言葉をぶつけにいった少年は、なぜか途中で吐き出していたはずの言葉を止めてしまった。口を大きく開けたまま、完全に停止している。

「ハ、ってなんだよ」

「ハ……クだ。……僕のことはハク様と呼べ!」

「……なぜ様付けで呼ばないといけないんだ?そんなに偉いやつなのか、お前」

「ぐぬぬぬ……か、仮にも僕は依頼人様だぞ!依頼人には敬意を持って接するのが礼儀だろ!」

「あー、へいへい。もういいぞ、ハク様ー。早く依頼内容言ってくれや」

この口論が面倒になったのか、カナタさんは棒読みでハクと名乗る少年の名を呼びつつ、話を進めるように催促した。

「なんか敬意を感じられない気がするけど……まあいいや。依頼内容はいたってシンプル!とある生き物を君たちには探してきて僕のもとに連れてきて欲しいんだ」

「とある生き物っていうのは?」

「君はノアズアークのリーダーだね。えーっとね、見た目はねー、桃色の体毛でー、このくらいの大きさでー、額に大きさがバラバラのツノが何本か生えてるんだー」

ジェスチャーを交えながら、ハクは探しものについて細かく説明しようとした。

……なんか、どっかのちんちくりんと似てないか?あいつも桃色の身体してたし、頭部に謎のツノ生えてたし……。

「見た目は可愛い兎なんだけど、怒らせたらおっかない攻撃飛んでくるから、注意してねー」

いやいやいやいや。ますますあのちんちくりんと同じなんだけど……?!

「ももうさぎ……?」

ポロッと発されたリュウの言葉に、ハクは瞬時に反応した。

「そうだよー。君は、リュウだよねー?実はうちの子は特定保護生物に認定されてるんだけど、急に脱走しちゃってさー。他のみんなはどうにか集めたんだけど、あと一体がどこに行っちゃったのかわかんなくてさー。そこで君たち冒険者に探してきてもらおうってわけ。どう?僕ってば超名案を思いついたと思わなーい?」

ドヤーという顔でオレたちに見せつけるハク。

ていうか、やっぱあのちんちくりんだったか。あいつまたどっか歩き回ってんのか?リュウの話じゃ、足に怪我したまま動き回ってたって言ってたし。

ったく、迷惑な兎だなー。

ドヤるハクを無視して、今度はカイトさんが話し始めた。

「特定保護生物ですか……聖樹園で保護されているはずの珍獣が逃げ出すなんて、聞いたことがありませんね」

「それが僕にもよくわからないんだよー。もう突然、ほんと突然いなくなってさー。しかも桃兎たち全員がだよ?もうかれこれ一ヶ月経は経ってるから、心配で心配で」

ハクは、はぁ、と軽くため息をつきつつ、再びあの明るい表情でオレたちを見回した。

てか、あいつって一体だけじゃなかったのな。仲間がいたのかよ……。

「だから、ぱぱっとあの子を見つけてきてね!三日前の情報ではあるけど、ゼピュロス領で見かけた人がいるって話だから」

「えと、ゼピュロス領っていうのは?」

「ここから西に広がる地域のことですよ、ノア様。花や果実、薬草などで有名な場所で、過ごしやすい気候なこともあり、どの領よりも住民の数が多いそうです。もちろん、この中心地を除いてにはなりますが」

無知なオレに、カイトさんが丁寧な言葉遣いで答えてくれた。様付けなのはむず痒いけど、すっと教えてくれたことは素直にありがたい。

「その通り!えーと、君は……」

「カイトです、ハク様」

「へぇー、カイトかー。君とは仲良くできそうだよー、お隣さんとは違ってさー」

ハクは軽く睨むようにカナタさんを見た。

「俺だってお前みたいなチビと仲良くする気なんざさらさらないっつうの」

「なんだとー?!」

「あーはいはい、その圧のない睨みはいいから……とっとと話進めろよ」

地を這うような低音と、怒気をはらんだ睨みがハクへとぶつけられた。ハクはビクッと身体を軽く震わせた後、すぐに依頼内容の話に戻った。

「えーと、だから、つまり、その、あれだ!君たちは今すぐにゼピュロス領に行って、桃兎を探せー!ってことさ!!」

ハクは立ち上がると同時にテーブルにバンッと両手をついた。その勢いで椅子が倒れた音もした。

「騒がしいな……」

この声は……紫苑?

オレはすぐに湊の方へと向いた。すると、そこには湊の首に巻きつきリラックスしていたであろう紫苑がおり、いつもと違い瞼を開けた状態だった。どうやら珍しく起きていたらしい。……正確には、起こされた、が正しいんだろうけど。

「妙に身に覚えのある気配がするとは思っていたが……」

そう言いながら、紫苑は視線をハクへと向けた。

「ねえねえ、ノア。もしかして今、紫苑がしゃべってる?」

「まあな。オレも起きたのにはびっくりだけど、ちょっと紫苑がかわいそうな気もする」

オレとカズハは小声で話し合う。

普通にうるさくて起きたっぽいしなー。けど、身に覚えのある気配ってなんだろ?

「何やってんだ、チビ」

カナタさんは軽蔑するような目でハクを見ていた。見れば、ハクが胸の前で大きくバツ印を作っていた。

「へ?あ、いやー、これはそのー……あはははは」

ハクは前にやっていた手を身体の横に戻し、乾いた笑いで適当にはぐらかそうとする。

「…………」

その一方で、紫苑はハクを数秒眺めた後、興味なさげに目を瞑り再び眠りについた。

「ていうか、僕はチビじゃなくて、ハク様だってば!」

「あーはいはい、ハク様ハク様依頼主様ー。あとは俺たちがどうにかすっから、お子ちゃまはとっとと家に帰んな」

「なにー?!」

もう何度目かわからない睨みをカナタさんにぶつけるハク。

「ハク様。カナタ様は今、最近は物騒ですからお早めに帰宅されるのがよろしいですよ、とおっしゃっていたのです」

え、絶対違くないか?

「そうだったのか……?見直したぞ、カナタ!」

「おー、よくわかったな、チ……ハク様ー」

「ふふん。当たり前だ。僕は天才だからな!」

ハクは手を腰横に当て、顔を斜め四十五度あげたポーズをとった。

「おー、そうだなー、天才天才……」

カナタさんは引き続き棒読みでハクに対応した。

なんか、ハクがかわいそうに見えてきたなー……。






「何この花畑!すっげー!」

ハクと名乗った白髪金眼の少年からの依頼を受け、オレたちノアズアークと、カナタさん、カイトさんたち『イノセント』で、ゼピュロス領に足を踏み入れていた。ちなみに、イノセントはカナタさんたちのパーティ名で、二人ともBランク冒険者らしい。

馬車で移動してまだそんなに時間は経っていないのだが、降車した瞬間に眼前に広がった美しい花々に、オレはとても感動していた。

「おお、色とりどりの花が咲いてんなぁ。こりゃ圧巻だ」

「秀に花のことなどわかるとは思えないが?」

「おいおい、何言ってくれてんだシン。そのくらいのこと、オレがわからねぇわけねぇだろが」

「なら、この花の名前は?」

またまた始まった秀とシンのじゃれあい。でもこれが二人流のコミュニケーションって勝手に思ってるから、もう止めはしないけど。まあヒートアップしすぎちゃったら……湊とかが止めてくれるさ、きっと。

「……あー……」

シンが指していたのは、中心が黄色くその周りに白い花びらがついた一輪の花だった。

「……ナズナ、とかか?」

悩んだ末、自身なさげに秀が小声で答えた。

「…………」

蔑むような目で秀を射抜くシン。あんな目で見られたら、オレ泣くかも。

「秀さん!それはマーガレットというお花です。観賞用としてよく買われるお花で、とても人気なんです。ナズナはたくさんの小さな白い花弁をつけたお花ですね。たしか料理とかにも使われていたと思います」

さすが博識のエル。植物や薬草関連でエルの右に出る者はここにはいないだろう。

「さっすがエルー!物知りだねー」

「弟子に負けた気分はどうだ、秀」

「うっせぇよ、湊。花は専門外だっつうの」

「ここで三日前に目撃されたんだろ。なら早く聞き込みでもしたらどうだ」

このだらだらとした雰囲気にしびれを切らしたセツナが、桃兎探しを催促した。

「その女の言う通りだ。ここは近隣の街や村で管理や手入れがされてるはずだからな。とりあえず手分けして聞き込みに行くぞ」

「では私とカナタ様は北側に、ノアズアークの皆様には、南側、西側、東側の三つをお願いできますでしょうか」

「オッケー。任せてくれ」

カナタさんとカイトさんは足早に目的地へと向かっていった。

「それじゃあオレたちも分かれて行きますか」

こうしてオレたちもイノセントの二人同様に聞き込み調査を開始した。ちなみに、オレ、シン、エルのグループで東側、湊、カズハ、リュウで西側、そして秀とセツナで南側に行くことになった。これは公平にあみだくじで決めたんだけど、秀と一緒になったとわかった瞬間のセツナの嫌そうな顔が、かなり印象的だったなー。

「あのー、すんませーん。誰かいませんかー!」

東側にあった村に来てみたはいいものの、外に人は全然見当たらず、仕方なくオレは近くの家の扉を軽くノックしつつ、声をかけてみた。

『…………』

「え、ガチで誰もいない感じ?」

「何かあったのでしょうか?」

「うーん、いたって普通の村なんだけどなー」

外には誰もいないように見えるけど、気配はするからたぶん家の中にはいそうなんだよな。けど、この様子からすると、外に出たくない理由が何かあるっぽいなー。

「なんだ、お前ら!」

後ろを振り向けば、黒く丸い耳をつけ、目の周りを黒く染めた若い男がいた。

「さては人攫いか!」

男は威嚇するように手に持った長槍の先をこっちに向けてきた。

「オレはノア。冒険者をやってる。ここに来たのはある依頼をこなすためだ。その依頼に人を攫えなんてものはないから安心してくれ」

オレは落ち着いた雰囲気で男に説明した。ここで取り乱して焦ったような話し方をしたら、かえって相手の不安を煽ることになって、事態がややこしくなりかねない。

「冒険者だって?」

「ああ」

オレはギルドカードを男に見せた。男は視線をそこに移ししっかりと確認する。

「……冒険者がこの村になんの依頼できたんだ」

男は槍を向けたままオレたちに問いかけた。まだ警戒を解いてはくれないみたいだけど、話は聞いてくれるらしい。

「桃色の兎を探してるんだよ。頭部にツノがいくつか生えてて、このくらいのサイズのさ」

オレは胸の前で円を描き、サイズ感を視覚的に表現しつつ、探しものの特徴を男に伝えた。

「……人攫いではなく、兎攫い……」

「いやいやいや、攫うんじゃなくて保護だよ、保護」

兎攫いじゃ、なんかオレたちが悪事を働いてるみたいじゃんかー。

「……お前ら、人間だよな?」

「そうだけど」

もしかして、ここでも確執問題が発生する感じか?これ。

「…………」

男はオレたち三人を値踏みするかのようにじっと見つめた。

「……妙な動きをしたら容赦しないからな」

そう言った男は、構えていた槍を収めてくれた。この感じからすると、オレたちに対する警戒は完全に解きはしないけど、少しは信用してくれてるっぽいな。

「ありがとな。オレはノア。こっちの二人はシンとエル」

「……」

「エルです。突然お邪魔してすみません」

エルは男に対し、ぺこっと軽くお辞儀をした。それとは対照的に、シンは無言のまま男を観察していた。

「あ、ああ……」

男はエルの真摯な態度に、毒気を抜かれたような声を出した。

「不躾で申し訳ないのですが、ノアさんがさっき言っていた兎について、見覚えがあったりしませんか?」

「兎……それって、桃色でツノが生えてるんだよな」

「はい、そうです」

「…………見かけたかも」

「本当ですか……?!」

ぼそっと口にした男の言葉に、エルは食い気味に反応した。

「あ、ああ。たしか、三日前の夜だったと思う。家で寝てたら、ドンッて大きな音が屋根上から聞こえてきて、確認しに行ったら、お前らの言う兎が屋根伝いに走り去ってたから……」

「……!ノアさん!」

「ああ。その兎がたぶん、オレたちの探しものだ。その兎がどっちに行ったとか、分かったりしないか?」

「……あれはたぶん、隣村の方角だ。中央の花畑から見たら北側に位置する村だと思うけど」

北ってことは、カナタさんとカイトさんが行ったとこか。

「情報助かる!ありがとな!これはそのチップだ」

オレは男に礼を言うと、懐から金貨を一枚取り出した。そして親指で軽く弾く。金貨はクルクルと回転しながら、男のもとへと弧を描きつつ飛んでいった。男は両手を出し、飛んできたものをキャッチする。

「ふぇぇ?!ききき、金貨ぁぁぁ?!」

本当は武器とかを揃えるために残しておいた金だけど、この依頼を達成すればそれ以上の報酬がもらえるからな。情報料としてはこれで問題ないはずだ。

「よし、早速花畑に戻ろう」

オレたちは慌てふためく男を置いて、集合場所である花畑へと歩を進めた。オレたちが戻ると、もうすでに全員が揃っていた。

「オレたちがラストだったかー」

オレたちは円状に並び立った。もちろん、花を踏まないように、これらの花々が密集していない場所に足を置いている。

みんな情報集めんの早いなー。

「これで全員揃ったようだな。そんじゃ、各グループが集めた情報をさらっと共有してくぞ」

カナタさんの先導で、オレたちはそれぞれが集めた情報を順番に話していった。

「それじゃ、まずオレたちから。東の村に住んでるある男の話だと、三日前の夜に桃兎を目撃したみたいだ。その後、桃兎はイノセントが調べにいった村に向かっていったらしい」

「ほう。それは本当かもな。俺たちが北の村で得た情報は、桃兎が二日前の昼頃にある家の食べ物を盗み食いしている姿だ。その家の主人が追いかけ回して、なんとか追い払ったらしいが、そいつは西の村に行ったようだぞ」

「え!それ、結構信憑性あるかもよー。ね、リュウ、湊」

「うん。ももうさぎさんが、昨日いたって、言ってたよ?」

「リュウの言う通りだ。桃兎が村中を走り回っていたそうだ。迷惑この上ないと、住民たちが愚痴を言っていたな。それと桃兎は南の村に行く姿も目撃されていた」

ん?ちょっと待て。一回整理しよう。

えーっと、つまりこれまでの情報を軽くまとめると、ターゲットは三日前に花畑と東の村に、二日前に北の村に、一日前に西の村に出現したってことはさ、これってつまり、今日は南の村に現れるってことなんじゃないか?

「あー、わりぃがそれが本当かはわかんねぇぞ。俺とセツナが話を聞いた限りじゃ、桃兎の目撃情報は一切なかったからな」

「……正しくは、それどころじゃなかった、になると思うけど?」

「……ま、そうとも言うな」

「え、どゆこと?」

秀は軽くため息をつきつつ、口を開いた。

「今までの感じからして、亜人たちは俺たち人間に憎悪を抱いていたのは分かっていた。だから俺は蒼を呼び出して、見た目が亜人っぽい蒼に交渉を任せようとしたんだが……」

秀は再びため息をつく。今度はさっきよりも深めだ。対してセツナは、特に何を言うわけでもなく無表情のまま立っていた。

「獣化ができるなんてすげー、とかなんとか、蒼を見た途端に住民が集まって騒ぎ始めてなぁ。おかげで何の情報も得られねぇまま退散する羽目になっちまった」

「へぇー。獣化ができる亜人が友達にいんのかよ、お前」

カナタさんは少しばかり驚いたような表情をした。

「あー……まあそうだな」

秀は蒼の説明が面倒だと思ったのか、訂正することはなかった。蒼は猫人間って感じの見た目をしてるけど、亜人ではないからなー。尻尾も二本あるから、猫の亜人……それこそ彼方さんやカイトさんと比べれば一目瞭然なんだよなー。尻尾が二又に分かれた猫の亜人って、たぶんいないだろうから。

「獣化って、何?」

リュウが純真無垢な目でカナタさんを見つめた。

「獣化ってのは、一部の亜人にしかできない、特殊氣術のことだ。王族や優位種の亜人にできるやつが多いと聞いたことはあるが、俺もそんなに見たことはないな。俺もカイトも獣化はできないしな」

「字面通りならば、獣と化す氣術といったところか」

湊が自身の考えをさっと口にした。

「その通りです。自身に流れる獣の血を呼び覚まし、獣の力を最大限に引き出す。これが獣化という特殊氣術の正体です。見た目もかなり獣側に近づくはずですよ」

「なるほどなぁ。道理で蒼が取り囲まれるわけだ。姿だけ見りゃあ、ザ・猫人間って感じだからな」

「はぁ。お得意の情報収集を事前にしていれば、あんな目に遭わずに済んだんじゃないか……?」

ため息混じりに、セツナが秀へと不満をぶつけた。

「……なんでそれを知ってるかは置いといてだ。俺らが来たのは昨日だぞ、き・の・う!そんな短時間でまともに情報が得られるわけがねぇっての」

「使えないな」

「…………」

セツナの呟きに、秀は無言のまま眉間に皺を寄せた。

前みたいに言い合いが起きることはあんまし無くなったけど、こういう仲悪いなーって思わせる場面には何度も遭遇してるんだよなー。てか、なんでこの二人はこんなにギスギスしてるんだよ。たしか初対面からこんなんだったぞ。

『パンッ!』

大きな乾いた音が花畑が広がるこの空間に響いた。

「はーい、話戻そっかー!それじゃノア、よろしくねー」

「えぇ、丸投げかよ!」

「もちろん!」

カズハはにっこにこの笑顔でうなづいている。

……仕方ない、ここはリーダーの風格ってやつを見せつけてやりますか。

「とりあえず今まで話してきた内容をまとめるとだ、三日前がこの花畑と東の村、二日前が北の村、一日前が西の村に、ターゲットである桃兎が出現したらしい。つまりここから導かれる法則に則れば、次に桃兎が現れる場所は……」

「南の村だな」

「おう、その通りだ、シン。早速南の村に向かいたいところではあるけど、この人数で押しかけるのは避けたいところではあるんだよなー」

「確かにそうですね。大人数で行ってしまうと住民の方々も驚いてしまいますし」

「それだけじゃねぇだろ。人間嫌いの亜人たちがいるとこに、こんだけの人間が入り込んぢまったら、警戒されるか追い出されるかして、桃兎探しどころじゃなくなんだろ」

カイトさんや秀の言う通りだ。少人数で向かうのが一番問題なく進みそうなんだよなー。

「四、五人くらいで行くのが良さげだろうから、早速誰が行くか決めたいんだけど、オレは行くの決定してるからよろしく」

「ずいぶんと強引だな。てっきり全て話し合いで誰が行くかを決めると思ってたわ。ノアの性格的によ」

カナタさんはちょっと驚いたような顔をしていた。

「わかってねぇな、カナタよぉ。うちのリーダーはワクワクが抑えきれねぇときには、わがまま大王と化すんだよ。ノアは好奇心が原動力みてぇなとこあるからなぁ」

「なんだよ、その言い方ー。まるでオレが子どもみたいじゃんか」

ちゃーんとオレが行くメリットはあるんだぞ?だってオレとリュウしか桃兎の姿を実際に見たやつはいないんだからさー。

「んー?俺たちからすりゃぁ、まだまだ子どもだぜ、お前らはよ。なぁ、湊」

「ああ、そうだな」

「なんだよー、湊まで……。まあいいや。とりあえず、あと三人か四人、オレに同行する人を決めてくぞー」























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