碧天のノアズアーク

世良シンア

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レグルス編

16 腕相撲に導かれて

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side ノア=オーガスト

「んー。やっぱあんま依頼は入ってないな……」

オレは依頼ボードに貼られた数枚の紙をひとつひとつ眺めてみた。けれど、自分の中でしっくりくるものは何度見てもなかった。

「お金は欲しいから仕方なく薬草採取の依頼をこなしたのはいいけど、あんまりだったんだよなー」

あ、でもエルだけはテンションが高かったな。はしゃぎすぎて服を泥だらけにしてたし。

「兄さんに見合う依頼を出さないとは、この国のEDENは職務怠慢だ」

「ははは。まあでも、依頼がないってことは困ってる人が少ないって証だろ?いいことじゃんか」

「いや、そうでもないかもしれねぇぞ?例えば、報酬に見合う金が用意できねぇから、我慢し続けてるって可能性もあるからなぁ」

「えー。なんでそうマイナスに捉えるかな、秀は」

「最悪の事態を想定して動くのは、戦闘の基本だからな」

別にこれ戦闘の話じゃないっての。

「まあいいけどさー……。うーん……」

オレは懐から紐のついた木札を取り出した。その中心には金色の鉱石が嵌め込まれている。

「それ、ノアが叡王にもらったやつか」

「もらったというか、一時的に借りたものな。これを目印に伝書鳩が飛んでくるんだけど、一向に来る気配がなくてさ……」

レオン叡王から伝書鳩が届けば、それはつまりリオンと会うことができるということ。けれど、これを渡されてから今日で十日。以前として音沙汰はなしだ。

「はぁ……リオンは今、どこで何してんだろうな……」

「「「うおおおぉぉ!」」」

オレがもの思いに耽っていると、謎の歓声がEDEN支部内に響き渡った。オレは気になって声がした方へと身体を向けた。

「今日はいつもより人がいるとは思ってたけど、あの盛り上がり様はなんだろ?」

複数の冒険者がテーブルの周りを取り囲んでいた。EDEN本部ほどの人数ではないけど、この空間には確かにオレたち以外の冒険者たちがいる。

「さあな。冒険者たちの多くが誘拐事件に協力しているっつう話を考慮するなら、ちょうど休憩がてらにホームに戻ってきたって感じなんじゃないか?」

「……ちょっとのぞいてくるわ」

「俺も行く」

オレはフリースペース内で今最も活気のある所へと向かった。隣にはシンもいる。

「さあさあ、皆々様!お次の挑戦者はいませんか?!レグルスの至宝たるAランク冒険者ステラ=ファング殿に勝てば、賞金として金貨一枚を贈呈しますぞ!!」

観客の隙間から見てみれば、中心にあるテーブルに短い銀髪の髪の男勝りな女が堂々と座っていた。そのガタイからも、女とは思えない力強さを感じ取れる。

おそらくさっきの歓声で倒されたのであろう挑戦者らしき男は、その大きな身体をだらんとさせて床に倒れていた。そして、ゆっくりと立ち上がり、肩を落として背中を丸めながらこの場を去っていた。あの男はたぶん、牛の亜人だろう。

「グルル。どうした!若造ども!俺のような女ごときに力負けするようじゃ、お前らなんざすぐにおっ死んじまうぞ!!」

三角形の耳を二つつけた銀髪の女は高らかに声を上げた。たぶん狼の亜人だとは思うけど、それにしてもなんだかこの人はレオン叡王と同様に、言い表せない強さをうちに秘めているような気がする。ただのオレの勘だけど。

「「「…………」」」

銀髪の女とは正反対に、観客たちは静かに目を逸らした。どうやら誰も挑む気はないらしい。

…………。

「なんだよ、根性なししかいねぇな、ここは。まださっきの牛野郎の方がよっぽどマシってもんだな、おい」

オレは観客たちの間をかき分けて前に出た。

「お?」

「オレがやってもいいか?亜人じゃなく人間でもいいならだけど」

「へぇ……人間のくせに俺に勝負を挑もうってか?」

銀髪の女はきつくオレを睨んだ。

「おう。力自慢ならそれなりに自信あるからな。それに亜人のことをもっと知りたいなって思ってさ」

「「「わっはっはっは!」」」

オレの言葉のどこが面白かったのかはわからないが、観客たちが突然どっと笑い出した。

「そのひょろっちい身体で力自慢だと?!ぶはっ。ただでさえ弱っちい人間が、亜人に勝てると思ってんのかよ?!ギャハハ」

「しかもステラさんは気高き狼の亜人。その身体能力は亜人たちの中でもトップクラスに君臨してるんだぜ?ははっ。お前ごときが勝てるわけ……ぐぅっ!」

「お前の首、今すぐへし折ってやろう」

不穏な空気を察して振り向けば、シンがとある一人の観客の首を片手で持ち上げていた。そいつは苦しそうに空中で足をジタバタさせ、シンの手を外そうとシンの腕や手に攻撃するも、シンは全く微動だにしていなかった。

「殺すのは極力避けろっていつも言ってるだろ、シン。その辺にしといてやれって。な?」

「……」

シンは少し不満そうだったが、左手をパッと離し男を解放した。男は身体を丸めながらきつく締められた首に手を当てて、音を立てて呼吸をした。

「わるいな。変な空気にしちゃって」

「グルル。面白いな、お前たち。ただの人間というわけでもなさそうだ。……燃えてきたぜ」

銀髪の女は楽しそうな顔をしながら、前のめりになりつつ右腕を曲げた状態でテーブルに肘をつけた。

「さあ、そこに座んな」

オレは銀髪の女の向かい側に置かれた木でできた丸椅子に座り、銀髪の女性同じように腕を出して構えた。握り合った拳からは、銀髪の女の熱が伝わってくる。

「ルールはいたってシンプル。相手の手の甲をこのテーブルに触れさせた方の勝ち。腕を浮かせたり、他のあらゆる助力行為をした場合は、失格負けだ。どうだ?分かりやすいだろ?」

「ああ。まさに力自慢勝負に見合ったゲームだな」

まあとりあえず、全力でやったら相手の骨を折りかねないから、うまく調節しながらやらないと。

「グルル。では始めるとしようか。レフェリー」

「は、はい。では……始め!」

『ドンッ!』
『ミシッ……』

開始と同時に重い音が響いた。そしてシンを除いたこの場にいる全員が、この状況に一言も発することなく両目を見開いていた。

オレの右手が銀髪の女の右手をテーブルに若干めり込ませている。テーブルには拳を中心にヒビがあちこちに入っており、細かな木の破片がとび出ている。

や、やっちまった……!

オレはここにいるみんなと同様に、けれど違う意味で驚いていた。

オレはある程度力を抑えたつもりだった。神仙族にとってたとえ亜人だろうと、その力の前には赤子も同然だって、ヴォル爺やクロードが言っていたからな。だけど思ったより自分が気合が入ってたからなのか、それとも相手が油断してたからなのかはわからないけど、開始一秒にも達する前に、こんなにもあっけなく終わるとは思っていなかったのだ。

咄嗟に力のコントロールもできないなんて……オレもまだまだ未熟者らしい。

「えっと……大丈夫、か……?」

オレは握っていた右手を離し、銀髪の女の様子を伺った。もしかしたらイカサマだなんだといちゃもんをつけて、急に胸ぐらを掴まれるかもしれない……。

「…………」

オレの問いかけに、目の前で俯く女は無反応だった。

えーと……もしかしなくても、マジで殴りかかられる感じか、これ……。

「……んだよ、今の!サイッコーじゃねぇか!!」

「うわ……!」

銀髪の女は顔をガバッと上げると、キラキラと目を輝かせながらオレの右手を軽く持ち上げた。

「こんな細っこい腕に、一体どんなパワーが隠されてんだよ?!やべぇなお前!ほんとに人間か?!」

「うん、まあ……」

銀髪の女は、ペタペタとオレの右腕に触れながら、興味津々といった様子ではしゃいでいた。見た目は怖い女の人って感じだけど、中身はちょっと子供っぽいみたいだ。

「兄さんにベタベタと触るな、女」

「……っと」

シンの素早い手刀に反応し、銀髪の女は瞬時にオレの手を離した。

「あともう少しでお前の手をへし折れたんだがな」

シンは真顔で銀髪の女を鋭く睨んでいる。なんかわからんけど、かなりご機嫌斜めらしい。

もしかして、シンもこの力自慢勝負をやりたかったのか……?

「わるいが俺の身体は、岩石と比べるまでもなく硬い。そう簡単には壊れないぜ?」

「なら試してみるか……」

あ、これはマジなやつだわ。

「はい、ストップ!」

オレは咄嗟にシンの左腕を掴んで引き止めた。

「この国では極力乱闘騒ぎを起こさないって、みんなで話し合っただろ?」

「……すまない、兄さん」

シンはオレの言葉を素直に聞き入れ、矛を収めてくれた。

この国でオレたちが乱闘騒ぎなんて起こしたら、ますます亜人と人間との間に溝が深まるばかりだし、亜人とも仲良くしたいオレ的には、あんまりこの人たちを刺激したくはない。かと言って距離を置いちゃうと、仲良くなんてなれっこないから、正直そのさじ加減が超むずい。

「グルル。俺としては今ここでドンパチやんのもありだったが……まあいい。おい、レフェリー。賞金をこいつに渡してやれ」

「え、え、で、でも、ステラ殿が負けるだなんて、そんなこと……」

「あ?お前の目は節穴か?誰がどう見ても俺の負けだったろうが。とっととこいつに賞金渡せや!」

「は、はい!」

レフェリーは腰につけた灰色の袋から、金色に輝く硬貨を一枚取り出しテーブルに置いた。

「これが、賞金になります」

「お、ありがとな」

オレはありがたーく金貨一枚を懐にしまった。

いやー、金欠っちゃ金欠だったから、こんなとこで大金を稼げたのはマジでありがたいなー。

「さてと。これで今日の特別イベントはしまいにーーー」

「ちょっといいかい?」

銀髪の女がこの力自慢大会?を締め括ろうとした瞬間、横から澄んだ低音の声が聞こえてきた。銀髪の女がわりと大きな声で宣言してたけど、その声はなぜだかスッとオレの耳に入ってきた。

「僕もそのゲームをやってみたかったんだけど、誰か相手をしてくれないかな。もし僕に勝てたら……そうだな……金貨三枚を贈呈するよ」

「「「……っ!!」」」

黒いローブで身を包んだ人物は、優しげな声でそう宣言した。その言葉に周囲の冒険者たちはガヤガヤと声を上げ始めた。

フードを深く被ってるせいで、顔はよく見えないけど、声からして若い男だろうな。てか、たかだかこんなゲームに金貨三枚出すとか、どんだけ金持ちなんだよー。羽振良すぎだろ。

オレの懐はこんなにも寂しいってのにさ……。

「お、俺にやらせろ!」
「いや、俺が先だ!」
「何言ってんのよ、あんたら!私が一番乗りに決まってんでしょ?!」

オレが銀髪の女を負かした時はめちゃくちゃ静かだった冒険者たちは、今ではものすごく騒いでいて、黒ローブの男へみんな前のめりになっている。

「うるさいぞ、お前ら!」

脳を揺らすかのような怒鳴り声が鳴り響いたその瞬間、冒険者たちは動きを止め声を出さなくなった。これぞまさに鶴の一声ってやつだな。

「ここで一番ランクが高いのは……まあとりあえずは俺ってことになる。つまりここの取り仕切りも俺がやって構わねぇってわけだが……」

銀髪の女は一度黒ローブを見た後、一呼吸おいてオレたちに説明し始めた。そして、なぜだか今、銀髪の女はオレの方を見ている。

「……?」

オレが首を傾げていると、銀髪の女はずかずかとこちらに歩いてくる。

「どうせ俺にも勝てない、挑む気もないようなやつらがこの人に勝てるわけがねぇからな。だったら、俺に挑み見事勝利したお前が受けるのが道理だろ」

銀髪の女がニヤッと笑いながらオレの肩に手を置いた。

この有無を言わせぬ笑みからして、やる以外の選択肢はなさそうだな。ま、今ある依頼を受注するよりも面白そうだから、やらないなんて選択肢はもともとオレになかったけど。

「はは。なんならここにいる全員の相手をしても構わないんだけどなー」

「あ?!んだとテメェー!」
「調子乗んのもいい加減にしやがれ!」
「人間ごときに俺ら獣人が負けっかよ!」

やべ。仲良くしようとか思ってたくせに、いらん挑発しちった。

「いいから黙って見ていろ!バカどもが!!」

「「「…………」」」

銀髪の女の一声で、冒険者たちは一瞬にして静かになった。この人、もしかしなくてもすごい人だったりするのか……?

「さあ、始めようか。ノア」

いつのまにか席に着いていた黒ローブの男に呼ばれ、オレは一瞬立ち止まったが、とりあえず向かいに座った。

「……なんでオレの名前を?」

「さあ?どうしてだと思う?」

黒ローブの男は楽しそうに口角を上げた。顔の全体像は見えないけど、声音的にも嬉しそうなことが伝わってくる。

「まあ別にいいんだけどさ」

オレは腕を軽く曲げた肘をテーブルに置いた。

大帝国でオレたちのパーティが結構騒がれているみたいな話は聞いたことあるし、EDEN間で伝播してても別におかしくない。

それに、あの仮面をつけたよくわからん情報屋……ナナシだったっけ?あいつにもオレのこと知られてたし、今更名前くらいでどうこういうのもバカらしいかもしれないな。

「お、いいね。やる気満々って感じだ」

オレの構えた手を黒ローブの男の手がしっかりと掴む。これで準備は万端だ。

一応、さっきよりは力を抑えてやらないと。できれば全力でやってどっちが勝つかわからないようなひりつくバトルをしたいけど、それをすると相手が怪我をする可能性が大いにある。それに、こいつの正体が人間か亜人かがわからない以上、さっきと同じくらいの力を出したら、こいつが人間だった場合耐えられないかもしれない。

はぁー。オレが神仙族じゃなかったらなー……。

「グルル。そんじゃ、俺が合図をするぞ。レディ……ファイト!」

まあとりあえずはこのくらいで……。

「……っ!」

「「「おおお!」」」

オレはさっきよりも少し力を抑えてこいつの手や腕に負荷をかけた。これはオレなりの配慮だったわけだが、結果はオレの手の甲がテーブルすれすれの所で踏ん張る形となった。

こいつ、結構力強い……?!

あの銀髪の女よりも細い腕してるのに、どこにそんな力を隠してんだよ。

「まさか、この程度かい?」

黒ローブの男は口もとをニヤッとさせた。
おもしれぇじゃんか……!

「ふん。勝負はまだまだこれからだっつーの!」

オレはグッと握る手やそれを支える手首と腕に力を込めた。するとみるみるうちに形勢は逆転し、今度は黒ローブの男の手の甲がテーブルに触れるギリギリで止まっていた。

「「「おおお!」」」

「ふふ。なかなかやるね、ノア」

「なあ、さっきから思ってたんだけど、オレとお前ってどっかで会ったことあるのか?やけに馴れ馴れしいっつうか……」

「さあ、どうだろうね?それよりもいいのかな?目の前の勝負にちゃんと集中しないと……負けるよ?」

「は?何を言って……どわぁっ!」

『バゴーン!』

オレがほんの少し戸惑った途端、オレの身体は大きな音とともに一瞬で地面に投げ倒された。オレの手はいつのまにか黒ローブの男の手を離しており、さっきまで座っていた椅子も倒れてしまったみたいだ。

なんつー力してんだよ……。

オレはじんじんと痛む身体に不快感を覚えつつ、黒ローブの圧倒的な力に驚いていた。たしかにその力に感動したのは事実だが、その力よりも気になることがあった。

さっき手に感じた感触は一体?
なんか、モサモサした、まるで動物の毛みたいな感触があったような……。

「だから言ったじゃないか、油断するなって」

そう言いながらオレに伸ばされた手は、艶やかな黒い毛並みで覆われていた。さっきまでごく普通の人の手だったのに、いつのまにか動物の毛並みに包まれている。しかも大きくて黒いかぎ爪が生えてるし、手のサイズもたぶん大きくなってる。

「油断は……まあぶっちゃけしてたかもだけど、それよりその手は一体……」

オレは伸ばされた異様な手を掴みつつ、黒ローブに手を引かれながら立ち上がった。

「ああ、これかい?これはほんの少しだけ、僕の身体に眠る獣の力を解放しただけさ」

そうさらっと説明した黒ローブの男の手はすぐにもとの肌色の手に戻った。

「お、おい。あれって、じゃないか?」
「ほんとだ!マジかよ、あの術を使えるやつなんてそうそういないのに……」
「もしかしてこいつ、ただの亜人じゃないのか……?」

ざわざわと会場がどよめいた。どうやらオレと同じように、黒ローブの男の手が変化したことに驚いているみたいだ。

「えーと?獣の力を解放ってどういうーーー」

「死ね……」

ボソッと呟かれた恐ろしい一言がオレの耳に届いた直後、オレの顔の横スレスレに白く光輝く氣弾が勢いよく通り過ぎた。氣弾はヒュンッと音を立てて黒ローブへと着弾した。

「リオン様……!」

着弾したその刹那、どこからかそんな名前が叫ばれた。そう、オレがこの国に来た最大の理由である、その名前が。

オレはシンを咎めようとはせず、ただただ黒ローブの男に目を向け続けた。あの名前の主がこの男なのかどうかを確かめたいというその一心で。

「……ずいぶんと手荒なまねをするね、シン。相変わらずノアのことが大好きなんだね」

氣弾が直撃したであろう顔面の位置には、さっきと同じように黒い毛皮で覆われた大きな手があった。そして黒ローブの男はその状態を解除して腕を身体の横へと戻す。

「「……!」」

おそらく氣弾の爆風によって顔を隠していたはずのフードが飛ばされてしまったのだろう。そこには見知った顔があった。

その目は澄んだ宝石のように美しく、右目は赤色、左目は紫色をしていた。そして髪は優しい金色で、まさに物語の中に出てくる王子様という容貌だ。桜木兄妹は儚げな美しさを滲み出していたけど、目の前に凛と立つこの男は爽やかだけれどそれでいて威厳も持ち合わせたような、そんな高貴さを感じた。

「リ、リオン……?」

「そうだよ。ノア、シン。久しぶり」

久しぶりと笑うリオンに、オレもシンも一瞬呆然とした。だけどすぐに正気を取り戻し、会いたくてやまなかった友との再会に歓喜した。

「リオン!」

オレは年甲斐もなくリオンに抱きついた。リオンは照れくさそうに笑みをこぼしていたけど、オレを突き飛ばそうとはせずに温かく受け入れてくれた。

「ふはは。ノアってばあの頃と全然変わらないね。太陽みたいにあたたかい」

え。太陽までいったらあたたかいを通り越して身体が焼け溶けるぐらい熱い気がするんだけど……。

いや、そんな冷静に分析してる場合か……!

「ご、ごめん、リオン。急に抱きついちゃってさ……」

オレは恥ずかしさに耐えられずリオンから離れた。リオンに会えたことが嬉しすぎて思わず抱きついてしまったけど、よく考えたらこんな大勢の前で……マジで恥ずかしすぎる……!

「ううん、むしろ嬉しかったぐらいさ。ノアが僕のことを忘れずにいてくれたってことだから」

「……!忘れるだなんて、そんなことあるわけないだろ?!」

「はは。分かってる。ノアは僕のことを探しに来てくれたんだよね?あの時の約束を果たすために。そしてそれはシンも同じだろう?」

リオンはオレの後ろに立ったまま沈黙を続けていたシンにあたたかな目を向けた。さっきシンが氣弾でリオンを攻撃したことなんて、気にも留めていないみたいだ。

「ああ、その通りだ。……リオン」

「ん?なんだい?」

「……見違えたな」

「え?」

「…………」

シンはいつもより柔らかな声で一言だけそう言うと、それ以上リオンに何かを告げようとはしなかった。

ったく、シンは人付き合いが本当に苦手だなー。仕方ない、兄貴のオレがフォローしてやりますか。

「リオン、リオン。今のは、リオンが男前に成長してることへの賞賛と会えて嬉しいことを伝えたかったんだよ。うちの弟は口下手なだけだから、これからも仲良くしてくれると嬉しい」

「うん、分かってるよ。シンはあの頃も今もノアにべったりみたいだけど、僕のことをちゃんと自分の世界に入れてくれてるって知ってるから」

「そっかそっか」

自分の世界……確かにシンは自分が認めたやつとしか極力話さないし、たいていは周りに敵意を向けてるから、誰かしら人が寄りつこうとはしない。ノアズアークのみんなやリオンくらいしか今のところ気を許せている人はいなさそうだもんなー。

兄として、この旅を通してシンが自分の世界に招くことを許せる人が、もっともっと増えることを祈ろう。

「な、なあ、あの方ってもしかしなくても、リオン=アストラル様じゃないか……?」
「いやそうだろ、絶対。なんでこんな小汚いとこに?」
「おい、ギルド職員の俺の前で小汚いとか言うなっての」

何やらガヤガヤと周りが騒いでいる。オレが気づいてなかっただけで、たぶんリオンが正体を見せてから他のやつらも驚いていたっぽいな。

「ここは少し騒がしいみたいだから、場所を変えない?お互い話したいことはいっぱいあるだろうからさ」







「このカフェは僕が小さい頃からよく来てるお気に入りの場所でね、立地が立地であまり人が来ないんだ。店の雰囲気も落ち着いてるし、こんなにいい店はなかなか出会えない」

『アルボール』という看板が目印のこのカフェは、店内はやわらかな橙色のライトで控えめに照らされ、壁や床、テーブルや椅子など、店内のあらゆるものが木でできている。リオンの言う通り、ここなら心も身体もゆっくりできそうだ。

「今日は珍しく連れがたくさんいるんだね、ラン君」

「まあね。一匹狼なのは認めるけど、僕にも友だちくらいいるよ。ほら、僕がずっと話してた遠いところにいる親友というのがこの二人さ」

「へぇ。いっつもラン君はひとりでいるから、てっきり友だちなんて作らないって考えてるタイプかと思ってたなぁ。だからおじさん、ラン君がここに来る度に心配で心配で気が気じゃなかったよ」

「ふはは。ケビンさん、僕はケビンさんの子どもじゃないってば」

「いやいや、ラン君は私のカフェのお客様第一号だし、こーんな小さな頃から見てきたんだ。父親心が芽生えてしまうのも仕方ないだろう?」

「まあいいんだけどね」

リオンは気さくに話す男に対してやわらかな笑みを浮かべた。

リオンをランと呼ぶ、髭を生やしたダンディな男は、運んできたカフェオレをみんなの前に丁寧に置いていく。この人はこのカフェのオーナーらしく、リオンがオレたちと出会う少し前からの付き合いだとか。

ちなみに今のリオンは髪も目も茶色になっている。どうやら普段は黒ローブを着ているのではなく、氣道具を使ってこんなふうに変装をしているらしい。公務であればもちろんそんなことはしないけど、こっそり街にお忍びで来たりとか冒険者として活動している時はこれがスタンダードなんだとか。

「さて、僕個人としてはこのカフェでのんびりとノアたちと団欒していたいんだけど、どうもそうは言ってられないみたいでね」

オレはリオンの言葉に少し困惑した。ならなぜリオンはオレたちをここまで連れてきたというのだろうか。

「こっからは俺が説明しようじゃないか」

そう口にしたのは、さっきまでEDEN支部で力自慢大会的なものを開催していた銀髪の女だった。名前はステラ=ファングというそうだ。秀曰く、この人は守護叡団ビースト・ロアの一角、亜人国家レグルスの北方を守護する『ボレアス』の団長らしい。

なんかオレって国の重鎮とよく出くわすなー……。

「現在、俺らボレアスはスターライトを中心として多発している亜人の子どもを狙った誘拐事件の調査にあたっているんだが、どうにも犯人をとっ捕まえることができなくてな。最近はEDENの冒険者にも協力してもらってはいるが、進展はほぼないのが現状だ」

「それについてはオレたちもなんとなく知ってるよ。子どもが相次いで行方不明になるなんて、あまりに悲しすぎる」

「ああその通りだ。……しかもうちの団員が、おそらくはその犯人であろうクズに殺された」

ステラさんは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて唇を固く結んだ。

「ただ、事件解決の糸口となりそうな情報が二つ手に入ったんだ」

リオンは俯くステラに代わって会話を進め始めた。

「ひとつは身なりの汚い無精髭を生やした男が、ここ二、三件の事件で誘拐された子どもの家でぶらついていたこと」

ん?身なりの汚い無精髭の男?なんかどっかでそんな感じのやつと会ったような……。
あれは確か、えーと……。

オレは腕を組み首を傾けながら、脳に眠る記憶を掘り起こそうとしていた。

「もうひとつは、先日起こったふれあいパーク付近での爆発事件だ。それについては僕よりも、あなた方御二人の方が詳しいはずだ」

「ああ、あれか。ここに来てから最初に巻き込まれた面倒事だ」

「まぁ、巻き込まれたっつうより俺と湊が自分から首を突っ込んだんだがな」

「その節は僕の大事な弟と妹を助けていただき、本当にありがとうございました」

リオンが秀や湊へ丁寧にお辞儀する姿を視界に入れつつ、オレはうーんうーんと唸り続けていた。

どこで見たんだっけなー。たぶんオレがまだスターライトに入ってまもなくのことだったと思うんだけど……。

「兄さん?どうかしたのか?」

「いやな、さっきリオンが言ってた身なりの汚い無精髭を生やした男ってやつ、どっかで見かけた気がしててさ……」

「何?!それは本当かよ?!」

オレの言葉に即座にステラさんが大きな反応を見せた。

「あ、ああ。確かあれは……」

そうだ。オレはここに来てすぐにみんなと別行動をして、シンと一緒にスターライトの中心にどっしりと構える聖樹を見ようとその近くまで歩いてたんだ。そんでその途中で……

『おっと……すんません』

オレが聖樹に気を取られて上ばかり見ていたばっかりに、猫背の男とぶつかったはずだ。

『……ちっ、ちゃんと前見て歩け』

その後不機嫌そうにオレを睨みつけて去っていったんだよな。

あの容姿は完全にリオンが言ってたものと一致するんじゃないか?

「オレさ、ここに来たばっかの時に、血走った目をした猫背の男とぶつかったんだ。そいつ、無精髭を生やしてて服も周りの人たちに比べたらかなり汚かったと思う」

「間違いねぇ、そいつだ!そいつが俺たちが追ってるクズ野郎に違いねぇ!」

ステラさんは興奮気味に声を上げた。机の上に乗せた両の拳は小刻みに震えるほどに力が入っている。

「落ち着いて、ステラ叡団長。それでノア。その男の特徴は他になかった?」

「うーん、そうだなぁ……髪は短くて色は茶色で……あと背はたぶんオレと同じくらいだと思う」

「そっか。情報提供ありがとうノア。おかけでこの事件の解決にまた一歩近づけたよ」

「で?あんたらは私たちに何をして欲しいんだ?」

爽やかな笑顔を向けていたリオンは、セツナのその一言にすっと真剣な表情になった。

「率直に言おう。亜人国家レグルスの第二王子リオン=アストラルの名において、君たちノアズアークに、この卑劣な誘拐事件に終止符を打つための協力を要請したい」

















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かずきりり
ファンタジー
望んで異世界へと来たわけではない。 望んで召喚などしたわけでもない。 ただ、落ちただけ。 異世界から落ちて来た落ち人。 それは人知を超えた神力を体内に宿し、神からの「贈り人」とされる。 望まれていないけれど、偶々手に入る力を国は欲する。 だからこそ、より強い力を持つ者に聖女という称号を渡すわけだけれど…… 中に男が混じっている!? 帰りたいと、それだけを望む者も居る。 護衛騎士という名の監視もつけられて……  でも、私はもう大切な人は作らない。  どうせ、無くしてしまうのだから。 異世界に落ちた五人。 五人が五人共、色々な思わくもあり…… だけれど、私はただ流れに流され…… ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

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