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レグルス編
14 桃兎騒動Ⅶ
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side ノア=オーガスト
「キュイ!キュイ!キュイィィ!」
EDENへと戻ったオレたちは、依頼人を急遽呼びだし、フリースペースで待機していた。実はもう夜中になっているのだが、桃兎を捕えているケージを明日まで維持し続けるのは難しいとのカズハの意見があり、依頼人のあの白髪金眼の少年にはごめんけど、すぐに呼びつけることにしたのだ。
「キュイ!キュイ!キュイィィ!」
桃兎には見た目に反した超パワーがあるから、カズハの絶対防御以外で捕獲し続けられそうな物が現状見つからない。それもあって依頼人には早くこいつを引き取ってもらいたいのだ。
「キュイ!キュイ!キュイィィ!」
……にしても、こいつ、ずっとこの調子だな……。
あの桃の雨が降ってから今に至るまで、桃兎は終始踊り続け、嬉しそうな声をあげている。
そんなに桃が食いたかったのかよ。秀とカイトさんが倒しからいいものの、下手したらこいつのせいでとんでもない被害が出てたかもしれないってのに。てかオレたちが到着するのが一歩遅ければ、確実にあの地域は地獄とかしてたよな……。
「はやくこいよ、あのチビ。こちとらとっとと宿で休みたいんが?」
「そんなことを言うものではありませんよ、カナタ様」
「キュイ!キュイ!キュイィィ!」
「…………」
「キュイ!キュイ!キュイィィ!」
「っだぁーもううるせぇなー!」
「……キュイ?」
カナタはバンッとテーブルを叩き立ち上がった。椅子がガタンと倒れた音がした。
「ただでさえイラついてんだ。これ以上俺の神経を逆撫ですんじゃねぇよ!」
カナタは鋭い視線で桃兎を睨んだ。
「キュィ…………」
カナタにどやされ、桃兎は悲しそうにうなだれた。
「あー、カナタひどーい。うさちゃんがかわいそうだよー」
「はぁ?んなの知るかよ。これでようやく静かになったわ」
カズハの言葉など気にすることなく、カナタは倒れた椅子を元に戻して、再び座った。
「はは。カナタが言わなくても俺が怒鳴ってからなぁ。どっちにしろ、こうなってただろうよ」
「まったくもう。秀もカナタも、うさちゃんにあたりが強すぎるってばー。よしよーし、私はうさちゃんの味方だからねー」
カズハはケージ越しに桃兎をなでなでし始めた。
ちなみにこの場には、オレ、秀、カズハ、カナタ、カイトの五人しかいない。他のみんなにはもう遅いし、宿で休んでもらうことにした。報告だけだから少人数で十分だってことになったしなー。
シンもこっちにきたそうだったけど、オレが宿に行くように促したから今頃は宿で休んでくれてるはずだ。まあシンなら布団に入らずに起きたまま待ってそうだけど。
「あ、そうだそうだ。ちょうど暇になったし、例のやつカナタに言ってやれよ」
「え……!今、ですか……?」
「おう」
「……まだ心の準備が……」
「なんだなんだ?俺に内緒で二人して何を企んでやがんだ?」
カナタは向かいに座る秀と隣に座るカイトさんを交互に見た。
「バシッと言ってやれや、カイト」
秀は不安げな様子のカイトさんの目をまっすぐに見つめた。
「……すぅ……ふぅ……わかりました」
カイトさんは一度深呼吸をすると、カナタの方へと身体を向けた。そして真剣な面持ちでカナタを見る。
「カナタ」
「おう……ん?カナタ?」
「カナタと僕は、王と騎士という関係にあるけど、それ以前に僕はカナタの親友だ。友として、カナタが僕と共に歩んでくれることが本当に嬉しい。ありがとう、カナタ」
カイトさんは胸に手を当てながら、丁寧に言葉を紡いだ。丁寧さは変わらないけれど、それは少しラフな口調にも感じられた。
「…………」
カナタは状況が飲み込めていないのか、目をパチパチとさせながらだんまりを貫いていた。
「あの……カナタ……?」
さっきまでの落ち着いた雰囲気とは一転し、カイトさんは、やってしまったかと不安そうな顔をしていた。
「……っ!あ、いや、なんつーか……」
カナタはハッとした顔をし、口もとを右手の手のひらで覆った。
「めっちゃ嬉しい……」
「……!」
呟かれたその一言に、カイトさんは驚いた顔をした。その一方でカナタは手のひらを口から離し、言葉を発し始める。
「カナタ、なんて呼ばれたのあの頃以来だし、その口調も、まるで子どもの頃に戻ったみたいだ。それに、お前が俺の騎士になった時から、俺はお前とどこか心の壁ができちまった気がしてた。けどお前が俺と同じ気持ちをもってくれてたってのは、なんつーか……ちょっとニヤけちまうわ」
カナタはカイトさんに面と向かって言うのが照れくさいのか、わざと目線を外していた。そして再び口もとを右手の手のひらで覆い隠す。
「はっはー。やっぱ笑ったじゃねぇか、カナタのやつ。これは俺の勝ちだな、カイト」
「はい。私の完敗ですね」
カイトさんは、負けたと言う割には、とても晴れやかで嬉しそうな顔をしていた。
「面と向かって本音を言うのも、わるかねぇだろ?小っ恥ずかしいのはわかるが、たまにはそういうコミニュケーションもとっとけ」
「心に留めておきます。ありがとうございました、秀様」
「おう」
カイトさんは秀に対して軽く頭を下げた。秀はそれに片手を軽く上げて応える。
「それで、私は何をすればいいんでしょうか」
頭を上げ秀を見つめるカイトさん。
「ああ、そういやそんな決め事してたなぁ……あー、特に思いつかねぇわ」
「え?」
「てかよ、そもそも俺はお前に何かしろなんざ一言も言ってねぇぜ?俺が勝った場合はカイトは俺の頼みを聞くって言ったんだ。要は聞くだけでいいんだよ。それを叶える必要なんざ全くねぇわけだ」
「へ…………?」
秀の軽い説明にカイトさんは口をぽかんと開けて呆然としていた。
「人の話はちゃーんと聞くこったな。ははは」
どうやら秀に言葉巧みに騙されたっぽいなー、カイトさん。
「おい、秀。あんま俺のダチをからかうなよ。こいつ、結構純真だから」
「ふーん?そんなことを言われちゃぁ、とことんからかいたくなってくるなぁ」
秀は不敵な笑みを浮かべていた。
「チッ。言葉遊びじゃお前に勝てる気がしねぇな」
「そりゃどうも」
『…………』
二人の会話が終わった途端、この空間は静寂に包まれた。EDEN支部の運営さんが依頼人を呼んできてくれてるはずなんだけど、まだ戻って来ないみたいだ。
「にしてもマジで遅すぎだろ、あんのチビ。その兎ここの奴らに預けらんねぇのかよ」
「だからさっきも言ったじゃーん。このケージを明日まで保つなんて到底無理だから今渡すしかないってー。話聞いててよねー」
「わーってるよ、そんなことは。けど愚痴でも言ってねぇとストレスが溜まってしょうがねぇ……。あのチビ、あとで絶対殴るわ」
「誰が誰を殴るってー?」
突如幼い声が聞こえた。テーブルの上を見れば、いつのまにかあの白髪金眼の少年が仁王立ちをしてそこに立っていた。初めて会った時もこんな風に突然目の前に現れた気がする。
「ふん。やっと来やがったかチビ。あと一秒でも遅けりゃ、フルボッココースだったわ」
ハクはひょいとテーブルから降り、適当な椅子に座った。
「何言ってるのかなー?ボコボコになるのは僕じゃなくて、君だぞカナタ」
「は!やれるもんならやってみろや、チビ」
ニコニコとしながら怖いことを言うハク。それに対し煽り返すカナタ。
「はーい、ストップストーップ。喧嘩するのは後にしてよねー。私の氣がそろそろ限界だからさ」
「おお!その子は、まさか……!」
ハクは椅子から勢いよく立ち上がり、テーブルをぴょんとジャンプして越えると、カズハの近くに降り立った。そしてテーブルに置かれたケージをまじまじと見つめている。
「お探しの桃兎はそいつだろ?」
「その通りだ!ノア!よくやってくれた、君たち!」
ハクは心底嬉しそうな声を上げた。
「じゃ、もう氣術解いちゃうねー」
「お帰りー!モモタロウ!」
「キュイィィ!」
ハクはカズハがケージを解いた途端、桃兎はハクに向かってジャンプした。しっかりと受け止めたハクは、桃兎に頬ずりをし始めた。桃兎もにっこにこだ。
てかそいつ、名前あったんかい。
「うんうん、感動の再会だねー!良かった良かった」
「んじゃま、兎を届けるっつう依頼は終わったわけだし、俺たちは帰らせてもらうわ」
カナタがそう言って立ち上がると、カイトさんもそれに続いた。
「明日にでもここに報酬を持ってくるから、ちゃんとEDENからもらっといてねー!」
「へいへい。じゃな、ノアズアーク」
「お疲れ様でした」
「おう。ありがとなー、カナタ!カイトさん!」
二人の背中が少しずつ遠ざかる。
「あ、そうだ。カナタ!カイトさん!」
「なんだよ。まだなんかあんのか?」
そう呼びかければ階段の途中で二人が振り返ってくれた。
「何かあったらオレたちノアズアークに気軽に声かけてくれよな!ここにいる間はいつでも力になるからさ!」
「お前ら俺らよりランク低いのにか?」
「ランクがどうとか関係ないっつーの。オレが二人ともっと仲良くしたいだけだから」
「んだよ、それ……。ま、気が向いたらな」
そう一言残すと、カナタたちはまた階段を降り始めた。カイトさんは一度お辞儀をしてから、カナタは背を向けながらも手を振ってくれた。
オレはそれに満足して、再びハクに目を向けた。ハクは頬ずりには満足したのか、椅子に座って桃兎をしっかりと抱っこしていた。
「キュイキュイ!」
「ん?どうしたんだ、モモタロウ?」
突然鳴き声を上げた桃兎に、ハクは少し心配そうに桃兎を覗き込んだ。
「あーはいはい。そんな喚かなくてもわかってるっての」
オレは左手人差し指に意識を向ける。そしてその赤色に輝く石が特徴的な指輪型のエスパシオに氣を流し込み、起動させた。するとテーブルには山積みの桃が出現した。
「キュイキュイィィ!」
「ふぇ……?」
その異常な光景に桃兎は大喜びだったが、ハクはマヌケな声を発した。
「うわー、改めて見るとすごい量だねー、この桃……あらら、結構地面に落ちちゃってるよー」
山からコロコロと一部の桃が落ちていく。それだけあの時、この桃の雨が降り注いだのだ。
「ほっとけほっとけ。どうせ拾って戻したところでまた落ちるだけだからなぁ」
秀と紫苑の連携で遥か下に眠っていたはずの桃を全部回収できたわけだけど、あれは生涯忘れらんない光景だったなー。
「なんで仙桃がここに……?だってあの時花魄獣になっちゃったから、苦渋の思いで封印を……!」
「ん?花魄獣……って何?」
「あ、そっか。君たちは他所からきたから知らないか。花魄獣っていうのはこの国の守り神の氣と魔物の氣が融合することで生まれる魔物のことさー」
「守り神って、たしかハクタクって名前のやつ?」
「そうだよー。あ、様付けはしてよねー」
そこ突っ込むところか……?
「んーと、そのハクタク様の氣ってのはもしかしなくても、神氣だったり……?」
「おお、よく知ってるねー。その通りだよ!ぼ……じゃなくて、ハクタクのもつ神氣を多量に黒氣を内包する魔物たちが取り込む、もしくはその逆……神氣をもつ生命体が大量の黒氣を取り込むことで、花魄獣は生まれるんだー」
へぇー。神氣が黒氣と混ざり合うことで魔物が生まれるなんてことあるんだなー。
てか、ハクはハクタクのことを様付けしないのかよ。
「仙桃がここにあるってことは、封印を解いて牛頭馬頭の花魄獣を討伐したってことだよねー。すごいね、君たち!僕が見込んだだけのことはある!いやー、僕ってば見る目がありすぎるっていうか、天才すぎるっていうか……!」
ハクは高らかな声で自画自賛をし始めた。
それを成し遂げたのはオレたちではあるけど、依頼人として自分の目的を果たすための人材選びに成功してるって点では、確かに見る目はあるかもなー。桃兎もすぐにハクに返せたわけだし?
「つっても、その兎が封印なんて解いてくれなければ、もっと早く桃兎をハクに届けられたんだけどな」
「あれ?君たちが封印を解いちゃったとかじゃないの?」
目をぱちぱちとさせるハクにオレはかいつまんで事情を説明し始める。
「そんなわけないじゃん。そいつが封印してた石を破壊して回ってたんだよ。それでオレたちが解かれた花魄獣って奴を倒さないといけなくなったってわけ」
正直、かなりいい迷惑ではあった。特に牛頭馬頭?って名前の花魄獣を相手してた秀とかカイトさんからすれば、なおさらだろうなー。
「ほへー。そうだったんだ」
「そ。でもって倒した後、そいつが桃が欲しいーって喚き始めたから、桃狩りが始まったんだよ。で、その結果がこれな」
オレは目の前の机に山積みになる桃へと、軽く両の手のひらを前に出した。
「そっかそっか……モモタロウたちが突然外に出ちゃったのは僕のためだったのか……あ、それにしてもよくもまあこんなにもたくさんの仙桃を取ってこれたねー」
「あー、それは秀が頑張ってくれたからさ」
「へぇー。君が、ねー」
ハクは値踏みでもするかのように秀をじろじろと見つめた。
「なんだ?なんか文句でもあんのか?」
「ううん。べっつにー?」
秀の軽い睨みに対しハクは怯むことなく、むしろ軽いノリで対応した。
あの大量の桃の雨。みんなには地中で何が起こってたか全くわからなかっただろうけど、オレには特殊な眼、黎明之眼があったから何もかも把握していた。ただまさかあんな風に桃が降り注ぐとは思わなかったけど。まあ、湊とかシンは付き合いも長いし、見えてなくても何が起きたかだいたい想像はついてそうだ。
あの時、秀は紫苑が見ている世界を見ることができていた。氣の流れで構成された世界。この同調は、視界の共有をするわけではなく、紫苑の眼の力を一時的に借りるって表現した方が近いと思う。
そんで紫苑の眼を借りた秀は、桃がある位置を視覚的に全て把握することができた。だからそこ目掛けて、わざわざ円柱状にした岩壁を下から思い切り突き上げて、桃を外に押し出したってわけだ。かなり緻密な氣のコントロールがいるだろうに、やっぱ流石だよなー、秀のやつ。
ただこれだけだと桃が取れない可能性が高いと思ったんだろう。秀が岩壁を発動させる前、紫苑がある二つのサポートをしていた。一つが、桃と根の接続部をうまく切り離すこと。もう一つが、桃を氣で包み込むことだ。
前者については、根っこが桃と強く繋がっていた場合、今回の作戦の肝である桃を押し出すことへの阻害要素となりえたからだと思う。紫苑は視界に映るあらゆる場所に氣による攻撃を繰り出すことが可能だ。神なだけあって、かなりチートだよなー。だって予備動作が全くない、どこから来るかもわからない攻撃が無限に繰り出せるってことだもんなー。まあそんなわけで紫苑がスパッと全ての桃を、氣の斬撃によって根っこから切り離してくれたわけだ。
後者については、桃が地面に落下した際に潰れたり傷ついたりしないように保護するためだろう。どうせ持って帰るなら美味しそうな桃の方が当然いいに決まってる。紫苑なら攻撃だけじゃなく、氣のシールドで視界に映った対象を守ることも可能だから、こんな芸当ができたわけだ。まあ地面の中にあったから多少土で汚れてはいたけど、ちゃちゃっと湊とエルが水の氣術で洗ってくれたから全く問題なしだ。目の前に積まれた桃はすべて、新鮮で水々しさが残る桃ばかりだ。
ちなみに、本体である牛頭馬頭ってやつはSBで回収できたから一応やっておいた。あそこに放置しっぱなしなのも、周りの住人からしたらかなーり迷惑だったろうからなー。明日にでもギルド職員に鑑定してもらって、金銭に変えてもらわないとなー。オレの懐、かなりさびしいことになってるし……。
それと荒れまくった花畑に関しては、オレが特殊氣術『無限再生』でちゃちゃっと元に戻しておいた。あんまり使うなとは言われてるけど、めちゃくちゃ綺麗だったあの花畑があんなにも無惨なままっていうのは、どうも忍びなかったから。
「ふふん。まさかモモタロウが戻ってきてくれるだけじゃなくて、僕の大好物がこんなにも手に入るなんてね!もうウッキウキだよー!」
ハクは身体を左右に揺らしながら、ニマニマと表情を緩ませていた。
「良かったねー、うさちゃん!ハク様すごく喜んでくれてさ!」
「キュイィィ!!」
カズハの言葉に桃兎は声高らかに鳴いた。
てっきりあいつは自分が桃を食べたいって理由で封印を解いたのかと思ってたけど、この感じを見る限り、どうやらハクのために仙桃ってやつを探してたみたいだなー。
でもなんでハクのため?たしか桃兎ってハクタクの眷属じゃなかったか?そんな話をレオン叡王から聞いたような気が…………はっ!まさかとは思うけど、今目の前にいるこの少年が……?!
「モモタロウはなんていい子なんだー!僕はとっても感動したぞぉぉぉ!!」
ハクは歓喜の大声を発しながら、再度桃兎の頬をすりすりし始めた。
……いやないな、ないない。だってなんか、威厳っていうか、神っぽさが微塵もないもん。
「うーん!かわいいやつめー!!」
「キュイキュイィィ!」
それに紫苑と比べたら一目瞭然だ。あの落ち着き払った紫苑と今目の前でニタニタしながら頬ずりしているハク……。紫苑っていう神を知ってる分、余計にこの少年が神には見えないよなー……うん、完全にこれはオレの深読みだな。気のせい気のせい。
「それで、ハク様よ。これで無事依頼完了ってことでいいよなぁ?」
「……コホン。もちろんだとも!報酬は明日にでも渡しておくから、ギルドの人にもらっといてねー。あと仙桃を取ってくれたお礼に、仕方ないからこれを人数分あげるよー!たしか全部で十個だったかな?」
ハクは頬ずりをやめて一度咳払すると、桃兎をテーブルにそっと置いて立ち上がり、桃を十個抱えて一番近くに座っていたカズハのところへに歩み寄った。
「本当は一個もあげたくないのが本音なんだけど、他に別途報酬を思いつかないし、超超超嫌だけど……プレゼント、してあげるよ……」
ちょっと悲しげにカズハへ桃を渡そうとするハク。どんだけこの桃好きなんだよ。
「えー、そんな顔するのはずるいよー。でもくれるって言ったのはハク様だからねー。はい、しっかり十個もらいましたー。ありがとねー」
カズハは椅子から立ち上がると、差し出すのを躊躇っていそうなハクから、パパッと桃を取っていった。
「今更やっぱりダメっていうのは無しだからねー。ちゃーんと言質はとってるんだから。ノアも秀も一言一句逃さず聞いてたもんねー?」
「え?まあ聞いてたけど……」
なんでカズハはこんなにも嬉しそうなんだろ?
「はは、ほんと目がねぇな」
目がない?……あー、そういうことか。道理であんなに上機嫌なわけだ。
「ふふん。仙桃ってどんな味がするんだろー。普通の桃よりやっぱり超絶甘いのかなー。それとも意外にもレモンみたいに爽やかな感じなのかなー。うわぁ!早く食べたくてしょうがないよー!!」
めちゃくちゃにっこにこなカズハ。満面の笑みとはまさにこのこと。
「うんまあ、そんなに喜んでくれるなら、僕も渡した甲斐があったよ!ちゃーんと味わって食べてよねー」
「そりゃもちろん!」
ハクの言葉に対して、食い気味にカズハはそう応えた。
「それと、この仙桃を食べるとある不思議な力に満ち溢れると思うけどー、びっくりしなくても大丈夫だから!かい摘んで言うならー、今の僕ならなんでもできちゃいそうだー!!、みたいな?」
うわお。すっごいアバウト。
「要はいい効果が得られるっつうわけだろ?」
「そうそう!もって一時間くらいだろうけど、例えばそうだなー……魔物を狩る前とかに食べるのをオススメするよー!もう弱すぎて話にならなーい!、って感じになるだろうからさ!!」
ハクはニッと口角を上げながら、右手のグッドサインを前に突き出した。
「そんなすげー桃をくれるなんて、太っ腹だなぁ、ハク様はよ」
「ふっふっふー。そうだろー、そうだろー。よくわかってるじゃないか!秀よ!」
「おー、そりゃどうも」
あんまし心のこもってない感じで褒めた秀に対し、ハクはめっちゃ浮かれていた。きっと秀はこう思ってるだろうなー。
こいつちょろすぎだろ、ってな。
こうして、不思議な少年ハクからの桃兎探し依頼は幕を閉じたのであった。
「キュイ!キュイ!キュイィィ!」
EDENへと戻ったオレたちは、依頼人を急遽呼びだし、フリースペースで待機していた。実はもう夜中になっているのだが、桃兎を捕えているケージを明日まで維持し続けるのは難しいとのカズハの意見があり、依頼人のあの白髪金眼の少年にはごめんけど、すぐに呼びつけることにしたのだ。
「キュイ!キュイ!キュイィィ!」
桃兎には見た目に反した超パワーがあるから、カズハの絶対防御以外で捕獲し続けられそうな物が現状見つからない。それもあって依頼人には早くこいつを引き取ってもらいたいのだ。
「キュイ!キュイ!キュイィィ!」
……にしても、こいつ、ずっとこの調子だな……。
あの桃の雨が降ってから今に至るまで、桃兎は終始踊り続け、嬉しそうな声をあげている。
そんなに桃が食いたかったのかよ。秀とカイトさんが倒しからいいものの、下手したらこいつのせいでとんでもない被害が出てたかもしれないってのに。てかオレたちが到着するのが一歩遅ければ、確実にあの地域は地獄とかしてたよな……。
「はやくこいよ、あのチビ。こちとらとっとと宿で休みたいんが?」
「そんなことを言うものではありませんよ、カナタ様」
「キュイ!キュイ!キュイィィ!」
「…………」
「キュイ!キュイ!キュイィィ!」
「っだぁーもううるせぇなー!」
「……キュイ?」
カナタはバンッとテーブルを叩き立ち上がった。椅子がガタンと倒れた音がした。
「ただでさえイラついてんだ。これ以上俺の神経を逆撫ですんじゃねぇよ!」
カナタは鋭い視線で桃兎を睨んだ。
「キュィ…………」
カナタにどやされ、桃兎は悲しそうにうなだれた。
「あー、カナタひどーい。うさちゃんがかわいそうだよー」
「はぁ?んなの知るかよ。これでようやく静かになったわ」
カズハの言葉など気にすることなく、カナタは倒れた椅子を元に戻して、再び座った。
「はは。カナタが言わなくても俺が怒鳴ってからなぁ。どっちにしろ、こうなってただろうよ」
「まったくもう。秀もカナタも、うさちゃんにあたりが強すぎるってばー。よしよーし、私はうさちゃんの味方だからねー」
カズハはケージ越しに桃兎をなでなでし始めた。
ちなみにこの場には、オレ、秀、カズハ、カナタ、カイトの五人しかいない。他のみんなにはもう遅いし、宿で休んでもらうことにした。報告だけだから少人数で十分だってことになったしなー。
シンもこっちにきたそうだったけど、オレが宿に行くように促したから今頃は宿で休んでくれてるはずだ。まあシンなら布団に入らずに起きたまま待ってそうだけど。
「あ、そうだそうだ。ちょうど暇になったし、例のやつカナタに言ってやれよ」
「え……!今、ですか……?」
「おう」
「……まだ心の準備が……」
「なんだなんだ?俺に内緒で二人して何を企んでやがんだ?」
カナタは向かいに座る秀と隣に座るカイトさんを交互に見た。
「バシッと言ってやれや、カイト」
秀は不安げな様子のカイトさんの目をまっすぐに見つめた。
「……すぅ……ふぅ……わかりました」
カイトさんは一度深呼吸をすると、カナタの方へと身体を向けた。そして真剣な面持ちでカナタを見る。
「カナタ」
「おう……ん?カナタ?」
「カナタと僕は、王と騎士という関係にあるけど、それ以前に僕はカナタの親友だ。友として、カナタが僕と共に歩んでくれることが本当に嬉しい。ありがとう、カナタ」
カイトさんは胸に手を当てながら、丁寧に言葉を紡いだ。丁寧さは変わらないけれど、それは少しラフな口調にも感じられた。
「…………」
カナタは状況が飲み込めていないのか、目をパチパチとさせながらだんまりを貫いていた。
「あの……カナタ……?」
さっきまでの落ち着いた雰囲気とは一転し、カイトさんは、やってしまったかと不安そうな顔をしていた。
「……っ!あ、いや、なんつーか……」
カナタはハッとした顔をし、口もとを右手の手のひらで覆った。
「めっちゃ嬉しい……」
「……!」
呟かれたその一言に、カイトさんは驚いた顔をした。その一方でカナタは手のひらを口から離し、言葉を発し始める。
「カナタ、なんて呼ばれたのあの頃以来だし、その口調も、まるで子どもの頃に戻ったみたいだ。それに、お前が俺の騎士になった時から、俺はお前とどこか心の壁ができちまった気がしてた。けどお前が俺と同じ気持ちをもってくれてたってのは、なんつーか……ちょっとニヤけちまうわ」
カナタはカイトさんに面と向かって言うのが照れくさいのか、わざと目線を外していた。そして再び口もとを右手の手のひらで覆い隠す。
「はっはー。やっぱ笑ったじゃねぇか、カナタのやつ。これは俺の勝ちだな、カイト」
「はい。私の完敗ですね」
カイトさんは、負けたと言う割には、とても晴れやかで嬉しそうな顔をしていた。
「面と向かって本音を言うのも、わるかねぇだろ?小っ恥ずかしいのはわかるが、たまにはそういうコミニュケーションもとっとけ」
「心に留めておきます。ありがとうございました、秀様」
「おう」
カイトさんは秀に対して軽く頭を下げた。秀はそれに片手を軽く上げて応える。
「それで、私は何をすればいいんでしょうか」
頭を上げ秀を見つめるカイトさん。
「ああ、そういやそんな決め事してたなぁ……あー、特に思いつかねぇわ」
「え?」
「てかよ、そもそも俺はお前に何かしろなんざ一言も言ってねぇぜ?俺が勝った場合はカイトは俺の頼みを聞くって言ったんだ。要は聞くだけでいいんだよ。それを叶える必要なんざ全くねぇわけだ」
「へ…………?」
秀の軽い説明にカイトさんは口をぽかんと開けて呆然としていた。
「人の話はちゃーんと聞くこったな。ははは」
どうやら秀に言葉巧みに騙されたっぽいなー、カイトさん。
「おい、秀。あんま俺のダチをからかうなよ。こいつ、結構純真だから」
「ふーん?そんなことを言われちゃぁ、とことんからかいたくなってくるなぁ」
秀は不敵な笑みを浮かべていた。
「チッ。言葉遊びじゃお前に勝てる気がしねぇな」
「そりゃどうも」
『…………』
二人の会話が終わった途端、この空間は静寂に包まれた。EDEN支部の運営さんが依頼人を呼んできてくれてるはずなんだけど、まだ戻って来ないみたいだ。
「にしてもマジで遅すぎだろ、あんのチビ。その兎ここの奴らに預けらんねぇのかよ」
「だからさっきも言ったじゃーん。このケージを明日まで保つなんて到底無理だから今渡すしかないってー。話聞いててよねー」
「わーってるよ、そんなことは。けど愚痴でも言ってねぇとストレスが溜まってしょうがねぇ……。あのチビ、あとで絶対殴るわ」
「誰が誰を殴るってー?」
突如幼い声が聞こえた。テーブルの上を見れば、いつのまにかあの白髪金眼の少年が仁王立ちをしてそこに立っていた。初めて会った時もこんな風に突然目の前に現れた気がする。
「ふん。やっと来やがったかチビ。あと一秒でも遅けりゃ、フルボッココースだったわ」
ハクはひょいとテーブルから降り、適当な椅子に座った。
「何言ってるのかなー?ボコボコになるのは僕じゃなくて、君だぞカナタ」
「は!やれるもんならやってみろや、チビ」
ニコニコとしながら怖いことを言うハク。それに対し煽り返すカナタ。
「はーい、ストップストーップ。喧嘩するのは後にしてよねー。私の氣がそろそろ限界だからさ」
「おお!その子は、まさか……!」
ハクは椅子から勢いよく立ち上がり、テーブルをぴょんとジャンプして越えると、カズハの近くに降り立った。そしてテーブルに置かれたケージをまじまじと見つめている。
「お探しの桃兎はそいつだろ?」
「その通りだ!ノア!よくやってくれた、君たち!」
ハクは心底嬉しそうな声を上げた。
「じゃ、もう氣術解いちゃうねー」
「お帰りー!モモタロウ!」
「キュイィィ!」
ハクはカズハがケージを解いた途端、桃兎はハクに向かってジャンプした。しっかりと受け止めたハクは、桃兎に頬ずりをし始めた。桃兎もにっこにこだ。
てかそいつ、名前あったんかい。
「うんうん、感動の再会だねー!良かった良かった」
「んじゃま、兎を届けるっつう依頼は終わったわけだし、俺たちは帰らせてもらうわ」
カナタがそう言って立ち上がると、カイトさんもそれに続いた。
「明日にでもここに報酬を持ってくるから、ちゃんとEDENからもらっといてねー!」
「へいへい。じゃな、ノアズアーク」
「お疲れ様でした」
「おう。ありがとなー、カナタ!カイトさん!」
二人の背中が少しずつ遠ざかる。
「あ、そうだ。カナタ!カイトさん!」
「なんだよ。まだなんかあんのか?」
そう呼びかければ階段の途中で二人が振り返ってくれた。
「何かあったらオレたちノアズアークに気軽に声かけてくれよな!ここにいる間はいつでも力になるからさ!」
「お前ら俺らよりランク低いのにか?」
「ランクがどうとか関係ないっつーの。オレが二人ともっと仲良くしたいだけだから」
「んだよ、それ……。ま、気が向いたらな」
そう一言残すと、カナタたちはまた階段を降り始めた。カイトさんは一度お辞儀をしてから、カナタは背を向けながらも手を振ってくれた。
オレはそれに満足して、再びハクに目を向けた。ハクは頬ずりには満足したのか、椅子に座って桃兎をしっかりと抱っこしていた。
「キュイキュイ!」
「ん?どうしたんだ、モモタロウ?」
突然鳴き声を上げた桃兎に、ハクは少し心配そうに桃兎を覗き込んだ。
「あーはいはい。そんな喚かなくてもわかってるっての」
オレは左手人差し指に意識を向ける。そしてその赤色に輝く石が特徴的な指輪型のエスパシオに氣を流し込み、起動させた。するとテーブルには山積みの桃が出現した。
「キュイキュイィィ!」
「ふぇ……?」
その異常な光景に桃兎は大喜びだったが、ハクはマヌケな声を発した。
「うわー、改めて見るとすごい量だねー、この桃……あらら、結構地面に落ちちゃってるよー」
山からコロコロと一部の桃が落ちていく。それだけあの時、この桃の雨が降り注いだのだ。
「ほっとけほっとけ。どうせ拾って戻したところでまた落ちるだけだからなぁ」
秀と紫苑の連携で遥か下に眠っていたはずの桃を全部回収できたわけだけど、あれは生涯忘れらんない光景だったなー。
「なんで仙桃がここに……?だってあの時花魄獣になっちゃったから、苦渋の思いで封印を……!」
「ん?花魄獣……って何?」
「あ、そっか。君たちは他所からきたから知らないか。花魄獣っていうのはこの国の守り神の氣と魔物の氣が融合することで生まれる魔物のことさー」
「守り神って、たしかハクタクって名前のやつ?」
「そうだよー。あ、様付けはしてよねー」
そこ突っ込むところか……?
「んーと、そのハクタク様の氣ってのはもしかしなくても、神氣だったり……?」
「おお、よく知ってるねー。その通りだよ!ぼ……じゃなくて、ハクタクのもつ神氣を多量に黒氣を内包する魔物たちが取り込む、もしくはその逆……神氣をもつ生命体が大量の黒氣を取り込むことで、花魄獣は生まれるんだー」
へぇー。神氣が黒氣と混ざり合うことで魔物が生まれるなんてことあるんだなー。
てか、ハクはハクタクのことを様付けしないのかよ。
「仙桃がここにあるってことは、封印を解いて牛頭馬頭の花魄獣を討伐したってことだよねー。すごいね、君たち!僕が見込んだだけのことはある!いやー、僕ってば見る目がありすぎるっていうか、天才すぎるっていうか……!」
ハクは高らかな声で自画自賛をし始めた。
それを成し遂げたのはオレたちではあるけど、依頼人として自分の目的を果たすための人材選びに成功してるって点では、確かに見る目はあるかもなー。桃兎もすぐにハクに返せたわけだし?
「つっても、その兎が封印なんて解いてくれなければ、もっと早く桃兎をハクに届けられたんだけどな」
「あれ?君たちが封印を解いちゃったとかじゃないの?」
目をぱちぱちとさせるハクにオレはかいつまんで事情を説明し始める。
「そんなわけないじゃん。そいつが封印してた石を破壊して回ってたんだよ。それでオレたちが解かれた花魄獣って奴を倒さないといけなくなったってわけ」
正直、かなりいい迷惑ではあった。特に牛頭馬頭?って名前の花魄獣を相手してた秀とかカイトさんからすれば、なおさらだろうなー。
「ほへー。そうだったんだ」
「そ。でもって倒した後、そいつが桃が欲しいーって喚き始めたから、桃狩りが始まったんだよ。で、その結果がこれな」
オレは目の前の机に山積みになる桃へと、軽く両の手のひらを前に出した。
「そっかそっか……モモタロウたちが突然外に出ちゃったのは僕のためだったのか……あ、それにしてもよくもまあこんなにもたくさんの仙桃を取ってこれたねー」
「あー、それは秀が頑張ってくれたからさ」
「へぇー。君が、ねー」
ハクは値踏みでもするかのように秀をじろじろと見つめた。
「なんだ?なんか文句でもあんのか?」
「ううん。べっつにー?」
秀の軽い睨みに対しハクは怯むことなく、むしろ軽いノリで対応した。
あの大量の桃の雨。みんなには地中で何が起こってたか全くわからなかっただろうけど、オレには特殊な眼、黎明之眼があったから何もかも把握していた。ただまさかあんな風に桃が降り注ぐとは思わなかったけど。まあ、湊とかシンは付き合いも長いし、見えてなくても何が起きたかだいたい想像はついてそうだ。
あの時、秀は紫苑が見ている世界を見ることができていた。氣の流れで構成された世界。この同調は、視界の共有をするわけではなく、紫苑の眼の力を一時的に借りるって表現した方が近いと思う。
そんで紫苑の眼を借りた秀は、桃がある位置を視覚的に全て把握することができた。だからそこ目掛けて、わざわざ円柱状にした岩壁を下から思い切り突き上げて、桃を外に押し出したってわけだ。かなり緻密な氣のコントロールがいるだろうに、やっぱ流石だよなー、秀のやつ。
ただこれだけだと桃が取れない可能性が高いと思ったんだろう。秀が岩壁を発動させる前、紫苑がある二つのサポートをしていた。一つが、桃と根の接続部をうまく切り離すこと。もう一つが、桃を氣で包み込むことだ。
前者については、根っこが桃と強く繋がっていた場合、今回の作戦の肝である桃を押し出すことへの阻害要素となりえたからだと思う。紫苑は視界に映るあらゆる場所に氣による攻撃を繰り出すことが可能だ。神なだけあって、かなりチートだよなー。だって予備動作が全くない、どこから来るかもわからない攻撃が無限に繰り出せるってことだもんなー。まあそんなわけで紫苑がスパッと全ての桃を、氣の斬撃によって根っこから切り離してくれたわけだ。
後者については、桃が地面に落下した際に潰れたり傷ついたりしないように保護するためだろう。どうせ持って帰るなら美味しそうな桃の方が当然いいに決まってる。紫苑なら攻撃だけじゃなく、氣のシールドで視界に映った対象を守ることも可能だから、こんな芸当ができたわけだ。まあ地面の中にあったから多少土で汚れてはいたけど、ちゃちゃっと湊とエルが水の氣術で洗ってくれたから全く問題なしだ。目の前に積まれた桃はすべて、新鮮で水々しさが残る桃ばかりだ。
ちなみに、本体である牛頭馬頭ってやつはSBで回収できたから一応やっておいた。あそこに放置しっぱなしなのも、周りの住人からしたらかなーり迷惑だったろうからなー。明日にでもギルド職員に鑑定してもらって、金銭に変えてもらわないとなー。オレの懐、かなりさびしいことになってるし……。
それと荒れまくった花畑に関しては、オレが特殊氣術『無限再生』でちゃちゃっと元に戻しておいた。あんまり使うなとは言われてるけど、めちゃくちゃ綺麗だったあの花畑があんなにも無惨なままっていうのは、どうも忍びなかったから。
「ふふん。まさかモモタロウが戻ってきてくれるだけじゃなくて、僕の大好物がこんなにも手に入るなんてね!もうウッキウキだよー!」
ハクは身体を左右に揺らしながら、ニマニマと表情を緩ませていた。
「良かったねー、うさちゃん!ハク様すごく喜んでくれてさ!」
「キュイィィ!!」
カズハの言葉に桃兎は声高らかに鳴いた。
てっきりあいつは自分が桃を食べたいって理由で封印を解いたのかと思ってたけど、この感じを見る限り、どうやらハクのために仙桃ってやつを探してたみたいだなー。
でもなんでハクのため?たしか桃兎ってハクタクの眷属じゃなかったか?そんな話をレオン叡王から聞いたような気が…………はっ!まさかとは思うけど、今目の前にいるこの少年が……?!
「モモタロウはなんていい子なんだー!僕はとっても感動したぞぉぉぉ!!」
ハクは歓喜の大声を発しながら、再度桃兎の頬をすりすりし始めた。
……いやないな、ないない。だってなんか、威厳っていうか、神っぽさが微塵もないもん。
「うーん!かわいいやつめー!!」
「キュイキュイィィ!」
それに紫苑と比べたら一目瞭然だ。あの落ち着き払った紫苑と今目の前でニタニタしながら頬ずりしているハク……。紫苑っていう神を知ってる分、余計にこの少年が神には見えないよなー……うん、完全にこれはオレの深読みだな。気のせい気のせい。
「それで、ハク様よ。これで無事依頼完了ってことでいいよなぁ?」
「……コホン。もちろんだとも!報酬は明日にでも渡しておくから、ギルドの人にもらっといてねー。あと仙桃を取ってくれたお礼に、仕方ないからこれを人数分あげるよー!たしか全部で十個だったかな?」
ハクは頬ずりをやめて一度咳払すると、桃兎をテーブルにそっと置いて立ち上がり、桃を十個抱えて一番近くに座っていたカズハのところへに歩み寄った。
「本当は一個もあげたくないのが本音なんだけど、他に別途報酬を思いつかないし、超超超嫌だけど……プレゼント、してあげるよ……」
ちょっと悲しげにカズハへ桃を渡そうとするハク。どんだけこの桃好きなんだよ。
「えー、そんな顔するのはずるいよー。でもくれるって言ったのはハク様だからねー。はい、しっかり十個もらいましたー。ありがとねー」
カズハは椅子から立ち上がると、差し出すのを躊躇っていそうなハクから、パパッと桃を取っていった。
「今更やっぱりダメっていうのは無しだからねー。ちゃーんと言質はとってるんだから。ノアも秀も一言一句逃さず聞いてたもんねー?」
「え?まあ聞いてたけど……」
なんでカズハはこんなにも嬉しそうなんだろ?
「はは、ほんと目がねぇな」
目がない?……あー、そういうことか。道理であんなに上機嫌なわけだ。
「ふふん。仙桃ってどんな味がするんだろー。普通の桃よりやっぱり超絶甘いのかなー。それとも意外にもレモンみたいに爽やかな感じなのかなー。うわぁ!早く食べたくてしょうがないよー!!」
めちゃくちゃにっこにこなカズハ。満面の笑みとはまさにこのこと。
「うんまあ、そんなに喜んでくれるなら、僕も渡した甲斐があったよ!ちゃーんと味わって食べてよねー」
「そりゃもちろん!」
ハクの言葉に対して、食い気味にカズハはそう応えた。
「それと、この仙桃を食べるとある不思議な力に満ち溢れると思うけどー、びっくりしなくても大丈夫だから!かい摘んで言うならー、今の僕ならなんでもできちゃいそうだー!!、みたいな?」
うわお。すっごいアバウト。
「要はいい効果が得られるっつうわけだろ?」
「そうそう!もって一時間くらいだろうけど、例えばそうだなー……魔物を狩る前とかに食べるのをオススメするよー!もう弱すぎて話にならなーい!、って感じになるだろうからさ!!」
ハクはニッと口角を上げながら、右手のグッドサインを前に突き出した。
「そんなすげー桃をくれるなんて、太っ腹だなぁ、ハク様はよ」
「ふっふっふー。そうだろー、そうだろー。よくわかってるじゃないか!秀よ!」
「おー、そりゃどうも」
あんまし心のこもってない感じで褒めた秀に対し、ハクはめっちゃ浮かれていた。きっと秀はこう思ってるだろうなー。
こいつちょろすぎだろ、ってな。
こうして、不思議な少年ハクからの桃兎探し依頼は幕を閉じたのであった。
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